タイヤの性能を限界まで引き出そうとするモータースポーツの場合、予想できない様々なトラブルが起こることがあります。何故なら、レースで使用されるタイヤには、市販車のものと比べて高温で激しい負荷がかかります。すると、街中ではあまり見かけない現象が起こってしまうのです。では、それらがどのようにして引き起こされるのかご存知でしょうか。今回はレース中継などで耳にする、タイヤに関する用語についてご紹介していきます。
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レーシングカーのタイヤには様々な現象が起こる
普段レースを見た事がない方の場合、タイヤに起こるトラブルと言えば真っ先に思い浮かぶのがパンク(パンクチャー)ではないでしょうか。
あまり車に興味のない方でもタイヤの表面はゴムで出来ていて、その内部に空気が充填されているという構造はご存知かと思います。
しかし、高速でサーキットを走行するレーシングカーのタイヤには激しい負荷がかかるだけでなく、トップカテゴリーにおいてはタイヤの表面温度が100℃を超えることも珍しくありません。
そのため、街中ではあまり見かけない現象が引き起こされることもあり、その原因や症状は様々なものがあるのです。
ではレーシングカーのタイヤには、一体どのような現象が起こるのでしょうか?
早速、レース中継でもよく耳にする6つの単語を集めてみました。
タイヤの性能劣化を表す”デグラデーション”
ます最初にご紹介するのは、レース中継などでも頻繁に耳にするデグラデーションです。
このデグラデーションは直訳すると退化という意味で、タイヤについて語られる場合はタイヤの性能低下の事を示しています。
略してデグと呼ばたりすることもありますが、これはタイヤがタレるという表現と同じ意味に当たります。
タイヤは新品の状態の時が最も高い性能を発揮でき、走行距離を重ねることによって徐々に劣化していくのです。
この性能劣化は市販車用のタイヤや、さらに厳密に言えばシティサイクルといった自転車のタイヤでも同じ現象が起こっているのですが、レースで使用されるタイヤは耐久性よりも短い距離を速く走ることを重視しているため、その劣化の度合いが顕著現れる事に。
また、レース用のタイヤは温度や負荷に対する反応が敏感なので、このデグラデーションはドライバーや路面のコンディションなどによって大きく差が出ます。
そのため、デグラデーションの影響をいかに軽減しながら走行するかという点はドライバーにとっては腕の見せ所であり、それが得意な選手は、タイヤの使い方が上手いと評価される事もしばしば。
この他にも温度による性能低下を熱ダレと言うこともありますが、これはサーマルデグラデーションという言い方に置き換えることができ、幅広いシーンでこの言葉が用いられています。
タイヤの表面がささくれてしまう”グレイニング”
グレイニングとはタイヤの表面のゴムがささくれて、グリップ力を大きく低下させてしまう症状の事を指します。
本来レーシングカーのタイヤは路面との摩擦によって発熱し、まるでチューインガムのように表面のゴムが粘着性を持ち、グリップ力を高めるという仕組みになっています。
しかし、タイヤが性能を発揮できる適正温度に達する前に激しい負荷をかけると、ゴムは溶けずに表面が削られて均一に路面と触れられなくなってしまうのです。
するとゴムは粘着性が不足するので、まるで消しゴムのように表面が削られてしまいグリップ力が低下。
その結果、思うようにペースを上げられなくなってしまいます。
しかし、このグレイニングは走行を続けることによって表面のゴムが適正温度に到達し融解を始めると、その症状が回復することもあり、早急にタイヤ交換を行う必要性はそれほど高くありません。
これを引き起こさないためにドライバーは、温度が上がり切るまでタイヤに負荷をかけないように走行するなど、グレイニングが発生しないように運転方法にも工夫を加えています。
足と同じようにタイヤにも水ぶくれが出来る”ブリスター”
続いてはグレイニングと同様に温度が原因となって発生する症状、ブリスターについてご紹介したいと思います。
グレイニングはタイヤが適正温度より低い時に発生しやすい事に対し、このブリスターはタイヤが高温の時に発生しやすいことが特徴です。
タイヤの温度が上がり過ぎることによってタイヤ内部で沸騰が起こり、表面に気泡(ブリスター)が出来てしまうのです。
ブリスターとは直訳すると水ぶくれという意味で、みなさんも長い距離を歩いた時に足に水ぶくれが出来てしまったという経験があるのではないでしょうか。
実はあの足に出来る水ぶくれも靴などとの摩擦により火傷を負った状態で、タイヤも路面と激しい摩擦が起こることで人間の足と同様の症状が起きてしまうのです。
タイヤの一部が平坦になる”フラットスポット”
続いてはタイヤの一部が削り取られることによって発生する、フラットスポットについて見ていきましょう。
このフラットスポットは直訳すると平坦な所という意味で、タイヤの一部が平坦になってしまった状態の事を指します。
これは主にブレーキングの際などでタイヤをロックさせてしまうのが原因となっており、タイヤが回転していない状態でマシンを滑らせてしまうと、ゴムの一部分だけが削り取られてしまうのです。
すると、ゴムが削り取られた部分は丸みが無くなり、振動が発生するなどといった不具合が起こってしまう事に。
この振動はサスペンションなどの足回りに悪影響を与えるだけでなく、タイヤ本来の形状が変化してしまうためグリップ力の低下にも繋がります。
また、このフラットスポットが出来ている所と同じ位置で再度タイヤがロックしやすくなり、ブレーキの操作性にも大きな影響を及ぼすのです。
2005年のF1ヨーロッパGPでは、このフラットスポットが原因となって大きな事故が発生!
