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実用車としては駄作、でも軽スポーツとしてはレースで活躍した大傑作!2代目ホンダ トゥデイ

軽乗用車市場への復帰第1作、初代トゥデイで手応えを得たホンダは、2代目へモデルチェンジさせますが、従来型のハッチバック車の利便性に慣れたユーザーには独立トランクが受け入れられず、結局は通常のハッチバック車へとマイナーチェンジされます。しかしMTRECエンジンのおかげで自然吸気の軽ホットハッチ最強と呼ばれ、レースでは大活躍しました。

2代目トゥデイ後期型5ドア / Photo by Niels de Wit

え?!このコンセプトじゃダメだったの?!独立トランクに泣いた2代目トゥデイ

2代目前期2ドア版トゥデイ ポシェット / 出典:https://www.honda.co.jp/news/1993/4930126.html

“実際の軽自動車の使われ方を調べ、そして荷物スペースのあり方を考えていったとき、今まであたり前のように思われていた軽自動車のレイアウトに疑問が生まれました。

それは、ほとんどの積み荷が日常の手荷物程度であるなら、大きくて重いテールゲートはほんとうに必要なのだろうか?  ということです。
より使いやすい荷物スペースを考えれば、片手で軽く開け閉めできるような小型のトランクの方が、はるかにすぐれているだろうと思いました。”
ホンダ公式HP プレスインフォメーション(FACT BOOK) today 1993.01より-

1993年1月に2ドアモデルが、同5月に4ドアモデルの「トゥデイアソシエ」が追加された2代目トゥデイで最大の特徴は、当時の一般的な軽乗用車の全てが採用していたハッチバックスタイルではなく、かつてのN360や初代ライフと同じ、独立トランクを採用していた点です。

1980年代から商用登録(4ナンバー)のボンネットバンが流行した軽自動車では、大きな荷物も積み下ろしがしやすいハッチバック車が好まれていたものの、ホンダは2代目トゥデイの開発にあたっては「乗用専用設計」を売りにしており、平均乗車人数が1.3人程度の都市型コミューターには、貨物車のようなリアハッチはいらないと断じたのです。

2代目前期4ドア版 トゥデイアソシエ / 出典:https://www.honda.co.jp/news/1993/4930507.html

ちょっとした買い物程度の小荷物なら独立トランクでよく、小さな下開きトランクリッドとする事で、女性の力でも容易に開閉可能。かつ上開きの大きなハッチを持たないため、リヤサイドまで回り込んだパノラマウィンドウをリヤに採用でき、後方視界も確保できるというコンセプトでした。

それ以外は全高を高め、女性向けの丸みを帯びた優しいデザインとしたものの、初代と同じSOHC12バルブエンジンは全車PGM-FI化されるとともに、最上級グレードはビートと同じ3連スロットル機構「MTREC」を採用したE07Aエンジンの実用向けデチューン版(ビートの64馬力に対し58馬力)が採用され、スポーティユースにも応えています。

2代目トゥデイ前期の独立トランクは、「このくらいの手荷物を積む程度だろう」と考えた結果生まれましたが、これが大誤算の元になろうとは… / 出典:https://www.honda.co.jp/factbook/auto/TODAY/19930126/to93-005.html

当時のホンダとしては「この独立トランク式が乗用専用モデルの軽乗用車として最適な形」と信じて疑わなかったかもしれませんが、いざフタを開けてみると、「荷物が載らない、開口部が小さくてトランクスルーがあっても入れられない、実用性に欠けた車」として、ユーザーからは全く見向きもされませんでした。

しかもデビューした1993年は、その9月に軽自動車に革命を起こしたスズキの初代「ワゴンR」がデビューし、空前の大ヒットを起こした年でもあります。

ユーザーが求めていたのは、メーカーによる「これくらいがちょうどいいという車」ではなく、「これでもかというくらいスペースが広くて使いみちがよく、着座位置も高い車」だったと気づいた時の、ホンダ関係者の沈痛な気持ちは、いかほどだったでしょう。

初代ワゴンRのコンセプトは、1981年にホンダ自身が発売して世間を驚かせた初代「シティ」で採用したトールボイースタイルの延長線上にあると言ってもよく、いわば、かって自分たちが提唱したコンセプトを発展させたライバルによって、2代目トゥデイがいかに時代遅れでユーザーの要望を見誤った車だったかを、思い知らされてしまったのです。

ハッチバック化と2代目ライフへの発展、そして軽レーサーの傑作と呼ばれる花道へ

2代目トゥデイ前期型Xi(MTREC) / Photo by JOHN LLOYD

ユーザーの嗜好からすると「あまりにも的外れだった」挙げ句、初代ワゴンRによる軽トールワゴンブームでとどめを刺された2代目トゥデイでしたが、それに気づいた時は時すでに遅し!

