1.6リッター級のホットハッチとして名を馳せた3~6代目シビックですが、中でもDOHC VTECで自然吸気エンジンながらリッター100馬力、160馬力を発揮する「B16A」をシビックで初搭載したのが、1989年にマイナーチェンジを受けた4代目後期型グランドシビック、EF9でした。グループAレースでも活躍したEF9ですが、モデルチェンジされるまでの約2年間しか販売されず、当時のホンダ車はボディが弱かった事もあり、今となってはなかなかのレア車です。
テンロク最強級マシンへDOHC VTECを搭載した「EF9」
当時のホンダで看板車種だった3ドアハッチバック/4ドアセダンの大衆車、「シビック」が4代目へモデルチェンジされ、通称”グランドシビック”となったのは1987年9月のこと。
先代”ワンダーシビック”に続き、1.6リッターDOHC16バルブエンジン「ZC」を搭載したスポーツグレード「Si」(EF3)が、3ドアハッチバック/4ドアセダンともに設定されており、グループAレースでは引き続きトヨタ カローラFXと熱いバトルを繰り広げていました。
そして1989年9月のマイナーチェンジでは、それまで中央部が凹んでいて、ZC搭載車ではエンジンカムカバーとの干渉を避けるパワーバルジが特徴だったデザインが、エンジンルームが狭すぎて熱問題も抱えていたボンネットの中央部を凸形状にするなど内外装を変更します。
さらには、EF3型「Si」を超えるホットモデル、EF9型「SiR」が登場。
同年4月にモデルチェンジを果たした2代目インテグラXSiに初搭載された、DOHC VTECエンジン「B16A」まで搭載されました。
B16Aは1.6リッター自然吸気エンジンDOHC16バルブながら、カムのハイ/ローで吸排気バルブの開閉タイミングとリフト量を切り替える可変バルブ機構「VTEC(ブイテック)」が組み込まれており、130馬力のZCから30馬力もハイパワーな最高出力160馬力を誇るなど、リッター100馬力に達っするハイパワーエンジンです。
なお、次の5代目(シビックフェリオ)とは異なり、4ドアセダンへはB16Aが搭載されなかったため、4代目後期のホットモデル「SiR」および、快適装備充実版「SiR II」は、3ドアハッチバックのEF9にのみ設定されました。
レースやストリートが主な活躍の舞台だった、EF9
EF9が登場した頃、同時にシビックのショートホイールベース版2+2ハッチバッククーペ「CR-X」も、ZCを搭載したEF7型「Si」から、EF8型「SiR」へと最強モデルが移行する形で、ジムカーナで活躍。
ダートトライアルやラリーでは当時活躍の場がなかったため、主な活躍の場はルーレット族や環状族とも言われた非合法なストリートか、あるいはJTC(全日本ツーリングカー選手権)のようなグループAレース、それに各地で開催されていたシビックワンメイクレースでした。
特にJTCディビジョン3では、シビックへ対抗するように登場したトヨタ カローラFX GT(当時はAE92)など、主にカローラ勢と熱い戦いを繰り広げている真っ最中であり、EF9もまずは信頼性優先でVTECを搭載しないバージョンのB16Aで1990年より参戦。
信頼性が確立されるとともに、EF9では205馬力、後のEG6では最終的に230馬力までチューニングされる事となるVTEC版B16Aを搭載するようになり、カローラ勢を退けて、1990年もタイトルを獲得します。
しかし、1991年には次世代の6代目、EG6シビックSiRが登場したため、EF9が主に活躍したのは短期間でしたが、その後もレースやジムカーナ、ダートトライアルの入門用練習車的に、長く現役で使われています。
ただし、EF9は同時期のホンダ車に共通する欠点として、サスペンションのストローク不足により、路面のちょっとしたギャップでもバランスを崩しやすく、ジムカーナ用のEF7/EF8 CR-Xではトリッキーながら軽快に走れるメリットはあったものの、高速走行では不安要素が大きかったため、次世代のシビックではストロークアップなどの改良が施されました。
主要スペックと中古車価格
ホンダ EF9 シビック SiR II 1989年式
全長×全幅×全高(mm):3,995×1,680×1,335
ホイールベース(mm):2,500
車重(kg):1,010
エンジン:B16A 水冷直列4気筒DOHC VTEC16バルブ
排気量:1,595cc
最高出力:118kw(160ps)/7,600rpm
最大トルク:152N・m(15.5kgm)/7,000rpm
10モード燃費:13.2km/L
乗車定員:5人
駆動方式:FF
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ダブルウィッシュボーン(中古車相場とタマ数)
※2021年3月現在
288万・2台(※EF9で流通しているのはSiR IIのみ)
短期間の販売とボディの弱さで寿命が短いレア車
4代目シビックは、後期型のみ約2年間だった販売期間の短さや、当時のホンダ車は鋼板がペラペラで剛性不足、腐食にも弱く、ロールバーで補強していないとスポーツ走行ではすぐ歪むというボディの弱さ、さらにはエンジンパワーに耐えられないという欠点があり、EF9は寿命が短い傾向にありました。
1990年代に入ってから改善されてくるとはいえ、1980年代までのホンダ車は中古車でも値落ちが激しく、すぐに見かけなくなるほどボディの弱さは際立っており、EF9も軽くしようとロールバーを外してジムカーナ走行などへ挑み、走行後にまたロールバーを組み直そうとしたら、もうボディが歪んでいて組めなかった、という逸話が残っているほどです。
それゆえEG6以降に比べると現存台数は少ないようで、中古車市場でもEF3やEF9、その前のワンダーシビックなど、人気のDOHCエンジン搭載車ですらほとんど流通していません。
今でもごくまれに現役のEF9を見かけることはありますが、ジムカーナでは現在も走っているほど長らく現役を続けるEF7/EF8 CR-Xと比べても、かなり貴重な存在なので、技術遺産的なものだと思い、大事に乗っていただきたいと思います。