1990年代中盤、GTカーの規定が見直され、新しいLM-GT1規定に沿ったレーシングカー『ポルシェ911GT1』が登場しました。当時、最速GTカーとされていたマクラーレンF1に対抗すべく開発され、ポルシェ911をベースとしていましたが、中身は特別なプロトタイプカー。ホモロゲーションモデルとして公道走行可能なモデルが若干数販売され、現在は数億円で取引されるほど高い希少価値になっています。そんな、今なお歴代ポルシェレーシングカーの中で、強烈なインパクトのあったポルシェ911GT1についてご紹介します。
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妥当マクラーレンF1!世界最速GTカーを目指して開発されたポルシェ911GT1
ポルシェ911GT1は、1990年代半ばにル・マン24時間レースやBPRグローバルGTシリーズ(のちのFIA-GTシリーズ)参戦を視野に入れて開発されたレーシングカーです。
当時、GT1カテゴリーのレースではBMWのエンジンを搭載したマクラーレンF1の速さが目立っており、ポルシェはマクラーレンF1に対抗するために、GT1カテゴリーのレースに出場するワークスおよびプライベーターチームのレース専用車として911GT1を製作し、1996年にル・マン24時間レースで初登場します。
ポルシェの公式発表ではポルシェ911をベースに開発しているといわれていましたが、外観の面影は911を感じさせるものの、中身は全くの別物で、まさに新開発のプロトタイプカーといえるマシンでした。
ポルシェ993/996をベースにしつつも中身は全くの別物
ポルシェが積極的に911GT1でレース活動を行ったのは、1996~1998年までわずか3年間。
1999年にFIA-GT1カテゴリーが消滅したことで、ル・マン24時間レースやFIA-GTシリーズなどの出場できる場がなくなり、1999年以降はアメリカ・ル・マン・シリーズやデイトナ24時間など北米のレースにしか出場していませんでした。
このように911GT1は短命なレーシングカーでしたが、ポルシェは911GT1をメルセデスベンツやトヨタ、マクラーレンBMWといった並み居る強豪を抑え、ル・マン24時間レースで優勝するまでのマシンに仕上げたのです。
1996年モデル ポルシェ911GT1
911GT1のシャシーは、ポルシェ911のボディーのキャビンとフロント部分は残し、エンジンを搭載する後部をリメイクしたものでした。
具体的には911はRRレイアウト(リアエンジン リアドライブ)でしたが、911GT1ではミッドシップにエンジンが搭載され、サスペンションの取り付けをダブルウィッシュボーン式に変更。
ボディ剛性の強化などを行い、911の面影はほぼありません。
ボディ全体は、ロングノーズ&ロングテール化とトレッドのワイド化がなされ、Cカーを思わせるようなワイド&ローの車体に仕上がっています。
また、当時のポルシェ911はまだ空冷エンジン時代の993世代にあたり、パワーを出すには不向きだったため、911GT1のエンジンは完全な新設計で、すべてアルミニウムを用いて水冷化した水平対向型6気筒ツインターボエンジンが搭載されました。
そして1996年のル・マン24時間レースに出場した際のマシンの最大出力は640馬力とされており、練習セッションで最高速度330km/hを記録。
ライバル車と比較すれば、1996年モデル・フェラーリF40・GTEⅡで635馬力、マクラーレンF1・GTRで約620~630馬力だったため、911GT1は最もパワーのあるマシンとなったのです。
また、ル・マン24時間レース決勝では、ポルシェチームの911GT1の2台がGT1クラスに出場し、総合で2位と3位に入り、クラス優勝を果たします。
それに加え、決勝レースで総合優勝したのは、LMP1クラスにプロトタイプカー『Porsche WSC-95』を持ち込んだチーム・Joest Racingだったため、表彰台をポルシェのマシンが独占する形となりました。
1997年モデル ポルシェ911GT1 Evo
1997年は、ポルシェ911が996型へモデルチェンジしたため、911GT1のヘッドラインランプが996型と同様の涙目型ヘッドランプを移植し、『911 GT1 Evo』に改名しました。
空力特性を見直して直線スピードを稼ぐ方向性にセッティングしたため、911GT1 Evoの最高速は326km/hにも達しました。
この年にGT1カテゴリーマシンで争われるFIA-GTシリーズが始まり、ポルシェも911GT1 Evoを投入します。
同年、メルセデスAMGは新型CLK-GTRを投入。
BMWは自社製のエンジンを搭載するマクラーレンF1を自らのワークスチームのマシンとして出走させ、911GT1 Evoはこの2台に大敗を喫します。
