現在は直列4気筒、あるいは直列6気筒のダウンサイジングターボやマイルドハイブリッドなどに置き換えられ、姿を消しつつあるV型6気筒エンジンですが、短いようで濃厚な歴史を歩んできました。その中でも今回は、かつて存在した2.0リッター以下のV型6気筒エンジンから、歴史に残るものをいくつかピックアップして紹介します。

V型6気筒エンジン / Photo by Jaguar MENA

1.ランチアV6(1.8リッター版・1,754cc)

初期には1.8/2.0リッターV6エンジンを搭載したランチア アウレリア / Photo by peterolthof

第2次世界大戦の真っ只中となる1943年11月。イタリアはすでに連合国に降伏していたとはいえ、イタリア半島では戦火がまだ収まらぬような時期に、すでにイタリア北部のトリノにあったランチア社では、戦後型高級乗用車の開発をスタートさせていました。

当時のランチアは戦前から作っていたコンパクトな狭角V4エンジンで有名なメーカーでしたが、これからはいかにコンパクトにするかより、上質かつパワフルな大排気量V型エンジンの時代だ!とばかりに開発に着手。当初の実験的なV型8気筒から、よりコンパクトなV型6気筒エンジンへと路線変更していきます。

しかし、開発段階で1,569ccで満足のいく成果が出たものの、実際の生産型では1,754ccへ拡大。その新エンジンを搭載したのがB10型アウレリア・ベルリーナ(セダン)で、1950年に発売され、世界初のV6エンジン搭載量産乗用車となりました。

試作段階より排気量アップしたとはいえ56馬力に過ぎなかったB10アウレリアは、すぐに1,991ccへ拡大され、70馬力を発揮するB21型、そして2ドアクーペのB20型GTも登場し、最終的には2,451ccまで拡大されます。

その後、V型6気筒エンジンは「V型8気筒エンジンの生産設備でシリンダーを1列削ればすぐ作れる」などの理由により、アメリカなどで省燃費を目的とした小排気量車が求められるなかで、直列6気筒エンジンではステータス性があまりないような市場で主に受け入れられていきました。

ディーノV6(2リッター版・1,984cc)

ディーノ206GT Photo/by Gord Webster

初期の小排気量V型6気筒エンジンの傑作であり、伝説的存在になったものといえば、1965年にプロトタイプを発表。1967年に市販型が発売された、フェラーリ「ディーノ206GT」が搭載した、ディーノV6エンジンです。

そもそもはフォーミュラ2(現在のFIA F2選手権ではなく、昔のヨーロッパF2選手権)用の1.5リッターV6エンジンとして開発され、プロトタイプレーシングカー用に2リッター版も作られたディーノV6でしたが、レースの規則により500台の生産を求められたため、1,987cc版を搭載する市販車を送り出すことになります。

搭載されたのはFRスポーツクーペのフィアット ディーノ2000クーペおよび同スパイダー、そしてフェラーリのディーノ206GTで、日本では後者の方が有名であり、試作段階では縦置きでしたが、量産車では横置きに変更されました。

あくまでレース用の規則(ホモロゲーション)を満たすことが目的であったため生産数は少なく、ディーノ206GTは、わずか152台とも言われていますが、規定台数を生産したところで排気量の制約を気にせずよくなり、2,418ccへスケールアップしてより有名なディーノ246GT(そしてフィアット2400クーペ/スパイダー)へと発展。

日本ではとにかくディーノ246GTの印象が強かったものの、その評価の元である美しいボディや心地よいエキゾースト・ノートを奏でるディーノV6ユニットは、ディーノ206GTの段階ですでに実現され、初期の小排気量V6エンジンの名機である事は疑いようがないでしょう。

日産 VG20DET(1,998cc)

日産 Y31 セドリック ツインカムターボ グランツーリスモSV / 出典:https://s3-ap-northeast-1.amazonaws.com/motorz.production.assets/wp-content/uploads/2016/09/http-www.tomeipowered.comBTEindex.phptomei-history2735.jpg?id=202

ここで一気に国産V6エンジンの紹介に移りますが、1960年代後半以降に発展したV6エンジンのほとんどが、V8エンジンから2気筒を削った排気量縮小版でしたが、税制面での優遇性から2リッター未満のエンジンで高級感を出す必要のあった日本車で、小排気量であるV6エンジンが発展したのは当然かもしれません。

さらに、戦後復興期に海外のエンジンを模倣、あるいは参考にして発展した日本では、高級車用エンジンとしてV型8気筒、直列6気筒エンジンがすでに発展していましたが、1970年代末から急速に進んだFF化の流れでは、日本車のサイズではとても横置きFFには使えない直6ではなく、V6エンジンを主力として、FRでもFFでも対応できるようにした方が得策です。

そこでいち早くL型直6エンジン後継として「VG」系V6エンジンを作ったのが日産で、まずはSOHC12バルブ自然吸気/ターボ仕様をY30系セドリック/グロリアなどを皮切りに、搭載していきます。

ただし、当時のユーザーにまだV型6気筒が受け入れられるかという不安、さらに日産自身でも初物という事もあって、L型直6後継の「RB」系も作り、VGへ置き換わるまでのつなぎ役にしていたのが日産の手堅いところで、実際に初期のVG系は(RB系もでしたが)あまりユーザーからの評価が芳しいものとはいえませんでした。

結果的にVGだけではL型を完全に置き換えられず、つなぎ役なはずのRB系に不朽の名機RB26DETTが登場する一方で、特に2リッターSOHC版の小排気量VG系の評判は今ひとつ(3リッターのVG30系は良かった)。

