チューニングは車が本来持つ性能を引き出したり、それ以上のものを発揮するためのものです。しかし「本来持つ性能を低下させるため」のチューンとして「デチューン」も存在します。このデチューンは、何故必要なのでしょうか。
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デチューンとは
「デチューン」とは、ベース車両の性能を低下させる事を目的としたチューニングです。
たとえばレース用エンジンは騒音が大きく、出力の特性も普通のものと比べて扱いにくいのですが、これを公道走行に適したものにするために、性能を落とす場合があります。
あくまで一例ですが、「日産 スカイライン2000GT-R」系列に搭載された、S20型エンジンがこれに該当します。
デチューンはおもに、「何らかの理由で性能を落とす必要がある」ときに行われるので、速さを求めるドライバーが自発的に行うことはあまりありません。
しかしモータースポーツの世界では、車両の性能を均衡化するために、参加車両に出力規制を課す場合があるので、そういったときはデチューンをして、規定範囲以内に出力を低下させます。
またこれと同様に、メーカーから販売される車に「馬力規制」が課された場合も、デチューンを行うことになるのです。
280馬力自主規制とデチューン
急速なモータリゼーションの波のしわ寄せは1980年代に到来し、交通事故での死亡者が遂には1万人を超えるようになりました。
この事態を重く受け止めた日本政府は『交通事故非常事態宣言』を発令し、運輸省(現・国土交通省)も日本自動車工業会を含む関係者に向けて、対応を迫ります。
その際に運輸省は各メーカーに、製造する車の自主的な”馬力規制”を要求。
メーカー各社は官庁の意向を汲み、馬力規制を実行することに。
そして1989年7月に日産が販売した『フェアレディZ Z32』の280馬力を上限とし、運輸省もこの値を越えた車を型式認定しなくなりました。
そのため、この”自主規制”は実質的には政府が規制をかけたに等しいのですが、これによって国産車の出力が280馬力を超える場合は、メーカー各社がデチューンを行い、本来の性能を落とすことが繰り返されるようになります。
280馬力規制の影響を受けた車達
前述の280馬力規制によって、各メーカーは本来300馬力を超える車の性能を低下させ、売り出さざるを得ませんでした。
では当時馬力規制を受けた車達は本来、どれだけの出力を発揮できたのでしょうか。
当時280馬力規制の影響を受けた国産車達は、輸出仕様車だと本来の出力のまま、海外で売られていました。
そして雑誌「ベストカー」の2002年12月26日号では、シャシーダイナモを用いて本来の馬力測定が行われています。
280馬力規制の影響を受けた車達と、その本来の出力を見ていきましょう。
日産 フェアレディZ Z32(カタログ馬力:280ps・推定馬力:300ps)
国産車で初めて、カタログの馬力が280psと発表された車です。
内部には3リッターのV型6気筒ツインターボVG30DETT型エンジンを搭載しており、北米仕様は300psで販売されていました。
もし馬力規制が掛かっていなければ、国内でもこの出力で販売されたと考えられます。
またこの車は馬力規制の上限値を作った車でもありますが、運輸省は本来もっと上限を低くしたかったようです。
日産 スカイライン GT-R R32(カタログ馬力:280ps・推定馬力:300ps)
R32型GT-Rに搭載された、2.6リッター直列6気筒ツインターボRB26DETT型エンジンは、元々グループA仕様で最大600psを発揮できるようになっていました。
市販車でも300psで販売する予定だったのですが、実際は本来の性能をわざと抑えて280psまで出力を封印。
しかしマフラーやエアクリーナーを交換するライトチューンでも、すぐにその封印を解放でき、これだけで300ps超えは当たり前でした。
RB26はチューニング次第で、最大1000psまで耐えられる国産初のエンジンとして今も語り継がれています。
日産 インフィニティQ45(カタログ馬力:280ps・推定馬力:300ps)
1989年11月に、トヨタのセルシオに対抗すべく誕生したのがQ45です。
中には4.5LのV型8気筒DOHC VH45DE型エンジンを載せ、NA車としてはホンダのNSXよりも先に280psを達成した車です。
日産は上述のZ32とR32、Q45を、「300馬力トリオ」として売り出そうとしていましたが、運輸省の規制を食らって3台全てが「280馬力トリオ」になってしまいました。
ユーノス コスモ(カタログ馬力:280ps・推定馬力:330ps)
3ローターの20Bロータリーエンジンを搭載し、280馬力の上限値にまで達したのが、マツダが売り出した「ユーノス コスモ」でした。
20B以外に、2ローターの13B型シーケンシャルツインターボを搭載したモデルもあり、こちらはカタログ馬力が230ps。
当時の「RX-7 FC3S型」が、GT-Xにマイナーチェンジしても最大出力205psだったことを考えると、マツダのコスモへの入れ込みようが分かるようですが、当初はこちらの20B型モデルは333馬力を想定して開発されたと言われています。
雑誌「ベストカー」誌上で、シャシーダイナモを使用して計測した推定馬力は、330ps。
規制の枠に押し込める必要があり、泣く泣く排気系統をデチューンしたようです。
ただし燃費が非常に悪く、渋滞した都市部では2km/リッターを下回ることもありました。
マツダ RX-7 FD3S型(カタログ馬力:280ps・推定馬力:310ps)
1991年に販売された「RX-7 FD3S型」には、元々3ローターを搭載する案があったようですが、「RX-7の良さが損なわれてしまう」という理由で2ローターを搭載。
フルモデルチェンジ直後は255psだったのが、1999年のバサーストRへのマイナーチェンジでようやく280psへと達します。
これも「ベストカー」誌上で、シャシーダイナモを使い計測した結果、本来は310psを発揮できる予定だったのが、規制の波を受け、280psに抑えられたと分かった1台です。
280馬力の規制撤廃とデチューン
2000年代に入り、日本国内に280馬力超えの輸入車が次々と入ってきたことを受け、遂に自動車工業会の申し入れによって国土交通省は規制を撤廃。
2004年に販売された「ホンダ レジェンド」は300馬力になりました。
現在のデチューンは、64馬力規制の掛かっている軽自動車やレース用のモデルをベースとした車などに対して行われ続けています。
まとめ
本来の性能を下げるために行われるデチューン。
その歴史を見ていくと、日本国内の自動車が受けた馬力規制の波に行き当たります。
もしデチューンされた車の出力を引き出したい場合は、先に述べたR32のようにライトチューンでも簡単に馬力が跳ね上がる車が良いかも知れません。
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