売れに売れたS13シルビアから一転して不人気車となってしまったS14。その人気を再び獲得するために仕切り直しが行われたS15とはどのような車だったのでしょうか?
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日産シルビアの憂鬱
SP310型フェアレディ1500の姉妹車として1964年に東京モーターショ―でデビューし、翌1965年に発売されたシルビアですが、高級パーソナルクーペとして誕生したものの、時代的にそういった車は理解され難く、高額だったこともあり1968年に総生産台数554台のみで生産終了となりました。
その後7年のブランクを経て1975年、B210型サニーをベースに仕立てられたS10型シルビアが誕生したのです。
S10型は当初ヴァンケル型ロータリーエンジンを搭載することで先進性を売りにするはずだったのですが、オイルショックに起因する諸事情で日産はロータリーエンジンの開発を中断、搭載を見送った結果、凡庸な性能の2ドアクーペとしてデビューする事に。
そんな本来のセールスポイントを失ってしまい、内容的には「ちょっと大きいサニー・エクセレント」でしかなかったS10型は、個性的なスタイリングで評価が割れ、正直ヒットしたとは言えない状況に陥ってしまいます。
そしてS110型が1979年にデビューすると、直線基調のすっきりとしたスタイリングや豪華装備によってS10型とは一転し、スマッシュヒットを飛ばしたのでした。
こうしてS110型以降ヒット→不振を繰り返してきたシルビアですが、S13型の大ヒットの後にS14型がコケたことが響き、次世代のS15型では抜本的な対策を取られる事になったのです。
S13型についての記事はこちら。
S14型についての記事はこちら。
S14型が後期で走りに重点を置いた結果、販売台数が若干上向いた事もあり、「オシャレな2ドアクーペ」より「スポーツカー的な2ドアクーペ」へとコンセプトを修正されると同時に、不評となった原因であるスタイリングを大幅に見直すことになりました。
さらに90年前後にモデルチェンジされたり新型車として投入され、好評だった車種のモデルチェンジにことごとく失敗し、販売台数を減らし苦境に立たされていた日産は、戦略の見直しと同時に、コストダウンという命題にも向き合わざるを得ない状況に陥っていたのです。
スポーツしよう! S15シルビア登場
こういった状況の中1999年1月にデビューしたS15型シルビアですが、外寸の縮小化で5ナンバー枠に入るサイズとなり、ピニンファリーナ的なスタイリングは古典的ながら、S14型に比べると引き締まった印象となり、好評を得ました。
また、中身の熟成も進んでおり、ボディ剛性のアップに加えターボ車には更に補強材が加えられるという改良がなされたのです。
エンジンもターボ付きで先代の220psから250psへと、NAも160psから165psへとパワーアップを果たし、更にターボ車には6速マニュアルトランスミッションが採用されるというトピックもありました。
同時にグレード体系も見直され、ターボ車が「Spec-R」、NA車が「Spec-S」となり、従来のK’s、Q’s、J’sといった区分けが廃止。
変更の理由として当時の開発主管の方がインタビューで語ったのは「K’sは『カス』、Q’sは『クズ』と呼ばれているという事を聞いて腹が立ったので変えた」と言う事でしたが、どちらかと言うと仕切り直しの為にイメージを変えたかったという面が大きかったと思います。
様々な点で変更されたS15型シルビアでしたが、実態としては「使えるモノは再利用する」という当時の日産の台所事情が見え隠れするモデルチェンジだったものの、元々のポテンシャルは悪くなかったS14型の正常進化ともいえるS15型への変更は成功し、目標販売台数を超える初期受注を獲得したのでした。
明暗
しかし、このモデルチェンジで日産が重視していたドリフトユーザーの評価が割れてしまう事態に…。
それは「高剛性ボディ」に対する評価でした。
サーキット派にとってはボディの高剛性化は歓迎すべき事で、それ自体は良かったのですが、ドリフト派にとってはある程度のしなりがちょうどよかったS14型より、強化されたS15型は「硬すぎる」という評価になってしまったのです。
しかし、それもサスペンションセッティングや走り方が変化した結果、現在では評価が逆転し、比較的軽量なスペックSをベースに更に補強を入れるという方も居られます。
もう一つ評価が割れる原因になったのが「6速マニュアルトランスミッション」。
この6速ミッション、設計と製造がアイシンAIで、マツダのNB8型ロードスターやSXE10型アルテッツァRS200の物と中身を共用し、基本的にNAエンジンに組み合わせる事を前提に設計されていたので、ドリフト系のようなクラッチを蹴る操作をした場合、急激なトルクの入力に耐えられず砕けてしまうというトラブルが多発したのでした。
その事からわざわざ従来の5速マニュアルに換装するというユーザーも出始めるのですが、ギア破損の対策で日産のレース専門子会社「ニスモ」が強化部品として、強度アップとギアレシオの適正化を図った3速クロスギアを販売することになりました。
