マルチシリンダーながらコンパクト。直列3気筒エンジンをV型に並べたような構造のため、FF車では横置きしてもタイヤの切れ角などに影響を及ぼしにくく、FR車などに縦置きでも衝突安全規制に対応するためのクラッシャブルゾーンが大きく取れるV型6気筒エンジンは、直4や直3ダウンサイジングターボの発展により、短期間で主力の座から滑り落ちようとしています。そんな中、モータースポーツで活躍したものを中心に、国産V6エンジンの名機を7台ほどチョイスしてみました。

日産VG30DETT / Photo by Ernesto Andrade

<1>初の国産量産スーパーカー、初代NSXへ搭載れたホンダC30A/C32B

初代NSXへ搭載され、3リッターV6自然吸気で280馬力を発揮したC30A / 出典:https://www.honda.co.jp/sportscar/vtec_history/C30A/

1980年代から国産乗用車でも採用されるようになったV型6気筒エンジンは、縦置きでも横置きでもイケるマルチシリンダーエンジンとして、FR車などの縦置きエンジン車のみならず、当時増え始めていたFF車横置きエンジンの大排気量化にも最適でした。

つまり、FF用の横置きエンジン式パワートレーンを使ったミッドシップ スポーツも、V6エンジンで大排気量化が可能という事で、当初は2リッター直列4気筒エンジンを搭載する予定だった初代NSXが、ホンダ版MR2ではなく、初の本格的な国産量販スーパーカーとしても成立するために、V型6気筒エンジンは重要な役割を果たしたわけです。

C30A/C32Aを搭載したNSXは、レースのみならずジムカーナなどでも活躍した / 出典:http://jaf-sports.jp/topics/detail_000180.htm

また、初代NSXの前期および後期AT車(NA1)に搭載された3リッターV6のC30Aと、後期MT車(NA2)に搭載された3.2リッターV6のC32Bは、いずれもホンダのFF高級乗用車レジェンド用の2~2.7リッターSOHC V6エンジンをDOHC VTEC化したものです。

しかも、1990年9月の日本国内発売時には既に280馬力自主規制時代に入っていましたが、その時代においてターボチャージャーに頼らず280馬力に達していた数少ない自然吸気エンジンであり、3リッター級V6エンジンとしては唯一の例でした。

ホンダは軽ミッドシップスポーツのビートでも、ターボに頼らず64馬力自主規制に到達しており、この2台は高回転型自然吸気エンジンで高出力を狙った、当時のホンダらしいスポーツカーであり、その原動力となったC30A/C32Bは、マフラーを交換してサーキット走行などへ持ち込むと、ターボエンジンにはない爽快感のある、高音質なエキゾーストノートを響かせました。

<2>V6エンジン単体での評価は非常に高かった、マツダKF-ZE

エンジン単体では間違いなく傑作だった、マツダKF-ZE / 出典:https://www.favcars.com/pictures-mazda-xedos-6-1992-99-306182.htm

フォード傘下に入って再建するまでの短期間でしたが、バブル時代に販売体制の大幅な(そして無謀な)拡大に走っていた時期のマツダは、小はプレッソ/AZ-3用の1.8リッターから、大はルーチェやセンティア/MS-9用の3リッターまで、いくつかのV型6気筒エンジンを開発していました。

KF-ZEと言えばランティスの印象が強いものの、ヨーロッパではクセドス6(日本名ユーノス500)でBTCCなどツーリングカーレースへ出場していた / Photo by Andrea Volpato

その中でも傑作と評価されていたのは2リッターV6自然吸気の「KF-ZE」で、いわゆるクロノス シリーズの標準的なエンジンとして、1.8リッター版K8-ZEや、2.5リッター版KL-ZEとともに、当時のマツダ車に多数搭載されています。

特にクロノス シリーズの後に開発されたランティスの4ドアクーペ版とは、イメージ・動力性能ともによくマッチしており、1993年には、デビュー当時の2リッター自然吸気FFスポーツでは最強クラスの加速性能を誇る原動力になっていました。

