一昔前は、ダウンサイジングターボが流行り、小排気量ながらターボーでパワフルになったエンジンが主流となっていましたが、数年前から極端に排気量を下げることなく適正な排気量でパワーと燃費を向上させる試みがとられています。そのため、ダウンサイジングターボと対照的にライトサイジングやアップサイジングというコンセプトが、現在のエンジン開発のトレンドになっています。

875cc直列2気筒ターボエンジンを搭載しパワーと燃費を両立したフィアット500 / © FCA JAPAN LTD.

ダウンサイジングターボはもう時代遅れ?

メーカー純正にも採用されている最大手メーカー『ギャレット』のタービン / © 2020 GARRETT MOTION INC.

ダウンサイジングターボは、近年のエンジン設計において主流となっていました。

しかし現在は、これまでコンパクトにしてきたエンジンの排気量を上げ、燃費とパワーを両立できるよう排気量を適正化する改善が行われています。

ターボをそのまま残し、排気量を大きくして燃費を改善するというのは、いったいどういったことなのでしょうか。

ダウンサイジングターボとは

ダウンサイジングターボの優位性を広めたVW・1.4リッターTSIエンジン / © 2020 Volkswagen of America, Inc.

ダウンサイジングターボとは、その名の通り排気量や気筒数を減らしたパワーの低下をターボで補うエンジン開発の試みであり、『ダウンサイジングターボコンセプト』とも呼ばれます。

ターボ車は燃費悪化につながるとは限らない

2JZRB26など代表的なハイパワーエンジンには、パワーアップの為のデバイスとしてターボが装着されます。

そのため、ターボ装着車はパワーが稼げる事と引き換えに、燃費が悪くなるという考えが一般的でした。

ターボとは、エンジンの排気を利用して吸気する空気量を増やすための、タービンの事を示します。

正確に言えば、排気の熱エネルギーを使用してコンプレッサーを駆動させ、吸気の圧力を高めて燃料を効率的に燃やすことですが、NAエンジン(自然吸気エンジン)より燃費がわるくなりがちです。

しかし、これまで捨てていた熱エネルギーを吸気のために再利用することから、エンジン全体の効率は向上し、排気量を下げたとしても排気量の大きなNAエンジンと同出力/同馬力を発揮することが可能となります。

ダウンサイジングターボは欧州車から広まってきた

ダウンサイジングターボの優位性を広めたのは、VW(フォルクスワーゲン)です。

2007年12月に発売されたゴルフGT TSIは、1.4L TSIエンジンを採用し、排気量を1.4リッターまで下げた分、スーパーチャージャーとターボチャージャーの2つの過給機を搭載し、2.0L・NAエンジン並の170馬力を発揮させ、従来モデルより2.0km/Lの燃費値の向上を果たしました。

また、セダンモデルのパサートにコンパクトカーぐらいの1.4L・TSIエンジンを搭載し、Dセグメント並みの車格でありながら18.4km/Lの燃費値と2.0L並みのパワーを実現させたことで自動車業界を驚かせ、ダウンサイジングターボコンセプトが一気に広まったのです。

日本では、モーターとバッテリーを用いたハイブリッド技術がパワーと燃費を向上させるデバイスとして定番でしたが、ハイブリッド技術の最先端をいくトヨタもガソリン車モデルのパワーと低燃費を両立させるためにターボエンジン化されるモデルが増えました。

ダウンサイジングターボはエンジンへの負荷が大きい

日本一売れている軽自動車はハイトールワゴンのホンダ・N-BOX / © Honda Motor Co., Ltd.

排気量を小さくすることで低燃費化させ、ターボでパワーを補うことは合理的ではありますが、エンジンへの負担は大排気量のNAよりも大きくなります。

軽自動車で例えると、660ccと限られた排気量で高速道路を普通車と同じぐらいの速度で巡行すると、エンジンの回転数は普通車よりも高回転でないといけません。

さらに軽自動車の標準とされるトールワゴンや最近流行りのハイトールワゴンであれば、限られた車格で広々とした車内空間を作り出していますが、衝突安全性のためにエンジンルーム内に、ある程度のクラッシュタブルゾーンを確保しなければなりません。

そのため、軽自動車のエンジンは年々小さくなり、パーツひとつひとつもミニマムになっています。

その小さくなったエンジンをターボ化させれば64馬力まで確保できますが、それでも乗用車よりエンジンの回転数を高めて走行しなければならないので、エンジンへの負担は大きく、しかもパーツが小さくなれば軟弱になってしまいます。

となれば、軽自動車に限らず排気量を小さくしてエンジンをコンパクトにすれば低燃費化とターボでパワーも稼げますが、走行時のエンジンへの負担は排気量の大きなエンジンより増えてしまいます。

よって、ダウンサイジング化されたエンジンは繊細であり、オイル交換やその他消耗品の交換はマメに行う必要があるねです。

今の主流はライトサイジングやアップサイジング

マツダ・SKYACTIV-G -エンジン / © Mazda Motor Corporation.

昔よりもターボ技術が向上し、ダウンサイジングターボを搭載すれば低燃費になることが当たり前と思われていましたが、ダウンサイジングターボに対してネガティブなのがマツダでした。

もともとマツダのエンジニアは、ダウンサイジングターボは実燃費が悪くなりがちでコストも高くなることから、その採用には消極的で、排気量を適正化させた上で、パワーと燃費のアップを実現してきました。

もちろん、ディーゼルの『SKYACTIVE-D』にはターボが搭載されますが、ガソリンエンジンの『SKYACTIVE-G』は14.0の高圧縮化を実現し、燃費と低中速トルクが従来比15%。

ガソリン車のラインナップでは、『CX-5・25T』、『マツダ6・25T S Package』、 『CX-8・25T Exclusive Mode』にターボが搭載されますが、それ以外ではNAエンジンです。

また、2018年8月にはマツダ2(旧名:デミオ)の排気量が1.3Lから1.5Lへアップされましたが、これによりNAエンジンの排気量が適正化され、SKYACTIVEテクノロジーとの組み合わせにより、馬力とトルク、そして燃費性能を向上させました。

ダウンサイジングターボに頼らず、最適な排気量への改良設計により、NAエンジンそのもののポテンシャルを引き上げることをマツダは、排気量を適正化させる『ライトサイジング』または排気量をアップさせる『アップサイジング』と呼んでいます。

まとめ

SKYACTIV-X ガソリンエンジン / © Mazda Motor Corporation.

ライトサイジングやアップサイジングは、マツダだけでなく他の国産メーカーや欧州メーカーでも進められています。

ダウンサイジングターボを広めたVWは、2019年10月に発表した8世代モデルの新型ゴルフに、CT(気筒休止)、ミラーサイクル、VTGターボを搭載した1.5L直列4気筒エンジンを搭載し、従来の1.4Lから排気量を100ccアップさせました。

それにより、燃費効率を最大で17%向上させることができ、さらに燃費を向上させるために1.5Lエンジンとモーター&バッテリーを組み合わせたマイルドハイブリッド(eTSI)も設定しています。

また、日産の『VCターボエンジン』やマツダの『SKYACTIV-X』など、従来の排気量のまま性能を引き上げる技術も進化し、ダウンサイジングターボは今後徐々に衰退することが予想されているのです。

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