巻き返しを図るにはダイハツなどと同様、ホンダ版ワゴンR的な車種を急遽開発するしかなく、2代目トゥデイをベースにした軽トールワゴン、2代目「ライフ」を1997年4月に発売しますが、それまで販売不振のトゥデイをそのままにはしておけません。

2代目後期トゥデイ 3ドアGs / 出典:https://www.honda.co.jp/news/1996/4960216.html

まずは商用登録の「トゥデイPRO」のみとはいえ、ハッチバック車の初代トゥデイが継続販売されていたのを幸いに、快適装備を追加。

商用登録のままの乗用ユースモデル(つまり昔ながらのボンネットバン)、「トゥデイハミング」を1994年9月に発売し、いわば好評だった初代トゥデイの再登版でユーザーの繋ぎ止めを図ります。

さらに1996年2月には、独立トランクもリアのパノラマウィンドウもかなぐり捨て、2代目トゥデイをオーソドックスな3ドア/5ドアハッチバック車へとマイナーチェンジさせまたのです。

モデルチェンジで主張したコンセプトの誤りを完全に認めた事になりますが、一旦不評が浸透してしまった2代目トゥデイの人気は結局回復せず、初代トゥデイハミングによって2代目ライフ発売までを細々とつなぐのが精一杯でした。

そして結局2代目後期トゥデイは普通の3ドア/5ドアハッチバック車になった / 出典:https://www.favcars.com/honda-today-ja4-1996-98-wallpapers-64049.htm

しかし、そんな2代目トゥデイにもただひとつ、「ビート譲りのMTRECエンジン」という武器がありました。

58馬力にデチューン(最大トルクは6.1kgmで同じ)されていたとはいえ、2代目トゥデイ前期型MTREC搭載車(5MT)の車重はビートより80kgも軽く、ホンのわずかながらパワーウェイトレシオでは上回っているだけでなく、スポーツ走行では車重の軽さがそのまま軽快な走りに繋がります。

おまけに最高出力にせよ、最大トルクにせよ、ビート用のMTREC版E07Aより800回転低い回転数で発揮したため、 ミドシップ特有の旋回性能以外では、むしろMTREC版トゥデイの方がスポーツモデルとして素性が良いとも言えました。

さらに実用性では圧倒的に不利な独立トランクは、ハッチバックと比べて開口部が少ないため、ボディ剛性面でも有利といったメリットが知れ渡ると、軽自動車耐久などへ参戦しているレース屋には、独立トランクだった2代目トゥデイ前期型MTREC仕様の中古車は大人気。

さらにはハッチバック車にもハッチを開けてのメンテナンス性や実用性といったメリットがあるため、とにかくMTRECを積んでいる(あるいはエンジンスワップのアテがある)なら、どんなトゥデイでもよいという状況になっていきます(初代にMTRECを載せる人もいます)。

独立トランクでもハッチバックでも、MTREC版2代目トゥデイはレースで人気モデルになった / 出典:http://www.speedhunters.com/2016/04/k4-gp-honda-today/

そして、軽スポーツ最速というと、ターボ車やミッドシップスポーツが連想されますが、軽快で高回転までよく伸び、「踏みっぱでイケる最高の軽スポーツ」として、スポーツ派にとってはむしろ垂涎のベース車になったため、やはりホンダの軽乗用車は、カエルの子はカエルだったという事かもしれません。

なお、唯一惜しかったのはJAFで競技車両登録をしていなかった事で、全日本ジムカーナに1,000cc未満の「N1クラス」が設定された2003年、トヨタの初代ヴィッツが主力マシンの最右翼と目されつつも、「JAF登録さえあれば、2代目トゥデイが主力になっただろう」と言われた事でした。

主要スペックと中古車価格

2代目前期トゥデイ ポシェットの内装 / 出典:https://www.favcars.com/honda-today-pochette-ja4-1993-96-photos-254852.htm

ホンダ JA4 トゥデイ Xi 1993年式
全長×全幅×全高(mm):3,295×1,395×1,350
ホイールベース(mm):2,330
車重(kg):680
エンジン:E07A 水冷直列3気筒OHC12バルブ MTREC
排気量:656cc
最高出力:43kw(58ps)/7,300rpm
最大トルク:60N・m(6.1kgm)/6,200rpm
10・15モード燃費:20.0km/L
乗車定員:4人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)車軸式

(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
7.9万~129.8万円・31台

おそらく最後で最強の自然吸気軽スポーツ

2代目トゥデイ アソシエ / Photo by Riley

2021年現在、2代目トゥデイの中古車(4ドアのトゥデイアソシエを含む)は、MTRECエンジン搭載車なら、前期でも後期でも程度のよいものはプレミア価格となっており、かなりの高値がついています。

その後の軽トールワゴン、次いで軽スーパーハイトワゴンの大ヒットが軽自動車ブームの原動力となった事を考えると、どのみちトゥデイのような車は新規格時代まで生き残れず、今後も発売されるとは思えませんが、だからこそ多少どころでなく高価でも、軽スポーツ好きならなくなる前に、一度は乗ってみる価値がある一台です。

もはや生産終了から20年以上がたって維持も容易ではありませんが、この「実用車としては大愚策、軽スポーツとしては大傑作」な車を得意とするショップは依然として存在するため、その気があれば、まだタマ数が残っているうちに買っておく事をオススメします。

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著者:兵藤 忠彦

ダイハツ党で、かつてはジムカーナドライバーとしてダイハツチャレンジカップを中心に、全日本ジムカーナにもスポット参戦で出場。 その後はサザンサーキット(宮城県柴田郡村田町)を拠点に、主にオーガナイザー(主催者)側の立場からモータースポーツに関わっていました。

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