同シリーズで、リショルム式スーパーチャージャーつきミラーサイクルエンジンのKJ-ZEM(ユーノス800/ミレーニアへ搭載)ほど先進的な存在ではなく、またJTCC(全日本ツーリングカー選手権)での活躍も期待されたほどではありませんでしたが、当時としては上質のフィーリングを持つ名機として、現在も高く評価されています。

<3>市販車用国産V6最強エンジン、日産VR38DETT

現在最強の市販車用国産エンジン、日産VR38DETT / Photo by Falcon® Photography

いまでもR35GT-Rへ搭載されており、初期の480馬力から現在のGT-R NISMOでは600馬力に達するなどの進化を続けてきた、市販車用としては最強の国産V型6気筒エンジンが「VR38DETT」です。

かつて栄華を極めて日産の象徴的存在でもあったスカイラインGT-Rを、スカイラインから独立させたR35GT-Rとして復活させるプロジェクトが始動した際、既に直6エンジンではありえない時代だったため、メディアの予想ではV6ターボかV8自然吸気エンジンが有力視されていました。

SUPER GTやFIA-GTでは別なエンジンを積むR35GT-Rだが、このGT3仕様はVR38DETTを搭載 / Photo by 蓮すけ

そして日産ではVQエンジンをベースにするところまでは決まっていたものの、経営悪化でフランスのルノーから支援を得て再建途上の日産では、人員的にも資金的にも高性能エンジンの開発余力などなく、初期開発はイギリスのコスワースに託されました。

その結果、オープンデッキのVQからクローズドデッキとするなど、大幅な設計変更がなされて高出力に耐え得るエンジンが完成。

当初は777万円と、その後値上げを重ねて1,000万円オーバーとなったGT-Rとしては格安のスーパースポーツが実現する、原動力となります。

近年はRB26DETTの後継にふさわしく、出力向上によく耐える堅牢なチューニングベースとしても評価が高いなど、今後も末永く活躍が続きそうです。

<4>車が重くてもデカくても、そのV6エンジンはトルクフル!三菱6G72ターボ

三菱 GTOと、そのクライスラー版ダッジ ステルス(写真)へ搭載された、DOHCターボ版6G72 / Photo by Greg Gjerdingen

そもそも初代デボネア用くらいしか乗用車用直列6気筒エンジンを作っておらず、そのデボネアもV6より、まずは大排気量直列4気筒エンジンに換装していた三菱では、FF車への移行が比較的早かった割にV6エンジンの採用は遅く、1986年の2代目デボネアが初搭載。

その時に採用された2リッターV6SOHC2バルブの6G71「サイクロン」を元に、3リッター化したのが6G72で、DOHC24バルブ版も登場します。

そして1990年にスタリオン後継の4WDスポーツ、GTOが発売された時には、その自然吸気版と、ツインターボ版が搭載されました。

6G72ターボを搭載したGTOは、N1耐久(現在のスーパー耐久)でBNR32スカイラインGT-Rの数少ない好敵手だった / 出典:https://japanesenostalgiccar.com/25-year-club-the-mitsubishi-gto-is-officially-a-japanese-nostalgic-car/

しかし、見た目はスーパーカー風の4WDスポーツとはいえ、あくまで大型FFセダンのディアマンテをベースとしたGTOは車重が重く、まだアメリカではクライスラー版の兄弟車ダッジ ステルスとしても販売していたため、北米ではちょうどよくても日本では少々大柄に過ぎ、国内での販売は低調でした。

6G72はそんなGTO向けとして、DOHCツインターボを持ってしても十分な動力性能があるとは言い難かったものの、大排気量かつ低速トルクの太さを活かして悪路や積雪路での加速性能だけはライバルを上回り、いわばスポーツカーの皮をかぶったブルドーザーのような力強さが魅力です。

また、GTOは市販車としては重くとも、レース用に軽量化すれば低重心のロー&ワイドスポーツとして、高いポテンシャルを持っていました。

市販車の素質が問われるN1耐久(現在のスーパー耐久)では、最高位は2位と一歩及ばなかったとはいえ好成績を残し、6G72ターボはGTOが唯一スカイラインGT-Rに対抗し、その無敵の座を脅かせるマシンとなる原動力となっています。