このニスモ製3速クロスは、ギア比が適正化されたという事もあり、部品を共用しているロードスターやアルテッツァのユーザーからも需要があり、ひそかな人気部品となったのです。
更に過激に、更に華麗に
ターボ車ばかり注目される一方で、スペックSをベースにスペックR同等のボディ・ブレーキを採用し、圧縮比アップやカムの作用角を変更、フジツボ製ステンレスエキマニにステンレスマフラーを装着するというリファインを施し、NAながら200psを発揮するオーテックバージョンを1999年10月に追加。
こうしたチューンドカーを追加し、走り屋一辺倒な印象を持たれそうになっていたS15型シルビアに2000年5月、ヴァリエッタという名のオープントップ仕様が追加されます。
しかもS13に設定されていたカブリオレと違い、メタルトップと呼ばれる金属製ルーフを持ち、電動化したことで当時世界的に流行し始めていたオープンカー需要に応えたのです。
さらに内装素材においても光の当たり方によって色合いが変わって見えるモルフォクロスを採用し、スペシャリティーカーとしての本分も忘れず進化を図るなど、さまざまなグレードを展開したのでした。
The end of summer love
そうした努力もむなしく販売台数は徐々に低下していった2002年1月、遂に同年8月いっぱいでの生産終了がアナウンスされ、最終特別仕様車「Vパッケージ」が登場。
同時にグレードの整理が行われ、1965年から途中の中断を含めて37年に及ぶシルビアの歴史にピリオドが打たれることになりました。
生産終了という判断になったのは販売台数の低迷以外にもう一つ、「排ガス規制の継続生産車への猶予期限」がありました。
実は平成12年排ガス規制が2000年より施行されていたものの、継続生産車(=既に市販済みの乗用車)に対する規制は2002年8月までの猶予が認められていたのですが、8月以降も販売しようとした場合、平成12年規制をクリアしなければいけない事になっていたのです。
SR系エンジン自体はその後も日産の主力エンジンとして生産する予定があった一方、縦置き用と横置き用で作り分けていたSR系エンジンの中でもシルビアに搭載されていたSR20DE/DETは、他車種に搭載されずシルビア専用と化していた縦置き用だった為、販売台数の拡大が見込めない以上切り捨てられるのは自明の理でした。
そして時を同じくして、販売台数の見込めないスポーツカーをラインナップから外すことが他社からも発表され、日本製スポーツカーの多くがカタログ落ちしてしまう、正に悪夢のような年になってしまったのです。
そんな中、生産終了間近の6月、日産はシルビアの広告にこんなキャッチコピーを加えました。
「この夏を過ぎたら、もう会えない」
それはある意味シルビアらしい、クルマを擬人化した郷愁を誘うキャッチコピーでした。
こうして2002年8月いっぱいで生産終了し、歴史に幕を閉じることになったのです。
S15型シルビアのレース活動
S15は、S13、S14に続き全日本GT選手権のGT300クラスに参戦しました。
そして2001年にはダイシン・シルビアがクラスチャンピオンを獲得し活躍しますが、2004年からは主力の座をZ33型フェアレディZに譲り、翌年には姿を消してしまいます。
そしてサーキット以外にも全日本ラリーへNRSより参戦、2輪駆動部門で2001年、2002年と連続でタイトルを獲得したのでした。
さらに2001年より開始されたD1グランプリにおいても谷口信輝氏が駆るS15型シルビアが突出した強さを見せ、ドリフト系においてもS14からS15への変更をするドライバーが多数現れました。
そして生産終了より数年経った現在では、希少となった5ナンバー枠に留まったコンパクトなボディが好まれタイムアタック用のベース車両としても選ばれています。
S15型シルビア・specRのスペック (※カッコ内はAT車)
全長×全幅×全高(mm):4445×1695×1285
ホイルベース(mm):2525
エンジン:SR20DET 直列4気筒DOHCターボ
最大出力:250ps/6400rpm(225ps/6000rpm)
最大トルク:28.0kgm/4800rpm
トランスミッション:6速マニュアルトランスミッション(4速オートマチック)
駆動方式:FR
新車時価格:239万円(243.7万円)※2002年 Vパッケージ
中古車相場:24.9万円~348.8万円(2017年10月現在)
まとめ
国産で手軽に乗れるスポーティーカーが激減した現在、S15型シルビアは貴重な存在として今では大切に乗られている方も多いのではないでしょうか。
その座は徐々にZN6型トヨタ86に取って代わられようとしていますが、5ナンバー枠に収まるコンパクトなボディと、現在の水準からみると軽量ハイパワーなパッケージを持つS15型シルビアの代わりになり得ない面もあり、未だに愛されています。
後継車の噂もちらほら出ていましたが、まだまだはっきりした事はわかりません。
ひょっとしたら最終型のキャッチコピー通り「もう会えない」存在になってしまうかも知れませんが、シルビアの名でなくともその精神を受け継ぐようなクーペが登場することを願って止みません。
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