1980年代後半、多くのライダーが夢中になったのはレーサーレプリカバイクでした。そんな速さを求められるバイクが主流の中、カワサキはゼファー400を発表。空冷4発エンジンを積んだゼファーは、時代錯誤とも言えるオーソドックスなネイキッドバイクでした。しかし、レーサーレプリカブームの終焉と同時に、ゼファーは多くのライダーに支持されていくことになります。そして、ゼファー400を皮切りに排気量と魅力を増して、ゼファー750、ゼファー1100が後に登場し、ゼファーシリーズのバイクは生産終了までの長い間、ネイキッドバイクのブームを牽引する存在となったのです。
カワサキの空冷4発エンジンと生産背景
冒頭でも述べたようにゼファーが発売された時代は、レーサーレプリカが話題の中心でした。
しかし何故、ゼファーは多くのライダーの心を掴んだのか。
そこには変わらない、オートバイらしい魅力があるからではないでしょうか。
今でこそ水冷エンジンやインジェクションのバイクが主流ですが、当時のバイクの基本性能は空冷エンジンとキャブレターといったものが定番。
確かに性能の面で見れば、水冷エンジンの冷却機能やインジェクションの燃料制御機能には見劣りします。
しかし、逆に言うと現行のバイクにはあまり見られない、空冷フィンの造形を特徴としたエンジンや、バイクからのフィーリングがより直感的に伝わるキャブレターならではの魅力が挙げられるのです。
ところでゼファーという名前の由来をご存知でしょうか?
『ZEPHYR』はギリシャ神話の西風神を指し、『優しい風、そよ風』を意味する言葉です。
カワサキは『バイク業界に新しい風が吹くように』という意味を込めて『ZEPHYR』という名を名付けました。
しかし『ZEPHYR』の商標名は、既にアメリカのフォード・モーター社が登録済。
そこで、カワサキは商標登録の使用権を交渉し、『ZEPHYR』と名を付けられることに。
そんな名前からも、カワサキが『ZEPHYR』にかける想いの熱さが窺える渾身の1台として、産声をあげたのです。
ゼファーシリーズ
ゼファー400
ネイキッドバイクブームの幕開けは、ゼファー400から始まりました。
1989年から1995年まで生産され、現行ネイキッドバイクの筆頭格であるホンダのCB400SFよりも早く誕生し、ネイキッドバイクのジャンルを確立した存在。
それは、メーカーが期待した以上の売れ行きで、当時経営難だったカワサキはゼファー400をきっかけに、ゼファーを排気量別にシリーズ化することに成功。
特別に優れた特徴があるわけではありませんでしたが、多くのライダーの心を惹きつけた一番の要因は、オートバイらしさの原点回帰という点に尽きるのではないでしょうか。
ゼファーχ(カイ)
ゼファー400の後を受け継ぎ、1996年から生産をスタートしたゼファーX(カイ)。
ゼファー400の登場以降、各メーカーは性能を競い合うように、ネイキッドバイクを次々に発表し、バイクブームは新たな時代に突入します。
そして、ゼファー400は更なる性能の高さが求められ、ゼファーχが開発されました。
その見た目は先代のゼファー400とよく似ており、外観の大きな変更点はありませんでしたが、中身はフルモデルチェンジとも言えるもの。
最高出力は46馬力から53馬力に、最大トルクは3.1kgmから3.6kgmに向上。
最大の変更点は、パワーユニットが2バルブから4バルブへ切り替えられた事で、他にもピストンの軽量化や、キャブレターにはスロットルポジションのセンサーが付け加えられました。
残念ながら2008年に排気量規制で生産終了となりますが、最後まで生産されたゼファーシリーズの一台です。
ゼファー750
1991年には『Z2の再来』と言われた、ゼファー750が登場します。
丸みを帯びたタンクやテールのシルエットは、ゼファーシリーズの中で最もZ2を彷彿とさせるデザイン。
Z650のエンジンをベースに作られ、Z1やZ2が生産されていた当時のコンセプトである『Zapper』の色合いを受け継ぐ一台で、ナナハンと呼ばれるカテゴリーの中で、ひと昔前にバイクに乗っていたリターンライダー達からも多くの人気を集めました。
また、ゼファー750のZ2カスタムは定番で、パーツも数多く流通しています。
惜しくも2007年に排ガス規制の影響で生産終了となりますが、今でもその人気は健在!生産終了後も高い人気を誇るモデルです。
ゼファー1100
ゼファーシリーズの中で最大排気量となるゼファー1100は、シリーズの中では一番遅い1992年から販売が開始されました。
そんなゼファー1100誕生のバックグラウンドには、1990年に750cc以上のバイクの自主規制が撤廃されたことが関係しています。
2007年の生産終了まで大きくモデルチェンジした点はなく、騒音規制などに対応するといった点のみ。
車体重量が240kg超で見た目も大柄でしたが、車体作りのバランスの良さからワインディング時の走りにおいても、重量感を強く感じさせることは無く、その快適な乗り味はゼファー1100のポテンシャルの高さを誇示しています。
ゼファーの中古車市場
ゼファーシリーズは空冷4発のエンジンを載せたバイクとして、今後希少性が高まっていくと思われます。
ゼファー400の生産台数は約8万台、改良版のゼファーχは約2万台強。
また、状態のいい車体のたま数がかなり減っている事もあって人気沸騰中のゼファーχには、なんと約130万円もの値が付く事も!!
そんな400ccクラスのこの二台は、当時の新車価格である50~60万円くらいが中古車相場。
ゼファー750、ゼファー1100は特にリターンライダーからの需要が強く、中古車の相場は100万円前後で、当時の販売台数はそれぞれ約2万台ほどとなっています。
まとめ
ネイキッドバイクの良さを再認識させてくれ、ロングセラーとなったゼファーシリーズは、今後バイクに乗る世代にとって、良き旧車として位置づけられていくシリーズである事は間違いありません。
1980年代当時の人気車種はレーサーレプリカ。
そして、現在は技術が向上したモデルが豊富ラインナップされています。
しかし、生産終了から10年以上経ったいま、空冷4発のゼファーシリーズは中古車市場でも価値を増していくことでしょう。
当時の面影を強くのこすゼファーシリーズは、古いバイク好きなら一度は乗りたい1台です。
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