ドゥカティから世に送り出されたMotoGPマシンレプリカ デスモセディチRRは、公道でMotoGPマシンを楽しめる革新的モデルです。すでに10年前のモデルになるため、現行のスーパースポーツモデルと比較すると、スペックや性能で劣る部分もありますが、MotoGPクラス黎明期にGPマシンと一般ライダーを近づけた歴史的モデルである事は言うまでもありません。
掲載日:2019.3/19
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一般のライダーには乗りこなせない?
レース好きやスーパースポーツバイク好きのライダーなら、MotoGPマシンに一度で良いから乗ってみたいと思った事があると思います。
かつてMotoGPが2スト500ccエンジンだった時代、GPマシンは人間が操作できる限界を超えてると言われており、乗る事ができるのは輝かしいレースキャリアを持つ一握りのライダーだけ。
現在は4ストローク990ccになり、電子制御デバイスも搭載されたとはいえ、アクセルを開ければ常にフロントタイヤはリフトし、たちまち時速300km/hに達します。
普段大型バイクを乗っているライダーだとしても、さすがにMotoGPマシンに跨ることは躊躇うことでしょう。
しかし、2007年にドゥカティは世界中のライダーに挑戦状を叩きつけるかのように、MotoGPレプリカモデル『デスモセディチRR』を発表し、世界中のライダーを驚愕させました。
デスモセディチRRは公道走行可能なモデルでありながら200馬力(欧州仕様)を発生するモンスターマシンで、当時の市販バイクの中で最もパワーがありました。
まさにワークスマシンにそのままナンバーを付けたようなデスモセディチRRは1500台限定で発売され、購入できた幸運なライダーの中でも、そのスペックをフルに解放させることができた人はわずかでしょう。
ドゥカティ・デスモセディチRRとは
ドゥカティは、2004年5月17~23日にミサノサーキットで行われたワールド ドゥカティ ウィークの中で、MotoGPマシンの公道走行可能モデルを発売することを公表。
2006年6月に1,500台限定で、予約の受付を開始しました。
予約の確定にはドゥカティ999Rオーナーが優先され、北米で72,500ドル、欧州で50,000ユーロ、日本円にして866万2,500円で販売されました。
2007年10月から2008年12月の間にだいたい1日1台のペースで生産され、2008年1月からデリバリーを開始。
車体の3年保証以外に、レース用ECU、スリップオンマフラー、レース用エキゾーストパイプ、レース用カウルといったレースキットパーツも付属されています。
18戦中10勝を達成!国産メーカーを驚愕させたデスモセディチGP
デスモセディチRRのベースとなったドゥカティのMotoGPワークスマシン『デスモセディチGP』は、ドゥカティがMotoGPへの参戦を開始と共に投入され、デビュー戦である’03年のシーズン開幕戦では、イタリア人ライダー ロリス・カピロッシにより、3位表彰台を獲得。
この時から日本メーカーを脅かす存在になっています。
また、’03年シーズンは2ストローク500ccマシンと4ストローク990ccマシンの混走で行われ、クラス名を『500ccクラス』から『MotoGPクラス』へと変更された年。
この年ホンダが投入したRC211Vがシーズン全16戦中15勝を挙げ、RC211V以外で唯一優勝できたのが、ドゥカティ・デスモセディチでした。
そんなデスモセディチGPの最大の武器はエンジンパワーで、イタリア ムジェロサーキットの直線で時速357キロを記録。
デスモセディチのエンジンはWSB用のLツインエンジンを4気筒へ転用したシンプルなものでしたが、WSBで無敵と言われた916シリーズを生み出したドゥカティだけに、その技術は日本メーカーがひしめくMotoGPクラスでも十分通用するもので、乗ることさえ末恐ろしいモンスターマシン デスモセディチGPをロリス・カピロッシ、トロイ・ベイリスは見事に手なずけていました。
そして07年シーズンは、その年にドゥカティワークスチームに加入したケーシー・ストーナーがシーズン18戦中10勝を上げ、2位のダ二・ペドロサと105ポイント差の圧倒的な強さを見せ、シリーズタイトルを獲得。
