三菱自動車にとって”ランサー”というクルマはインターナショナル ラリー参戦に欠かせない存在となり、時代を跨いで活躍してしてきた小型乗用車です。今回は、ラリーベース車両として開発された各世代におけるランサーのグレードや限定仕様車、限定モデルの進化に迫ります。
初代ランサー1600GSR
三菱自動車が1973年に発売を開始した初代ランサーでラリー車両のベースグレードとなったのが、同年9月にラインナップに加わった”1600GSR”です。
全長3995mm×全幅1535mm×全高1365mmというコンパクトな車体に、ミクニ製ソレックスキャブレターを連装した最高出力110馬力を誇る1600cc4気筒エンジンを搭載したFRマシン。
800kg台の非常に軽い車体と高出力、低燃費のサターンエンジンを武器に、1973年オーストラリアで開催されたサザンクロスラリーでは総合1位から4位を独占し、三菱ラリー史にとって輝かしい1ページを開きました。
そして1974年、世界一過酷といわれていたイースト アフリカン サファリラリーに、地元プライベーターのジョギンダ・シン氏がスポーツキットでチューニングしたランサー1600GSR(エントリーネームはコルト・ランサー)で参戦。
この年のサファリラリーは、エントリー総数99台のなかでもポルシェ、フォード、ランチア等のワークスチームに日産自動車も新型の260Zを持ち込む等、各メーカーの強力なライバルが出揃っていました。
豪雨と洪水という最悪のコンディションの中、予選46位からスタートしたランサー1600GSRは悪条件を上手く切り抜け、驚異的な追い上げをみせて第1ステージ終了時には首位のプジョー504と僅差の2位まで這い上がります。
そして続く第2ステージは、サバイバルゲームと化す中でライバルのプジョーは脱落し、追いついてきたワークスチームのポルシェも最終的にサスペンショントラブルを発生して後退。
その結果、ランサーがトップに立ち劇的な総合優勝を果たしたのでした。
そんな耐久性、整備性に優れた初代ランサーは、1976年開催のサファリラリーでもトップを独走して総合優勝を果たした上に、1位から3位まですべて独占するという金字塔を打ち立てたのです。
2代目三菱ランサー2000ターボECI
三菱自動車が、インターナショナルラリー参戦用ベースモデルとして1981年4月からヨーロッパ市場限定で販売を開始したのが”ランサー2000ターボECI”です。
ランサーEXの車体に、ギャランΛ エテルナΣ日本仕様のシリウス80ユニットと基本的に共通のサイレントシャフト付き2リッター ターボエンジンを搭載したフロントエンジン リヤ駆動モデル。
独自のECI燃料噴射装置と三菱重工業製TC05タービンを装着してウェイスト ゲートとリリーフバルブで保護されたエンジンは、最大過給圧570mmHgを可能にし、最高出力170ps/5500rpm、最大トルク25,0mkg/3500rpmを発生していました。
また、5速ギアボックス、ファイナルなどもギャランΛ エテルナΣと共通に換装されてステアリングギアボックス、プロペラシャフトジョイント、リヤアクスルまでが強化されるなど耐久性も向上。
さらに、脚廻りはガス封入式のダンパーに強化コイルスプリングというギャランΛ エテルナΣと同じ強化方法を採用し、フロント256mm、リア247mm径の通気式ディスクブレーキが与えられて5.5Jアルミホイールを装備。
インターナショナル ラリーのベース車両に相応しいホットモデルに仕上がっています。
外装に目を向けると、フロントには巨大なエアダムを装着して迫力を増すと共に4.4km/hマキシマムを高めてリフト量を抑える効果に役立たせ、リアトランクエンドに小型スポイラーが備え付けられるなどして4.8km/hの最高速が稼がれました。
そして1982年、平均速度が最も高いWRC屈指の超高速ステージで有名なフィンランドで開催される世界ラリー選手権『1000湖ラリー』に参戦したランサー2000ターボECIは、高速スピードでの安定性とECI燃料噴射装置、そしてターボの組み合わせで威力を発揮。
