トヨタが誇るミッドシップスポーツ「MR-2」。良く言えばシャープ、悪く言えばピーキーと言われたハンドリングは、その特性がゆえに万人に受け入れられるとは言い難いものでした。しかしながら、スポーツカー乗りの憧れともいえるMRパッケージを受け継いだMR-Sは、その楽しさをスポイルすることなく、手軽に楽しめる「Sports」を体現した車。またスーパーGTなどのモータースポーツでも活躍しました。今回は、そのコンセプトと走りにスポットを当ててみたいと思います。
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MR-2からMR-Sへ
1984年、初代MR-2(AW11)が発売されました。
トヨタでは珍しくミッドシップレイアウトを採用したこの車は、1999年の生産中止から約20年が経過した今なお、名車として歴史に名を刻んでいます。
その一方で、車としての素性はトヨタとして経験のない駆動方式であったこともあり、非常にピーキーなことでも知られています。
1989年には二代目MR-2(SW20)が発売されましたが、走りに磨きがかかる一方で馬力も向上したために、やはり扱うには高度なテクニックを要するじゃじゃ馬でありました。
そして、1999年、コンセプトを一新した新しいミッドシップ、MR-Sが誕生したのです。
発売当時のCMがこちら。
見て頂ければ分かると思いますが、スポーツ色を薄くし、Fun to Drive指向へ舵が切られています。
そして車自体も、今までの男性的な力強ではなく、女性的な柔らかさを取り入れたことが伝わってきます。
この事は、以下、諸元からも見て取ることができます。
1999年式 MR-S Sエディション (GH-ZZW30)のスペック※Sエディション:最上位モデル
ボディタイプ:オープン・カブリオレ・コンバーチブル
全長×全幅×全高(mm):3885×1695×1235
ホイールベース(mm):2450
車両重量(kg):970
エンジン型式:1ZZ-FE
エンジン仕様:直列4気筒DOHC
総排気量(cc):1794
最高出力:140ps/6400rpm
最大トルク:17.4kg・m(170.6N・m)/4400rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:MR中古相場価格:179,000~1,990,000円
注目すべきは、車重と馬力です。
圧倒的な軽さから産まれた、楽しさの追及と普及
近年の一般的なモデルチェンジが、大型化・高出力化の一途をたどる中、MR-Sは思い切ったダウンサイジングに踏み切りました。
MR-2では1200キロ超えであった車重が、なんと1000キロを下回っています。そんな200キロ以上の軽量化は、運動性能に明らかな変化をもたらしました。
そして、馬力。こちらも、245馬力→140馬力にパワーダウン。少し寂しい数字にも見えますが、先代で行き過ぎてしまったが故のピーキーさから脱却し、MRというスポーツ指向でありながら万人向けを目指したコンセプトを明確にしたのです。ある意味、軽さを追求したからこそ選択することのできた、パワーダウンといえるでしょう。
また、先代よりも300mm近く全長が短くなったにも関わらず、ホイールベースは50mm長くとられています。
これによりもたらされるのはマイルドさ。
リアヘビーによる限界付近での唐突なスライドを抑制し、より、「誰でも楽しめる」乗り味を作ることに一役買っているのです。
この、「誰でも楽しめる」事こそ、MR-Sの目指した一番の到達点でした。
スーパーカーから、最高峰F1まで、多くのモータースポーツにおいて主役である、ミッドシップ。
車好きを自認する多くの人、その心の奥底には、この駆動方式に対する憧れがあると思います。
それを、軽く、コンパクトにすることで、金額的にも「誰でも楽しめる」ものになりました。
スターティングプライス、168万円。
これは、当時トヨタが発売していた普及価格帯のスポーツセダン、スプリンタートレノ(AE111)の価格が137万~194万であったことからも、充分に手の届く価格であったことが分かります。
この、「誰でも楽しめる」というコンセプトを、人によっては強烈な個性が薄まったと評価するかもしれません。
いわゆる、なんちゃってスポーツカーと酷評される事もあると思います。
しかしながら、乗った人にしか分からない、キビキビと動く車体、背中へと伝わってくるエンジンサウンド、その鼓動。
そしてそれを普及価格帯で発売する意義。
「分かる人だけが分かる楽しさ」から、「誰もが分かる楽しさ」への転換。
初代から続く「Sports」スピリットは、その価値観こそ違えるものの、決して失われてはいませんでした。
国産初!シーケンシャルMTの導入
MR-Sの特徴的な装備が、シーケンシャルMTです。
ここ10年くらいで急速に普及してきたシーケンシャルMTですが、実は国内で導入されたのはMR-Sが初めてでした。
ご存知の方も多いでしょうが、シーケンシャルMTとは従来のクラッチペダルを廃止し、シフト操作に連動して自動でクラッチ操作をしてくれる機構です。
初導入ということもあり、その動作は決して洗練されたものではありませんでした。
しかし、シフトダウン時にはブリッピング(空ぶかし)もしてくれるというハイテク装備は、当時、触れた人を驚かせるには十分な代物なのでした。
また、それまでスポーツモードATといえば「押すとシフトアップ」「引くとシフトダウン」が定番でしたが、レースカーのような「引くとシフトアップ」「押すとシフトダウン」であったという事も、個人的には嬉しい作りだと思います。
通常の3ペダルMTとの価格差は、わずか7.5万円という設定からも、多くの人に乗ってもらいたいという販売側の心意気が伝わってきます。
サーキットでも際立つ軽さ!
