今では国産車から消えてしまった直列6気筒エンジン。戦後に国産車が登場してからトヨタや日産(プリンス)で盛んに作られましたが、その末期に登場したエンジンはチューニングベースとして今でも重宝されています。その中でも「直6日本代表の双璧」と言えるのが日産RB26DETTと、今回紹介するトヨタ2JZ-GTEなのです。

 

Photo by O.Horbacz

 

 

トヨタ直6の最高到達点、2JZ-GTE

 

Photo by 陳 清

 

1965年デビューのS40系クラウンで初搭載された、2リッター直列6気筒SOHCエンジンM型。

トヨタを代表する直6エンジンとして排気量アップやDOHC化、過給機追加などの改良を受け、マークII 3兄弟より上のセダンやGTカーに長らく搭載され続けてきました。

しかし、1986年デビューのA70スープラなどに搭載された3リッター直6ツインターボ7M-GTEUまでくると、グループAホモロゲーション用のターボAでも市販型では270馬力に留まり、ここに長年続いたM型は新世代エンジンへ移行していきます。

それが1990年、70スープラなどに搭載された2.5リッター直6DOHCツインターボ1JZ-GTEで、排気量がダウンしたにも関わらず7M-GTEUより馬力・トルクともにアップし、自主規制値280馬力に到達したのです。

しかし、1990年代のトヨタ車の中で1JZ-GTEはあくまでマークII系やクラウン系のスポーティグレード用であり、よりパワフルなGTカーや、その4ドア版と言える高級スポーツセダンには、よりパワフルで余裕のあるエンジンが準備されていました。

それが3リッター直6DOHCシーケンシャルツインターボ、2JZ-GTEです。

 

わずか2車種にしか搭載されなかった、ある意味スペシャルエンジン

 

Photo by Mark Seymour

 

1991年、ネッツ店・ビスタ店(後にネッツ店に統合)向け高級スポーツセダン、アリストのトップグレード用エンジンとして初搭載されたのを皮切りに2JZ-GTEの歴史は始まりますが、採用されたのはアリストとスープラの2車種のみ。

GTカーと言ってもラグジュアリー傾向を強めた3代目ソアラには1JZ-GTEが搭載され、しかもアリストの海外版レクサスGSにも2JZ-GTEは搭載されなかったので、実質、世界中で2JZ-GTEを搭載していたのはスープラだけでした。

 

2JZ-GTE搭載車その1・初代 / 2代目アリスト

 

Photo by Danny Roberts

 

アリストはトヨタ最強のスポーツセダンで、マジェスタとは別な意味での高級版クラウンというより、スープラの4ドア版的な高級ラグジュアリースポーツセダンでした。

エンジンには2JZ-GTEが搭載され、日産でVG系ターボを搭載し人気のあった、シーマやセドリック / グロリアのグランツーリスモ系を上回る動力性能を発揮します。

初代アリストは若いアグレッシブユーザー層やスポーツ系ユーザーの多いトヨタオート店(後のネッツ店)や、実験的車種の販売が多かったビスタ店(後にネッツ店に統合)のフラッグシップモデルとしては最適で、発売と共に国産車最速セダンとして大人気となったのでした。

 

Photo by Alex V

 

2代目アリストは楕円4灯ヘッドライトとモチーフを同じくするテールランプでアグレッシブさを増し、3代目がGSとしてレクサス店扱いとなり消滅するのが惜しまれました。

スープラとは異なり6速MT車は設定されず「最強の直線番長」とも言われましたが、MT化でドリフト用のベース車にも使われています。

 

2JZ-GTEその2・JZA80スープラ

 

Photo by O.Horbacz

 

「ハンドルを切ったままアクセルを開け、クラッチを繋げば初心者でも容易に安定したスピンターンができる。」と言われた乗りやすさと、低回転からの大トルクで余裕ある走りが好まれたGTカー、スープラ。

