史上最多となる21戦で争われた2016年のF1世界選手権。今年もニコ・ロズベルグとルイス・ハミルトンの一騎打ちとなったチャンピオン争いは、最終戦のファイナルラップまでもつれ込む激戦となり、最終的にロズベルグに軍配が上がった。結果だけを見れば彼の初タイトル獲得、親子2代でのチャンピオン誕生という見出しばかりになるのだが、実際に彼らの勝敗を分けたポイントはどこにあったのか?シーズンを通して4つのシーンをピックアップした。

©︎Pirelli

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中国GP&ロシアGP「後半戦に響いたハミルトンのPUトラブル」

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ロズベルグとハミルトンの直接対決は3回目。過去2回は接戦になることもあったが、最終的に運も味方につけたハミルトンがチャンピオンを獲得していた。

しかし今年は開幕戦からロズベルグのペース。ミスやトラブルもない堅実な走りオーストラリアGP、バーレーンGPと連勝。一方のハミルトンはスタートが上手くいかないことや1コーナーでの接触などもあり、最初から後手を踏む展開が続いた。

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第3戦中国GPと第4戦ロシアGPではパワーユニット(PU)のトラブルに見舞われ、後方グリッドに沈んでしまうという大きなハンデを背負ってしまう。さらに、ここでのトラブルによるPU交換で後半戦に使用するはずだった分も前倒しで使用。

これでベルギーGPではPU交換でグリッド降格のペナルティを受けたほか、快進撃を見せた中盤戦でも少なからず意識しながらのレースとなってしまった。実際にベルギーGPでは3位表彰台を獲得できたが、もしグリッド降格がなければ優勝できたかもしれないということを考えると、ポイントの取りこぼしを招いた序盤戦だったと言えるだろう。

 

マレーシアGP「終盤戦の流れを変えたエンジンブロー」

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やはり、今季を振り返る上で欠かすことができないのが、第16戦マレーシアGPでのハミルトンのエンジンブロー。実は、このレースは週末の間に2回流れが変わっていた。

ベルギー、イタリア、シンガポールとロズベルグに3連勝され、夏場で逆転したポイントランキングを再びひっくり返された。3年連続のチャンピオン獲得のためには、もう一度流れを引き戻す必要があったのだ。

その中で予選では、きっちりポールポジションを獲得。スタートも上手く決まりトップを死守。一方のロズベルグは不運な接触でスピンを喫し最後尾に転落してしまう。

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ここで優勝すればライバルに傾きかけている流れを食い止めることができたかもしれないが、その目論見も41周目の1コーナーで全て潰えてしまった。

毎年、チャンピオン争いを振り返ると「あそこでのノーポイントがなければ…」とタラレバが並ぶのだが、今年はマレーシアGPが、それに当てはまるレースだった。

 

日本GP「82cm差の明暗」

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マレーシアGPが終わった時点で、確かにロズベルグ有利に傾きつつあったが、ハミルトンもチャンスがなくなったわけではなかった。

2週連続でのレースとなった日本GPで、どちらが勝つか?筆者はここに注目していた。

その勝敗を大きく決定づけたのが、土曜日の公式予選Q3。週末を通してロズベルグの方が速さを見せており、フリー走行からトップタイムをマーク。Q1、Q2とにハミルトンを圧倒し、ポールポジションは確実かと思われた。

ところが、Q3の最初のアタックでトップに立ったのは、ハミルトン。0.2秒逆転しトップに浮上した。これを受けて、ロズベルグも再びアタックを敢行。ハミルトンも続いてコースインする。その結果…

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ロズベルグ1分30秒647、ハミルトン1分30秒660。

その差0.013秒、距離にすると82cm差。1周5.8kmもある鈴鹿サーキットで1mを切るほどの接戦となり、勝利したのはロズベルグだった。

これでアウト側の1番グリッドにロズベルグ、イン側の2番グリッドにハミルトンがついた。実はサーキット周辺は予選日の夜にまとまった雨が降り、朝の段階ではウエットだった。サポートレース等の影響でアウト側は乾いたが、イン側は若干水が残っているような状況。

この結果、ハミルトンは大きくホイールスピンをして大きく後退。8番手まで順位を下げてしまった。一方ロズベルグは1コーナーをトップで通過すると、今季見せた先行逃げ切りのレースを披露し今季9勝目。ハミルトンは狭い鈴鹿でもオーバーテイクを積極的に行い挽回するが3位に留まった。

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レース後、ハミルトンは「自分のミス、ホイールスピンしただけ」と話していたが、この日は彼を始めイン側グリッドのマシンがスタートダッシュが悪かったのは確か。全てをたどって行くと、予選での0.013秒差で明暗が別れたことになる。

 

最終戦アブダビGP「ロズベルグが魅せたメンタルの強さ」

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ロズベルグが12ポイントリードした状態で迎えた最終戦。予選ポールポジションはハミルトンだったが、3位以内に入れば無条件でチャンピオンが決まる。確実にロズベルグが自分のレースができれば、チャンピオン獲得は間違いないと思われていた。

しかし、ハミルトンもこれまでにはなかった方法で王座を奪い取ろうとした。

スタートからトップを快走していたがレース後半になって突然ペースダウン。わざと2番手のロズベルグ以下を抑えにかかった。瞬く間に3番手以下の終盤も追いつき、残り6周になって上位4台が3秒以内にひしめく超接近戦のトップ争いとなった。

こうすることによって、後続のライバルに追い抜くチャンスを与えロズベルグを4番手以下に追いやる作戦だ。

これで一気にロズベルグは追い込まれることに。順位を落とせばチャンピオンの座はなくなる。無理にプッシュして、万が一ミスやアクシデントがあれば、それでもゲームセットとなってしまう。もちろんトップのハミルトンは鉄壁体制。これまでにないプレッシャーに襲われた。

絶体絶命のピンチかと思われたが、ロズベルグは冷静にポジションを守りきり、2位のままでチェッカーを受けた。

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これまでのチャンピオン争いでは見られなかった、新しいプレッシャーのかけ方を見事に跳ね返し、3度目のF1頂上決戦を制した。

ただ今シーズンを振り返ってみると、もしシーズン序盤で同じ場面が発生していたら、ロズベルグは間違いなくミスを犯していただろう。

今季は特にお互いの意地がぶつかり合う激戦になり、その中で失敗することも多々あった。しかし、それをしっかり経験として捉えて彼のプレッシャーに打ち勝てるメンタルに成長できたのが、最終戦での最後の決戦で勝敗を分けたポイントだったのかもしれない。

 

まとめ

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こうして決着がついた2016年のF1。日本では地上波放送もなくなりF1に興味関心を持つ人が少なくなっているのは事実。レギュレーションも大幅に変わってしまい「今のF1=面白くない」という、根拠もないイメージが先行して出回るようになってしまった。

しかし、今年のチャンピオン争いをみていくと、間違いなく過去にあったどのライバル対決にも劣らないほど、中身の濃いバトルが展開されたことは確かだ。

特に、同じチームで世界一を争っていると言う点、どんな手を使ってでも相手を蹴落とす勢いで臨んでいく点では、あの「セナプロ対決」に匹敵するほど見応えがあるものになっている。

もちろん、この対決は来年も続いて行くだろう。

このストーリーを経て、来年はどんな展開になって行くのか、早くも来年の開幕が待ちきれない。

 

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