通称『クジラ』。丸みを帯びたスピンドル・シェイプデザイン、絞り込まれたフロントグリルの上を両脇にウィンカーとポジションランプを備えて一直線に走るラインがクジラのヒゲに似ていることからクジラと命名された、今見ればエレガントかつスポーティなデザイン。しかし当時の保守的なユーザーはこれを認めず、一斉にセドリック / グロリアに乗り換えるというクラウン史上最大の屈辱を味わった1台でもありました。
掲載日:2020/02/08
ユーザーからの愛を求め、そして受け入れられなかった哀しき『クジラ』
先代の3代目で個人ユーザーへのアピールにこだわりすぎた結果、後期型では保守的なデザインへと手直しされたクラウンですが、1971年2月には再び個人ユーザー獲得への果敢なる挑戦を行い、「これがクラウン?!」と誰もが驚く大変身を遂げました。
それまでは、程度の差こそあれ高級車としての重厚感を大事にしていたクラウンが、そうした保守的なデザインをかなぐり捨てるように、高級セダンというより若々しいスポーツセダンとして生まれ変わったのです。
さらには従来のトヨグライドに代わる電子制御AT、後輪のアンチスキッド(ABSの原型)を追加設定し、大排気量3ナンバー車も設定するなど、とにかく走りに関わる部分を攻める方向に。
それでいてボディカラーはセンチュリーと同じく漢字表記にし、ショーファードリブン(運転手付きでオーナーは後席に乗る)向けに電動リクライニング式リアセパレートシート(後席2人乗り)を採用するなど、ラグジュアリー志向も捨てない一面もありました。
そんな大きな変貌の中で特に問題となったのはこのデザインで、当時の保守的なユーザーからすれば「なんだこりゃ?!」と唖然とするほか無く、保守的デザインで登場した日産 セドリック / グロリアにユーザーが大量流出し、販売台数クラストップの座を逆転される程だったのです。
後世になって真逆の評価を受けることになりますが、当時のトヨタにとっては帝王クラウンがとんでもないことになったと、まさに大ピンチを招く結果に。
その独特なデザインから『クジラ』との通称がつけられたものの、このままではクジラより先に絶滅しかねないと次世代以降のクラウンからしばらくは超保守路線をひた走ることになりました。
今ならよくやったと大絶賛されそうなデザインも、当時は全てが裏目に
この代から『トヨペット クラウン』ではなく『トヨタ クラウン』となった4代目『クジラ』クラウンのデザインは、現在の感覚から見れば決して悪くはありません。
それどころか、むしろストックカー・レースやドラッグレースに出場させればさぞかし華があるだろうと思わせる、素晴らしいデザインであり、2ドアハードトップなどこのままレースに出しても人気が出そうなほど似合っています。
しかし、それは現在の方針であるユーザーの若返りを図り、『アスリート』など走りのモデルを設定した上で、ヨーロッパ調スポーツセダンへと徐々に生まれ変わったクラウンを知っているからであって、要するに当時はユーザーの大多数がそのようなクラウンを求めていませんでした。
横から見ても前から見ても綺麗に紡錘形を描くスピンドル・シェイプデザインに、ボディへ直接組み込んだようなボディと同色のバンパーには若々しいスポーティさこそあれ、高級セダンとしての威厳が著しく欠けているとみなされてしまったのです。
問題は見た目のみならず、そのボディ形状ゆえにドライバーからの見切りが悪くて車両感覚がつかみにくく、狭い場所での取り回しがしにくい、あるいは絞り込んだフロントグリル開口部が小さすぎるがゆえの冷却性能不足すらありました。
そして、明らかなマーケティングのみならずハード面での熟成不足まで重なり、トヨタらしからぬ仕事だと見放されても仕方のない状態。
そのためか4年とたたずにモデルチェンジされることになりますが、5代目デビューまでのつなぎとして、ボディ同色バンパーをやめてメッキバンパーを装着するなど可能な限りの保守回帰が行われました。
また、2.6リッターエンジンの追加で3ナンバー車が追加される一方、先代まで存在した4気筒エンジンがバンやカスタム(ワゴン)を除き設定されず、セダンやハードトップでは直列6気筒エンジンのみになるなど、高級車化による巻き返しが進められています。
主なスペックと中古車相場
全長×全幅×全高(mm):4,680×1,690×1,420
ホイールベース(mm):2,690
車両重量(kg):1,360
エンジン仕様・型式:M-D 水冷直列6気筒OHC12バルブ
総排気量(cc):1,988
最高出力:85kw(115ps)/5,600rpm(※グロス値)
最大トルク:157N・m(16.0kgm)/3,600rpm(※同上)
トランスミッション:コラム式3AT
駆動方式:FR
中古車相場:68万~216万円
まとめ
発表当時に酷評されたデザインや創作作品が、後に再評価されて大絶賛されるというのはよくある話ですが、4代目『クジラ』クラウンなどは自動車デザインにおける、その典型的な例でした。
当時のユーザーからすればよほど許せないデザインだったのかもしれませんが、そんな事情を知らない後世の人間からすれば「むしろ何が悪いかわからない。」という意見が多いかもしれません。
つまり時代を先取りしすぎたわけで、トヨタはデザイン細部の問題で販売台数を落とすことは多々あるものの、ちょっとした手直し程度で解決にならないほど大胆、かつユーザーニーズを満たさなかったのは、かなり珍しい例です。
しかし、何度も繰り返しますが今の視点で見れば全く別な評価を受けてしかるべきデザインであり、クラウンでなくとも構わないので、何か別な形でもう1度このデザインを世に問うてみて、『クジラの屈辱』を晴らしてみては、とも思います。
自動車文化の歴史が深い国では『過去の名車のリメイク』が数多くあり、4代目クラウンは当時の実績こそ難はあるものの、将来是非ともリメイクしてほしい1台です。
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