さらに、ル・マン24時間レースでもワークスチームの持ち込んだ2台の911GT1 Evoがリタイアしてしまい、同じマシンで出場していたプライベーターチームの『Schübel Engineering』、『BMS Scuderia Italia』が5位と8位に入る結果で終わりました。
1998年モデル ポルシェ911GT1-98
ポルシェは、1998年にモデル・ポルシェ911GT1の大幅改良し車名を『ポルシェ911GT1-98』としました。
フレームはカーボン製モノコックフレームを搭載し、約100kgの軽量化と高い剛性を確保することに成功。
さらに新型6速シーケンシャルギアボックスも導入します。
FIA規定により最大出力は550馬力まで制限されましたが、レースによっては馬力抑制するリストリクターを外してハイパワー化させ、歴代モデルと比較しても相当なパワーを発揮していたそうです。
そして、1998年ル・マン24時間レースでは、最大の優勝候補がトヨタGT-One TS020とされ、他にもメルセデスベンツCLK-LM、日産R390GT1など強力なライバル達も出走。
そして、BMWはマクラーレンF1に代わり、ウィリアムズと共同開発した新型BMW・V12 LMを投入してきました。
決勝レースではトヨタGT-One TS020と911GT1-98が終始トップ争いを演じ、トップを走行する29号車GT-One TS020がリタイアした事で、911GT1-98の25号車と26号車のワンツーフィニッシュ。
ポルシェは911GT1での参戦3年目で、目標であった総合優勝を達成。
1999年はレギュレーション変更のため911GT1の出番がなくなりましたが、それでも有終の美を飾った911GT1は多くのレースファンを魅了しました。
ポルシェ911GT1の主なレース成績
ル・マン24時間レース
レース | チーム | ドライバー | リザルト | |
---|---|---|---|---|
1996年 | ル・マン24時間レース(GT1クラス) | ポルシェAG | Hans-joachim Stuck Thierry Boutsen Bob Wollek |
2位 |
ポルシェAG | karl-Wendinger Yannick Dalmas Scott Goodyear |
3位 | ||
1997年 | ル・マン24時間レース(GT1クラス) | Schübel Engineering | Pedro Lamy Armin Hahne Patrice Goueslard |
5位 |
BMS Scuderia Italia | Pierluigi Martini Christian Pescatori Antonio Germann de Azevedo |
8位 | ||
1998年 | ル・マン24時間レース(GT1クラス) | ポルシェAG | Laurent Aïello Allan McNish Stephane Ortelli |
優勝 |
ポルシェAG | Jörg Müller Uwe Alzen Bob Wollek |
2位 |
FIA-GTシリーズ
シーズン | レース | チーム | シリーズランキング |
---|---|---|---|
1997年 | FIA-GTシリーズ(GT1クラス) | Porsche AG | 4位 |
Roock Racing | 5位 | ||
Schübel Rennsport | 9位 | ||
BMS Scuderia Italia | 9位(同順) | ||
1998年 | FIA-GTシリーズ(GT1クラス) | Porsche AG | 2位 |
Zakspeed Racing | 4位 |
公道を走るGT1レーサー!911GT1の公道仕様『ポルシェ911GT1 Straßenversion』
911GT1はFIA-GT1規定を満たすために、若干数の公道仕様車『ポルシェ911GT1 Straßenversion(Strassenversion:公道仕様の意味)』を生産しています。
生産台数は1996年モデルは2台、1997年モデルは21台、1998年モデルは1台と言われており、GT1規定では25台の公道走行可能な市販車を生産しなければなりませんでしたが、1998年に規定が変更されたため、1台しか作られなかったそうです。
しかし、911GT1 Straßenversionの生産台数についてはさまざまな憶測があり、現状で正確な台数はよくわかっていません。
それでも、ポルシェがル・マン24時間レースに勝つために作った911GT1のホモロゲーションモデルということで、人気と希少価値が非常に高く、現在のオークションでは数億円で取引されるほど。
