バブル時代の日産パイクカーブームで生まれた車は、それに続く各社のレトロカーブームとは異なり、「ちょっと部品を入れ替えました。」程度では済まない本格的な作り込みが特徴でした。中でも商用車にすらパイクカーを登場させて世間を驚かせたのがS-Cargo(エスカルゴ)で、単にカワイイだけでなく実用性も高く、さまざまな業種で重宝されたのに、その後の後継車が登場しなかったのは不思議です。
掲載日:2018/11/24
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平凡なあの車が大変身!日産パイクカーブームはついに商用車『S-Cargo(エスカルゴ)』へ!
1987年、日産の初代K10マーチをベースに全くの別ボディとなったBe-1が、台数限定販売という限定商法もあって大ヒット!
1万台の限定枠が予約で埋まるだけでなく、生産が面倒で納期もかかったことから、プレミア価格で取引されるほどの大人気となりました。
そして、続けて販売されたパオ、フィガロとK10マーチベースのパイクカーはいずれも大人気となって『パイクカーブーム』を巻き起こし、それが後に『レトロカーブーム』へと発展。
各社から、前後バンパーやヘッドライトを交換しただけの簡易的なものから、日産と同じく本格的に別ボディとしたものまで、さまざまなレトロ調モデルが発売されました。
その初期、1989年1月にパイクカー第2弾としてパオと同時に発売された何とも可愛らしい商用バンがS-Cargo(エスカルゴ)です。
この第2弾の時だけは、第1弾のBe-1や最後のパイクカーとなった第3弾のフィガロと同じ台数限定ではなく期間限定で販売されたため、2年間の受注生産でそれなりの台数が販売されて、後々まで街で結構見かけることになります。
プリンスとコニーと日産の融合から生まれた!バルサーバンがベースのパイクカー
フランス語でカタツムリを意味する『エスカルゴ』というだけでなく、貨物(カーゴ、CARGO)のスペイン語読み『カルゴ』も引っ掛けてS-Cargo(エスカルゴ)と名付けられたこの商用車が生まれた背景には、当時の日産商用車における特殊事情もありました。
・1966年8月に日産がプリンス自動車を吸収合併した際、プリンスでFF(フロントエンジン前輪駆動)の小型車を開発しており、合併後も開発継続。
・同年、軽3輪 / 4輪車を『コニー』ブランドで販売していた愛知機械工業が本格的に日産傘下へ。
・愛知機械工業の販売店は、その後も日産コニー店としてコニーの軽自動車を販売していたが、1970年に自社生産から撤退し、日産車ディーラーとして再出発が決定。
・1970年、新型車チェリーの販売店として日産コニー店が日産チェリー店として継続。
・チェリー店ではチェリーバンや後継車パルサーバンという、独自の商用車ラインナップを持っていた。
・N10型パルサーバン(VN10)のリアサスペンションは、当時の初代ADバン(VB11)が採用したリーフリジッドと異なり、フルトレーリングアーム+横置きトーションバースプリングの独立懸架で、低床荷室と短いリアオーバーハングを実現できた。
・VN10パルサーバンは1982年で生産を終えたものの、そのプラットフォームは1982年に旧プリンス開発陣が開発、発売された日産初のFFミニバン、初代プレーリーに転用されて1988年まで生産されていた。
そんなわけで、『プリンスの開発陣』と『コニー(愛知機械工業)の販売網』を抱えた当時の日産が、それを最大限生かした結果、『低床コンパクトなFF商用バン』を作れる下地があることがわかりました。
それはまさに偶然の産物で、仮にプリンスの吸収合併が無ければチェリーは存在せず、愛知機械工業の日産グループ入りが無ければ日産コニー店が日産チェリー店となることもなく、チェリーも日産チェリー店も無ければパルサーバンも生まれず、旧プリンス開発陣がそのプラットフォームを使った初代プレーリーを開発、前年まで生産していなければADバンが原型になるところだったのです。
そうなっていれば、あの寸詰まりでカタツムリのような独特のフルゴネットスタイルは生れず、実現していたとしても、後のAD MAXバン / ワゴンのようなスタイルでルノー・エクスプレス風の、『カッコカワイイ系』になっていたかもしれません。
自家用から商用車まで、愛されたS-Cargo(エスカルゴ)
日産の特殊事情が生んだ、非常に短いリアオーバーハングと低床フロアに、垂直に近く背の高いテールゲート、そこから前席ヘッドレスト頭上まで一旦盛り上がってフロントガラスまで緩く弧を描いて落ちていくルーフライン。
『低床かつ天井も高い』ことで、植物など背の高い荷物を乗せる業者にはまさにうってつけのスタイルです。
そしてフロントも先端から緩い孤を描いてフロントガラスと交わるボンネットには、ピョコンと突き出したユーモラスな丸目2灯ヘッドライトが、まさにカタツムリのごとしでした。
また、ここまで曲面を多用したのとは一転、ボディ側面は余計な装飾も無く真っ平らそのもので、楕円形のリアクォータウィンドウがあれば良いアクセントになり、無ければ広いキャンバスそのもので、ただ駐車しているだけでお店の看板としても最適なエクステリア。
これで内装が素っ気ないライトバンそのままなら興ざめするところですが、センターメーターに広い足元空間と操作性を両立したインパネシフト(AT専用)など、1989年に発売された車とは思えないほど先進的だったのです。
あくまでパイクカーとしてデザイン重視の商用車だったので、テールランプの張り出しで積み下ろしには若干の難があったり、ドアガラスを上下できる面積は全開可能な範囲に限られる、後席の乗降性や快適性は最低限度という面はもちろんありました。
しかし、よほど大量の荷物を積めないと困る、あるいはタワーパーキング利用が必須という業者でも無ければ、使い勝手と人目を引くことによる宣伝効果は抜群。
そのため、維持が困難になるまで商用車として使い続けた業者は多く、カワイらしい姿から自家用車として使われたケースも含めて、生産終了から30年近い今でも時々見かけるほどです。
なお、ボディタイプにはキャンバストップの有無、リアクォーターウィンドウの有無で4タイプが選択可能でした。
主なスペックと中古車相場
日産 G20 S-Cargo(エスカルゴ) キャンバストップ仕様車 1989年式
全長×全幅×全高(mm):3,480×1,595×1,860
ホイールベース(mm):2,260
車両重量(kg):970
エンジン仕様・型式:E15S 水冷直列4気筒SOHC8バルブ
総排気量(cc):1,487
最高出力:54kw(73ps)/5,600rpm
最大トルク:116N・m(11.8kgm)/3,200rpm
トランスミッション:インパネ3AT
駆動方式:FF
中古車相場:35万~98万円
まとめ
エスカルゴを一言で言えば『カワイイ商用車』ですが、それはプリンスやコニーの名残が後年になってパイクカー戦略と組み合わせられた結果という、日産ならではの特殊な事情があればこそ生まれた車でした。
類似する車はダイハツ・ミラ ミチートくらいで、日産のフルゴネット車もY10型ADバン / ワゴン(1990~1999年)に設定されていたAD MAXバン / ワゴンが最後となっています。
FF / 4WDのトールワゴン全盛期の今なら、ダイハツ・ハイゼットキャディーやホンダ N-VANのようにトールワゴンベースでエスカルゴ復刻版を作り、ルノー版も作ってミニカングー的に売り出せば面白そうだと思いませんか?
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