F1マシンの開発において重要なテスト作業。実際にマシンを走行させたり、風洞など最新のテクノロジーを用いて研究を重ねたり様々な方法で行われます。そんなテストもF1では多くの決まり事が設けられているのです。そこで今回は細かすぎるF1のテストに関するレギュレーションをご紹介します。
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マシン開発の要であるテスト
F1で勝つためにはマシンの速さが重要と言われていますが、近年はマシン性能の出来がより大きくチームの1年を左右します。
どれほど腕の優れたドライバーが所属していても、マシン開発に失敗したチームが上位に食い込むチャンスは年々少なくなっており、マシン性能の重要性が高くなっている傾向にあるのです。
そのマシンを速くするに当たって大切なのがテスト作業で、多くのチームが年中作業を繰り返し速いマシンを生み出そうと試みています。
その為、実際にマシンを走行させてパーツの評価を行ったり、風洞やコンピューターなどの最新設備を用いての実験が1年を通して行われているのです。
そして、F1ではこのテストに関しても多くのレギュレーションがあることをご存知でしょうか。
一般的に、レースではマシンの幅やウィングの高さなどマシン規定にも細かなものがたくさんあり、安全性や公平性を保つために様々な決まり事がありますが、F1の場合これらはマシン以外の箇所にも及んでいるのです。
それはテストについても同じで、現在ではテストの実施日数や走行距離なども細かくルールブックに明記されています。
テストにも多くのレギュレーションがある!
まず最初に、テストの日数に関するレギュレーションを見ていきましょう。
かつてF1では資金力のあるチームが頻繁に極秘でテスト走行を行うということがありましたが、現在は禁止されています。
何故テストにもこうしたレギュレーションが必要なのかと思われるかもしれませんが、それはチーム運営のコストが大きくなりすぎたことにあるのです。
2000年代に入ってからF1チームの多くが自動車を製造するワークスチームとなり、多くの資金を使ってのマシン開発に励みました。
それによりチームの運営に必要なコストが高騰し、トップチームでは年間で400億円という莫大な資金を使うことも珍しくありませんでした。
そこで、FIA(国際自動車連盟)はコスト削減に向けて、テストに関するレギュレーションを定め、そこから多くのレギュレーションが追加され現在に至ったのです。
では、テストに関するレギュレーションには、一体どのようなものがあるのでしょうか。
実施日数に加え、時間や走行距離にも細かい制限がある!
またテスト走行では、日数だけでなく走行可能な時間まで細かく決められています。
まず日数ですが、開幕前のテストでは2月1日から10日間の間に4日未満のテストを計2回行うことが許されています。
これは、そのシーズンを戦うマシンが揃って初走行を行うため、新たなチームの力関係が見える最初の機会であり、多くのメディアやファンが注目する最も大きなテスト走行となっています。
そして、2回目の合同テストはシーズン開幕の10日前から前日にかけて計2日間のテストを2回行える事に!
しかし、ここでは1度目のテストが終了してから36時間以内に2回目のテストを開始しなければならず、チームが休めるのは実質1日限りという多忙なスケジュールとなっているのです。
しかも、テスト走行では多くのパーツを評価するため、ドライバーは1日で実に2レース分(約600km)の距離を走り、メカニックも常にマシンの組み立てやセットアップを行います。
そのため、チームはこの忙しいスケジュールの中で効率を高めるために、ドライバーやメカニックを交代制にし、負担を減らす努力をする事も。
ちなみに走行距離にも制限があり、1年当たり15,000km以内と決められています。
これは実際にシーズンを戦うマシンだけでなく、その前年のマシンでテスト走行をする際にも適用されるので、チームが自由にマシンを走らせられるのは2年以上前に使用されたマシンに限られるのです。
テストにはFIAの監視員が同行する!?
いくらレギュレーションの縛りが多いF1でも、テスト走行は自由に行えると想像される方も多いかも知れません。
しかし、F1のテストには開幕前のオフシーズンテストのような大規模なものから、チームが個別に行うプライベートテストなど様々なテストがあり、その全てにFIAの監視員が同行する必要があるのです。
また、規模の大きさに関わらず監視員を派遣するするので、事前に申告することが義務付けられています。
しかも、ヨーロッパ以外のサーキットでテストをする際には参戦チームの過半数の同意を得る必要も!
近年はアジアや中東などでも多くのレースが開催されており、ヨーロッパでのレースは徐々に減少してきましたが、まだF1の中枢はヨーロッパにあるという事を改めて感じさせるレギュレーションと言えるでしょう。
それに加え、プライベートテストを行うにはサーキット使用料を全額負担する必要があるので、コストパフォーマンスが悪いことから近年では積極的に行うチームは減少傾向となっています。
テストにも厳しい安全基準がある!
