代を重ねるごとに大きくハイパワーになっていき、WRC(世界ラリー選手権)でも活躍したセリカ。その拡大路線の終着点が6代目T200系セリカです。WRCでの致命的な失策やバブル崩壊後の急激な価値観の変化という大波に揉まれましたが、丸目4灯ヘッドライトと曲線美をうまくまとめたデザインには、今でも高い評価が聞かれます。
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世はバブル崩壊転落期、バブル時開発の豪華路線6代目セリカ登場
6代目T200系セリカが登場した1993年というのは微妙な時代で、世間は1991年3月頃に起こったバブル崩壊による急激な景気縮小期に入っており、まさに日本が奈落の底に落ちている真っ最中でした。
しかし自動車に関して言えば、バブル絶頂期に開発の始まった車種がまだゾロゾロとデビューしており、バブルの名残のように現れては消えていったのです。
1993年10月にデビューした6代目セリカも、まさにそんな「生まれてみたら市場が無かった」1台でした。
全車3ナンバー化と、良くまとまった4灯ヘッドライトが特徴
6代目はGT-FOUR以外も全グレード3ナンバー化され、全長こそ10~15mm延長に留まったものの、全幅は1,750mmとFFグレード比では60mmも拡大されました。
ボディが大きくなったのでデザインの自由度は高まり、3代目後期から5代目まで採用されたリトラクタブルライトから、丸目4灯式ヘッドライトに変更。
同年デビューしたホンダ インテグラ(3代目前期)が小さなプロジェクター4灯式で「八つ目ウナギ」と言われ、一部のファンには不評だったのとは対象的に、6代目セリカの大きな丸目4灯デザインはよくまとまっていると好評でした。
セリカGT-FOURは冷却性能向上の為、かなり異なるデザイン
GT-FOURは通常のNA(自然吸気)・FF(前輪駆動)版とはフロントマスクが異なり、左右ヘッドライト間にフロントグリルが追加されました。
そして、中央部がボンネットまでボリュームアップされ、冷却性能を向上。
これは5代目のGT-FOUR RCと同じく上置き水冷インタークーラーを採用し、ラジエター前にインタークーラー冷却水を冷やすコアがあったためで、ボンネット上に熱気排出用の開口部があるのも同様の理由です。
ただし、この方式ではエンジンルーム内が混み合い熱が抜けにくいため、多少の吸気抵抗増大には目をつぶり、前置き空冷インタークーラーへ換装する例も見られました。
「大きく重くなった」の誤解
何かと「大きく重くなった」と思われがちな6代目T200系セリカですが、実はボディの大型化に関わらず、逆に数十kgも軽くなっていました。
ただ、GT-FOURは直接のライバルだった三菱 ギャランVR-4、レガシィRSは、それぞれランサーエボリューション(以下、ランエボ)やスバル インプレッサWRX(以下、インプ)へと一回り小さく軽快なモデルへ主力の座を譲っています。
景気の上でも、モータースポーツの戦闘力の上でも「小さく、軽く、ハイパワー」が求められていたのに対し、逆行する形となってしまったセリカはスペシャリティクーペとしては正しかったのですが、スポーツ向けには時代遅れだったかもしれません。
国内では大別して3つのバージョン
サイズやデザインは大きく変わったものの基本的なバージョンは先代同様4モデルで、そのうち日本国内仕様では3モデルが販売されていました。
FFクーペ(リフトバック・ST202 / 203)
トヨタではクーペと呼んでいましたが、実質的には3ドアハッチバックのリフトバック。
基本形は2リッター直4NAエンジン搭載のFF車(ST202)で、ハイメカツインカム3S-FE(140馬力)のSS-Iと、スポーツツインカム3S-GE(180馬力)のSS-II、SS-IIにLSDやスーパーストラットサスを標準装備したSS-IIIがありました。
1997年12月のマイナーチェンジではSS-Iの4WS仕様(ST203)が廃止された一方、SS-II / IIIの3S-GEがVVT-i化され、200馬力にパワーアップされています。
コンバーチブル(ST202C)
