1990年代、まだオリジナルの軽自動車を作っていた頃のスバルは、660cc時代第2世代軽自動車への更新をライバルに先駆けて決行。従来のレックスから単純にモデルチェンジせず、あえて「ヴィヴィオ」というブランニューネームを与え、デビューさせました。それは一見すると平凡な実用セダンタイプ軽自動車に見えますが、中身はかな~り濃い1台だったのです。
掲載日:2018/12/15
レックス改め「ヴィヴィオ」登場!
日本に軽自動車を国民車として定着させた歴史的名車、スバル360で大ヒットを記録したものの、その後のスバル軽乗用車は今ひとつパッとしない状況が続きました。
後継のR-2、その次のレックスとも、根強いファンはいたもののライバルと比較するとメジャーになりきれません。
2代目レックスで駆動方式はRR(リアエンジン・後輪駆動)からFF(フロントエンジン・前輪駆動)へ、ターボエンジンや4WDなども設定。
いわば「時流に乗った普通の軽自動車になった」とは言うものの、エンジンは360以来のEK型2気筒エンジンを改良しながら使い続けるなど、商品性はまだ十分とは言えませんでした。
レックスが3代目となってターボからスーパーチャージャーへ、さらにようやく2気筒エンジンに決別して、550cc時代以降の軽自動車では初の直列4気筒エンジンへ更新。
しかしこの4気筒エンジンEN05が660cc化されてEN07になると、「2気筒エンジンのスペースへ4気筒エンジンを搭載する」という寸法上の制約から、ボアアップではなくロングストローク化による排気量アップが求められ、結果的に低回転からトルクのあるエンジンへと進化したのです。
偶然の産物で生まれたロングストロークエンジンでしたが、そのスーパーチャージャー版はさらに加速性能に優れ、結果的にレックス後継車はライバルより走りを重視したものになったのです。
新型の低重心プラットフォームを採用、軽自動車で初めてニュルブルクリンクサーキットでテストを行い、高速走行での安定性から険しい悪路を激走するラリーまで走りなら何でも来いの軽乗用車、スバル ヴィヴィオはこうして誕生しました。
1992年、ライバル他社に先駆け「初の第2世代660cc軽自動車」としてデビューしたヴィヴィオは、走りに優れるだけでなく、クラシックバージョンのヴィヴィオなどデザイン面でも当時の軽自動車の最先端を進んだのです。
走りと安全を両立させ、そしてデザインと3拍子揃ったヴィヴィオ
レックスまではデザイン面でもメカニズム面でもライバルに対し大きなアドバンテージがありませんでしたが、ヴィヴィオでは基本的なデザインこそオーソドックスな2BOXハッチバック車だったものの、徹底的に角が無く丸みを帯びたものになりました。
それも翌年デビューした三菱 ミニカのように「丸っこい」ものではなく、あくまで「角を落とした四角さ」で、先行したスズキ セルボモードのようなプレミアム感と、インプレッサにも通じる「精悍な柔らかみ」というべき雰囲気を持っていたのです。
後にサンバー・ディアスクラシックに続くクラシックカー風軽自動車の決定版、ヴィヴィオ・ビストロとともに、この時代のスバル軽自動車デザインはある意味で神がかっていたと言えるかもしれません。
また、タルガトップ式のセミオープン4シータークーペ、ヴィヴィオT-Top / GX-Tも販売されましたが、限定商法を取ったことや内外装デザインのクオリティの高さも、成功の鍵となりました。
レックス末期から採用されたEN07エンジンの動力性能を活かす走りのメカニズムも秀逸で、当時の普通車と同じ衝突安全基準で設計された高剛性・低重心ボディと新型プラットフォームを、4輪ストラットの独立懸架で支えます。
レックス時代からスバル軽自動車の4輪独立懸架は走行安定性に優れていましたが、ヴィヴィオではさらに踏み込んで路面を問わず安心してアクセルを踏み込める、カタログには現れない懐の深さを持っていたのです。
通常、軽自動車は1名乗車で使用されることが多いことから、車内空間の中心軸を助手席側に向けややオフセット、運転席スペースに余裕を持たせて快適性や操作性を向上させる「ドライバーズ・ミニ」というコンセプトを採用。
他社でもダイハツ リーザなどで既に採用されていましたが、スバルもヴィヴィオで他社に一気に追いついた形です。
ミッションは5速MTに加えて当時まだ珍しかったECVT(CVT。無段変速機)がレックスに引き続き採用されましたが、現在のようなトルコン(トルクコンバーター)を使わず電磁クラッチ式だったため、発進 / 停車時のギクシャク感やクラッチの耐久性に難がありました。
そこでバン(商用グレード)では後に一般的な3速ATに変更されましたが、乗用モデルは改良が続けられ、手動変速が可能でスポーティな6速マニュアルモードつきECVTが登場しています。
サファリを激走した唯一の軽自動車!