そのレースでトップを快走していたキミ・ライコネンはレース中盤にタイヤをロックさせ、フラットスポットを作ってしまいました。
その後、この年はタイヤ交換が禁止だったこともあり症状は徐々に悪化していきます。
そしてフラットスポットが原因となって発生した振動によりサスペンションが突如破損し、残りわずか1周というところでリタイアを余儀なくされました。
徐々に空気圧が抜けていく”スローパンクチャー”
続いては徐々にタイヤの空気圧が抜けてしまう、スローパンクチャーについてご紹介します。
パンクチャーとはご存知の通りパンクの事であり、それにスロー(ゆっくり)という意味が合わさり、徐々にタイヤの空気圧が低下してしまう症状の事。
発症の原因はパンクと同様で破片を踏んだり、タイヤが他の物体に接触することによって引き起こされますが、このスローパンクチャーの場合は第三者の目線からは分かりにくいという特徴があります。
通常のパンクであればタイヤがしぼんでいることにすぐに気づくことが出来ますが、スローパンクチャーはまだタイヤ内部に空気が残っているので、見た目には大きな変化が起こりにくいのです。
しかし、通常の状態と比べグリップ力が大幅に低下することからドライバーはすぐに異変に気付く事も多く、エンジニアもマシンに搭載されているセンサーから送られてくるデータを基にスローパンクチャーが起こっているかどうかを判断し、タイヤ交換などその後の処置を検討します。
1周程度の距離ならば無事にピットまで戻れるケースも多いのですが、この症状が出てしまったタイヤで長い距離を走ると突如バーストする恐れもあり、危険なアクシデントに結びついてしまうこともある、危険な現象でもあるのです。
突然タイヤが破裂する”バースト”
スローパンクチャーに続いて、普段の生活でも引き起こされる可能性があるアクシデントがバーストです。
バーストとはタイヤが突如破裂することを指し、この現象が起こった時点で非常に危険な状態にあると言えるでしょう。
このバーストが起こる要因は非常に多く、タイヤに極度の負荷がかかることやパンクと同じように物を踏みつけてしまう以外にも、先述のブリスターやフラットスポットも症状の引き金になることもあります。
この症状が起こるとすぐさまピットへ戻りタイヤを交換する必要がありますが、高速域でバーストに見舞われるとマシンが突然制御不能に陥り大きなクラッシュに結びつくことも少なくありません。
また、高速でタイヤが破裂することによってタイヤ周辺のパーツにダメージが及んでしまうこともあり、クラッシュを免れたとしてもマシンに痛手を負ってしまうことも多々。
近年のF1ではチームが故意にタイヤの内圧を下げることによって、ゴム部分のたわみが大きくなり、バーストしてしまうというケースも見られます。
それを象徴するのが2013年のF1イギリスGPであり、1つのレースの間に計5名ものドライバーがバーストに見舞われました。
原因は、F1にタイヤを供給しているピレリが推奨する空気圧を守らなかった為という意見もありましたが、チーム側は少しでもマシンのグリップ力を高めるために内圧を下げてレースに臨んだのです。
幸い大事故には繋がりませんでしたが、各方面から安全性に対する疑問が投げかけられ、一時はF1で話題に上がることも多い言葉として頻繁に取りざたされました。
まとめ
レーシングカーの開発において「ゴムは生き物だ。」という意見を持つ人もいますが、タイヤの特性を理解することは他のパーツに比べて難しいと考えられています。
例えば、今回紹介させて頂いたブリスターは人間の足に出来る水ぶくれと似た症状であり、それを知ると開発者がそういった持論を展開するのも頷けるのではないでしょうか。
また、タイヤメーカーがレースに参戦することは性能面の開発を進めるだけでなく、安全性の確立というテーマにも大きく結びついています。
現在、自動車レースではタイヤに様々な現象やトラブルが起きるのを目の当たりにすることも多いですが、こうした経験を経てモータースポーツでもタイヤの安全性が確立されていくのではないでしょうか。
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