スーパーGTとの交流戦も期待されるDTMことドイツツーリングカー選手権。世界最高峰のツーリングカー選手権と称されるほど人気のあるシリーズですが、過激な開発競争により車体の開発コストが高騰。その結果、一度レース自体が消滅しています。しかし、その開発競争があったからこそ、生まれたマシンはとにかくカッコよかった!今回は、そんな旧DTMの優勝マシンを振り返ります!
ご紹介するのは、開発競争が激化する90年代から!
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旧DTMとは
1984年より開催された、ドイツのツーリングカーレース、DTM。
正式名称はDeutsche Tourenwagen Meisterschaft(ドイツツーリングカー選手権)。この頭文字をとってDTMと呼ばれています。
※現在のDTMはDeutsche Tourenwagen Mastersとなっています。
1995年には、国内レースはDTM、国外では名称を変えITC(International Touringcar Championship:国際ツーリングカー選手権)として開催。
非常に人気が高かったこのレースですが、90年代前半に「ハイテクデバイスなんでもOK」といったレギュレーションに変わってからはメーカーによる開発競争が激化。
勝つためだけに新たなハイテク装備を開発し続けた結果、マシンの開発費用が膨大に膨れ上がり、アルファロメオとオペルが参戦を断念。
1996年の開催を最後に、12年の歴史に幕を下ろしました。
しかし、それだけ開発競争が激化していたからこそ、マシンがものすごくカッコいいんです。
今も熱狂的なファンが多い旧DTMマシン。
今回は90年~レース消滅という期間に、恐ろしい速さを見せたマシンをまとめてご紹介しますよ!
1990年・1991年王者 Audi V8 quattro DTM
90年はハンス・ヨアヒム・スタックが駆り、91年はフランク・ビエラのドライビングでDTMを2年連続で制したアウディ クワトロ。
今も変わらないワークスカラーがカッコいいですね!元の車両と比較してみましょう。
いたって普通のセダン。という印象ですが、この中にV型8気筒4.2リッター、280馬力のエンジンを搭載しています。
この車両、全長が4.8mと非常に大きい車体でしたが、大きさゆえか安定感があり、雨のレースでは他を圧倒する速さを見せ、シーズンを制しました。
見た目としては、DTM仕様と比較して見てもそこまで大きな差は感じず、モディファイした程度に見える市販車がレースで速かったということは、セールスにも大きく直結したと思われます。
1992年 Mercedes 190E 2.5-16 Evo2
クラウス・ルドヴィックのドライブで、1992年に優勝したメルセデスベンツ190E エボ2
異様に高いリヤウィングにペタペタの車高。見た目にもかなり改造されていそうですが、販売されている車両と大きな差はありません。
この異様に高いリアスポイラー、純正なんです。オーバーフェンダーも、フロントバンパーのリップもすべて純正。
それもそのはず。これはグループAというカテゴリのホモロゲーションを取るために発売された車両で500台のみの限定生産。
純正でリアウィングがついていれば、外装改造禁止のレギュレーションでも他社より有利なマシンになる。といった具合にエアロパーツを多数装着。
とどのつまり「レースで勝つために市販車を作った」ということになります。メーカーがレースにかけた異常な本気。
ある意味狂気。モータースポーツファンからすると、いい時代だったのではないでしょうか。
1993年 Alfa Romeo 155 V6 Ti
1993年優勝マシン”アルファロメオ155V6Ti” ゼッケン8は元F1ドライバーのニコラ・ラリーニがドライビングし、シリーズを制覇したマシンです。
この年から車体の大幅な改造が許可され、当時最先端の電子デバイスの装着可能可とともに、DTMが大きく変わります。
メルセデスベンツ190Eのことを考えると、車体に大きな改造は施されていないのでは?と思うかもしれませんが、市販車とはもう別モノです。
見比べてみると、市販車より大きく張り出したバンパー、オーバーフェンダー、ギュッと下がったボンネット。
昨年までとは改造可能範囲が大きく変わってしまったせいで、参加するマシンの見た目は大きく変化しました、
エンジンは2.5リッターV6エンジンを1万回転以上まわして420馬力を絞り出し、4WDシステムを搭載。TCS(トラクションコントロールシステム)、ABSもこの年から導入可能に。
そんなレギュレーション変更の年に、突然イタリアからやってきたアルファロメオ155が優勝をさらい話題騒然。絶大な人気を誇った一台です。
ちなみに、96年仕様はラジエータシャッターという機構を搭載。これはラジエーターの排気部にシャッターを設置し、走行中に開け閉めすることでダウンフォースの量を調整できるというオドロキのシステムでした。
完全にグラウンドエフェクトカーと化した、最終年のDTMマシンだからこそできた機構です。
1994年・1995年 Mercedes C-Class V6
せっかく92年に190Eで勝利を収めたのに、他所からやってきたアルファロメオに優勝をさらわれたのでは、ドイツ車としての面目が立ちません。
そこでメルセデスが1994年に投入したマシンが、CクラスV6。
アルファに比べると市販車の面影がある気もしますが、それでもベツモノでしょう。
元々のCクラスは「いわゆるベンツ」というイメージのセダンですが、DTM仕様は「ベンツの面影を残したレーシングカー」といった感じです。
電子デバイスもTCS、ABSとアクティブサスペンションを装備。さらに、車体の重量配分を瞬時に切り替えられるムービングバラストという機構を搭載。
この機構は、車体中央に積んだバラスト(重り)を油圧によって動かし、加速時は後方、ブレーキング時は前方へと移動させて重量配分を変化。クルマの姿勢を常に最適な状態にさせるシステムでした。
これだけの最新技術を満載で挑んだメルセデスは94年がクラウス・ルドヴィック、95年はベルント・シュナイダーのドライブで2年連覇を達成することになります。
ちなみに、DTMマシンの写真を見ていただくとわかりますが、ドライバーがセンターピラーより後ろのかなり後方に着座しています。
これはドライバー自体を車体の中心に置くことで、重量物を中心に寄せることを狙ってこの位置になっています。DTMに限らずですが、ドライバーすらもバラストなのです。
いよいよ最終年の1996年。
最後の年を制覇したマシンはいったい何なのか。そして、クルマはいったいどんな動きをしていたのか。
次のページでは、DTMに消滅に至った最後の年のマシンと、動画を併せてご紹介します。