スポーツ系の車は、大雑把に言えば成り立ちからしてスポーツ走行が前提な「スポーツカー」と、実用車をベースに高性能化が図られた「スポーツグレード」に分けられますが、大抵の場合、注目されるのはもっとも性能の高い最上級グレードや競技ベースグレードです。しかし中には絶対的な性能こそ及ばないものの、乗って楽しい2番目以下の「セカンドグレード」もあります。今回はそんな通好みグレードを、ご紹介します。

スズキZC72S スイフトRS / 出典:https://www.favcars.com/images-suzuki-swift-1-2-rs-za-spec-2017-428401.htm

1.今でもNAエンジン+MTを味わえる、現行スズキZC83SスイフトRS!

走りの魅力はスイスポにも負けない!(画像はハイブリッドRS) / 出典:https://www.suzuki.co.jp/car/swift/performance_eco/

スズキ スイフトのスポーツモデルといえば、初代からスイフトスポーツ、略して「スイスポ」と相場は決まっており、各種モータースポーツからストリートまで、幅広い活躍を見せています。

しかし、低価格なりのコンパクトカーからプレミアムコンパクト的な国際戦略車へと脱皮を図った2代目以降は、基準車の品質が大幅に向上。その土台あってこそスイスポが「運転していて楽しいハンドリングマシン」と評価された事もあり、絶対的な速さはともかく、運転の楽しさで言えば「素のスイフト」も決して劣りません。

特に3代目の途中から設定された特別仕様車「スイフトRS」は、標準仕様と同じ1.2リッターエンジンながら欧州仕様のサスペンションが装着され、5速MTも設定。専用のエアロが装着されているとはいえ、スイフトスポーツほどの派手さは無いのがいかにも通好みです。

2017年1月にモデルチェンジされた4代目スイフトでは、カタログモデルにも昇格という事で、3代目の時点でソコソコ人気を得ていたことが分かります。

1.2リッターDOHCデュアルジェットエンジンは自然吸気の91馬力ながら、5速MTとの組み合わせは健在。スイスポの3ナンバーターボ化で、「従来からのスイスポっぽい5ナンバースポーツモデル」は、スイフトRSが受け継いだ形です。

もちろん現行のZC33Sスイスポ(1.4リッターターボ140馬力・970kg)はおろか、先代ZC32Sスイスポ(1.6リッター自然吸気136馬力・1,040kg)にもパワーは劣りますが、現行ZC83SスイフトRS・5MT車の車重は、はるかに軽い870kg!

ヒラヒラと走りそうなスイフトRSこそ、まさに通好みのセカンドグレードではないでしょうか。

主要スペックと中古車価格

スズキ ZC83S スイフト RS 2021年式
全長×全幅×全高(mm):3,855×1,695×1,500
ホイールベース(mm):2,450
車重(kg):870
エンジン:K12C 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,242cc
最高出力:67kw(91ps)/6,000rpm
最大トルク:118N・m(12.0kgm)/4,400rpm
WLTCモード燃費:21.8km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トーションビーム

(中古車相場とタマ数)
※2021年6月現在
現行ZC83S/ZD83S:84万~189.8万円・40台
先代ZC72S/ZD72S:15万~119万円・292台(RS-DJEを含む)
(ZD83S/ZD72Sは4WD)

2.VTECじゃないシビックも頭が軽くて良いものだ!ホンダEG4シビックMX

あえて「DOHC VTECじゃない」スポーツシビックも良いものです(画像は英国仕様) / 出典:https://www.favcars.com/honda-civic-hatchback-uk-spec-eg-1991-95-pictures-253501.htm

シビックといえば、3代目ワンダーシビックに「ZC」DOHCエンジンが載ったシビックSi、さらに4代目グランドシビックで「B16A」DOHC VTECエンジンが載ったシビックSiRが登場。「やっぱシビックはDOHC VTEC、せめてDOHCのZCが載ってなきゃ!」という風潮があり、その後のシビックタイプRも含め、絶対的な速さは圧倒的です。

しかし大抵の場合、DOHC(ダブル・オーバーヘッド・カムシャフト)やVTECのような可変バルブ機構というのは、エンジンの頭に載せるメカニズムが複雑で重くなり、重心も上がってきます。

