クルマのカスタムで、「バネ下重量の軽量化」なんて話をよく耳にしませんか?そもそもバネ下重量とは何を指しているのでしょう。また、バネ下を軽量化すると、どういった効果を得ることができるのでしょうか。

掲載日:2019.8/6

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バネ下の軽量化は本当に効果があるのか?

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バネ下重量とは、その名の通りサスペンションのコイルスプリングより下にある足回りの部品類を指します。

ホイール、タイヤ、ブレーキ、サスペンションアーム、ドライブシャフト、スタビライザーなどがバネ下重量の主要部品です。

「ばね下1kgの軽量化はばね上○○kgの軽量化に相当する」などと言われ、その効果は10kgや15kgともされますが、本当に約10~15倍もの軽量化効果があれば、ばね下重量の軽量化は”正義”といえます!

しかし、バネ下重量の軽量化は意味がないという意見もチラホラ目にします。

いったいどちらが正しいのでしょうか。

筆者なりに、検証してみました。

軽量化による最大の効力は慣性モーメントの減少

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クルマの足回りでは、何かしらが回転しています。

タイヤ、ホイール、ブレーキローター、ドライブシャフトなどなど、走行時は常に何かが高速で回転しており、回転する抵抗が少なければ少ないほどエンジンのパワーを抵抗なく路面へ伝えることができます。

まず、これらを軽量化することで重力により地面に引っ張られる力が減少し、回転軸の摩擦力が軽減することが考えられるのです。

しかし、これよりももっとパワーロスに繋がるのは慣性モーメント。

慣性モーメントとは「回転する物体に対して、回転と逆方向に働く力」のことを指します。

力学では、回転するものに対してはその回転を邪魔する力も存在しているのです。

フィギュアスケートを例に説明すると、氷上を高速回転または、ジャンプをする際の選手に注目してみましょう。

手を広げた状態から手を縮めた瞬間に、急に回転が速くなるのが分かると思います。

慣性モーメントとは回転物体の半径に依存するため、半径が長ければ慣性モーメントが大きくなり、逆に半径が短ければ慣性モーメントは小さくなるのです。

そのため、選手が手を縮めるのは回転速度を速くするために意図的に手を縮めていることになります。

慣性モーメントは質量にも依存する

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慣性モーメントが回転物体の回りにくさであることがわかったところで、上の式に注目してください。

こちらは、慣性モーメントの力を表す式なのですが、慣性モーメントは物体の半径、物体の質量、回転時の角速度、これら物理量の積で表されます。

そのため、物体の半径が大きくなれば慣性モーメントが増えるのは明確ですが、さらに慣性モーメントは質量の積でもあり、回転物体の重さも慣性モーメントの大きさに影響を与えます。

要は物体が重ければ重いほど慣性モーメントが働き、軽ければその分慣性モーメントが小さくなるということです。

回転物体の軽量化が慣性モーメントを減少させる

バネ下重量を構成する部品は、タイヤ、ホイール、ホイールハブ、ブレーキローター、ドライブシャフトなど、常に高速で回転しています。

これらを軽量化するということは、慣性モーメントを減らすことになるので、回転を妨げる力が小さくなるということ。

そのため、回転がよりスムーズになるので、バネ下を軽量化する効力は十分あると言えるのではないでしょうか。

バネ下重量を軽くすることでハンドリング性能向上

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バネ下重量を軽くすることで足、回りの動きの軽快さが向上します。

とはいえ、バネ下重量を軽くしたとしてもボディから常に荷重がかかっていますが、コーナリング時や路面の凹凸を走行した時に、バネ下は上下運動を起こすため、バネ下重量が軽いほうが荷重がぬけた際のサスペンションの動きがスムーズになるのです。

これにより、バネやショックアブソーバーが効率的に働き、ハンドリング性能の向上や凹凸を拾ったときの車体の安定性にも寄与します。

メーカーが軽量ホイールを使わない理由とは

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バネ下重量の軽量化が運動性能を高めるのであれば、メーカーも積極的に軽量ホイールを採用するはずですが、よっぽどのスポーツモデルでないかぎり、軽量ホイールは純正では装着されません。

なぜなら、バネ下の軽量化をすることで、サスペンションが動いた際にバネ下の共振周波数が上がるため、ロードノイズが車内に聞こえやすくなってしまうのです。

さらに、重めのホイールは地面との接地面でタイヤがたわむため、路面の凹凸を走行した際にタイヤがショックを吸収してくれます。

そこで、ロードノイズを拾わないようにサスペンションをセッティングしてしまうと、乗り心地が悪くなることも。

ホイールやタイヤが軽ければ、路面の凹凸を拾ったときにサスペンションは動きやすくなるのですが、言い換えれば凹凸のショックがボディにまで伝わるので、乗り心地は悪化するのです。

その点も、バネの硬さやショックアブソーバー、タイヤの空気圧などのセッテイングを合わせば解決できますが、それをすると次はハンドリングに悪影響を及ぼすなど、イタチごっこ。

バネ下重量の軽量化によって、デメリットが生み出されることもあるため、バネ下重量の軽量化がすべてを良くするということはないのです。

まとめ

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バネ下重量の軽量化は、クルマの運動性能を向上させるためには効果的です。

しかし、街中や高速道など普段乗りのレベルでは、バネ下重量の軽量化によって、大きな効果が出るかといわれれば、難しいところ。

バネ下重量の軽量化は、ワイディングのようなコーナーが連続するところや、サーキットのような高速走行、未舗装のダート走行などでこそ、その恩恵を実感できるカスタムなのです。

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