初代ランサーエボリューションは、モデルチェンジによりボディサイズが大型化したギャランVR-4にかわって急遽、WRCラリーのグループAベースモデルとして開発されて発売されました。しかし、実際のところコンパクトなボディにVR-4と同じエンジンを搭載したためフロントヘビーで曲がりにくい特性となってしまったのです。そこで、市販車としての性能を大幅に向上させてスポーツモデルとしての地位を確立させるために1994年1月にモデルチェンジを敢行。『ランサー・エボリューションⅡ』が発売されました。
ランサーの発展モデル‼ランサーエボリューション誕生
1980年代から90年代後半にかけての世界ラリー選手権は、FIA(国際自動車連盟)が定める車両規定の一つであるグループA(市販車ベース改造カテゴリー)がメインで開催されていました。
そして当時の三菱自動車は、1987年発売の6代目ギャランVR-4 グループA仕様でWRCに参戦を続けていて、1989年の1000湖ラリーではサファリラリー以来のWRC総合優勝を果たすなど輝かしい成績を残す事に成功しています。
しかし1992年のモデルチェンジにともない肥大化した3ナンバーボディに、新開発のV6エンジンを搭載し、従来とは違うコンセプトのより高級志向となってしまったギャランVR-4。
そこでコンパクトで4輪駆動車、なおかつリヤサス形状がラリーに向いている等の理由から、既に発売されていた5代目ランサー1800GSRの車体をベースに、6代目ギャランVR-4で熟成を重ねてきた4G63型2.0Lインタークーラーターボエンジンを搭載する形で次期WRCカーの開発が行われました。
そうして1992年10月、同じエンジン形式ながらもクランクやコンロッドのサイズを変更し、シリンダーヘッド、ピストンも改良されて従来のVR-4より10馬力アップの250馬力となった4G63を搭載。
次期ラリーカーべースモデルとなる、『ランサーエボリューション』がデビューしたのです。
そのボディにはスポット増しや補強パーツの追加が施され、アルミ製ボンネットでフロントの軽量化が図られるなど、細かなリファインが行われていました。
しかし、WRC参戦のために短時間で開発された為、排気量の大きなエンジンに換装したことによるフロントヘビーに加えて、駆動系や足回りのセッティング不足や強度不足からアンダーステア傾向が強く、『曲がらない』難しいクルマとして評価されることになってしまします。
そのため三菱にとって、WRCで勝つための新たな”改良モデル”の開発が急務となりました。
ランサーエボリューションⅡ誕生
1994年1月、初代エボリューションモデルを前面的に見直す勢いで『ランサー・エボリューションⅡ』は販売を開始されました。
当時、初代の発売から1年と数ヶ月という短期間ながら、三菱の開発チームにより問題点のあったアンダーステア傾向を打ち消す対策や、市販モデルとしての高性能さもこだわったクルマ造りが行われたのです。
サスペンションのパーツの材質を変更して、各パーツの剛生を大幅に向上。
さらにアームの形状を工夫することと取り付け部にも補強を入れるなどして、動きを確実にすることで走行性能を飛躍的にアップ。
ホイールベースを10mm、フロントトレッドを15mm初代モデルより長めに設定してロワアームの取り付け位置を変更。
スタビライザーの取り回しも見直すことによりフロントの接地感を高める事に成功して、曲がるクルマ造りを実現しました。
他にもリア側LSDを初代の2ウェイから機械式1.5ウェイに変更し、コーナー進入時の回頭性を高めるとともに、加速性能を向上するために1速、2速をローギヤード化したクロスレシオトランスミッションを採用。
タイヤサイズも205/60R15にサイズアップされて、コーナリングの限界性能をあげています。
また、グレードは初代ランサーエボリューションと同じく2種類設定されていて、装備の充実を図ったスタンダードモデル『GSR』と、ダートトライアルなど国内競技のベース車両として装備の簡素化による”70kgの軽量化”が図られたマニアックな『RS』が存在。
GSRグレードには、OZレーシング製の専用ホイールが装着され、空力対策としてフロントバンパー下部にチンスポイラーと、GTウイングとは別のリアトランクに沿ったエアロパーツも装着されて、初代モデルよりも見た目の迫力を増し、2代目は本当の意味での進化を遂げていました。
MOMOステに専用フルバケットシート
ランサーエボリューションⅡは、人とは違うコクピット願望をもっていた当時のドライバーを魅了するには十分なインテリアを備えていました。
中でも運転席のドアを開けると真っ先に目に飛び込んでくるのが、フロントバケットシートです。
表面が滑りにくい生地を採用したレカロ社製”SR-2型”のフルバケットシートが、運転席と助手席に装着されていて、強い横Gにも耐えうるしっかりとしたホールド性を実現。
また、ドライバーシートに腰掛けると、目の前にはMOMO社製コブラⅡステアリングが装着されており、イグニッションを回さずにしてWRCドライバー気分を味わえる限定モデルらしいチョイスがなされていました。
ランサーエボリューションⅡ・GSRスペック
車名・形式 | 三菱E-CE9A |
エンジン形式 | 4G63ターボ |
気筒配列 | 直列4気筒 |
ボア×ストローク | 85.0m×88.0mm |
排気量 | 1997cc |
最高出力 | 260ps/6000rpm |
最大トルク | 31.5kg-m/3000rpm |
燃料配給装置 | 電子制御燃料噴射(ECIマルチ) |
変速機形式 | 5速MT |
ステアリング形式 | ラック&ピニオン |
サスペンション形式フロント | マクファーソンストラット |
サスペンション形式リア | マルチリンク |
ブレーキ | F・ベンチレーテッドディスク/R・ディスク |
全長 | 4310mm |
全幅 | 1695mm |
全高 | 1420mm |
ホイールベース | 2510mm |
最低地上高 | 175mm |
車両重量 | 1250kg |
タイヤ | 205/60-15 |
まとめ
三菱の開発チームの努力により、市販モデルとしての性能を大幅に向上することに成功し、1995年WRC第2戦スウェディッシュ・ラリーにおいて、ランサー・エボリューションシリーズで見事初優勝を成し遂げたランエボⅡ。
限定モデルといいながらもGSRは、289万8000円という比較的求めやすい価格設定となっていた事も手伝って、当時のアマチュアドライバーや走り屋のハートを見事に射止め、5000台以上を販売するとともに、他のスポーツカー同様、アフターパーツメーカーのべース車両として人気を博す事となりました。
マフラー、車高調整キット、インタークーラー、高性能ブレーキパッドなどの一般的なアフターパーツで改良した4WD車のランエボⅡで、サーキットの走行会に出場すれば、FFのシビック、FR車のシルビアなどよりも速いラップタイムを刻むことが比較的容易だったのです。
しかし、そんなランエボⅡで唯一不安を感じさせたのが”ブレーキ性能”。
グラベル用ラリータイヤサイズが15インチまでであったこともあり、タイヤはそれ以上大型化されなかったため、ランサーエボリューションⅡのブレーキサイズ径も小さく、ターマックステージや、サーキットなどの高速ステージでは”キャパシティ不足”が否めませんでした。
そんな声が聞こえたかのようにランサーエボリューションはシリーズ化し、問題のブレーキなどを進化させながら、ランエボⅢ以降へとモデルチェンジしていく事になります。
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