もともとフロントが重いFF車ならなおさらの事で、長い直線のあるコースなら問答無用でパワーにモノを言わせても、コーナリングはカーブがキツくなるほど、重く重心の高いエンジンがハンデになり、それなりの腕や適切なセッティングがないと、旋回性能は十分に発揮できません。

それゆえ、ジムカーナのように狭いコースで曲がってばかりの競技だと、いぶし銀の実力を持つドライバーが駆る、SOHCのシビックが思わぬ健闘。DOHC VTECも立場なし!となる場面が、昔は時々見られました。

その集大成と言えるのが5代目スポーツシビックに設定された、1.5リッターSOHC16バルブエンジンD15Bのデュアルキャブレター版を搭載するEG4「シビックMX」です。

スペック面で言うと、DOHC VTECのB16Aを積んだシビックSiRが170馬力、シビックMXはたったの100馬力と、話にならないレベル差ですが、車重はSiRが1,040kg(装備充実版SiRIIだと1,050kg)に対し、MXは950kgと100kg近く軽量。

しかも電子制御インジェクションではないとはいえ、スポーティーなデュアル(2連)キャブレター版のD15Bは、ヒュンヒュン小気味よく吹け上がるため、きついコーナーで高めのスピードを維持したまま軽いフロントを軽快に回し、素早く加速していくフットワークの軽さは、突き抜けるパワーにモノを言わせるSiRとはまた違った魅力があります。

総合的な速さを考えれば、まぎれもない実用グレードで、希少価値の面ではSiRと比べようもないため、中古市場にもほとんど出回らなくなってしまいましたが、キャブレター車が好きな人には心地よい「セカンドグレードスポーツ」です。

主要スペックと中古車価格

ホンダ EG4 シビック MX 1993年式
全長×全幅×全高(mm):4,070×1,695×1,350
ホイールベース(mm):2,570
車重(kg):950
エンジン:D15B 水冷直列4気筒DOHC16バルブ デュアルキャブレター
排気量:1,493cc
最高出力:74kw(100ps)/6,300rpm
最大トルク:126N・m(12.8kgm)/4,500rpm
10・15モード燃費:16.0km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ダブルウィッシュボーン

(中古車相場とタマ数)
※2021年6月現在
流通なし

3.ダイハツ最後の?自然吸気スポーツエンジン搭載、ストーリアツーリング/CZ

ダイハツ ストーリアツーリング(画像は海外版ダイハツ シリオン) / Photo by RL GNZLZ

ラリーなどの競技ベース車として時々話題になっては、その奇想天外な割り切りぶりが胸を熱くさせるダイハツの対アルトワークス必殺マシン、713ccターボのストーリアX4(クロスフォー)ですが、本家ストーリアおよびトヨタOEM版のデュエットにも熱いコンパクトスポーツがありました。

それが1.3リッターDOHCながら、せいぜい90馬力の標準的実用エンジンK3-VEをハイオク仕様として高回転高出力化。110馬力を発揮するK3-VE2を搭載した、「ストーリアツーリング」および、トヨタOEM版の「デュエット1.3V Sパッケージ」です。

1990年代に160~200馬力と、リッター100馬力オーバーを記録した1.6リッタースポーツエンジンとは異なり、実用エンジンとしてせいぜい100馬力程度にとどまった1.3リッターエンジンの中では国産最強クラスで、SOHC16バルブながら1.6リッター125馬力の2代目シャレード・デ・トマソの後を継ぐに足るスポーツモデルでした。

なお、専用エアロバンパーなどは装備せず、外観は1リッター実用グレードとほぼ同じな「ストーリアCZ」および「デュエット1.3V」も設定されており、ちょっとした「羊の皮をかぶった狼」的存在だったのも面白いところ。

ブーストを上げれば140~150馬力程度は楽に出せるストーリアX4ほどではないにせよ、割とメジャーで実用車として使われているのもよく見かけたセカンドグレードでしたが、ストーリアX4さえなければ立派な最強グレードとして記憶されるべき存在です。

※なお、2001年12月のマイナーチェンジ以降、ストーリアCZは廃止されてK3-VE搭載の実用グレード「ストーリア1.3CX」へ、デュエットは少々ややこしく、K3-VE2搭載車が「デュエット1.3S」、K3-VE搭載車が「デュエット1.3Xおよび同1.3V」となったので、注意が必要です。

