現在では当たり前のように販売されており、車種によっては人気モデルですらあるのに、かつては「珍車扱い」だった代表的カテゴリーが「クロスオーバーモデル」です。現在のクロスオーバーとは異なるクロカンRV的な要素により、否定的な見方が強かったものの次第に受け入れられていった時期に、珍車と名車の境目にあった代表格が、三菱のギャランスポーツでした。

三菱 ギャランスポーツGT / 出典:https://www.mitsubishi-motors.com/jp/company/history/car/

2リッター級ステーションワゴン不在の三菱が放った苦肉の策

ギャランスポーツのベースとなった海外仕様5ドア版。市場により「ギャランクーペ」「ギャランハッチバック」として販売されていた。 / 出典:https://www.favcars.com/photos-mitsubishi-galant-coupe-1993-96-291068.htm

「GTの走りと、RVの楽しさ。」をキャッチコピーに、7代目ギャランの5ドア派生車種「ギャランスポーツ」が登場したのは1994年8月でした。

当時の三菱は、1990年頃にブレイクしたRVブームで、クロカン4WDのパジェロが初代末期から2代目にかけて爆発的なヒットを飛ばし、1994年12月には軽自動車版パジェロミニの登場も控え、さらにパジェロ由来のミニバン、デリカスターワゴンやデリカスペースギアも人気など、まさに「RV王国」といった様相でした。

さらにはディアマンテで3ナンバー大型FFセダンの新境地を開き、ギャランVR-4のスピリットを受け継いだランサーエボリューションや、パリダカに参戦するパジェロによるラリーイメージも濃く、GTOやFTOといったスポーツクーペでスポーツイメージにもあふれ、2000年代以降の失速が信じられないほどの隆盛を誇っていたのです。

販売規模こそ小さいものの、大抵の車は揃うフルラインナップ体制を維持していた当時の三菱ですが、唯一ブームに乗り遅れていたのがステーションワゴンでした。

それも王者スバル レガシィツーリングワゴンへ対抗する、2リッター級ワゴンが不在だったのです。

インプレッサやカローラ級ならリベロが、より大型ならオーストラリアから輸入していたディアマンテワゴンもありましたが、ギャランのワゴンは4代目を最後に廃止されており(しかも国内未発売)、一番の激戦区に投入できる車種がない事は、販売店にすると困った事態でした。

そこで苦肉の策として、1992年デビューの7代目ギャランで海外仕様に設定されていた5ドアハッチバックセダンに白羽の矢が立ったものの、テールゲートが寝たデザインとなっており国によっては「ギャランクーペ」として販売していたほどで、他車のようにショートワゴンやスポーツワゴンと言い張る事もできません。

それゆえ思い切って、三菱のRVイメージを活かしたGT兼RVとして導入。CMには「GTRV」の文字を大きく光らせたため、今でも車名を「ギャランスポーツGTRV」だと思っている人がいるほど、インパクトのあるデビューとなりました。

間が悪すぎたデビューで珍車扱いと思いきや…?

「GT」ではない素のギャランスポーツには大型バンパーガードはなし。/ 出典:https://www.favcars.com/pictures-mitsubishi-galant-sports-vii-1994-96-9474.htm

「GTRV」としてインパクトもバッチリなデビューを果たしたギャランスポーツでしたが、実はデビュー時期が大問題で、発売当初は「何だコレ?!」と奇異の目で見られ、現在に至るまで珍車扱いのイメージが定着してしまいます。

というのも、デビューした1994年8月頃は、バブル時代には豪華さの象徴とも言えた大型バンパーガードが、よほど田舎に行かなければ大型動物が飛び出してくるわけもない日本では過剰装備とされ、それどころか衝突時には相手へのダメージを増す危険性や、大きく重たいため空気抵抗の面でも重量増で、燃費や走行性能に悪影響を与えると、批判の対象になっていたのです。