強豪アウディ クワトロと互角に競い合い、最終的に見事3位入賞を果たしています。
4代目ランサー・エボリューション
ギャランVR-4に代わってWRC参戦のベース車両として1992年に売り出されたのが、三菱ランサー エボリューションです。
WRC グループAのホモロゲーションを取得する条件である”生産台数2500台”をクリアする為に販売された限定車でしたが、発売3日間で完売するほどの人気で後に追加販売されるほどの爆発的な大ヒット。
ランサー1800GSRの車体に、ギャランVR-4に搭載されていた2リッターDOHC4気筒エンジンを搭載した4WDマシンで、エンジン形式はVR-4と同じ”4G63型”であってもランサー エボリューションに搭載されるエンジンにはWRCラリーのグループA規定に対応するためのバージョンアップが施されていました。
また、シリンダーヘッド、ピストンなども改良されてクランクシャフトやコンロッドもフリクション低減に向けてサイズを変更。
TD05H-16G-7タービンを搭載し、インタークーラーも全面的に見直されてVR-4より10馬力アップの250馬力を達成。
アルミニウム製ボンネットに開口部の大きなフロントマスク、リアには大型スポイラーを装着して限定車に相応しいフォルムに仕上がっています。
それに加え、ボディ剛生を考えて強度のある中近東向け輸出車両をベースに、スポット溶接増しや補強パーツを装着。
1800GSRをベースに、ミッションのギアの強度変更やサスペンションの減衰力を見直してスプリングレートの変更をするなどハイパフォーマンス仕様となりました。
本来の目的であるラリーにおいては、1993年の開幕戦ラリー モンテカルロから1994年第3戦サファリラリーまでワークスとしてWRCに参戦し、1994年、参戦最後のサファリラリーでは第2位に入賞しています。
ランサーエボリューションスペック
車名・形式 | 三菱・E-CD9A・GSR |
全長 | 4310mm |
全幅 | 1695mm |
全高 | 1395mm |
ホイールベース | 2500mm |
車両重量 | 1240kg |
エンジン形式 | 4G63/直列4気筒ターボ |
ボア×ストローク | 85.0mm×88.0mm |
総排気量 | 1997cc |
最高出力 | 250ps/6000rpm |
最大トルク | 31.5kg-m/3000rpm |
燃料配給装置 | ECIマルチ(電子制御燃料噴射) |
変速機形式 | 5速マニュアル |
ステアリング形式 | ラック&ピニオン |
サスペンション形式(前) | マクファーソン・ストラット |
サスペンション形式(後) | マルチリンク |
ブレーキ(前) | ベンチレーテッドディスク15 インチ |
ブレーキ(後) | ディスク14 インチ |
まとめ
時代を跨がって三世代のランサーラリーモデルを振り返り、気づかされるのはランサーエボリューションで行われたベースモデルに排気量の大きな上級車種のエンジンを換装する手法は、ランサーEXにギャランΛ エテルナΣ系のエンジンを載せた『欧州ランタボ』の時代にも行われていたマシンの製作方法だったという真実。
エンジン開発コストの削減と、先行車種のエンジンは信頼性も保証されているので耐久性の必要なラリーフィールドでは、とても有効な方法といえるのでしょう。
軽量コンパクトな車体に1600ccのDOHCエンジンを積んだ初代ランサー、ターボを装着してエンジンパワーで勝負をかけたFRランタボ、そして4WDマシンに排気量の大きなエンジンを換装してインタークーラーターボで250馬力を発揮させるランエボ。
WRCを戦うために開発されたランサー ラリーモデル達は、その時代ごとの最新技術を吸収しながら戦闘力を高めてきました。
そしてエボリューションの名がついたランサーは、その後ファイナルバージョンが2016年に販売終了となるまで、爆発的な人気を維持しながら約四半世紀をかけて進化を続けて行くことになったのです。
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