ポルシェ911シリーズの3代目として1989年に登場したtype964。生産期間は1989年から1993年までのわずか5年となりましたが、デビュー時は4WDのカレラ4のみということでも話題を呼び、その後、RRのカレラ2、ターボそして3.6リッターエンジン搭載のカレラRSとバリエーションを広げていきました。また、
人気漫画『湾岸ミッドナイト』にも登場し、
ブラックバードの愛機としても知られています。
掲載日:2020/01/17
CONTENTS
ポルシェ911の系譜・初代ナローモデル
第三世代のtype964を知るために、まずはわかりやすくポルシェ911の歴史的背景から触れていきたいと思います。
まず、ポルシェ356の後継モデルとして、1963年に登場したのが『ナローモデル』と呼ばれている初代911です。
生産期間は1965年から1973年の9年間で、VWビートルベースのポルシェ356を踏襲するかたちで、RR(リアエンジン リアドライブ)レイアウトが採用されました。
しかし、エンジンを6気筒化したことにより極端なリヤヘビーが発生し、挙動が不安定なクルマへと変貌してしまいます。
この時から、ポルシェとRR特有のボディバランスとの苦闘が始まったのです。
信じられない話ですが、初期の911はフロントバンパーに鉛を貼り付けて重りとしてバランスを取り、後方に有るエンジンの重さと釣り合わせて走行安定性を確保。
1969年にはホイールベースを57mmを延長し、ジオメトリーの改善を図るマイナーチェンジを行ったり、エンジンのクランスケースにマグネシウム合金を使用して軽量化を図るなど、”リヤヘビー”傾向との闘いが続きます。
それでも、初代911のドライビングの限界領域で起こる『リバースステア』は一部のラリードライバーにしかコントロールは出来ず、一般ドライバーは限界手前でドライビングするしかないと言われるほどの難易度でした。
その後も初代ナローモデルは、前後のトレッド幅に変更を重ねたり、ホイールべースを再度見直すなど改良を続けながら進化し、最終的にはRRレイアウトとしても良い仕上がりに!!
そうして初代911の集大成として登場したのが、『ナナサンカレラ』と呼ばていれる1973年型 ポルシェ911カレラRS2.7です。
徹底的な軽量化が図られて車両重量わずか1075kgに抑えられたボディに、空冷2.4リッターエンジンをベースにボアアップが施され、2681ccまで排気量が高められたエンジンを搭載し、軽快な走りを実現。
大型化されたアンダースポイラー、エアダムやエンジンフード上の『ダックテール』と呼ばれるリアスポイラー、そして極太タイヤを装着するためのワイドなリアフェンダーは見事なまでにまとめられ、これぞ『ナローデザイン』と思わせる美しいスタイリングとなっています。
このように、RRというボディ設計のポルシェ哲学が集約されていたのが初代ナローモデルであり、試行錯誤からうまれた『ナナサンカレラ』は、現在まで続く911の原点といえる名車として語り継がれる事になりました。
ビックバンパー911・2代目ポルシェtype930
アメリカの衝突安全基準をクリアするために装着された5マイルバンパーが特徴的なデザインで、ビッグバンパーの愛称で親しまれる、ポルシェ911第二世代『type930』。
1974年に登場し、1989年までの長期に渡って生産された911の人気モデルです。
バンパーを取り巻くラバーとリアバンパーから飛び出しているオーバーライダー、モールディングをブラック基調で統一したことにより、ナローモデルより精悍で引き締まった雰囲気に。
エンジンの排気量は初期モデルの2.7リッターから大気汚染の問題の対策として厳しくなっていった排ガス規制に対応するために、3.0リッターそして3.2リッターへと次第に進化していきます。
そして1975年に、911の歴史で初めて登場したのが930”ターボモデル”です。
大きく張り出したリアのオーバーフェンダーの前側を、飛び石による傷防止のために貼り付けられた黒いストーンガードがより精悍さを増し、無骨ともいえるリアウイングと相まって、スーパーカーと呼ばれるにふさわしい雰囲気を醸し出しています。
しかし排ガス規制の影響で、77年のターボモデルではパワーダウンを余儀なくされる事に。
その後1988年にはオープンカーの911カブリオレが登場し、当時バブル期に突入していた日本の街にはオープンのtype930が走り出して、華やかさに色を添えました。
そんな北米の衝突安全基準、排ガス規制問題など周囲を取り巻く変化と闘いながら、当時の『スーパーカーブーム』により、日本でのポルシェ911の認知度を大きく上げた立役者ともいえるtype930。
メカニカルな部分では、アナログからデジタルへの転換期であったため、中途半端で少し荒さの残るスペックという印象が色濃い時代の一台といえるでしょう。
しかし、そんなtype930のドライビングシートに滑り込み、パワーステアリングが搭載されていない重いステアリングを握りしめ、伝統の空冷フラット6気筒エンジンを奏でてみると明らかに他の大衆車とは異なるフィーリングとその硬質な手応えに、誰もが感動!
