日本でスーパーカーブームの火付け役となった、漫画「サーキットの狼」の主役車として登場したことも手伝い、スーパーカーの1台と見られることが多いロータス ヨーロッパですが、実際には名車ロータス セブンの後継として作られた「安価なミッドシップスポーツ」でした。今改めて、その姿に迫ります。
掲載日:2016/07/29
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セブン後継としてコーリン・チャップマンが下した結論、ヨーロッパ
1960年代に入った頃、ロータスはクローズドクーペのエリート完成車以外に自分で組み立てることもできる安価なキットカー、セブンという2つのスポーツカーを販売していました。
このうちエリートは理想的な操縦性と低い工作精度や快適性、それでいながら高価と評価の難しい車でしたが、より現実的で安価なライトウェイトオープンスポーツ、エランへと発展していきます。
一方のセブンも手作業による非効率な生産工程や、キットカーとして販売する理由となった優遇税制の見直し、主要市場と見られていた北米の安全基準見直しから、基本的に小規模のバックヤード・ビルダー上がりであったロータスには少し荷が重いモデルとなっていました。
そこでロータス自身がセブンの終了決定すると、後に裁判などを経て正当なセブン生産継続メーカーとされたケータハム セブンやその他、類似の「ニア・セブン」の数々が生み出されることになりますが、その一方でロータスはセブン後継車を模索していました。
その頃のロータスのレース部門は、エンジンをリアミッドシップに配置し、鋼管スペースフレーム構造から航空機で多用されたモノコック構造に切り替えた画期的なレーシングカー、ロータス 25で当時のF1選手権を席巻。
そこでロータスの創始者コーリン・チャップマンはその技術をフィードバックさせつつ、可能な限り安価に部品調達、生産、販売可能なミッドシップ・スポーツカーの開発を決断し、1966年にはこの新型マシンに「ヨーロッパ」の名を与え、販売をスタートさせたのです。
低い、とにかく低い!そして軽くて低重心と理想的なスポーツカー
ヨーロッパの第1の魅力は、何といってもその凄まじく低い全高わずか1,079mmという扁平ボディに、フロントにエンジンが載っていないことを示す低いボンネットなど、美しいボディデザインでしょう。
そんなヨーロッパの中でもごく初期、1966年に発売されたシリーズ1はほとんどが輸出用で、日本でも1967年の東京モーターショーで展示されました。
それが現在のモーターショーでよく見られるような参考出展のコンセプトモデルではなく、実際に販売されている1台だという事実に当時の人々は驚き、足を止め、そしてしげしげと眺めてはため息をつきました。
基本形であるシリーズ1および開閉可能なパワーウィンドーやラジオ、遮音材など快適装備の施されたシリーズ2ではルノー 16のエンジン縦置きFFユニットを180度逆転。
エランと前後逆の逆Y字バックボーンフレームの左右アーム間へ、可能な限り低く搭載されています。
また、ルノー16のエンジン/ギアボックスユニットは前からエンジン、デフ、トランスミッションと並んでいたのを前後逆にしていたので、フロント42.2:リア57.8とややリア寄りながら、極端なテールヘビーは避けることができました。
このフレームとパワーユニットにはFRP製の極めて軽量なボディが被せられ、シリーズ1での車重はなんとわずか610kg!
セブンほどではないにせよ、その後継となるスポーツカーとして十分軽く、しかもパワーユニットは基本的に実用車のルノー16そのもので、ファインチューンにより63馬力から82馬力にパワーアップ、安価で十分な動力性能を得ています。
後にエラン同様フォードのエンジンブロックにロータス製ヘッドを組み合わせたDOHCエンジンの搭載や、それに伴う燃費悪化による燃料タンクの追加。
そしてやや重くハイパワー化していったものの、この「軽量低重心で安価なスポーツカー」という特徴は受け継がれていきました。
もちろん、ミッドシップスポーツ特有の軽快なコーナリング性能や、「ドリフトも容易なので細いタイヤの方が乗っていて面白い」と言われた操縦性については、言うまでもありません。
モータースポーツではレーシング版「47」が活躍
軽量安価なセブン後継スポーツカーとして思惑通りの人気を得たヨーロッパは、数多くの若者によって草レースをはじめとするさまざまなモータースポーツに投入されていきます。
その一方、メジャーレースの現場では大幅に手を加えられたグループ4仕様、ロータス 47が多用されました。
47は46(ヨーロッパ)と外観や逆Y字バックボーンフレームこそ同じでしたが、共通点はその程度。
フレーム断面やFRPボディの重量、強力なコスワース製エンジンに対応したヒューランド製5速ミッション、強化されたサスペンションなど、中身は大きく異なります。
いわば「ヨーロッパの皮を被ったグループ4レーシングカー」というべきもので、正確な生産台数は不明ですが、日本でも1960年代末から1970年代はじめにかけて、ロータス エランやそのレーシング版26Rと並行、あるいは乗り換える形でロータス 47GTが走っていました。
JAFのレース記録を見る限り、渡辺 一や高野 ルイが多用しており、1963年3月23日、「第10回全日本ストックカーレース富士300」でフェアレディ2000(SR)を抑えてクラス2および総合で優勝したのが最高成績のようです。
ロータス ヨーロッパ 代表的なスペックと中古車相場
ロータス ヨーロッパ シリーズ1 1966年式
全長×全幅×全高(mm):3,994×1,638×1,079
ホイールベース(mm):2,311
車両重量(kg):612
エンジン仕様・型式:水冷直列4気筒OHV8バルブ
総排気量(cc):1,470cc
最高出力:82ps/6,000rpm
最大トルク:10.6kgm/4,000rpm
トランスミッション:4MT
駆動方式:MR
中古車相場:285万~680万円
まとめ
ロータス ヨーロッパはその美しいスタイルや、「安価なミッドシップスポーツカーのお手本」のようなメカニズムもさることながら、とにかく「漫画映え」する車でした。
その名を一躍有名にした「サーキットの狼」(作・池沢 さとし)は元より、エンスージアスト漫画の代表である、「GT roman」(作・西風)など、輸入車、ことにスーパーカーやビンテージカーの登場する作品では定番車種のひとつといえるかもしれません。
ことに西風の作品では単にカッコイイスポーツカーというだけでなく、シリーズ2でさえほとんど窓が開かず、車高も低すぎるので隣の車がギリギリに駐車すると、外で待っている恋人に向かって叫んでも気づいてもらえない。
あるいは、ロータスの狼ならぬ「ロータスの大上」というパロディキャラが登場するなど、割り切った設計やフィクション作品での知名度を生かしたヨーロッパネタも多用されています。
ある意味それだけ敷居が低く、ミニやルノー 5のごとく大衆に近い存在でありながら、スポーツカーとして成立していたがゆえのエピソードではないでしょうか。
エリーゼやエキシージに通ずる、ヨーロッパのようなオールド・ロータスの「味」は、国産のそれに比べれば部品入手が容易なことも手伝って、今でも魅力的な輝きを放っています。
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