ちなみに911GT1 Straßenversionではありませんが、レースで出走していた911GT1をのちに公道仕様に改良した『Porsche 911 GT1 Evolution』がモナコので行われたオークションに出品され、2,772,000ユーロで落札されました。
これは日本円に換算すると、なんと3億5,900万円にもなり、自動車オークション史上で2番目に高い落札価格とされています。(2018年現在)
ポルシェ911GT1のレース車両と911GT1 Straßenversionのスペック
レース仕様ポルシェ911 GT1(1996)/911 GT1 Evo(1997)/911 GT1-98(1998)のスペック
911 GT1(1996) | 911 GT1 Evo(1997) | 911 GT1-98(1998) | |
---|---|---|---|
全長×全幅(mm) | 4,683×1,946 | 4,710×1,980 | 4,890×1,990 |
ホイールベース(mm) | 2,500 | 2,500 | 2,500 |
車重(kg) | 1,000 | 1,250 | 950 |
エンジン種類 | 水平対向6気筒DOHC16バルブツインターボ | 水平対向6気筒DOHC16バルブツインターボ | 水平対向6気筒DOHC16バルブツインターボ |
排気量(cc) | 3,200 | 3,163 | 3,220 |
ボア×ストローク(mm) | 未公開 | 未公開 | 74.4×95.5 |
圧縮比 | 9.0:1 | 9.0:1 | 未公開 |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 440[600]/7,200 | 400[544]/7,200 | 404[550]/7,200 |
最大トルク(N・m[kgf-m]/rpm) | 600[61.1]/4,250 | 600[61.1]/4,250 | 630[61.1]/5,000 |
トランスミッション | 6速MT | 6速MT | 6速MT |
サスペンション | 前:ダブルウィッシュボーン 後:ダブルウィッシュボーン |
前:ダブルウィッシュボーン 後:ダブルウィッシュボーン |
前:ダブルウィッシュボーン 後:ダブルウィッシュボーン |
タイヤサイズ | 未発表 | 未発表 | 前:270/35-19 後:310/35-19 |
最高速度(km/h) | 約320 | 約310 | 約325 |
公道仕様ポルシェ911GT1 Straßenversionのスペック&性能
1997年モデル Porsche 911 GT1 Straßenversion | |
---|---|
全長×全幅×全高(mm) | 4,710×1,950×1,170 |
ホイールベース(mm) | 2,500 |
乗車定員(名) | 2 |
車重(kg) | 1,200 |
エンジン種類 | 水平対向6気筒ツインターボ |
排気量(cc) | 3,164 |
ボア×ストローク(mm) | 95.0×74.4 |
圧縮比 | 9.5:1 |
最高出力(kW[PS]/rpm) | 405.7[551.6]/7,000 |
最大トルク(N・m[kgf-m]/rpm) | 600[61.1]/4,250 |
トランスミッション | 6速マニュアル |
駆動方式 | RWD |
ブレーキ | 前:8ピストンキャリパー・ABS付 後:4ピストンキャリパー・ABS付 |
サスペンション | 前:ダブルウィッシュボーン 後:ダブルウィッシュボーン |
タイヤサイズ | 前:295/35ZR18 ピレリ P ZERO 後:335/30ZR18 ピレリ P ZERO |
Porsche 911 GT1 Straßenversion | |
---|---|
0-100km/h加速達成時間 (秒) | 3.9 |
0-400m到達時間(秒) | 11.6 |
最高速度(km/h) | 308 |
ブレーキ制動距離(m) 100km/h→0 | 36.0(減速10.7 m /s²) |
ブレーキ制動距離(m) 200km/h→0 | 130.8(減速度11.8 m /s²) |
まとめ
911GT1はル・マン24時間レースとFIA-GTシリーズで活躍し、GTカーとしての速さとポルシェ911を彷彿とさせるレーシングカーとしてのカッコよさで見ている人を魅了してきました。
また、ル・マンではわずか3年しか見られなかったものの、メルセデスベンツ、トヨタ、BMWとの激しいバトルを繰り広げた姿を今でも鮮烈に覚えている方も少なくないでしょう。
GT1カテゴリー全盛期だったころ、ポルシェが送り込んだ究極のGTカーが911GT1であったことは間違いありません。
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