2JZ-GTEではゲトラグ製6速MTが設定され(NAの2JZ-GE搭載車にも後に追加)、純正で6速MTと大パワーを楽しめるFRスポーツとして人気がありました。

ただし1993年にデビューはしたものの、1990年代後半になるとスポーツカー不況で販売台数が低迷し、2005年の販売終了(生産は2004年終了)まで延命したアリストとは対照的に、2002年で廃止されるという残念な結末を迎えたモデルだったのです。

なお、JGTC / SUPER GTで活躍したスープラは初期を除けば2リッター直4ターボの3S-GTEや4リッター級V8NAの3UZ-FEに換装されており、2JZ-GTE搭載スープラのレース記録は意外にも、そう多くはありません。

 

2JZ-GTEのシーケンシャル式ツインターボ

 

出典:http://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/automotive_business/products_technology/technology_development/engines/details_window.html

 

初期にはツインターボ、後にシングルターボ化した1JZ-GTEや、ツインターボの1G-GTE、7M-GTEUとは違い、2JZ-GTEは同じツインターボでもシーケンシャル式を採用。

シーケンシャル式ツインターボは細かく分ければいくつかの方式がありますが、基本的には低回転域で1つ目のタービンを、高回転域で2つ目を使う方式となっています。

 

http://www.toyota.co.jp/jpn/company/history/75years/data/automotive_business/products_technology/technology_development/engines/details_window.html

 

トヨタが「2Wayツインターボチャージャー」と呼ぶシーケンシャル式の特徴は、低回転で1つ目のタービンを駆動させ、高回転域で2つ目も駆動させて両方のタービンを使する事。

他の方式では低回転域の小型タービンと高回転域での大型タービンを使い分ける「直列式」もありますが、2JZ-GTEでトヨタは「並列式」を採用しています。

 

2JZ-GTE・輸出仕様との違い

 

Photo by Nick

 

国内仕様ではJZA80スープラ用で最高出力280馬力・最大トルク44.0kgm(VVT-i化後は46.0kgm)を発揮する2JZ-GTEですが、これはもちろん当時の日本自動車工業会加盟メーカーによる、国産車280馬力規制がゆえで、海外仕様ではトルクはほぼ同様なものの、最高出力325馬力を発揮します。

その大きな差はタービンにあり、シーケンシャル式ツインターボでも国内仕様はトヨタCT20Aでしたが、海外仕様はタービンホイールをセラミックからメタルへ変えて高ブーストにも対応し、サイズも大きいトヨタCT12Bを採用していました。

両者はサイズが違うのでエキマニやアウトレットなども当然異なり、コンピューターやインジェクターなども別なので、海外仕様のタービンや関連機器類をスワップするより、サードパーティ製品を用いた方がいいと言われています。

実際、サードパーティ製品で固めたフルチューン仕様の2JZ-GTEは1,000馬力オーバーを発揮可能なポテンシャルを持つため、輸出仕様にこだわる必要はあまり無いかもしれません。

 

【2JZ-GTE国内仕様】

タービン:トヨタCT20A

最高出力:280馬力 / 5,600rpm

最大トルク:44.0kgm / 3,600rpm(1997年以降のVVT-i仕様は46.0kgm)

【2JZ-GTE海外仕様】

タービン:トヨタCT12B

最高出力:320馬力 / 5,600rpm(VVT-i仕様は325馬力)

最大トルク:43.5kgm / 3,600rpm(VVT-i仕様は46.0kgm)

 

まとめ

 

トヨタの一般乗用車用直6エンジンは、ターボは2006年、NAも2007年に生産を終えてその姿を消しましたが、2JZ-GTEはそれに先立つ2004年にはもう生産を終え、それ以前のエンジンに比べれば、わずか13年ほどと意外に短期間で姿を消しています。

同社の直6ターボの傑作、頂点ではあったものの、同時に「最後の旧世代エンジン」という意味では日産RB26DETTと共通する面が多々あり、いずれも2017年現在に至るまで数々のチューニングベースエンジンを生み出してました。

新世代エンジンには軽量なアルミ製が多く、元から余裕を持って開発されたものでもない限り高出力化が困難なのに対し、鉄製の旧世代エンジンにはそれだけ「伸びしろ」があり、今後もチューナーにとっては「格好の素材」として長く使われることでしょう。

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