現在も続く、世界のモータースポーツ最高峰カテゴリーのひとつ、WRC(世界ラリー選手権)。1973年にWRCが始まった時、既にラリーマシンとして数多くのラリーで活躍し、既に旬を過ぎていたとはいえ初代チャンピオンマシンになったのが、アルピーヌ A110でした。

掲載日:2018/07/20

アルピーヌ A110 / Photo by D – 15 photography

 

 

前史~アルピーヌの誕生とA110まで

 

後にA110へつ繋がるアルピーヌ第1作、A106  / Photo by Mala Testa

 

フランスの大衆車メーカー、ルノーの車をチューンナップしてレースやラリーで活躍するマシンに仕立てる名チューナー、アルピーヌが創業したのは1954年のことでした。

それまで、日本での日野自動車が生産してタクシーにも多用された小型大衆車、ルノー 4CVをチューニングしてレースで成功していたジャン・レデレは、そのマシンの好評さからルノー車をベースとした本格スポーツマシンを作る会社を興します。

1956年、最初に開発したA106は4CVのプラットフォーム型セミ・モノコックボディ(強固なフロアにモノコックボディを載せた構造)の床板と鋼管フレームを組み合わせ、軽量なFRPボディを被せてチューニングした747ccエンジンと5速MTを搭載していました。

A106は1957年、4CVの後継車ドーフィンの845ccから945ccへとボアアップしたエンジンを搭載したA108に進化しますが、4CVと異なりドーフィンではフルモノコックボディへと近代化していたため、A108では独自の鋼管バックボーンフレームを採用しています。

オリジナルの鋼管フレームにボディを被せ、チューニングしたルノー車用エンジンを載せる方式はこのA108で確立され、続くA110や2017年に復活する以前のアルピーヌ最後のモデル、A610まで踏襲されました。

ベースのルノー車が変わればアルピーヌ車も変わり、1961年にはドーフィンに代わって新型のR8をベースとしたA110が登場。

当初の55馬力956ccエンジンは、後に1,605ccまで強化されて140馬力(いずれもグロス値)に進化します。

1963年にアルピーヌはルノー公式チューナーへ、そして1973年にはルノー子会社アルピーヌ・ルノーとなりますが、その中でもA110は走り続け、レースやラリーで数々の勝利を打ち立てていきました。

 

WRC以前と、WRC初期の活躍

 

アルピーヌ A110  / Photo by Eddy Clio

 

WRC(世界ラリー選手権)が始まったのは1973年ですが、それ以前からシリーズ化こそされていないものの、国際ラリーは世界各地で開催されていました。

A110はそうした昔ながらの国際ラリーの舞台において、現在のような4WDターボマシンなど存在しない時代に軽量ハイパワー、かつトラクション面で有利なRR(リアエンジン・後輪駆動)レイアウトを活かして活躍しています。

中でも激闘を繰り広げたのがラリー・モンテカルロで、主催のACM(モナコ自動車クラブ)が設定していたハンディキャップ制により、ミニなど小型小排気量FF車が活躍していた時代が終わり、長距離の高速SSでハイパワースポーツカーが台頭していました。

その流れに乗って活躍したのがポルシェ 911やアルピーヌ A110で、長く911が1-2フィニッシュ、A110が3位以下という時代が続くものの、ポルシェが販売戦略上914/6を投入した隙をついて、1971年にはついに1-2-3フィニッシュを達成したのです。

そして迎えた1973年のWRC初年度、1,800ccに強化されたグループ4仕様のA110は初戦のモンテカルロで1-2-3フィニッシュと表彰台を独占したのを皮切りに、快進撃を続けました。

最終的には13戦中6勝、特にモンテカルロに続き母国での最終戦ツール・ド・コルスも1-2-3フィニッシュで締めくくり、「最初のWRCマニュファクチャラーズチャンピオン」となったのです。

とはいえ、1960年代から活躍してきたA110は既にその旬の末期に差し掛かっていました。

連続する24ヶ月間に500台(1976年以降は400台)を生産すれば良いというグループ4規定を活かし、ランチア ストラトスなど高性能のモータースポーツ向けマシンが台頭した中では、既に時代遅れとなっていたのです。

その結果1974年以降もWRCを走り続けたものの最高位は2位止まりで、1976年途中からA310V6へ、そしてルノー 5アルピーヌや5ターボへとルノーのラリー活動は移っていくのでした。

 

A110で走った名ドライバー

 

ジャン=リュック・テリエのA110 出典:https://fr.wikipedia.org/wiki/Jean-Luc_Th%C3%A9rier

 

A110がその名を歴史に大きく刻んだ1973年のWRCでは、3人のフランス人ラリードライバーが大きな役割を果たしました。

1人は1960年代半ばからラリードライバーとして活躍、1970年にはA110でERC(ヨーロッパラリー選手権)チャンピオンに輝くとともに、アルピーヌ・ルノーチームのドライバーとして1973年には最初のWRCに参戦した、ジャン=クロード・アンドリュー。

後に「モンテカルロとツール・ド・コルスには欠かせない男」と呼ばれて長らくヒストリック・ラリーでも走り続けた彼は、1973年の開幕戦モンテカルロで「歴代WRC最初の勝者」として、A110とともにその名を記録されることになりました。

しかし、エースドライバーとしてアルピーヌ・ルノーがWRC初王者となる原動力になったのは、ジャン=リュック・テリエとジャン=ピエール・ニコラスの2人で、ともに1945年生まれの2人のエースドライバーはA110を巧みに操り、ジャン=リュック・テリエは3勝、ジャン=ピエール・ニコラスは1勝を上げています。

特にテリエはスピンに入りやすいA110の特性を活かし、テールを大胆に滑らせフルカウンターでコーナーに突っ込んでいく見応えあふれる走りでブラインドコーナーを最大の得意ポイントとするドライバーで、A110がWRC初王者となる為に最大の貢献をしました。

 

市販仕様A110の代表的なスペック

 

アルピーヌ A110  / Photo by Thibault Le Mer

 

アルピーヌ A110 1300S 1969年式

全長×全幅×全高(mm):3,850×1,450×1,130

ホイールベース(mm):2,100

車両重量(kg):625

エンジン仕様:直列4気筒OHV8バルブ

総排気量(cc):1,296cc

最高出力:120ps

トランスミッション:5MT

駆動方式:RR

 

まとめ

 

アルピーヌ A110は2017年に現代の技術による復刻版がデビューしましたが、復刻されるのはそれだけのネームバリューや実績あればこそです。

A110にとってはそれが1972年以前のERCなどでの活躍であり、1973年のWRC初代チャンピオンという称号でした。

翌年にはランチア ストラトスの登場で、その後のフィアット 131アバルトラリーも含め「イタリア車の天下」がしばらく続くWRCですが、その直前にかろうじて活躍の全盛期を得たのが、フランス自動車界の至宝となったゆえんです。

単に速いだけでなく美しいマシンが、コーナーめがけてテールからスピン状態で突っ込んでいくシーンは、当時の観客にとっては幻想的、そしてさぞかし興奮する一瞬だったことでしょう。

 

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