続いてはテストの安全基準に関するレギュレーションを見ていきましょう。
F1マシンは世界でも最高水準と言える高い安全性が確立されており、高速でクラッシュした際にもドライバーに負荷がなるべくかからないような設計が施されています。
これはレースでドライバーの危険を少しでも減らすだけでなく、多くの人の目に留まるイベントの進行をスムーズにするなど多くの理由があり、多くの安全装置がF1マシンに盛り込まれているのです。
しかし、これらの技術はテスト走行で実験できるという訳ではありません。
マシンが激しいクラッシュに耐えられるかを検証する”クラッシュテスト”をクリア出来なかったマシンは、テスト走行に参加することは出来ないのです。
これはテストにおいてもドライバーの安全性を高め、マシンがレース時と同じ安全基準を満たしている必要があることを意味します。
また、雨天時の安全性を確かめるため、シーズンで最初のテストではウェットタイヤのテストを行うことも義務付けられています。
これは雨天にならなかった場合でもコースを人工的に濡らし、ウェット状況でタイヤが機能するかといった性能面と安全面に配慮して必ず行われるよう決められているのです。
風洞の使用方法にも細かなルールが…
そして、テストに関するレギュレーションは走行以外の部分にも及んでいます。
F1チームはテスト走行以外でもマシンの開発実験を行っていますが、その際に用いられる事が多いのが風洞です。
この風洞はトンネル内を高速で風が流れる仕組みになっており、この中にマシン模型を置くことでマシンの空力性能を計測することが出来ます。
その設備は多くのチームが所有しており、実走テストの機会が少ない近年のF1ではマシン開発の向上に向けて重要な設備の1つとなっています。
そして、そんな風洞の使用方法にもレギュレーションが定められているのです。
風洞で使用されるマシン模型は、原寸大の60%以下と大きさが制限されており、風の速度も50m/秒と決められています。
この大きさの制限もコスト削減に向けて作られたもので、原寸大の風洞施設を作るには400億円を超える費用がかかると言われています。
ですが、原寸大の50%スケールの場合はおよそ100億円程度で済むことから、これを60%程度に制限することはコストダウンに向けて効果を発揮していると言えるでしょう。
メカニックやエンジニアも働きすぎはダメ!?
制限されているのはマシン開発に関わるコストだけではありません。
F1チームは常にマシンを速くすることに取り組んでおり、風洞や工場は年中稼働しており、開発スタッフは1年中マシン開発に追われるという状況が続いていました。
そこで、近年は7月もしくは8月に2週間渡って風洞とCFD(計算流体力学)施設を閉鎖しなければならないというレギュレーションが制定されているのです。
その為、常にマシン開発に追われていたチームのスタッフは、レースカレンダーにある夏休みの期間は工場も閉鎖することが義務付けられ、休暇を取らざるを得なくなりました。
また、2003年よりGP期間においても予選終了後から決勝までの間はパルクフェルメ規定によってマシン整備が禁止される他、ガレージでの夜間作業には回数制限が定められています。
現在は年間レース数が増加傾向にあり、チームスタッフの負担もそれに伴って増加しているので、彼らの労働負担を減らすためのレギュレーションが作られる結果となりました。
デモ走行にも走行制限がある?
そして、最後にデモ走行に関してのレギュレーションにも触れておこうと思います。
先ほどテスト走行にも年間での距離制限があることを述べましたが、実は都市部などで開催されるデモ走行にもテスト走行のような決まりがあるのです。
街中で行われるイベントは全力で走行する訳ではないので一見テストとは無関係に思えますが、走行機会が限られているF1マシンの場合では、データの収集が出来るチャンスとなるのです。
そのため、FIAはデモ走行の走行距離を15km以内と定め、タイヤはデモ走行専用のものを装着する決まりとなっています。
また、プロモーションイベントにもレギュレーションがあり、走行距離が100km以内年間2回までと、こちらも細かくルールが設けられているのです。
もちろん、これらのイベント関連での走行は、テストでの走行距離には含まれませんが、F1マシンが走るところにはいつもレギュレーションがあるということを、改めて感じさせます。
まとめ
F1マシンに関するレギュレーションは頻繁にニュースなどでも取り上げられますが、テストなど人目に付きにくい箇所にもこれだけ多くのレギュレーションが定められています。
今回ご紹介したものの多くは公平性を保つために作られたものですが、こうした決まりがあってもチームはライバルを出し抜く方法を考えているのです。
しかし、このレギュレーションがF1の魅力を失わせているという声があることも事実で、近年はシーズン中における勢力図の変化が起こりにくい傾向にあります。
近年はコストダウンに力を注いだあまり、F1のエンターテイメント性が損なわれているという意見も多いですが、今年からF1の運営を統括するリバティメディアが、ファンに対するサービスを向上させようとの取り組みを起こしているので、何か改善されるかもしれません。
こうしたレギュレーションにも彼らのそういった思想が盛り込まれ、F1でもこれまで以上に激しい開発競争が見られる日も近いのではないのでしょうか。
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