ギャランスポーツはいずれも2リッターV6エンジンを積む2グレードが設定され、ベースグレードはSOHC自然吸気エンジンのFF・4ATの廉価版、ルーフレール以外にRVっぽい要素はなく、ちょっと地味で堅実な5ドアセダン。主力の「GT」はギャランVR-4やエテルナGTと同じDOHCツインターボの4WDで、GTらしい動力性能を誇ったのはともかく、クロカン4WDばりの大型バンパーガードが「またこんな無駄なものをつけて!」と、ハッキリ言えばRVブームに便乗した、あるいは便乗しそこねたカッコワルイ車と、猛烈に酷評されました。

三菱としては、

“『ギャラン』をベースに、ライトデューティRV志向とスポーツスペシャリテイ志向の両方を満たすクルマ”(「三菱車の歴史」)

というつもりでしたが、ライトデューティRV、あるいはシティオフローダー、今でいうクロスオーバーSUV的なモデルがどういった車なのか、まだうまくイメージできていなかった時代だったので、「何か勘違いした車」と思われてしまった感が否めません。

ギャランスポーツGTとよく対比されるのが、スバルの初代インプレッサワゴン「グラベルEX」。当時はこの種の車の存在を許す土壌がなかった。 / 出典:https://www.favcars.com/subaru-impreza-wagon-gravel-ex-1992-96-wallpapers-85501.htm

もっとも、同時期(1995年10月)にはスバルも初代インプレッサの追加モデルとして、オプションとはいえ大型バンパーガードに加え、背面スペアタイヤまで装備可能な「グラベルEX」を発売しており、他社にも大同小異ながら似たような車がラインナップされていたため、三菱だけがカンチガイしていたわけではありません。

しかし、ギャランスポーツは間の悪い時期に、「GTRV」と大々的に宣伝した期待の新型車だった上に、1世代前のエテルナ(ギャラン姉妹車)で「5ドアセダンは日本で売れない」という大失敗をした後だったため、普通の5ドアスポーツGTではなく「GTRV」に全振りした姿勢が、批判を受ける結果となったのです。

もっとも、その割には猛烈に販売不振だったという話は聞かず、ギャランのモデルチェンジで廃止され、後継の普通のステーションワゴン「レグナム」が登場するまでのつなぎ役は、立派に果たしたのかもしれません。

主要スペックと中古車価格

三菱 ギャランスポーツ / 出典:https://www.favcars.com/mitsubishi-galant-sports-vii-1994-96-images-9476.htm

三菱 E74A ギャランスポーツ GT 1994年式
全長×全幅×全高(mm):4,705×1,730×1,460
ホイールベース(mm):2,635
車重(kg):1,450
エンジン:6A12 水冷V型6気筒DOHC24バルブ ICツインターボ
排気量:1,998cc
最高出力:177kw(240ps)/6,000rpm
最大トルク:309N・m(31.5kgm)/3,500rpm
燃費:-
乗車定員:5人
駆動方式:4WD
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)マルチリンク

(中古車相場とタマ数)
※2021年5月現在
流通皆無

コンセプトを熟成・継続させれば面白かったかも?

三菱 ギャランスポーツ / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=5878

後継のレグナムは正統派GTワゴンとして普通に人気でしたが、ギャランスポーツの「GTRV」コンセプトが全く受け継がれなかったのは、少々惜しまれます。

というのも、1996年5月には日産からパルサーセリエ/ルキノハッチの5ドアRV仕様「S-RV」が発売されて人気になったほか、スバルからもレガシィグランドワゴン(現在のアウトバック)が登場するなど、「やり方によってはRV風モデルで人気が出る」と証明されました。

これらRV風モデルは現在のクロスオーバーモデルの原型で、もう誰も珍車扱いをしなくなっており、ギャランスポーツも当初の珍車扱いの割にはそこそこ売れたようで、街でも普通に見かけたので、三菱でもGTRVコンセプトを発展させる余地があったと思います。

実際、1クラス下のリベロではRV風の「リベロ モンテ」が人気で、レガシィグランドワゴンや日産 アベニールブラスターのようなクロスオーバーモデルを設定すれば、レグナムの人気がさらに続いたかもなどと考えると、ギャランスポーツ発売当初の猛烈な批判は、ちょっときついトラウマ、効きすぎた薬だったかもしれません。