キンコン、キンコン…高速道路を快調に走っていると、聞こえてくる鉄琴チックなあの音色。昭和世代のドライバーなら誰でも知っている速度警告音、通称「キンコン」です。今回は「キンコン」とクルマの保安基準にまつわる話をご紹介します。
掲載日:2019.6/27
まずは「道路運送車両法」と「保安基準」を少しだけ知ってみよう
自衛隊車両など一部の車両を除き、国内で走る二輪車を含むクルマ全てに適用される法律があります。
それが、昭和26年に施行された「道路運送車両法」です。
この法律では、各種車両の定義から、登録、保安、点検整備、検査、はてはリサイクルに及ぶまで、規定や基準が定められています。
この法律の第3章「道路運送車両の保安基準」では、クルマの安全性(ここでいう”安全性”とはクルマの安全性はもちろん、公害防止や環境保全にまで及ぶ。)を担保させる技術基準が示されています。
そして第5章が「道路運送車両の検査が、保安基準に沿った車両であることを検査する基準。」いわゆる車検の基準となります。
平たく言うと、「車検を通すためには、技術基準である保安基準をクリアしなければならない。」ということです。
次にクルマの「保安基準」について、ヘッドライトを例に説明しましょう。
保安基準では、その明るさ、色、搭載位置など、こと細かに規定がなされています。
その他にも、マフラー、ミラー、シートベルト、タイヤ、フェンダーなどなど、規定されていない部位はないと言ってもいいほど、その基準は多岐に及んでおり、パーツのアフターマーケット市場でも、基本的には保安基準をクリアしたものが流通しています。
そして保安基準は一度決まれば未来永劫変わらないというものではありません。
例えば世界基準に照らし合わせることにより、装着が義務づけられたものもあり、ハイマウントストップランプがその例です。
さらには日進月歩のクルマの進化により、保安基準も新技術に対応していくので、最近ではサイドミラーのデジタル技術によるミラーレス化がCMS(カメラモニタリングシステム)として、平成16年に認可されました。
そして、保安基準の中には時代の経過とともに、今はなきものとなっている装備もあります。
そのひとつが『速度警告音』なのです。
速度警告音とはどんなものだったのか? その音色は?
法令「速度警報装置の装備要件及び性能要件」(保安基準第46条第2項 昭和49年(1974年)11月運輸省令第45号、昭和61年(1986年)3月廃止)によって装着を義務付けられ、車検の検査項目にもあったのが、速度警告音で、その要件は以下の通りです。
・普通乗用車では車速が約105km/h
・軽自動車では約85km/h
・それらの車速を超えた場合、ドライバーへ注意喚起のためチャイムやブザーなどの警報音を継続的に鳴らすこと。
実際は、メーター読みで100km/h、80km/hあたりを超えると鳴りっぱなしになるというシロモノでした。
筆者が”キンコン”をよく聞いたのは子供の頃だったので、一種の愛着というか身近な非日常を感じ、ワクワク感があったのを覚えています。
その音色は決して濁っておらず、また耳障りの悪いものでもなかったので、個人差もあるとは思いますが「睡眠を誘発する」とした批判的な意見もありました。
実際の音色は以下で聞いてみて下さい。
余談ですが、この速度警告音を鳴らせるスマホアプリが、カー用品メーカーの『CAR MATE』からリリースされています。
『DriveMate KingKong』という名前のこのアプリは、GPS計測により所定時間内の移動距離から速度を算出。
キンコンを鳴らすといったもので、精度も侮れないようです。
iOS / Android共に対応しており、警告音を鳴らす速度設定も自在にできるので、よくつかう道路の制限速度などに設定しておくなど、便利な使い方も可能となっています。
そんな速度警告音は、走り屋漫画の金字塔『頭文字D』のアニメでも、主人公の藤原拓海が操るパンダトレノが真剣バトルの真っ最中に鳴らしています。
もちろん拓海君はいたって冷静なわけですが。
1986年3月に廃止となる速度警告音ですが、厳密にその時期にピタッとなくなったわけではないようで、過渡期となったその後2年ぐらいは標準装備されていたクルマもあったようです。
また、2000年代初頭あたりまでは、メーカーオプションとして装着可能なクルマもありました。
廃止となった速度警告音、その理由は?
速度警告音は、なぜ廃止されたのでしょうか。
先述した通り、睡眠を誘発するという意見もあったようですが、最大の要因は保安基準が輸入車にも適用されることによる諸外国メーカーの反発です。
当時、日本車は高い競争力で世界を席巻し始めており、激しい貿易摩擦にさらされていました。
そのため、日本独自の装備であり、義務化されていた速度警告音の存在は、貿易上の障壁であると主張する欧米の自動車メーカー、特に米国メーカーから槍玉にあがっていたのです。
諸外国のメーカーから見れば、「日本の基準に合わせて売るのも手間だ。日本は独自の基準など撤廃して外国製品を輸入しやすい環境にせよ!」ということでしょう。
そうした要請を受け、運輸省は規制緩和に動くことになりました。
同様の理由で先んじて1983年にドアミラーは解禁されています。
ドアミラーの場合、解禁以前は理不尽なことに、外国メーカーに配慮して輸入車だけはOKで国産車はNGだったそう。
それには国内ユーザーからの不満が多数あがり、解禁に及んだ背景がありました。(ドアミラーが最初に採用されたのはパルサーEXA)
まとめ
「キンコン」が廃止となった最大の要因は、諸外国、特に米国メーカーからの外圧だったというわけですが、実際、規制が撤廃されて米国車が日本で売れたかといえば、決してそうではなく、爆発的に輸入されたのは独車でした。
昭和50年代、軽自動車や大衆車の100km/hは、体感的にも「スピードが出ているな…」と思えるほどで、速度警告音は心理的に緊張感のハードルがひとつ上がる目安でした。
そして、そこに速度警告音の存在意義があり、意喚起し自制心を促す役割があったのです。
その後、モータリゼーションは変化して、高性能となった現代のクルマにとって時速100km/hでの巡行は日常速度域であり、外圧がなくても速度警告音は自然に淘汰される宿命だったのかもしれません。
しかし、日本の一般道の法定制限速度はどんな立派な見通しの良い道路でも、原則時速60㎞です。(バイパス道路や一部の国道区間を除く)
そんな一般道を、ドライバーたちは各々の裁量で運転しているので、全てのドライバーに強制力をもって速度警告音を鳴らすのはいかがかと思いますが、自制心を促す意味でも一般道ではガイド的に速度警告音はあったほうがいいと思うドライバーもいるはずです。
今の時代に見合った速度警告音の在り方を再考し、機能を使うか使わないかを決めるのもドライバーの裁量なのではないでしょうか。
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