乗る人の記憶に色濃く残る1台です。
4WDのポルシェ911・第三世代type964カレラ4誕生
ポルシェ911が誕生してから25年目を迎えた1989年に、はじめてのフルモデルチェンジが施されます。
そして、伝統のスタイリングを承継しながらも、その中身の80パーセント以上が改良を加えられて登場したのがtype964です。
その驚くべきポイントは、デビュー当時の設定が4WDを採用したカレラ4のみだったという点。
フルモデルチェンジを期に乗り換えを目論んでいたポルシェオーナーの中には、新型が4WD設定のみと聞いて購入を躊躇した者も多々。
しかし、ポルシェはかなり早い段階でリアエンジン・リアドライブと4WDの相性の良さを確信し、長年に渡り研究していたのです。
また、1946年にイタリアで設立されたメーカー”チシタリア”が、本格的なGPカーを製作したいという思いから、当時のポルシェ設計事務所を訪問。
この時、フェリーポルシェ率いる開発チームにより生み出されたのがチシタリア1.5リッターGPカー(ポルシェtype360)と呼ばれているレーシングマシンでした。
そしてポルシェは、1940年代後半という早い段階でレーシングカーに対しても4WDを採用し、研究を開始。
カレラ4のシステムは、1987年にレース参戦を目的に開発されたポルシェ959と同じく、電子制御のセンターデフを持つフルタイム4WDだったのです。
それは、トルク配分を電子制御で行う先進モデルなのですが、マニュアルスイッチによってデフロックする機構が備えられていて、その走破性の高さにも定評がありました。
このように、その後も引き継がれる4WDポルシェとして、確固とした地位を築いていくきっかけを造ったのがtype964・カレラ4だったのです。
真骨頂のRRカレラ2・ターボモデルそしてカレラRS
1990年のカレラ4の登場から遅れること1年、「やっぱりポルシェはRRじゃなければ‼」という要望に応えるかのように、type964のRRモデル”カレラ2”がデビューしました。
ここであらためて、type930との差を紹介させて頂きます。
まずは、車体ですが930が完全なモノコック構造ではなかったのに対し、type964のシャシー構造はバルクヘッドとフロアがお互いに応力を分散させながら受け持つ、フルモノコック構造となっていました。
次に足回りは、サスペンションにコイルスプリングを使用するようになったことでボディ剛性を感じとれる接地感と、スポーツカーらしい乗り心地を手に入れることに成功。
そして、なんと言っても注目は、”ディプトロニック”というMTモード付きのATを採用したことです。
レスポンスの良い3.6リッターのトルクフルなエンジンと、オートマチックトランスミッションの組み合わせは、マニュアル車とは違った楽しさが生まれ、新しいポルシェオーナーの獲得に貢献。
また、全グレードにパワーステアリングとABSを採用するなど快適性を大幅に向上させ、前筆のAT仕様を含めて、乗り手の間口を大きく広げることに成功したのがtype964の最大の功績と言っても過言ではありません。
そして1991年には、空冷水平対向6気筒SOHC排気量3299ccのエンジンにターボを装着したターボモデルが登場し、最高出力はノーマルで320psを実現しています。
余談ではありますが、漫画『湾岸ミッドナイト』に登場する”ブラックバード”こと外科医の島達也が、type930でエンジンブロー後、この”type964のターボモデル”に乗り換えて朝倉アキオの”悪魔のZ”ことL28改ツインターボのS30Zと激しいバトルを繰り広げるシーンは有名です。
1992年式ポルシェ911・カレラ2スペック
エンジン | 水平対向6気筒SOHC |
排気量 | 3600cc |
ボア×ストローク | 100.0mm×76.4mm |
最高出力 | 250ps/6100rpm |
最大トルク | 31.6kg-m/4800rpm |
全長 | 4245mm |
全幅 | 1660mm |
全高 | 1310mm |
ホイールベース | 2722mm |
車両重量 | 1410kg |
まとめ
ポルシェ911を振り返ってみると、初代911ナローモデル時代は、RR特有のリアヘビーをいかに軽減するかを試行錯誤して、研究開発が続けられました。
そしてtype930カレラRSでは、様々な規制問題を解決しながらスーパーカーとしての熟成を重ね、上質な走りを実現。
そして第三世代のtype964では4WD、ATなど新しい技術を採用すると共にパワステなどの快適装備を投入し、充実したモデルチェンジが行われました。
それは、セミトレーリング式リヤサスペンションが搭載された最期の911モデルであり、964以降のモデルではリアのトレッド幅が59mmも広げられることになってしまったので、走りの感覚が少し異なってきます。
そういう意味では、ナローモデルの血統を引き継ぐ最期の911がtype964。
コンパクトなボディに接地感のあるリアサスペンションで、弱オーバーステアで走行する感覚は、これ以後のポルシェ911では味わえない極上のワインのように熟された素晴らしいものに仕上がっていたのです。
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