第2次世界大戦後にアメリカで起きた小型軽量のブリティッシュ スポーツブームに乗ったイギリスのMGでしたが、戦後初期に生産していたスポーツカーはいずれも戦前モデルの発展型であるTシリーズでした。その後、より洗練された戦後初の近代スポーツとして1955年に発売されたのがMGAで、ここから後継のMGBが全盛期を迎える1960年代までが、MGの黄金期だったと言えます。
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戦前型スポーツカーのイメージを完全払拭した新世代ブリティシュスポーツ「MGA」
第2次世界大戦末期、ヨーロッパ大陸へ反攻して最終的な勝利を収めるべく、イギリス本土へ終結した連合軍。その主力たるアメリカ軍兵士は、そこで出会った小型軽量なブリティッシュ スポーツに魅了されました。
やがて戦争にも目途がつき、勝利の末に本国に凱旋した彼らは、アメリカでブリティッシュ スポーツの素晴らしさを伝えていく事になりますが、一方でイギリス本国は長年にわたる大戦争で激しい空襲を受けるなど疲弊しきっており、戦災をほとんど受けずに戦後は豊かな超大国として繁栄を極めるアメリカへ、アレコレと売りさばく必要が生じます。
そこで、駐留から帰還したアメリカ兵と、その薫陶を受けた若者をターゲットにしたスポーツカーは重要な輸出産業となり、戦前から小型スポーツカーの名門だったMGも早速民間向けスポーツカーの生産を再開。戦前型TAやTBの戦後型となる「MG TC」を1945年には発売したのです。
そこからMG TD、MG TFと発展させたものの、しょせんは戦前モデルの焼き直しで、直立したフロントグリルから左右に独立したヘッドライトやタイヤフェンダーといったデザインの古さは、どうしようもありません。
そこで、1951年には戦後の大合併劇でMGを傘下に置いたBMC(ブリティッシュ・モーター・カンパニー)へ新型スポーツカーの企画を持ち込むも、ちょうどその頃はオースチン ヒーレーの計画を立ち上げようとした時期でタイミングが悪く、MGの新型スポーツは一旦お蔵入りとなります。
しかしそうこうしているうちに、1953年に発売されたMG TDの売れ行きは褒められたものでなくなっており、BMCとしても放置できなくなったため、改めてMGの戦後型近代デザインスポーツカーへGOサインが出され、1955年に「MGA」として発売。
ラダーフレームへボディを載せる古い構造のままとはいえ、従来のTシリーズとは全く異なる先端にヘッドライトを持つフェンダー一体式の流線形ボディや、横長で後ろへ傾けられたフロントグリルなど、スピード感にあふれたMGAは、たちまち人気沸騰し、目論み通り10万台以上生産された半分がアメリカへ輸出される、大ヒット作になったのです。
当初のラインナップは、当時のBMCでベーシックユニットだったBタイプの1.5リッターOHVを搭載した2シーターオープンのみで、オプションのハードトップも装着可能でした。
発売翌年には、ハードトップを固定したようなFHC(フィックスド・ヘッド・クーペ)を追加。このクーペでは固定トップによるクローズドボディ化により、従来のオープンモデルのように「外から手を入れて、ドア内側のヒモを引っ張って開閉」ではなく、ドア内外へキチンとドアハンドルが設置されるなど、MG TDまでのMG伝統だったドア開閉方法からようやく開放されています。
さらに、1958年にはBタイプエンジンの1.6リッターDOHC版を搭載し、4輪ドラムだったブレーキも4輪ソリッドディスクに強化された「MGA Twin Cam」を発売。
このDOHCエンジンは当初、特にオクタン価の低いガソリンを使用した時に故障しやすいという信頼性の問題を抱えていましたが、圧縮比を下げ、キャブレターセッティングの見直しで克服し、後述するMk.IIにも搭載されます。
DOHCエンジンは高圧縮比版で108馬力、体圧縮比版でも100馬力を発揮し、一般市販されたMGA各シリーズの中でも、特別なホットモデルでした。
後期は1.6リッター化、そして最終完成形のMk.IIへ
1959年には通常モデルもOHVのままながら、1.6リッターへ排気量を拡大した「MGA 1600」シリーズとなり、初期のTwin Cam用4輪ディスクブレーキを組み込んだ「1600デラックス」も1960年に発売されます。
1961年には、同じBタイプ1.6リッター版と言っても新設計で、排気量も1,588ccから1,622ccとなり、ビッグバルブ化で90馬力までパワーアップした「MGA Mk.II」へとビッグマイナーチェンジを実施。
1962年には後継車MGBへ後を譲って生産される直前だったMGAにとっては、このMk.IIが最終完成形となります。
後にフェアレディやフェアレディZなどの日本製スポーツカーとの競合にさらされるMGBとは異なり、MGAの時代はまさに主要市場のアメリカにおけるブリティッシュ スポーツ全盛期という時代。
デザインはともかくMGBより古い設計で、実用性も劣るとはいえ、現在でも多くのMGAファンに支えられています。
主要スペックと中古車価格
MG MGA 1600 1959年式
全長×全幅×全高(mm):3,960×1,475×1,270
ホイールベース(mm):2,388
車重(kg):910
エンジン:水冷直列4気筒OHV8バルブ
排気量:1,588cc
最高出力:59kw(80ps)/5,600rpm(※グロス表示)
最大トルク:118N・m(12.0kgm)/3,800rpm(※同上)
燃費:-
乗車定員:2人
駆動方式:FR
ミッション:4MT
サスペンション形式:(F)ダブルウィッシュボーン・(R)リーフリジッド(中古車相場とタマ数)
※2021年2月現在
428万~500万円・6台
60年以上前の車でも、旧車より維持しやすい環境がうらやましい
日本では同じヴィンテージMGでも、MGBやMGミジェットと比べて、一般的とは言い難く、より古くてとっつきにくい印象もあるMGAですが、MGBにはないDOHCエンジン搭載車の存在など、興味をそそられる部分は多数あります。
とはいえ、特にオープンモデルでは内側のヒモを引っ張らないと開閉できないドアなど、日本での実用にはどころではなく難があるため、簡単に所有を決断できるものではありません。
それでも、旧ローバーグループの流れをくむ旧車部品製造会社BMH(ブリティッシュ・モーター・ヘリテイジ)が純正部品を再生産していた時期があったり(今は公式HPを見てもラインナップにない)、現代の環境に合わせた改良部品なども海外から取り寄せ可能です。
ヘタな国産旧車よりよほど維持しやすいのも、ヴィンテージ ブリティッシュスポーツのよいところでしょう。
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