ヨーロッパへも輸出されて好評を得るなど国際派だったヴィヴィオは、その世界的アピールの場として国際ラリーを選びました。
そのクライマックスとなったのが1993年のWRC(世界ラリー選手権)第4戦「第41回トラストバンク・サファリ・ラリー」です。
結果としてはトヨタ セリカGT-FOURが1~4位、ダイハツ シャレードGT-Tiが5~6位と日本者の独壇場となったこの年のサファリでしたが、ここにスバルはインプレッサWRXでもレガシィRSでも無く、3台のグループA仕様ヴィヴィオRX-RAを持ち込んだのです。
ドライバーは「とんでもなく速いか、クラッシュかどちらか」”マックラッシュ”ことコリン・マクレーと、地元ケニア在住のパトリック・ジル、そして日本からは前年のポルトガルラリーでクラス優勝するなど国際ラリーでも活躍する石田 正史の3人。
この中で特に地元で完走確率も高そうなジルには「何としても完走!」、どうせ壊すだろうけど一瞬でも速そうなマクレーには「とにかく前を走れ!」とオーダーします。
それに加えてプライベーターでの参戦もあり、にわかに軽自動車の増えたサファリでしたが、ダイハツ(シャレード)や日産(マーチ)などコンパクトカーはともかく、軽自動車がワークス体制でWRCに参戦するなど前代未聞。
それでもスバルワークスの作戦は図に当たり、マクレーは初日で案の定サスペンションを壊してリタイヤしたものの、一時はセリカの間に割って入り総合4位を走る「ヴィヴィオ伝説」を作りました。
続けて悪戦苦闘しながらも走り続けていた石田 正史がエンジンオーバーヒートにより3日目でリタイヤしますが、軽自動車が3日目までもっただけ立派です。
残るジルはといえばヴィヴィオをいたわりながら、それでもタイムアウトはせぬよう(過去のサファリではシャレード・ディーゼルがタイムアウトで失格になったことがある)慎重に計算しながら走り続けます。
そして5日目最終日、ジルはついに完走!総合12位、A5クラス優勝という成績を残した上に、プライベーターで出場したF・ヴィラセノールのヴィヴィオも総合15位、A5クラス2位で完走するという、嬉しいオマケもつきました。
この時のサファリは完走したのがわずか18台というサバイバルラリーでしたが、それにしてもヴィラセノールでさえビリでは無かったのは大したものです。
完走したヴィヴィオはグループA規則で可能な限り補強が行われていたにも関わらず、Aピラーにクラックが入るなど満身創痍ではありましたが、それでも「サファリを完走できれば大抵はどうにかなる」と自信がついたのは間違いありません。
その後も国際ラリーや、ダートトライアル、ラリーなど国内モータースポーツで大活躍を続けたヴィヴィオが飛躍した大きな一歩となりました。
主要スペックと中古車相場
スバル KK4 ヴィヴィオ RX-RA 1997年式
全長×全幅×全高(mm):3,295×1,395×1,375
ホイールベース(mm):2,310
車両重量(kg):740
エンジン仕様・型式:EN07 水冷直列4気筒DOHC16バルブ ICスーパーチャージャー(ハイオク仕様)
総排気量(cc):658cc
最高出力:64ps/7,200rpm
最大トルク:10.8kgm/3,600rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:4WD
中古車相場:0.1万~88万円(ヴィヴィオ・ヴィストロおよび各型含む)
まとめ
サファリなど国際ラリーのみならず、全日本ラリーAクラスでも一時はアルトワークスRと互角の戦いを演じるなどモータースポーツでは大活躍したヴィヴィオ。
ただし、スバルにとって少しばかり不幸だったのは1993年にスズキ ワゴンRが登場、それまでのセダン型(軽自動車ではトールワゴン以外の2BOXハッチバック車を意味する)からトールワゴンへと、軽乗用車の主流が移ってしまったことでした。
それでもクラシックデザインをいち早く取り入れたヴィヴィオ・ヴィストロが販売面で健闘したものの時代には逆らえず、後継車は次期ヴィヴィオでは無くヴィヴィオベースでセミトールワゴン化したプレオ(初代)となります。
走りの良さより車内スペースが重視される時代になる直前に「走りが際立つ名車」として生まれ、確かに走りの面では大活躍して名車となったものの、結果的には「時代に翻弄される隠れた名車」となったの事が残念でたまりません。
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