2ドアフルオープンのコンバーチブルは、SS-II / IIIと同じ3S-GEを搭載。
海外仕様で設定されていた、独立トランク式2ドアノッチバッククーペ仕様をベースにアメリカでコンバーチブル化したもので、5代目までの油圧式から電動式ソフトトップへ変更されています。
ちなみに、セリカ・コンバーチブルはこの代が最後になりました。
GT-FOUR(ST205)
4WDターボマシン、GT-FOURは1994年2月のデビュー時から2リッターターボエンジン3S-GTEは歴代最強の255馬力を誇りますが、前月デビューのランエボIIが260馬力を発揮しており、既にライバルから出遅れていました。
その後も3S-GTEは更新されることなく、ライバルが当時の自主規制値(280馬力)に達するまで続けた馬力競争とは一線を引いていたのです。
唯一のエボリューション・モデルはデビュー時に同時発売、2,500台(うち日本は2,100台)が限定販売されました「GT-FOUR WRC仕様車」。
また、グループAホモロゲーション取得用に、ミスファイアリングなど規則で追加の許されないラリー用装備を施していましたが、市販状態では機能しないようになっています。
WRCワークス参戦が短期間で終わって以降はあまりアップデートされず、最後のセリカGT-FOURとなりました。
知る人ぞ知る兄弟車、その名もカレン(ST206 / 207 / 208)
6代目セリカには、海外仕様の2ドアノッチバッククーペ版セリカを別デザインのフロントマスクに換装、日本国内仕様として販売した兄弟車、カレンが存在しました。
グレード構成やエンジンは似ていましたがGT-FOURは無く、1.8リッターの4S-FE(125馬力)エンジンを搭載した廉価グレードが存在します。
斬新なデザインの6代目セリカと対象的に平凡なマスク、セリカと同じトヨタカローラ店ではなくトヨタビスタ店(現ネッツ店)扱いなため、セリカの兄弟車と気づかない人も多かったのでは無いでしょうか。
それゆえ非常にマイナーな存在で、セリカ以上に販売台数の少ないレア車となり、今では知る人も少なくなっています。
ちなみに海外版セリカ2ドアクーペのリアは日本のカレンと全く同じですが、車名は「CELICA」となっています。
モータースポーツでの活躍
国内外のモータースポーツへ参戦した6代目セリカですが、小型軽量化したライバル相手にGT-FOURの戦闘力は低く、国内モータースポーツで目立った戦績は残していません。
同じく、FF車もGT-FOURと同じエンジンを積んだミッドシップスポーツMR2 GT / GT-S(SW20)が有利であまり出番はありませんでしたが、全く戦績が無かったわけではありません。
GT-FOURが大誤算、失策まで重ねてしまったWRC参戦
6代目セリカがモータースポーツで期待された最大の役割は、5代目までと同様WRC(世界ラリー選手権)での活躍でした。
しかし、開発に手こずり参戦スケジュールの遅延。
わずか1勝に留まる戦闘力の低さが問題で、「大きく重くなったボディ」より、ストローク不足でおよそオフロード向きでは無いスーパーストラットサスペンションを採用した事が完全に裏目に出た形となりました。
それに加え、規則違反のリストリクター(最高出力を制約する吸気制限装置)装着が発覚してしまい、1995年のメイクス、ドライバーズ全ポイント剥奪という、最悪の結果を残してしまいます。
ただ、ワークス参戦を禁じられた1996年にもTTE(チーム・トヨタ・ヨーロッパ)からプライベーター参戦し、名手カンクネンが2度にわたり表彰台に上がりました(最高2位)。
リストリクター違反が無ければ熟成次第で戦闘力を増した可能性もありましたが、ワークス参戦再開時のトヨタはライバル同様、小型軽量のカローラWRCを選んでいます。
JGTCでチーム坂東により参戦したFFセリカ、中身はJTCC仕様EXiV
WRC以外のメジャーイベントで目立った戦績の少ない6代目セリカですが、数少ない実例がJGTC(全日本GT選手権)で、坂東レーシングのウェッズスポーツセリカがGT300に出場していました。