主要スペックと中古車価格

ダイハツ M101S ストーリア CZ 2000年式
全長×全幅×全高(mm):3,660×1,600×1,450
ホイールベース(mm):2,370
車重(kg):850
エンジン:K3-VE2 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,297cc
最高出力:81kw(110ps)/7,000rpm
最大トルク:126N・m(12.8kgm)/4,400rpm
10・15モード燃費:19.6km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トーションビーム
(中古車相場とタマ数)
※2021年6月現在
ストーリアCZ:58万円・1台
デュエット1.3S:ASK(価格応談)・1台

4.5MTとよく回るエンジン、トヨタEP82スターレットS / Gi

ターボじゃないスターレットだってよく走るんです!(画像は海外仕様) / Photo by peterolthof

ヤリスやヴィッツの前身、トヨタ スターレットには3代目以降、新車販売当時FFハイパワーターボのジャジャ馬と言われた、1.3リッターターボ車が設定され、現在でもラリーやダートトライアルなどで4代目スターレットGTや、5代目スターレットグランツァVが活躍しています。

しかし新車販売当時のワンメイクレースで使われていたのは、同じ1.3リッターでも自然吸気エンジンの方で、4代目後期では全車燃料供給方式がEFI(電子制御インジェクション)化されたハイメカツインカム版。100馬力を発揮する、4E-FEエンジンが搭載されました。

1996年1月にモデルチェンジした5代目では、低回転トルクなどの実用性重視セッティングのためか85馬力に抑えられましたが、4代目に搭載された100馬力版4E-FEは、上まで気持ちよく吹け上がり、パワーもあった上に衝突安全ボディGOA採用前の軽いボディなこともあり、なかなか痛快な走りをするセカンドグレードスポーツ。

実用グレードはMTが4速でしたが、ターボの「GT」と同様のルックスながらボンネットインテークを廃した「Gi」は販売全期間を通じて5速MT、通常デザインの羊の皮をかぶった狼仕様は、前期の「Si」(EFI版)と「S」(キャブレター版)、後期の「S」(EFI版)が5速MTです。

車重はもっとも軽い前期「Si」で770kg、もっとも重い後期「Gi」でも830kg(いずれも5速MT車)と、ターボの「GT」より30~50kgほど軽く、過剰なターボパワーによるジャジャ馬ぶりもないので、乗りやすいスポーツハッチバックだったため、あえてターボではなく振り回しやすい「Gi」や「Si」「S」を選んでロールバーを組む走り屋もいたものです。

当時の1.3リッター自然吸気エンジン車では、現在に至るまでの最強クラスマシン、ホンダGA2シティが既に登場していたものの、実用性と速さを併せ持つセカンドグレードスポーツとしては、スターレットGiやSi、Sの方が扱いやすかったかもしれません。

主要スペックと中古車価格

トヨタ EP82S スターレット Si 1989年式
全長×全幅×全高(mm):3,720×1,600×1,380
ホイールベース(mm):2,300
車重(kg):770
エンジン:4E-FE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
排気量:1,331cc
最高出力:74kw(100ps)/6,000rpm
最大トルク:116N・m(11.8kgm)/5,200rpm
10モード燃費:16.8km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)トレーリングツイストビーム

(中古車相場とタマ数)
※2021年6月現在
EP82スターレット自然吸気エンジン車(ソレイユなど実用グレード含む):13万~69.8万円・4台

高性能グレードとお買い得グレードに挟まれ数は少ないものの、魅力的なセカンドグレード

最近設定が減った「セカンド」スポーツグレードだが、先代スイフトRSは流通台数が多くてオススメ / 出典:https://www.favcars.com/photos-suzuki-swift-1-2-rs-za-spec-2017-428398.htm

スポーツモデルのセカンドグレードは、もっとも高性能、あるいは競技向けのグレードと、お買い得で実用的な、それも大抵は価格の割に装備が充実した下から2番目のグレードに挟まれ、新車販売当時から地味な扱いになりがちです。

それでもかつては「通好み」グレードとして、現在は高価になりがちな高性能グレードに代わる現実的なスポーツグレードとして設定されている車種もありました。

パッと見で自慢できる要素は少ないものの、走らせてみると実は結構スゴイんです!という通好みグレードは、入門編として存分に走り倒すクルマとして最適なモデルです。