もともとGMの世界戦略車「Jカー」の一翼を担いつつ、旧式化が著しかったフローリアン後継として誕生したアスカでしたが、結局GMの世界戦略車構想が長続きしなかったのと、いすゞ自身もジェミニやピアッツァのモデルチェンジで開発余力がなかったため、乗用車生産の撤退前から早々に、他社からのOEMに切り替わっていたのが2代目以降のアスカです。2代目はスバル レガシィのOEMで、3~4代目はホンダ アコードOEMでした。
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スバルとの提携下、初代レガシィセダンOEMで登場した2代目「アスカCX」
1950年代のヒルマン・ミンクス以来、ベレル、フローリアンとミドルクラス以上の乗用車を生産してきたいすゞですが、フローリアン後継として1983年に発売された初代「アスカ」の次期モデルで、開発に行き詰まります。
初代アスカはGMの世界戦略車構想「Jカー」いすゞ版として作られたものの、肝心のJカーが一部を除き長続きせず、さりとて3代目ジェミニや2代目ピアッツァ、GMのジオ ストームなどの開発で、いすゞの開発能力には余力がありませんでした。そういう背景もあり、2代目アスカは当時提携していた富士重工(現・SUBARU)から初代レガシィセダンのOEM供給を受ける事になります。
こうして1990年6月に「アスカCX」の名で発売されたのが2代目アスカで、フロントグリルやトランクリッドのエンブレムがいすゞ仕様となり、リアガーニッシュもアスカ仕様となったほかは、大きなデザイン変更はありませんでした。
搭載されたエンジンは、スバルには元より設定のないディーゼルエンジンやセミAT(NAVi5)はもちろん、ターボ車も設定されず、1.8リッター/2リッターの自然吸気エンジンのみ。
2リッター車にのみ、初代にはなかった4WDが設定されたのはありがたかったものの、基本的には「初代レガシィで一番無難なグレードのみ供給」という形となります。
ボディタイプも4ドアセダンのみでステーションワゴンもラインナップされず、ワゴンに近い車種としては、商用ライトバンのレオーネエステートバンをOEM供給され、「ジェミネットII」の名で1993年まで販売していたのが唯一の例でした。
(主要スペック)
いすゞ BCM アスカCX タイプZ 4WD 1991年式
全長×全幅×全高(mm):4,545×1,690×1,395
ホイールベース(mm):2,580
車重(kg):1,280
エンジン:EJ20 水冷水平対向4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,994cc
最高出力:110kw(150ps)/6,800rpm
最大トルク:172N・m(17.5kgm)/5,200rpm
10モード燃費:10.2km/L
乗車定員:5人
駆動方式:4WD
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ストラット(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
流通皆無
ホンダ アコードのOEMへ切り替わった3代目
アメリカで合弁工場(SIA)を作るなど、生産体制の面では一時、深い関係にあったいすゞとスバルですが、OEM車の相互供給という面では双方あまり熱心ではなく、特にスバルはビッグホーンのようなSUVにもあまり必要性を感じていないようでした。
一方、1990年代のRVブーム当時、いすゞのSUVに関心を寄せていたのは初代CR-Vなど独自モデルを発売する前のホンダで、ジャズ(ミューのOEM)やホライゾン(ビッグホーンのOEM)を供給してもらう代わりに、いすゞでの自社生産をやめた乗用車をホンダからOEM供給。3代目アスカは、5代目アコードのOEMとして1994年3月に発売されました。
2代目同様、アコードワゴンの供給は受けずに4ドアセダンのみ。
5代目アコードは北米仕様が基準の3ナンバー車だったため、1980年まで販売していたステーツマン・デ・ビル以来14年ぶり、アスカとしては歴代初、そして唯一の3ナンバー車となります。
あくまでフローリアン以来(あるいはベレルやヒルマン・ミンクス以来)、そしてまだ日本での販売を続けていたいすゞのSUVユーザーへ提供できるミドルクラス4ドアセダンのラインナップ継続が目的だったため、グレードは限定的。2リッターSOHCエンジンF20Bを搭載する標準グレード「LF」と、上級グレード「LJ」のみのラインナップでした。
廉価グレードの1.8リッター車や高性能グレードの2.2リッター車は設定されませんでしたが、トラックやバスを除けば乗用車メーカーというよりSUVメーカーとなっていたいすゞには、それで十分だったという事でしょう。
