2018年のニューヨークモーターショーで発表されたポルシェ911 GT3 RS ヴァイザッハ パックはもともと高性能なポルシェ911 GT3 RSを29kg軽量化し、さらなる高性能を目指したモデルです。しかし、かつてのポルシェを知る方からすれば、-29kgというのはいささか寂しい値ではないでしょうか。かつてのポルシェのスペシャルモデルは徹底した軽量化を施し、ライバルに対して圧倒的なアドバンテージを示してきました。ここでは50年以上に及ぶポルシェ911の歴史の中で大幅な軽量化を行った名車3選をご紹介していきます。

ポルシェ911 カレラRS(1973年)

出典:https://www.favcars.com/porsche-911-carrera-rs-2-7-touring-uk-spec-911-1972-73-images-245044-1024×768.htm

マニアの間では、通称「ナナサンカレラ」と呼ばれるモデルです。

ポルシェ911の長い歴史の中でも名車の最右翼に挙げられる1台でしょう。

1974年、ポルシェ911は2.4リッターだった排気量を2.7リッターに拡大します。

このエンジンを1年前倒しして73年式の911に搭載し、徹底した軽量化を行なったのが1973年型カレラRSでした。

生産台数は1580台で、当時の輸入元であるミツワ自動車を通じて日本に輸入されたのはわずか十数台のみ。

カレラRSにはツーリング、スポーツ、レーシングの3つのグレードがあり、スポーツの車重はたったの960kgしかありません。

しかし、73年式の911Sの車重は1100kg。約140kgもの軽量化を達成しています。

そうなると、現行のマツダ ロードスター(ND型)よりも軽く、鋼板モノコックボディでありながらアルミモノコックのロータス エリーゼとほぼ同じ車重です。

その軽量車体に2.7リッター水平対向6気筒(最高出力210ps /6300rpm、最大トルク26.0kgm/5100rpm)を積めば、パワーウエイトレシオ5.23、トルクウエイトレシオ36.9と、当時としては驚異的な値になります。

当時の高性能スポーツカーといえば、フェラーリ365BBやランボルギーニ カウンタックですが、12気筒を積んだイタリアのスーパーカーがスペックでは上回っていても、実戦ではカレラRSが圧勝したでしょう。

ナローボディの911というとピーキーな挙動を示して運転が難しい車という印象があるかもしれませんが、1970年代後半にカレラRSを谷田部の日本自動車研究所で試乗した自動車評論家の徳大寺有恒氏によると、高速安定性もよく、テールスライドもコントロールしやすい車だったそうです。

ポルシェ911 カレラ・スピードスター(1989年式)

1989年はいわゆる930ボディの911が生産された最後の年で、そのラストイヤーに2100台だけ生産されたのが911スピードスターでした。

911スピードスターの見た目は2シーター化した911カブリオレといった印象ですが、カブリオレより7cm低いフロントウインドウは専用の肉薄ガラスで、三角窓は廃止。

ボディ全体の低さが際立ったフォルムが特徴です。

オープンカーはボディ剛性が低下する分、モノコックの補強が必要になり、多くの場合はクローズドボディより車重が重くなりがちですが、911スピードスターは車重1300kgとクローズドボディの911カレラと比較しても70kgの軽量化を実現しています。

当時、911スピードスターに試乗した自動車評論家の福野礼一郎氏は、軽量・低重心の効果は大きく、アクセルをひと踏みしただけで鋭く加速し、手首をひねっただけでフロントノーズが向きを変える俊敏な挙動と低重心がもたらす安定した車体姿勢に感動したと記しています。

福野氏自身も4台の911を乗り継ぎ、スピードスターを試乗した当時は964ボディのカレラ2を所有していたそうですが「スピードスターに比べると、自分のカレラ2はセルシオみたいに鈍重だった。930ボディのスピードスターこそ、ポルシェ最後の本物の軽量スポーツカーだ」と結論づけています。

その後、911モデル末期になると恒例のようにスピードスターが追加され、つい最近も991モデルにスピードスターがラインナップされました。

GT3と同じ4リッターエンジンが搭載されていますが、991モデルのスピードスターは1460kgとGT3よりも35kgも増量しており、今のスピードスターは930時代とはまったく異なるコンセプトの車になってしまったようです。

ポルシェ911 カレラRS(1992年)

出典:https://www.favcars.com/pictures-porsche-911-carrera-rs-3-6-leichtbau-964-1991-93-246839-1024×768.htm

ポルシェ911(930型)は1989年にフルモデルチェンジを行い、まったく新しい964ボディに生まれ変わりました。

その2年後、ポルシェに久しぶりに「レンシュポルト(RS)」の名が復活し、964ボディのカレラRSは2051台生産されました。

近年のGT3など、ポルシェのレーシングモデルは派手なスポイラーを装着し、ノーマルのカレラとの違いは一目瞭然ですが、964ボディのカレラRSは外観上、カレラ2とあまり変わりません。

観察力の鋭い人なら、わずかに低くなった車高に気づくかもしれませんが、スポイラーの類は一切ないのです。

エンジンは3.6リッター水平対向6気筒で260ps/6100rpm。

31.6kgm/4800rpmと出力のみカレラ2より10psほど上回っていましたが、これは製造公差の上限を示していたに過ぎず、実際にはカレラ2/4と同じエンジンでした。

その事実にも関わらず、カレラRSはカレラ2とは比較にならないほど強烈な加速が味わえる車だったといいます。

その理由は、1230kgとカレラ2よりも120kgも軽い車重にありました。

964の時代になると、かつてはスパルタンといわれたポルシェ911もグランドツアラーとしての性格を強め、エアコンやオーディオなどがフル装備されていましたが、カレラRSでは後部座席やエアコン、オーディオはもちろん、ルームライトやパワーウインドウまで廃止するという徹底ぶり。

走りに関係のない装備は、全て取り払って軽量化に努めています。

結果、見た目は黒一色の実にそっけない内装となりましたが、分かる客だけに買ってもらえればいいと割り切って作られたのがこの時代までのポルシェ・レンシュポルトでした。

まとめ

昔のポルシェほど、軽量化にこだわったメーカーはありません。

ポルシェ911のアイデンティティでもあるRRレイアウトの最大のメリットは、トラクションの高さです。

1949年にポルシェ356がデビューしたとき、車体バランス上ではFRに比べて不利なRRでありながらサーキットでも公道でも356は無敵でした。

その理由はトラクションの高さ故に、車体を極限まで軽量化することが可能だったからです。

911にしても930までのモデルはオーディオやエアコンを外せば、たちまち300kg程度の軽量化は可能でした。

しかし、どうも近年のポルシェは大排気量エンジンや高性能タイヤ、PCCBばかりに力を入れて、かつて彼らがこだわり抜いた車体本体の軽量化がおざなりになっている気がしてなりません。

車体が軽量なら、自然と加速もコーナリングもブレーキングも良くなり、大排気量エンジンも高性能タイヤもカーボンブレーキも不要です。

燃費も良くなるので、環境性能も向上するでしょう。

もちろん自動車を取り巻く環境が変化し、年々厳しくなる衝突安全基準を満たそうとすればどうしても車重が重くなりがちですが、相反する要素を両立させてこそ真の技術の進歩です。

技術屋集団のポルシェが、かつての姿勢を取り戻すことを願って止みません。

Motorzではメールきを配信しています。

編集部の裏話が聞けたり、最新の自動車パーツ情報が入手できるかも!?

配信を希望する方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みください!