第2世代スカイラインGT-R第1弾を生み出し、その後R34までGT-Rが事実上主力車種となる先駆けとなった、日産 R32スカイライン。実は、そのデビュー当初数ヶ月はGT-Rが存在せず、ある意味「GT-R抜きで高い評価を得た最後の直6スカイライン」だったかもしれません。ハイソカー寄りだった前作R31からガラリと大きく印象を変え、人気を博したお手頃サイズのスポーツ、スカイラインR32を振り返ります。

 

日産 R32スカイライン / Photo by Andrew Smith

 

80年代以前への決別と、90年代のNo,1を目指し大きく羽ばたいたR32

 

日産 R32 スカイライン / Photo by Daniel Hargrave

 

プリンス時代から長年にわたり、モデルチェンジを繰り返しつつ作り続けられてた日産 スカイライン。

そのよく知られたいくつかのエピソードの中には、1972~1977年に販売され、4代目C110型(通称”ケンメリ”)が歴代モデル中最高の販売台数を記録したというものがあります。

いわば、前作C10型から大きく重くなり、エンジンが進化しなかったGT-Rは活躍が見込めず少数生産に終わり、それ以外のモデルも厳しくなる排ガス規制の中で動力性能面はもっとも厳しく、ある意味もっともスポーツイメージの低いスカイラインの1台です。

(実際には海外でのレースや4気筒ショートノーズ4ドア車”ヨンメリ”によるラリーでの活躍がありましたが、一般には広く知られてはいません。)

それゆえか、思い切りイメージを引き締めた次代のC210型を挟み、次世代のR30、R31ではRSやGTSといったホットモデルの存在でスポーツイメージは継承しつつも、通常モデルはいわゆるハイソカー路線のスポーティー4ドアセダン / ハードトップ / 2ドアクーペをラインナップ。

また、ローレルを販売していた日産店や日産モーター店に対し、日産プリンス店ではグロリアの下に手頃なサイズのセダンが無かったという事情もありました。

そうした販売サイドの事情の産物とは言え重要な車種には違いなかったスカイラインですが、スポーティーイメージともハイソカーイメージともどっちつかずな印象にあったものを、「901運動」の最重要車種としてガラリと一変させたのが、8代目R32スカイラインです。

 

901運動の産んだバランスに優れたハンドリングと、豊富で魅力的なラインナップ

 

日産 R32スカイライン / Photo by Andrew Smith

 

「1990年代までに技術世界一を目指す車を。」というスローガンを旗印にした901運動で、1980年代の日産は走行性能や動力性能、デザイン面でそれ以前の日産車とは一線を画したモデルを開発。

その成果は1980年代後半からS13シルビアやR32スカイラインなどで一斉に花開き、日産のイメージアップに大きく貢献しただけでなく、その後も長く日産車の特色となる技術の多くを生み出しました。

中でも大きく恩恵を受けたのがR32スカイラインで、まずR30、R31とキープコンセプト気味に続いたエッジの立つ鋭角的デザインから完全脱却。

基本的には鋭さを保ちながらも角を落とし、近代的な都市景観にもマッチするようになります。

そして3ヶ月遅れでデビューしたGT-Rが専用ボンネットにフロントグリルやブリスターフェンダーでワイド化された勇ましいデザインとなったのに対し、グリルレスで5ナンバー枠に収まるナローボディの通常版R32には、「スマートなしなやかさ」がありました。

5ナンバーサイズの4ドアスポーツセダン / 2ドアスポーツクーペとして、虚飾とも言える過剰な装飾やエアロを一切持たず、ここまでシンプルなスポーティイメージで成功をおさめたのは、R32スカイラインが最後だったのでは無いでしょうか?

先代までのフロント:ストラット、リア:セミトレーリングアームから、路面追従性の高い4輪マルチリンクサスへの変更で実現したハンドリングも見た目の期待を全く裏切りません。

エンジンは廉価版のCA18I(1.8リッター直4SOHC)から何種類かあり、GT-Rを除くトップモデルは初期がRB20DET(2リッター直6DOHCターボ)、後に3ナンバーモデルとなるRB25DE(2.5リッター直6DOHC)も追加。

その他、GT-R用エンジンをNA化したRB26DE(2.6リッターDOHC)搭載のオーテックバージョンや、海外向けRB30EにRB26DETT用パーツを組み込んだNAスポーツエンジンRB30DE(3リッターDOHC)搭載のトミーカイラM30(2代目)も作られています。

 