なお、この代ではジェミネットIIの販売も終わっており、いすゞのラインナップからステーションワゴン/ライトバン型の車種は消滅。
自社や販社で使用するライトバンは、日産 ADバンなど他社からの購入で(OEM供給ではない)、いすゞエンブレムなどを貼って使用されている姿が見られました。
(主要スペック)
いすゞ CJ1 アスカ LJ 1994年式
全長×全幅×全高(mm):4,675×1,760×1,410
ホイールベース(mm):2,715
車重(kg):1,270
エンジン:F20B 水冷直列4気筒SOHC16バルブ
排気量:1,997cc
最高出力:99kw(135ps)/5,700rpm
最大トルク:181N・m(18.5kgm)/4,500rpm
10・15モード燃費:11.6km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F・R)ダブルウィッシュボーン(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
流通皆無
いすゞスクエアジャパン廃止まで販売された4代目
乗用モデルはほぼSUV専売となっていたいすゞで、ジェミニ(こちらはホンダ ドマーニのOEM)やファーゴ/フィリー(同・日産 キャラバン/エルグランドのOEM)とともに細々と販売が続けられていたアスカですが、OEM元のアコードが1997年9月にモデルチェンジしたのに合わせ、2ヶ月遅れの同年11月に4代目となりました。
アコードの日本仕様と同じく4代目アスカも5ナンバー小型車枠に戻り、1.8リッター車の標準グレード「LF」と2リッター車の上級グレード「LJ」の2グレード体制となりましたが、OEM元の同等グレードにMT車の設定が復活したため、4速ATのほか3代目にはなかった5速MT車も復活。
しかし、アコードのSiR/SiR-TやユーロRのようなDOHC VTECエンジンを搭載するスポーツグレードやステーションワゴンは、設定されませんでした。
フロントグリルが当時のいすゞSUVと共通デザインだったため、アコードとの識別は容易でしたが、細々と販売していた事に変わりはありません。
いよいよSUVの国内販売も頭打ちとなって車種整理が進み、ジェミニが2000年に、フィリーが2002年5月に廃止されてからも、アスカだけは販売が続けられていましたが、2002年9月をもっていすゞのRV(SUV)販売会社「いすゞスクエアジャパン」の閉鎖と国内乗用車・RVの販売終了が発表され、アスカも4代目をもって終了となりました。
(主要スペック)
いすゞ CJ3 アスカ LJ 1997年式
全長×全幅×全高(mm):4,635×1,695×1,420
ホイールベース(mm):2,715
車重(kg):1,270
エンジン:F20B 水冷直列4気筒SOHC16バルブ
排気量:1,997cc
最高出力:110kw(150ps)/6,000rpm
最大トルク:186N・m(19.0kgm)/5,000rpm
10・15モード燃費:12.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:4AT
サスペンション形式:(F)ダブルウィッシュボーン・(R)5リンク・ダブルウィッシュボーン(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
49.9万円・1台
OEMとはいえ、いすゞ最後の4ドアセダン
2002年9月で販売終了となったアスカですが、時々言われる「国内販売していたいすゞ最後の乗用車」というわけではありません。
その後も日産からキャラバンのOEM供給を受けていたコモの3ナンバー乗用登録仕様「コモワゴン」が2010年まで販売されており、2012年のモデルチェンジまで販売が続いた2ナンバー登録のマイクロバス仕様を除き、コモワゴンが最後まで国内販売されていた、いすゞ乗用車でした。
しかし、一般的に乗用車と認識される形の車では、4ドアセダンの4代目アスカが最後のいすゞ乗用車であり、その廃止をもっていすゞ乗用車の歴史は終わった、と考えてもよいでしょう。
初代アスカの廃止から12年、3代目ジェミニなどの廃止で乗用車の独自生産をやめてから9年もの間、いすゞユーザーへ乗用車の販売を続けてきたいすゞですが、SUVのトレンドもヘビーデューティー4WDからクロスオーバーSUVなど、シティ派やライトデューティーSUVへ移った事で、ついに力尽きました。
いかにOEM車とはいえ、いすゞ乗用車国内販売の最期を看取った車として、アスカの名は今後も日本自動車史へ残っていくかもしれません。