この形を見ると日本人なら「いすゞの初代PFジェミニ?」と思ってしまいそうですが、こちらはその元祖にしてGMが世界戦略車として開発した『Tカー』のベース車、つまり初代PFジェミニのベースモデルであるオペル カデットCです。ジェミニには無いハッチバック版やステーションワゴン版、セミオープン版などラインナップも豊富でした。
掲載日:2018/11/22
戦後3代目となるオペル カデットCはGMのグローバルカーとして登場
西ドイツの大衆車メーカー『オペル』が開発した『カデットB』が大ヒットを飛ばし、ついに宿願のライバルフォルクスワーゲン ビートルにセールス面で打ち勝ちました。
あのビートルよりも売れたカデットBは、なんと1965年から1973年までに260万台を生産する大ヒット作となったのでした!
一方、オペルの親会社である米GM(ゼネラル・モータース)は、新たに傘下に置いた『いすゞ』からベレット後継車を開発したいとの要望も受けており、オペルのカデットB後継車を国際戦略車『Tカー』のベースとして開発する事に決めます。
こうして1973年にモデルチェンジした戦後第3世代『カデットC』は、西ドイツ本国では2ドアセダンを主要モデルとした大衆車小型車として登場。
カデットCを中心に『GM Tカー』シリーズとして日本(いすゞ)、イギリス(ヴォクスホール)、アメリカ(シボレー)、韓国(セハン=現在のGM韓国)など、各国それぞれのブランドで生産、販売されることになりました。
しかしカデットCとしては1979年までの比較的短期間で販売を終了。
FF(前輪駆動)の『カデットD』へ移行したので、最後のFRカデットでもあります。
多彩なボディタイプで選択肢がいっぱい!
ボディサイズやFR駆動レイアウト、当初搭載されたエンジンなど先代モデル『カデットB』から踏襲した点も多いカデットCですが、日本版のいすゞ ジェミニ(初代PF)より豊富なボディタイプが存在しました。
とはいえ当時の西ドイツ本国では安価な2ドアセダンで十分というユーザーが多かったので、カデットCの主要モデルも2ドアセダンでしたが、先代から追加された4ドアセダンのほか、2ドアクーペ、ステーションワゴンやハッチバック、セミオープンモデルも設定。
ステーションワゴン版『カデット キャラバン』は5ドアの設定も考慮されましたが、2ドアセダンが主流になったのと同じ理由で3ドアモデルのみ販売される事に。
ハッチバック版『カデット シティ』は『カデット キャラバン』を大幅に短縮したような3ドアコンパクトカーで、同時期に登場した初代ゴルフがFFハッチバック革命を起こした時期にはまだ存在した、FRハッチバック車です。
変わっていたのはセミオープンの『カデット エアロ』で、Tバールーフとキャビン後部は開閉可能な幌という珍しい組み合わせでしたが、結局フルオープンのカブリオレほど思い切っていない上にルーフの着脱が面倒であまり売れなかったようです。
それゆえ現在ではカデットシリーズの中でもかなりのレア車扱いとなり、マニアにとっては非常に魅力的な1台に!!
なお、1977年に登場した1.6リッターエンジン搭載の豪華装備版でヘッドライトが大型化され、その左右端にウィンカーを追加した新フロントマスクが与えられて1978年モデルからは全車フェイスリフトを受けて統一されました。
初期のWRCなどラリーで実績を残したカデットC
やはりどの国でもコンパクトなFRスポーツへの愛着があるのか、2ドアクーペや『GT / E』、『ラリー』などスポーツグレードの設定があったカデットCは、今でも現役でサーキットやラリー競技を走る姿が見られます。
その中でもカデットCのメジャーな実績といえばやはり初期のWRCで、アバルト124ラリーやストラトス、131ラリーなどイタリアのフィアット / ランチア勢やフォード エスコートなど後年まで語り草になる名車に紛れ、オペルはアスコナで堅実な成績を保っていました。
そして1974年以降にカデットCや別ブランドのヴォクスホール シェベットなどが投入され、1977年以降1979年までのアスコナ400に切り替わるまで、総合優勝こそ無かったものの表彰台へ何度か上がっています。
【オペル カデットおよび同系列車のWRC主要戦績】
- 1977年
スウェーディッシュラリー:総合2位(カデットGT/E)
- 1978年
スコティッシュラリー:総合2位(シェベット2300HS)
1000湖ラリー:総合3位(シェベット2300HS)
クリテリウム・デュ・ケベック:総合3位(カデットGT/E)
ツール・ド・フランス:総合2位(カデットGT/E)
サザンクロス・ラリー:総合3位(ホールデン ジェミニ)
- 1979年
スウェーディッシュラリー:総合3位(シェベット2300HS)
主なスペックと中古車相場
オペル カデット(カデットC) 4ドアセダン1.2S 1973年式
全長×全幅×全高(mm):4,124×1,570×1,370
ホイールベース(mm):2,395
車両重量(kg):780
エンジン仕様・型式:水冷直列4気筒OHV8バルブ
総排気量(cc):1,196
最高出力:44kw(60ps)/5,400rpm
最大トルク:88N・m(9.0kgm)/3,400rpm
トランスミッション:4MT
駆動方式:FR
中古車相場:皆無
まとめ
戦後再開された『カデット』の最新作であり、カデットBに続き小型大衆車市場での大成功を期待されたオペル カデットC。
しかし、カデットBで一度は敗北させた宿敵フォルクスワーゲンが1974年に革命的なFFハッチバックコンパクトカー『ゴルフ』(初代)を発売したことで、大衆車市場は一気にスペース効率や使い勝手、経済性を重視する時代へ突入します。
つまり、見た目こそスッキリしておりスポーティですらあったものの、小型大衆車のメカニズムとしては旧弊そのものであるカデットCは、登場直後から『旧式車』となってしまったのです。
事態を打開するためにオペルもFFハッチバック・コンパクトカーの開発を迫られ、カデットCはわずか6年でFFのカデットDへモデルチェンジ。
思わぬ時代の流れで短命を強いられます。
ただしGMでは「古いからこそ、まだFF革命の起こっていない市場では商品性がある。」と判断し、日本のいすゞ ジェミニなどはモデルチェンジせず継続販売。
結局コロンビアで作られていたシボレー版シェベットなど、1990年代まで作られていました。
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