フロントマスクは冷却性能のためかGT-FOUR顔でしたが参戦したのはFFのST202がベースで、中身はシャシーやメカニズムを共有するST202コロナEXiVのJTCC(全日本ツーリングカー選手権)仕様です。
動力性能は並でしたが、既にJTCCで熟成されていた高いコーナリング性能などを武器に戦い、1998年から2000年までの3年間で2度優勝するなどの成績を上げました。
ダートトライアル
国内スピード競技での戦績は非常に少ないのですが、それでも探すとありました。
2011年途中から全日本ダートトライアル選手権SC1クラス(2WDのナンバー無し改造車)に参戦した寺田伸 選手が、マシンのデビュー戦(第6戦オートパーク今庄)でいきなり優勝しています。
そして、その後も何度か表彰台に上がる活躍を見せており、2015年のJAFカップまで走らせていたようです。
改造車ゆえ詳細は不明ですが、ベースはFFのST202でJGTCのセリカ同様GT-FOURルックにしています。
パイクスピーク
海外を見渡すと、日本での知名度はあまり無いかもしれませんがメジャーイベント出場歴がありました。
知っている人は知っている、命知らずの超ハイスピードで危険な「パイクスピーク・インターナショナル・ヒルクライム」!
ちょっとコースを外れれば崖から真っ逆さまという、舗装されていたりいなかったりの山道を駆け上がるこの競技。
名手、ロッド・ミレンという名選手が使ったマシンで有名な1台がこのペンズオイル・セリカです。
基本的にパイプフレームに市販車風?カウルを被せただけのシルエットフォーミュラ的なマシンなので、これをセリカのモータースポーツ実績と言い切っていいのかわかりませんが、フロント下部に「CELICA」と書いてあるので間違いなくセリカで、一応T200系モチーフなのは、外側ヘッドライトらしき部分やルーフ形状でわかります。
6代目T200系セリカの代表的スペックと中古車相場
FF車
Photo by peterolthof
トヨタ ST202 セリカ SS-III 1999年式
全長×全幅×全高(mm):4,435×1,750×1,305
ホイールベース(mm):2,535
車両重量(kg):1,210
エンジン仕様・型式:3S-GE 直列4気筒DOHC16バルブ VVT-i
総排気量(cc):1,998cc
最高出力:200ps/7,000rpm
最大トルク:21.0kgm/6,000pm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
新車価格:181.3万~300.6万円(1999年当時)
中古車相場:18.8万~79.9万円(FF全車)
※新車・中古車価格はコンバーチブル含むFF全車
4WD
Photo by cmonville
トヨタ ST205 セリカ GT-FOUR 1994年式
全長×全幅×全高(mm):4,420×1,750×1,305
ホイールベース(mm):2,535
車両重量(kg):1,380
エンジン仕様・型式:3S-GTE 直列4気筒DOHC16バルブ ICターボ
総排気量(cc):1,998cc
最高出力:255ps/6,000rpm
最大トルク:31.0kgm/4,000pm
トランスミッション:5MT
駆動方式:4WD
新車価格:317.1万~327.1万円(1994年当時)
中古車相場:45万~178万円
※新車・中古車価格はWRC仕様車含む
まとめ
トヨタの歴史に名を残すスペシャリティカー、セリカ。
レースやラリーでの活躍でも知られる名車ですが、6代目は丸目4灯ヘッドライトというアクが強くなりがちなデザインをうまくまとめたにも関わらず、大型豪華クーペの流行は既に過ぎ去っていました。
しかもWRCでは致命的な失策で歴史に名を残してしまうという、ファン泣かせの車でもあります。
それでも程度良好な個体ならば、決してヒット作とは言えない20年以上前の車とは思えぬ高価格で中古車が販売されているところに、根強いファンの存在を伺わせます。
GT-FOURはもちろん、末期の200馬力仕様FF車など「高回転NAスポーツの隠れた名車」と感じる人も多いのでは無いでしょうか?
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