「トヨタは負け嫌い」。残酷にもその敗北を目撃する結果となった、2017年のルマン24時間レース。あの耐久王ポルシェが2台ともトラブルに見舞われ、それでも勝つことが出来なかったトヨタ。一体、何が足りなかったのでしょうか?本当に耐久力だけの問題だったのか。その要因を推測してみましょう。
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初優勝の夢は、こうして絶たれた
公式予選では、トヨタがポルシェを圧倒。ポールポジションを獲得した小林可夢偉のタイムは、昨年ポルシェが記録したトップタイムを5秒も上回る3分14秒台という脅威的なものでした。
迎えた決勝では、7号車が開始後6時間で1分近いマージンを築くことに成功し、好調さをアピール。
2番グリッドからスタートした8号車は、一時ポルシェ1号車に先行を許すも、104周を経過したところで再び逆転。
盤石の1.2体制を築くことに成功しますが、その後トヨタを最初のトラブルが襲います。
スタートから7時間を経過した頃、8号車のフロントモーターにトラブルが発生。
フロントカウルから白煙を上げたマシンはピットに収容され、長時間に及ぶ修理を要します。
さらにその2時間後、ノートラブルで快走していた7号車をクラッチトラブルが襲い、ピットに戻ることが出来ずそのままリタイア。
最後の希望は1台のみ…と思われた矢先、その9号車も後続車との接触によりリタイアしてしまいます。
何とか8号車の修理を終えた頃には、首位ポルシェ1号車との差は2時間以上…優勝争いに介入するには遅すぎる結果となってしましました。
【タラレバ1】もしもLMP2があんなに速くなかったら…
トヨタの2台を襲ったトラブルは、大きな見方をすれば同じ”駆動系のトラブル”と言えます。
これは、昨シーズンのテストでも全く現れていない「初めてのトラブル」だった様です。
また、去年のルマンと比較すると、今年は下位カテゴリーのLMP2クラスが飛躍的に速く、予選タイムは去年よりも9秒以上速くなっているのです。
特にストレートスピードが速く、もはやLMP1(トヨタ/ポルシェ)とLMP2に大きな差はありませんでした。
それでもラップ10秒ほど速いLMP1。
大きな違いはコーナー立ち上がりの加速力です。
モーターによる強烈なトルクがある分、加速力をフルに使って一気に抜き去るのがリスクの低い抜き方でした。
逆に言うと、追い越しポイントがほぼ「コーナー立ち上がり」のみ。
LMP2のエントラントの多さを考えれば、駆動系をいたわることが難しい状況だった筈です。
また、事故処理などで導入されていたスローゾーン(コースの一部で速度制限を設ける)も、過度のストップ&ゴーを強いることで、マシンに予想以上の負担をかけた可能性があるのです。
【タラレバ2】勝負をレースの後半に賭けていれば…
しかし、これらの負担はトヨタだけでなく、同じペースで走るポルシェに対しても平等なものでした。
スタートからわずか3時間、ポルシェ2号車もフロントの駆動系トラブルで、1時間ほどの修復作業に入ります。
「ポルシェは壊れない」という神話は、早々にほころびが見えていたのです。
またレース終盤には、トヨタに変わって首位を独走していたポルシェ1号車も、残り3時間弱ほどで突如コース上にストップ。
こちらは油圧に関するエンジントラブルでした。
結果を振り返ると、クラッシュでリタイアしたトヨタ9号車以外、すべてのLMP1マシンを何らかのトラブルが襲っているのです。
両者のペースは異様なほどに速く、時に予選並みのラップで周回していました。
しかし、結果から見ると「24時間を走り切れるペースではなかった」という見方も出来るのです。
トラフィック(周回遅れのマシン集団)を回避するために、やむなく凸凹の多いランオフエリアを走る場面も多く、これもかなりマシンに負担をかけたのではないでしょうか。
また、コース上のマシンは序盤のほうが多い上、各車の差がそこまで広がっていない為、非常に抜きづらい状況が多く見られました。
もしも、ポジションを落としてでも、マシンを温存していれば、違う結果が出ていた可能性は十分あるのでは、と思えてしまうのです。
【タラレバ3】9号車が”バックアップの役割”を果たしていたら…
ポルシェとトヨタの実力は、マシンの上ではほぼ互角。耐久力にもほとんど差はなかったと言えるでしょう。
しかしトヨタは3台体制で臨んでおり、この点においては非常に有利だったはずなのです。
一方のポルシェは、昨年と同じ2台体制。このアドバンテージを回収出来なかったトヨタは、やはり完敗と言わざるを得ないのではないでしょうか。
7、8号車のリザーブを担った9号車には、ルマン初挑戦のルーキー・国本雄資とホセ・マリア・ロペス、そしてルマン経験者のニコラ・ラピエールという3名が乗っていました。
ラピエールがドライブしていた9号車は、7号車がストップした直後の1コーナーでLMP2のマシンに追突されてリタイアとなってしまいます。
追突=相手が悪い、と思いきや、真実はピットアウトするマシンを回避しようとしたラピエールの進路変更が急だった為、後続が回避できなかった、ということのようです(トム・クリステンセンの証言)。
速さが売りのラピエールですが、堅実にスティントをこなす能力にはクエスチョンマークがつくことも多いドライバーでした。
トヨタはかつて、「堅実なメンバーで固めたリザーブが、あわや優勝」という成功パターンを経験しています。
1999年のルマン、トヨタは外国人勢が乗る1、2号車に加え、片山右京・土屋圭市・鈴木利男の日本人トリオが3号車のステアリングを握っていました。
彼ら日本人トリオに与えられていた役割は、いわばバックアップ。あえてトップ争いには加わらず、チームの指示に従った彼らは10秒以上ペースを落とし、淡々と完走を目指していたのです。
1、2号車がクラッシュでリタイヤした後、3号車はチームからペースアップを指示されます。
その時レースは2日目に差し掛かっていました。
片山らはTS020本来の速さを解放し、ファステストを刻みながらの猛追を開始したのです。
最後はタイヤバーストに見舞われ、優勝こそ叶いませんでしたが、結果は見事総合2位を獲得。
この年のトヨタの様に、ルマンで「ペースを抑える忍耐力」を持ったチームが結果を残すことは、決して珍しくないのです。
この戦略をとった背景は、TS020のトランスミッションに不安があったから、と言われています。
ドライバーラインナップの妙に加え、マシンを「信用していなかったから」こその戦略が、結果につながったとも言えるでしょう。
今年のルマンに話を戻すと、もしも9号車を敢えて後方で待機させる戦法を取っていたら…。
その上、ドライバーラインナップを速さが売りのルーキーではなく、ベテラン勢で固められていたら…どんな結果が出ていたのでしょうか。
想像せずにはいられません。
まとめ
昨年の悲劇的な惜敗を、勝利への「伏線」に出来なかった、トヨタの敗北。
彼ら自身、そしてファンにとっても、これは受け入れ難い結果だったと思います。
ハイブリッド技術の限界では?といった、ネガティブな声が上がっていることも事実です。
それでも、「ハイブリッドは、クルマをもっとエモーショナルにする為に必要な技術」と語る、豊田章男社長。その情熱は衰えていません。
ロケットの様な加速力に、誇らしげな「TOYOTA HYBRID」というロゴマーク。
新しく、そして熱いモノを確かに感じるマシンです。
来年こそ、トヨタのルマン・完全制覇を見届けたいと思います。
叶うことなら、日本人トリオでの制覇をどうしても期待してしまいますね。
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