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80年代に栄華を極めたグループB以降、荒れた公道を走るラリー競技において勝つ為の必須条件ともなった4WD&ターボエンジンというパッケージ。それは現在のWRCでも変わらぬ鉄則であり、それ以外のマシンがトップカテゴリーで勝利を収めるというのは非現実的な話になってきました。しかし、
90年代中盤に突如として登場した
「F2キットカー」は、
ターマック(舗装路)のみにおいて2WD+自然吸気エンジンのマシンが4WDターボ勢を打ち負かし、フランスを中心に当時のラリー界を熱狂の渦へと巻き込みました。

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F2キットカーとは?

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1980年代にモンスター級のマシンによる戦いで人気を博したグループBも、行き過ぎた開発競争の末にもはや人間の手に負えないレベルにまで速さを増してしまい、悲しい事故が多発。
それを憂慮したFIA(世界自動車連盟)は、安全性向上と開発費抑制を狙ってより市販車に近いグループA規定を1987年より導入します。
しかし、それも数年後にはグループBマシンを凌ぐ速さにまで高度化してしまい、さらにはグループBよりも格段に厳しくなったベース車両の最低生産台数(当初5000台)がハードルとなって参戦メーカーが減少。
特に4WDターボの市販車を持たないフランス勢がこれに反発し、大きな市場を持たないメーカーでも比較的安価に参戦できる新たなパッケージを提案します。
これこそが今回ご紹介するF2キットカー構想なのです。
どんなメーカーでも持っている自然吸気の2輪駆動車(最低生産台数の規定有り)をベースとし、エンジンは2000ccを上限にボアアップ可能で、ボディー幅はノーマル比プラス140mmまで拡幅できる等、純粋なグループA規定よりも改造範囲が広く設定されました。
WRカーよりもワイドなトレッドと、ハイレベルなチューンが施された自然吸気エンジンの組み合わせは4WDターボ勢を圧倒するコーナリングスピードをマシンに与え、ターマックイベント限定の刹那的な速さにラリーファンは熱狂しました。
いずれは4WDターボ勢に取って代わってWRCをリードする存在となるはずのF2キットカーでしたが、それを推進するにあたって当事者の足並みが揃わず、結局FIAは4WD版キットカーであるWRカー規定の導入を決定。
こうしてF2キットカーは私たちに強烈な記憶のみを残して、表舞台から姿を消したのでした。
Peugeot 306Maxi

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F2キットカーを代表するフランスの獅子プジョー306Maxi。
ベースとなったのはピニンファリーナデザインによる美しいコンパクトハッチ「306シリーズ」です。
当初は7500回転で250馬力程度を発生するグループA仕様の2リッター直列4気筒エンジンを搭載。
F2キットカーはリストリクターの装着義務がなかったため、F1やスーパーツーリングの技術を応用して驚くべき進化を果たします。
登場から数年後にはレブリミットは9600rpm、一説によると最高馬力は340馬力にも達したと言われています。
この頃になると高回転域をきっちり使い切るためにクロスレシオ化されたXトラック製7速シーケンシャルミッションを搭載し、960kgという軽量な車体はロケットのように山道を加速していきました。
主なドライバーはフランソワ・デルクール選手とジル・パニッツィ選手。
電光石火のドライビングによって306MaxiのWRCデビュー戦となった1996年モンテカルロでいきなり総合2位を獲得。
主戦場としたフランス国内選手権では1996年・1997年にチャンピオンに輝いています。
Citroen Xsara Kit Car

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後発のシトロエンが世に送り出した最強最速のF2マシン、クサラ キットカー。
前出の306Maxiと同じプラットフォームとエンジンを持ち、元々は兄弟車の関係です。
マシンを手掛けたのは、以前にプジョー205T16を開発した一員であり、後にクサラWRCの開発にも携わるジャン–クロード・ボカール氏。
ラムエアーを取り込むためにエンジンを前方吸気・後方排気レイアウトとし、アクティブデフで完全武装。
グラマラスなフェンダーに収まったワイドな18インチタイヤで路面を確実捉えながら疾走する姿が印象的です。
エースドライバーはフランス人のフィリップ・ブガルスキー選手。
1998年に登場したクサラ キットカーは、翌年のWRCで2連勝の快挙を達成!
フランス国内選手権でも1998年・1999年を連覇しています。
シトロエンはプジョーが果たすことの出来なかったF2キットカーによるWRCでの勝利を早々に達成したわけですが、これが引き金となってFIAはキットカーの性能調整に踏み出す事となり、WRカー隆盛の時代がやってくるのです。
代表格を紹介しましたが、まだまだ登場するF2キットカー。
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