しかし、その中でもギラリと光っていたのが、DOHC4バルブ版のVG20DETで、Y31セドリック/グロリアでこのエンジンを搭載した「グランツーリスモ」が大ヒット作となります。

そして初期のレギュラー仕様で185馬力、後のハイオク仕様で210馬力を発揮するVG20DETは、5ナンバー規格のままながら、3リッターV6ターボのVG30DETを積む初代シーマに匹敵する「パワフルでダーティなイメージのシブいスポーツセダン」として、セドリック/グロリアのグランツーリスモを日産の看板車種へ成長させました。

マツダ K8-ZE(1,844cc) / KF-ZE(1,956cc)

ユーノス プレッソ(海外版マツダMX-3) /Photo by Rutger van der Maar

大排気量V6がスゴくてエラいのは当たり前、その品質を安価な小型車でもユーザーへ体験してもらうのが大事と、1991年に登場したのがマツダの1.8リッターV6エンジン「K8-ZE」です。

ジュネーブショーでの発表時は「当時の世界最小V6」と紹介されましたが、前述したように、ランチア・アウレリアが1950年にもっと排気量の小さいV6エンジンを搭載していたため、あくまで「当時の」世界最小という事になります。

初搭載車は当時マツダの新鋭ブランドだった「ユーノス」の3ドアハッチバッククーペ「プレッソ」で、後に姉妹車のオートザム版「AZ-3」にも搭載されたほか、マツダのクロノス、アンフィニMS-6、ユーノス500、フォード テルスター/テルスターTX5といった、「クロノス兄弟の廉価グレード向け」(プレッソ/AZ-3だけは上級グレード向け)に搭載。

しかし、バブル崩壊によるマツダ5チャンネル体制の崩壊による「クロノスの悲劇」に巻き込まれたK8-ZEは、あまり評判が芳しくない車種の搭載エンジンとして歴史の彼方へ消えてしまいます。

とは言え、2リッターへ拡大されたKF-ZEがランティスクーペで、リショルム・コンプレッサーが付与された2.3リッターミラーサイクル版KJ-ZEMがユーノス800/ミレーニアで好評だったのが、数少ない慰めです。

他にも2.5リッターへ拡張されたKL-ZEも多くのマツダ車へ搭載されましたが、フォード傘下で再建する際に、これらK8-ZEをはじめとするマツダV6エンジンは葬り去られてしまい、代わりにフォードから供給されたV6エンジンの評判があまりよろしくなかった事もあって、マツダファンを大いに嘆かせました。

三菱 6A10(1,597cc) / 6A11(1,829cc) / 6A12(1,998cc)

三菱 FTO/ Photo by Window Leong

マツダのK8-ZE発表からやや遅れて、今度こそランチアですら実用化しなかった1.6リッターV6を、「正真正銘の世界最小V6」として登場させたのが三菱の6A10で、3代目ランサーと3代目ミラージュセダンに搭載されました。

ただし、同じ1.6リッターでは可変バルブ機構MIVECが組み込まれ、175馬力を発揮する4G92、つまり6A10より35馬力もパワフルなエンジンが同時期に存在した事や、「単にちょっとスムーズで静粛性が高い程度の小排気量V6エンジンを、最上級グレードならともかく廉価グレードにまで搭載した」というミスマッチ感もあって、存在意義が極めて希薄な位置づけとなります。

結局、1.8リッターへ拡大されて4代目ランサー/4代目ミラージュセダンへ搭載された6A11も含め、「そういえばそんなエンジンを積んだランサー/ミラージュもあったな」と、時々思い出される程度になってしまいましたが、もっと上等な扱いをしていればと悔やまれる性能です。

一方、マツダと同様に三菱の小排気量V6も2.5リッターまでの拡大版が存在し、中でもMIVECを組み込まれた2リッター版6A12は、リッター100馬力の200馬力とパワフルかつマツダKF-ZE同様に吹け上がりがスムーズで、フィーリング良好なエンジンという点により、かろうじて面目を保ったと言えます。

ただし、MIVEC版6A12でも主力搭載車種のFTOが登場翌年には初代ホンダ インテグラタイプRの影に隠れて目立たぬ存在になってしまい、もう1車種のギャランVR-Xも、4WDターボでもっと派手に扱われたギャランVR-4に比べると地味で、今や完全に忘れ去られており、どうも国産小排気量V6は「小さかった」以外のアピール不足で終わっているのが残念です。

「ワケあり」でも作る事に意義があった小排気量V6エンジン

V型6気筒エンジン /Photo by Gustavo Maximo

ここまで5種類ほどの小排気量V6エンジンを紹介しまいたが、他にもホンダの「ウイングターボ」版C20Aや、トヨタが初代カムリプロミネントへ搭載した1MZ-VEなど、特筆すべき小排気量V6エンジンは多数存在するため、いずれ機会があれば紹介したいと思います。

ちなみに、最初のアウレリア用や次のディーノ246GT用も含め、「何かの都合でとにかく小排気量で出した」というV6エンジンは、必要性がなくなると同時に大排気量化の道を歩み、国産V6エンジンも大抵は大排気量版の方が高い評価というのが定番です。

結局は直4エンジンと大差がないか、場合によっては劣る性能や、V8や直6に及ばないフィーリング、それでいて部品点数が多く複雑高価で重いというハンディの多いV6エンジンを活かすには、ある程度の排気量が必要であり、小排気量V6の存在意義は「何かのやむをえない都合」か、「目新しさ」以外に見出しにくかったのが実情でしょう。

それでも、三菱6A10のように「世界最小だったからこそ名を残せる」という例もあるため、とりあえず状況が許すなら、この種のエンジンは一度は作ってみるものだという事かもしれません。

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