GT-Rじゃなくても楽しい!手頃なFRスポーツR32、モータースポーツでも活躍

 

日産 HCR32 スカイライン(D1GP) 出典:http://www.d1gp.co.jp/03_sche/gp2017/gp17ex1/gp17ex1_repo.html

 

R32からR34までのスカイラインは、ストリートからモータースポーツまでどうしても「GT-Rが主役」というイメージがありますが、ことR32に関して言えばGT-Rの活躍はホンのごく一部、特別に華々しい部分だけと言えるかもしれません。

何しろベースモデルたるR32はGTS25を除けば、走り好きに追い求められ、復活を願う声の多い「5ナンバーサイズの小型FRスポーツ」そのものです。

それだけなら、日産だけでも同世代にS13シルビアや180SXがあり、特にそれらが2リッター直4DOHCターボのSR20DETに換装して以降は、R32スカイラインGTS-tタイプMより軽量、エンジンスペック面で匹敵しているようにも見えます。

しかしR32には姉妹車C33ローレルやA31セフィーロともども4ドアセダンが設定されており、シルビアや180SXには真似できない走行性能の高いファミリーカー「スポーツセダン」としての一面もありました。

さらに、同じ2リッターターボでもRB20DETはSR20DETより800回転ほど低回転から最大トルクを発揮し、よりコントロールしやすい性格のエンジンでもあります。

さすがにメジャーレースではBNR32(GT-R)の陰で参戦数は少ないものの、平野 敏行選手などによるHCR32(GTS-t タイプM)でのJGTC(全日本GT選手権)GT300クラス参戦など、いくつかの実績も。

それ以上に、サーキット走行会やドリフトなど入門者向けの安価な小型FRスポーツとしては多数使われ、若者からベテランまで多くのドライバーを楽しませています。

GT-Rが「レースに勝つためのマシン」ならば、それ以外のR32は「スポーツ走行に目覚めさせるためのマシン」として、大きな役割を果たしたと言えるのでは無いでしょうか?

また、地味ながらR34以前のスカイラインで最後の直4エンジン(CA18I)搭載モデルとなったFR32スカイラインGXiですが、軽量ハイパワーのチューンドSR20DETへスワップする適性を見込まれ、同エンジンを搭載したドラッグレーサーも誕生しています。

 

R32スカイライン(GT-R除く)、主要スペックと中古車価格

 

日産 R32 スカイライン / Photo by Aatomotion

 

日産 HCR32 スカイライン (クーペ) GTS-t タイプM 1989年式

全長×全幅×全高(mm):4,530×1,695×1,325

ホイールベース(mm):2,615

車両重量(kg):1,260

エンジン仕様・型式:RB20DET 水冷直列6気筒DOHC24バルブ ICターボ

総排気量(cc):1,998cc

最高出力:215ps/6,400rpm

最大トルク:27.0kgm/3,200rpm

トランスミッション:5MT

駆動方式:FR

中古車相場:21.6万~203万円(各型含む)

 

まとめ

 

R32スカイラインがデビューした当時、確かに少し遅れてスカイラインGT-Rの復活は公言されていたものの、GT-R抜きでも十分に格好良く、近代的なフォルムで、「これからの車はこうしたスマート路線を歩むのか!」と期待させるには十分なインパクトでした。

戦後日本のモータリゼーション初期から多用され、ハイソカー全盛期にも当たり前のように使われ車をデコレーションしていたメッキパーツ装飾はほとんど消え、その躍動感あふれるデザインと本格的なハンドリングに大きくモノを言わせた1台。

惜しむらくは4ドアセダンに対して「ちょっとスポーツに振りすぎじゃないか?」という意見が出てしまったことですが、当時の日産販売体制が多チャンネル制で、アッパーミドルクラスセダンはスカイラインしかないディーラーにとっては致し方ないことでした。

R32からR34まで(一部へのGT-R輸出や個人輸出を除き)基本的に日本国内仕様だったことから、その中でも市場の変化で販売台数が低迷する前のR32は「最後に成功した国内仕様スカイライン」であり、輸出されなかったにも関わらず海外でも高い評価を得ています。

特に北米では生産から25年経った車の輸入制限が緩和される「25年ルール」適用対象となってから、R32スカイラインが日本から北米へ「文字通り右から左へ売れる」状況となり、今ではタマ数もだいぶ少なくなりました。

これ以上減ることはあっても増えることは無いと思うので、最後の5ナンバーFRスカイライン、今乗っておいても損は無いかもしれません。

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