大混戦となった2016年のスーパーGT500クラス。第8戦開始時点で8チームがチャンピオン獲得の可能性を残していた中、最後に栄冠を手にしたのはNo.39 DENSO KOBELCO SARD RC F(ヘイキ・コバライネン/平手晃平)だった。しかし、彼らは昨年ランキング13位と低迷。今年も開幕戦から日産GT-R勢が圧倒的な速さと強さを見せつけていたため、正直彼らがチャンピオンを獲得するとは春の段階では誰も予想していなかっただろう。それが異例の2レース開催となった最終ラウンドで合計37ポイントを稼ぎ逆転チャンピオンを手にした。今回は、それが実現できた理由に迫っていく。

©︎TOYOTA

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コバライネンを第1ドライバーに起用、日本にも長期間滞在

Photo by Tomohiro Yoshita

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昨年と同じドライバーズラインナップとなった39号車だが、一つだけ変更点があった。

エントリーリストでの登録をみると、昨年とは逆でコバライネンが第1ドライバー、平手が第2ドライバーという登録。

これは、スーパーGTでの経験が少ないコバライネンを中心にしてテストをし、マシンとタイヤの習熟に努めてもらうのと同時に、彼のポテンシャルを最大限に引き出すためでもあった。

昨年はコバライネンが初めての参戦ということもあり、経験のある平手が引っ張っていたが、新体制1年目と言うこともありなかなかそれぞれの良さが発揮できないままに終わってしまう。

オフシーズンの間に様々な問題点を解決していったと言うが、その一つとして2人のドライバーの役割分担も変更することになったのだ。

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「1年目は新体制ということで、それぞれに力は持っているんですけど、それを一つに束ねることができなくて、すごく苦しいシーズンを送りました。今年僕はセカンドという立ち位置に徹して、ヘイキのサポートに徹することによって、パフォーマンスがすごく上がりました。それをサードの首脳陣たちが決めて、オフシーズンにテストをスタートした時からクルマの状態もすごく良く、毎レースいい戦いができて、ポイントもスコアすることが出来ました。昨シーズンから今年にかけて大きなステップを踏んで、レベルアップしたと感じていたので、どのサーキットでも自信を持って臨むことができました」と、今年の役割面について語ってくれた平手。

F1をはじめ数多くのトップカテゴリーで経験してきたコバライネンだが、スーパーGT参戦1年目は、分からないことも多く、それが原因で失敗することもあった。

そういった経験不足を補うためにも、そしてコバライネンの能力を最大限引き出すためにもの決断だったようだ。

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合わせてコバライネンも、今年は本腰を入れて挑戦。日本に滞在する時間を増やし、チームと密にコミュニケーションをとった他、今シーズン途中から全日本ラリーにも参戦し、自らのドライビングテクニックをさらに磨いていった。

「昨年起きた問題を一つ一つ解決していくことができたことが今回の結果につながった一番のポイントだと思う。エンジニアやメカニックともたくさんコミュニケーションをとって、どうすればもっと速くマシンを走らせられるかを学んだ」

「もちろん、その中には日本での滞在期間を増やしたこともあるかもしれないし、ラリーへの参戦も影響しているかもしれない。それだけじゃなくで、今年やったこと全てが今回の結果を出すために必要不可欠だったことだと思うよ」

こうした変化が、第2戦富士での2位表彰台から始まり、勢いがついていくことになった。

 

今年はサポート役に徹した平手晃平の成長

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今年の39号車の快進撃を語る上で、絶対に外せないのが平手の成長だ。

前述でも触れたとおり、コバライネンを第1ドライバーにし、平手はそのサポート役にまわることになる。

昨年の状況と、彼の性格を考えても、それをチームから告げられた時は相当な抵抗があっただろう。

それでも確実に勝つこと、チャンピオンをとることを考慮し、その役を受けた。そして、その結果がこうしてチャンピオンにつながった。

「(テストで)ヘイキに乗る時間をほとんど与えてタイヤテストとかも彼がやって、僕はサポートに徹しました。悔しいけど、それをやることによって彼の能力も上がったし、チーム全体の底上げにもなった。こうやって結果にも繋がったと思います」

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それでも平手はチームにとって必要不可欠な存在、特に日曜朝に行われた第8戦の予選での彼のポールポジションがなければ、間違いなくチャンピオン獲得はなかっただろう。

実は、その予選でも今までとは違ったところがあった。

本来なら計測2周目でタイムを出す予定だったが、臨機応変な判断でもう1周アタックを敢行。ここで1分36秒491というコースレコードに繋がった。

「いつも計画通りに計測2周目でちゃんとアタックに行くってやっていたんですけど、今日は感覚的にアタックに行って、次の周がタイヤのおいしいところを使えそうだなというフィーリングがすごいあったので、そのまま行ったら一番タイヤのピークのところでアタックができました」

そういった判断も、もしかすると今までの平手だったら気づかなかったかもしれないが、冷静に判断してベストな状態をさらにベストなところまで引き出してのポールポジション獲得。

そういった冷静な判断ができたところも、大きかった。

©︎TOYOTA

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「予選前は自分がアタックするので緊張していましたが、今年から自分をコントロールするために呼吸法を変えたりとかして、気持ちを落ち着かせて今のことだけ考えてマシンに乗ることができました。メンタルが弱いから、そこを強くすれば強いんじゃないかと思って、呼吸法とかレースウィークの過ごし方とかを前半と後半で変えましたね。鈴鹿でペナルティを受けてしまったところがあって、あそこは自分でも気持ちをコントロールできていなかった部分もあったから、何かうまくできなかなと思って、レースに合わせて寝る時間とかも調整したりしました」

しっかり自分が劣っている部分も把握して、それを良くするためにどうするか?という冷静な対応ができていたこと。

それこそが、今年の39号車の快進撃を支えた大きな原動力だったのだろう。

 

 

次のページでは残る2つの理由を紹介。やはり一番の決め手は、あの“敗戦”だった