<5>高回転高出力の市販車用自然吸気V6エンジンで最強、日産VQ37VHR

Z34フェアレディZへ搭載されるVQ37VHR / 出典:https://www.favcars.com/nissan-fairlady-z-nismo-z34-2014-wallpapers-424488.htm

国産初の乗用車用V6エンジンだった日産の「VG」は、その初期評価は、特にSOHC版ではあまり芳しいものとは言えませんでしたが、後にDOHCターボ版VG30DETがF31レパードや初代シーマで好評となります。

しかし、DOHCツインターボ版VG30DETTは、Z32フェアレディZにも採用されたとはいえ、直6のRBへ回帰する現象まで起きるなど、大勢では成功したと言えませんでした。

結局はV6のVGと直6のRBが並存するという、コスト的にはあまり好ましくない状況が続くなど、当時の日産における高コスト体質を象徴するような存在となってしまいますが、VG後継のVQエンジンがモノになり、というより直6を根強く信奉するユーザーへ目をつぶってようやく、V型6気筒エンジンを主力とできたのです。

スーパー耐久のST3クラスへ参戦するZ34フェアレディZ / 出典:https://global.nissannews.com/ja-JP/motorsports-archive-j

そういった経緯もあったので、VQエンジンも心情的にはあまり支持を受けないエンジンで、実際、チューニングベースとしてはL型やRBのような強固さももたない難点はありましたが、日産が粘り強い改良を重ね、世代交代するユーザーから少しずつ支持を増やしていきます。

そして2007年10月にデビューしたCV36スカイラインクーペで初搭載された3.7リッターDOHC自然吸気版「VQ37VHR」では、ついに333馬力、翌2008年12月に発売されたZ34フェアレディZでは標準車で336馬力、2009年6月に追加されたバージョンNISMOでは355馬力に達し、自然吸気版V6エンジンでは最強のエンジンになりました。

2021年現在では、ダウンサイジングターボに属しながらも405馬力を発揮する、3リッターV6DOHCツインターボのVR30DDTTを後継として消えゆく運命にあるとはいえ、今後2030年代に向けて電動化の進む中、「最後の高回転高出力型自然吸気V6エンジン」として、長く記憶されるべきエンジンでしょう。

<6>スーパーチャージャー追加で蓮の花咲くトヨタ2GR-FE

ロータスの手でスーパーチャージャーを追加させる事で、スポーツエンジンとしても開花したトヨタ2GR-FE / 出典:https://www.favcars.com/pictures-lotus-exige-s-roadster-uk-spec-2013-394477.htm

市販車用の実用的な、ユーザーへ快適性と満足する動力性能を与えたV型6気筒エンジンを数多く輩出しているトヨタですが、意外にもレースでは直4やV8を多用し、F1でもV8やV10の時代だったので、スポーツイメージのあるV6エンジンはさほど存在しません。

その数少ない例外のひとつが、SUPER GTでaprが走らせていたMR-Sや初代カローラアクシオにとうさいされた3.5リッターV6DOHCエンジン「2GR-FE」でした。

ロータス版2GR-FEを搭載したエキシージ シリーズ3は全日本ジムカーナでも活躍した / 出典:https://mos.dunlop.co.jp/archives/gymkhana/race-data/report_gymkhana_4_20090607.html

ただし2GR-FEを搭載したレーシングカーはそう長く活躍したわけではない上に、あくまで市販車のイメージを残したGT300クラスのレーシングカーに過ぎず、2GR-FEを搭載した市販スポーツ代表といえば、トヨタではなくロータスのエキシージでしょう。

ご存知の通り、同じミッドシップスポーツながらオープンボディのエリーゼ同様、シリーズ1ではローバー「K」ユニット、シリーズ2ではトヨタの2ZZ-GEと、2代続けて1.8リッター直4エンジンを採用したエキシージですが、シリーズ3では2+2クーペのエヴォーラ同様、2GR-FEを採用しました。

