Be-1をはじめ、初代マーチをベースとした『パイクカー』で一世を風靡し、その後のレトロカーブームの発端ともなった日産のイメージアップ戦略。フィガロで一旦打ち止めかと思いきや、1994年に発売されるや予想外の大ヒットとなったのがラシーンでした。今でも専門店が多数あるほど不思議な魅力を持ち、根強い人気を誇る車です。
掲載日:2018/12/04
思わぬ大成功を収めた量産パイクカー、ラシーン
1994年12月に発売された日産 ラシーンは、不思議な車でした。
当時、まだ『クロスオーバーSUV』という言葉は少なくとも一般的では無く『RV(レクリエーショナル・ビークル)』という言葉でクロカンもミニバンもトールワゴンも一緒くたにされていた時代。
同年発売された国産初のクロスオーバーSUV、トヨタ RAV4(初代)のように大径タイヤを履いて最低地上高を上げているわけでも無く、普通のタイヤに最低地上高もごく普通です。
それでいてステーションワゴン、あるいはショートワゴンというには妙にカクカクしていらのですが、それでは無骨な営業車かといえばルーフレールもあり、背面スペアタイヤ装着グレードもあるので、どうやらクロカンを意識したRV的な車なのは間違いありません。
とはいえ中身はサニーやパルサーの1.5リッター車がベースのようで、格好だけかと思いきや全車フルタイム4WDで、後に追加された1.8リッター車や『ラシーンフォルザ』と呼ばれる本格的にSUV志向を強めた外観のモデルなどは、センターデフ式の本格フルタイム4WDでした。
1993年の東京モーターショーで好評だったがゆえ1年後に発売されたラシーンですが、最初は正直「これは何ができて、何をするための車なのか。」が、イマイチ想像のつかないユーザーも少なく無かったはずです。
発想としてはパオの延長線上にある、冒険への『どこでもドア』
「これで何をしたらいいのか?」と考えてもわからないのは当然で、ラシーン自体はその姿とは裏腹に、オフローダー的な要素はほとんど無く、内外装とFFベース乗用4WD程度の能力は持つ4WDによる『雰囲気』こそが全てです。
ここで日産パイクカー軍団について知識のある方なら、その第2弾『パオ』を思い浮かべてピンとくるところですが、つまり『パオ』同様、都市部にいながらでも冒険に出かけるようなワクワク感のある車が、ラシーンなのでした。
そしてCMにアニメキャラクターの『ドラえもん』を起用し、ラシーンという名の『どこでもドア』なのだと宣伝したセンスなどまさに秀逸で、確かにラシーンとともにある限り、非日常空間が身近なところにあるような夢があったのです。
それゆえラシーンにはその性能にとらわれない夢や豊かな発想がよく似合い、平凡な性能ながら非凡なキャラクターによって2000年までの6年間も販売されるロングセラーとなりました。
そのため当の日産を含め、ラシーンほどサッパリと『夢に徹した車』としての後継車が存在しないゆえか、新車販売当時から現在に至るまで、ラシーン専門の中古車店が存在し続けており、国産車の中ではかなり特異な存在といえます。
もっともラシーンの遊び方にひと工夫しようという試みもあり、「本格オフローダーとしての性能を持たないなら、とにかくドリフトさせてみよう!」というわけで、横置きエンジンから縦置きに変更し、シルビア用のパワートレーンやサスペンションを組みFR化されたドリフト仕様ラシーンもありました。
その他、軽便な軍用車両として適性があるのではと陸上自衛隊に見込まれ、採用一歩手前まで検討されたものの、『ウインチがつけられない』ため不採用という真偽不明な逸話まで残っています。
主なスペックと中古車相場
日産 RFNB14 ラシーン タイプII 1995年式
全長×全幅×全高(mm):4,115×1,695×1,515
ホイールベース(mm):2,430
車両重量(kg):1,190
エンジン仕様・型式:GA15DE 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量(cc):1,497
最高出力:77kw(105ps)/6,000rpm
最大トルク:135N・m(13.8kgm)/4,000rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:4WD
中古車相場:10万~168万円
まとめ
今ラシーンを見ると、より現在のクロスオーバーSUV的な魅力を高めるべく努力したのがわかるラシーンフォルザ以外、妙にこざっぱりとしたシンプルな車という印象です。
しかし、その形状にせよカラーリングにせよ考え抜かれているのは、シンプルでも決して安っぽさを感じさせず、しかも一度見たら忘れにくい強烈なインパクトからも明らか。
日産がパイクカー軍団で学んだデザインの極意をつぎ込んだ集大成であり、生産したのはパイクカー生産で腕を振るった日産関連企業の高田工業だと聞けば、納得せざるをえません。
しかも作っていた時期は日産が企業としての存続すら危ぶまれるほどの経営危機で火だるまになっていた時期で、そんな時にラシーンという傑作を生み出す一方、2000年代から経営はV字回復したものの、パイクカーを作らなくなってしまったのが少々寂しく感じます。
生産終了から20年以上たっても中古車市場での流通台数は200台近くあり、まだまだ人気は続きそうです。
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