ストーナーはドゥカティワークスで過ごした4年間に23勝を挙げ、ドゥカティを世界最速バイクメーカーに押し上げ、彼ら3名の手によって熟成されたデスモセディチGPをベースにデスモセディチRRは誕生したのです。
電子制御は皆無!ライダーを挑発するじゃじゃ馬バイク
デスモセディチRRは、’06年度のマシン『デスモセディチGP6』のエンジンやフレームワークまでがそのまま踏襲されています。
具体的には、エンジンのボア×ストローク、排気量、ドゥカティ独自のデスモドロミックシステムまでGP6と同等となっています。
さらに搭載されたスチールトラスフレームは驚くほどコンパクトで、バイクの骨格というよりはエンジンの上にただ載っている骨の一部のよう。
そこにエンジン自体が強力なメンバーになり、スイングアームを取り付けるスイングアームピボットをエンジンのミッション部分横に設置。
カーボン製シートフレームはシリンダーヘッドの側面に装着されているため、すべての骨格を繋げる役割は、エンジン自体が果たしています。
これは、スーパースポーツバイクに当然のように採用されてきたアルミ製ツインスパーフレームを見慣れた我々にとって、「こんなので本当に大丈夫なの?」と心配になってしまうほどのシンプルさです。
しかしその性能はデスモセディッチGP6が証明済み。
実際にこのフレームレイアウトは、後のドゥカティ製スーパースポーツバイクのスタンダードとなっていきました。
そしてデスモセディチRR最大のトピックは、何と言ってもトラクションコントロールやABSシステムなどの電子制御デバイスがほとんど装備されていない、硬派なモデルである点でしょう。
アクセルを開ければ、200馬力を発生させるL型4気筒エンジンがうねりを上げ、ラフに加速しようものならフロントタイヤがリフト。
最悪の場合、ブレーキング時にリアタイヤがスリップし、ハイサイドを起こしてしまいます。
現行モデルの大型スーパースポーツバイクは、200馬力を超えるエンジンを搭載していても、さまざまな電子制御が介入してくれるので、一般ライダーでも扱いやすいセッティングがとなっています。
その真逆を行くデスモセディチRRを全開にできるのは、腕に自信のある勇敢なライダーのみでした。
ドゥカティ・デスモセディチRRのスペック
デスモセディチRR | ||
---|---|---|
全長×全高(mm) | 2,100×1,100 | |
ホイールベース(mm) | 1,430 | |
シート高(mm) | 830 | |
車重(kg) | 171 | |
タンク容量(リットル) | 15 | |
エンジン種類 | 水冷4ストロークL型4気筒 | |
バルブ形状 | 16バルブ デスモドロミック | |
総排気量(cc) | 989 | |
ボア×ストローク(mm) | 86×42.56 | |
圧縮比 | 13.5:1 | |
最高出力(kW[hp]/rpm) | 149[200]/13,800 | |
最大トルク(N・m[kg・m]/rpm) | 115.7[11.8]/10,500 | |
トランスミッション | 6速 | |
タイヤ | 前 | 120/70-17 |
後 | 200/55-16 |
まとめ
デスモセディチGPの登場からたった4年で、MotoGPマシンは、あまりに速くなりすぎてライダーにとって危険だと判断されます。
2007年シーズンから排気量を800ccまで引き下げられた過去があり、その後、電子制御デバイスの進化によりライダーにとって乗りやすい方向への開発が進んだため、2012年には再び1,000ccまで引き上げられました。
デスモセディチRRは、GPマシンが800ccになる前に開発されたモデルのため、990cc時代に登場した最後のモンスターマシンといえます。
現在、量産されているスーパースポーツバイクに対し、一部のライダーからは「バイクを操っているというよりバイクに乗せられている。」と言われる事があり、さまざまな電子制御が介入してライダーの負担を軽減しています。
そのため、80年90年代に生産されていたモンスターバイクを操る感覚は薄れているのは確かですが、そんな中、デスモセディチRRはドゥカティがライダー達への挑戦状を叩き付けた1台だったのかもしれません。
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