また、エキシージSでは、ロータス独自の改良としてスーパーチャージャーを追加。

350馬力の高出力と30kgmを超える大トルクをモノにしており、日本では全日本ジムカーナにおいて、シリーズ2に続いて活躍中です。

既にトヨタはフルハイブリッドシステム「THS-II」で将来の厳しい燃費規制もクリアの目途を立てており、V型6気筒エンジンもGR系や新世代のV35A-FTS、それらの改良型が電動化パッケージに組み合わされていくと思われます。

しかし、モータースポーツでも活躍するようなトヨタV6エンジンは、ル・マン24時間レースなどへ参戦するTS050やGR010のようなレーシングカーや、「仮称GRスーパースポーツ」のような、一般人には縁のないハイパーカーのみとなりそうです。

<7>不滅の栄光に包まれた最高のF1用V6ターボ、ホンダRA168-E

ホンダF1の第2期、そして最高の栄光をもたらした1.5リッターV6ターボ、RA168-E / Photo by Iwao

V型6気筒エンジンの「名機」、最後を飾るのは市販車もレーシングカーも関係なく、世界をアッと言わせたエンジンを紹介したいと思い、ホンダF1第2期で最高の栄光を実現した1.5リッターV6DOHC24バルブターボ、「RA168-E」を紹ピックアップします。

1.5リッターV6ターボエンジン時代だった当時のF1で、マクラーレンは1984年のMP4/2から1987年のMP4/3まで、ポルシェからのエンジン供給を受けていましたが、1988年に登場したMP4/4で熱望していたホンダエンジンを獲得。

1988年に16戦中15勝という圧倒的勝利を飾ったマクラーレンMP4/4には、このRA168-Eが搭載されていた / Photo by Juan Pablo Donoso

結果的に1.5リッターV6ターボ時代最後となったこの年に、RA168-Eは予選アタック用のスペシャルセッティングでは1,500馬力、つまりリッター100馬力どころかリッター1,000馬力を叩き出す「化け物」へ成長しており、レースでも快調に走ってアイルトン・セナにより8勝、アランプロストにより7勝、合わせて16戦中15勝という凄まじい勝率を記録します。

翌年以降もV10搭載のMP4/5、V12搭載のMP4/6でチャンピオンを取り、ホンダエンジンでの快進撃を続けたマクラーレンでしたが、RA168-Eを搭載したMP4/4時代ほどの「破竹の快進撃」とまではいかず、2位に終わった1992年を最後に第2期参戦は終了しました。

その後、不完全燃焼に終わった第3期を経て、2015年からの第4期参戦では再び1.6リッターV6ターボ、ただし電動化技術の組み合わされたパワーユニットで参戦しているものの、第2期ほどの栄光と興奮は未だ実現できておらず、だからこそ「RA168-E」の活躍は今なお、色あせていません。

名機はあるが…はかない運命のV6エンジン

日産VQ35DE / Photo by Reg Aquino

軽くてトルクフル、パワーも十分でコストパフォーマンスも良好という意味では直4に劣り、圧倒的なパワフルさではV8以上の大排気量エンジンに劣り、静粛性や官能性では直6に劣り…と、FFにも積める大排気量エンジンという以外にメリットが少ないV型6気筒エンジン。

しかし、エンジンルームは小さく、キャビンは広く、それでいて衝突安全基準を満たせて縦置きでも横置きでもドンとこい!という自由度の高さが時代にマッチしたおかげで、一時期V6エンジンはかなり幅を利かせていました。

しかし、大排気量V6がダウンサイジングターボの直4へ置き換わり、さらに電動化時代にはエンジンルームへ余裕の作りやすい直列エンジンの方が有利というわけで、メリットが減少した上に部品点数の多さや排気系の複雑さによる高コスト体質で、V6エンジンは今や急速に廃れつつあります。

今回紹介したようなV6エンジンの「名機」も、いわば一時期の流行、あるいはレースなど特殊な環境ゆえに存在しえたものですが、それゆえに「名機と呼べるV6エンジン」は、今後なかなか現れないかもしれません。

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