140馬力は、サーキットにおいては非力といえますが、それを補うのもまた軽さでした。
皆さんは、ライトウェイトスポーツでサーキット走行と言えば、シビックタイプR(EK-9)や、インテグラタイプR(DC-2)を思い浮かべるかもしれません。
そこで、実際に筑波サーキット(TC2000)での5ラップバトルを見てみましょう。
流石に、ストレートでは離されてしまいますが、コーナリングスピードは他車にまったく引けを取っていないことが分かります。
それどころか、シビックタイプR、シルビアオーテックバージョン、ロードスターといった強敵に軒並み勝利してていることに驚かされます。
1位のインテグラタイプRのレース中のベストラップが1’09”36なのに対し、MR-Sも1’10”30と、1秒を切る好タイムをマークしています。
価格差約60万円、馬力も60馬力という大きな差がある中で、大健闘を見せました。
これは、動画を見てもらえばわかる通り、コーナリングマシンとして中盤セクションと最終コーナーへのアプローチでタイムを稼いでいることが、大きな要因だと思います。
もちろんMRを、これ程のレベルで乗りこなせるのはプロドライバーのテクニックがあればこそ…ですが、低い馬力だからこそ、アマチュアでも限界領域を体験しやすいのは間違いありません。
JGTC~SUPER GTでの長きにわたる活躍
MR-Sは、2000年からJGTC(2005年からはSUPER GT)へ参戦、継続して2008年まで戦い続けました。
そして9年間の参戦期間中、数々の勝利をあげ、中でも2002年にはARTAアペックスMR-S、2005年にはTEAM RECKLESS、そして2007年にはToystory apr MR-Sが、ドライバーズタイトルを手にしています。
それぞれが時代の顔と言えるドライバーたちを揃えていたとはいえ、MR-Sという車の性能が良かったからこそ多くのチームのベース車両に選ばれ、そして最高峰の舞台での勝利に繋がったといえるでしょう。
もし、この車両が生産され続け、更なる進化を遂げていたとすれば、SUPER GTでもより多くの勝利を積み重ねていたかもしれません。
一時代の終焉と、チューニングベース車両としての価値
2007年、販売不振によりMR-Sは生産終了となりました。
トヨタはこれにより、新型86を発売する2012年までスポーツカー生産から一時撤退します。
そして現在に至るまでミッドシップの生産はされていません。
総生産台数77,840台。
スポーツカーとしては決して少なくない台数ではありますが、生産終了から10年、徐々に希少車種となり始めています。
国産ミッドシップという非常にレアな車両にも関わらず、スペック上の非力さや好みの分かれるエクステリアによって、中古車市場での価値は決して高くはありません。
幸いにして、チューニングパーツもまだまだ手に入るので、今こそ購入するタイミングかもしれません。
基本的なリフレッシュメニューを中心に、予算が許せば少しのパワー系チューンをプラスするだけで、飛び切りの一台になると思います!
まとめ
残念ながら、既に街で見かけることは少なくなり始めていますが、だからこそ、今20代の若者は、きっとMR-Sを見かけたら、「おっ」と目で追ってしまうと思います。
「どこの外車だろう?」、「高いのかな?」、「ちょっとかわいい顔しているな!」
…なんて思うかもしれません。
そんな、驚きと興味を持って受け入れられるスポーツカーが、かつてトヨタから発売されていた事。
今現在、まだまだそれを楽しめる環境があること。是非、機会があれば一度、触れてみて頂きたいと思います。
MR-S、この車は触れてこそわかる魅力に溢れているのです。
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