1980年代前半、「ターボかツインカムか」というスポーツエンジン論争に決着をつけたツインカムターボエンジンの登場で、国産車は一気に爆発的なパワーを手に入れました。その波は軽自動車にも押し寄せ、第2次軽自動車パワーウォーズを勃発させます。その頂点である64馬力自主規制に初めて到達したのが、スズキ CA72V / CC72V 初代アルトワークスでした。
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第2次軽自動車パワーウォーズの「到達点」
1984年に登場した2代目スズキ アルトは、翌年9月に軽自動車初の電子制御式燃料噴射装置(スズキでの名称はEPI)を持つインタークーラーターボ搭載モデル、アルトターボを追加。
さらに1986年7月のマイナーチェンジでは、軽自動車初のDOHC4バルブエンジンを搭載したアルトツインカム12RSを追加し、スポーティー度を増していきます。
しかし、当時の軽自動車でもっともパワフルかつスポーティモデルとして人気があったのは1985年11月に2代目ダイハツ ミラに追加されたミラTR-XX。
SOHC2バルブに、燃料供給はキャブレターと旧態依然のエンジンながらインタークーラーターボで50馬力を発揮し、派手なエアロで武装したミラTR-XXに対し、アルトは今ひとつ抜きん出たものが無いのが実情でした。
それを一気に挽回すべく1987年2月に登場したのが、アルトターボとアルトツインカムを合体したようなDOHC4バルブインタークーラーターボ・EPI型のF5Aエンジンを開発し、上級モデルには精悍なエアロを装着し、革命的モデルに仕上げられたアルトワークスでした。
まだ550cc時代の軽自動車でありながら64馬力を発揮、それがそのまま2017年現在に至るまで国産軽自動車メーカーの馬力自主規制値となった、歴史的なモデル。
2代目ミラの始めた第2次軽自動車パワーウォーズ(第1次は360cc時代)はここに頂点を迎え、以後しばらくの間、各社の軽ホットハッチは事実上アルトワークスをベンチマークとして開発されていくことになりました。
64馬力に「抑えて」輝く初代アルトワークスの魅力
実は初代アルトワークスのDOHCターボ版F5Aは、開発時のスペックが78馬力だったと言われています。
まだ550cc時代で装備も簡素なため車重も610kgからと軽く、そこに従来の50馬力クラスのエンジンから一気に56%増しのパワフルなエンジンを搭載しようというのですから、この過激さには運輸省(現在の国土交通省)からさすがに「待った」がかかりました。
登録車の280馬力規制の時もそうでしたが、メーカー各社による「馬力競争の過熱」が危惧されたのです。
実際、第1次軽自動車パワーウォーズの時には、先陣を切ったホンダ N360の31馬力に始まり、最終的にはダイハツ フェローMAX SSの40馬力とリッター100馬力を超えましたが、パワーこそあるものの低速トルクがスカスカすぎて実用車としては少し問題がありました。
最終的にはオイルショックで自然に収束した第1次軽自動車パワーウォーズでしたが、第2次は国からの指導で「到達点」を決められた形になります。
それにより64馬力に「抑えられて」発売されましたが、他社も(550cc時代には61馬力で終わった)スバルを除き、64馬力エンジンを開発してアルトワークスに並びました。
しかし、デチューンされたDOHCターボ版F5Aは結果的に豊富な低速トルクと軽く1万回転まで吹け上がる素晴らしいスポーツエンジンに仕上がり、最高速度163.7km/h、ゼロヨン加速16.87秒という軽自動車としては驚異的な性能を初代アルトワークスに持たせたのです。
特に加速性能は普通車でもスポーツモデルで無ければ対抗できず、「本来の性能」を発揮するようチューニングを受ければ、そうそう勝てる車はありませんでした。
それでいて小排気量車なので燃費も良く、まさにフトコロに優しい若者向けスポーツカー。
さらに廉価版のRS-Sグレードを除けばミラTR-XXに匹敵する、当時としては過激なエアロが装着され、「速くてカッコイイ軽ホットハッチの決定版」となったのです。
ワンメイクレースが開催され、ラリーでも活躍した初代アルトワークス
初代アルトワークスはスズキスポーツによって軽自動車初のワンメイクレース、「スズキスポーツ アルトワークスカップ」が、発売初年度の1987年から開催されました。
後に代を重ねて1996年まで開催されたこのレースは、全盛期の1988~1989年には筑波サーキットで全9戦が行われ、多くのエントリーを集めてホンダ シティ(初代)のワンメイクレースを彷彿させる盛り上がりを見せています。
さらにラリーでは発売直後の全日本ラリー第2戦(1987年4月)から1,000cc以下のマシンで戦われるAクラスに4WDモデルのCC72V アルトワークスRS-Rが参戦し、翌月の第3戦では早くも優勝。
翌1988年からはダイハツ L71V ミラ4WDターボと激しい優勝争いを繰り広げ、それまでの主力マシンだった日産 マーチやスバル ジャスティ(いずれも初代)を駆逐していったのです。
後には全日本ジムカーナや全日本ダートラが改造範囲の狭い「N車両」に移行した2003年、やはり1,000cc以下のマシンで戦われるジムカーナN1クラスでの活躍が期待されました。
しかし、公式競技に参加するための「JAF登録車両」としての期限が2002年で切れるため、現実には全日本ジムカーナや各地区戦ジムカーナで初代アルトワークスの活躍する余地が無かったのは残念でした。
もしスズキが初代アルトワークスのJAF登録車両に期限を設けていなければ、トヨタ ヴィッツ(初代)と並び、初代アルトワークスも同クラスの主力マシンになっていたかもしれません。
初代 スズキ・アルトワークス主要グレードのスペックと中古車相場
スズキ CA72V アルトワークス RS-X 1987年式
全長×全幅×全高(mm):3,195×1,395×1,380
ホイールベース(mm):2,175
車両重量(kg):610
エンジン仕様・型式:F5A 水冷直列3気筒DOHC12バルブ ICターボ
総排気量(cc):543cc
最高出力:64ps/7,500rpm
最大トルク:7.3kgm/4,000rpm
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
中古車相場:58万円
まとめ
軽自動車初のDOHCターボ搭載や現在まで続く64馬力規制を作った画期的なスペックから「伝説的存在」と言える初代アルトワークスですが、ベース車の2代目アルトが1988年9月にはモデルチェンジしてしまったため、わずか1年7ヶ月しか生産されませんでした。
その後2代目アルトワークス(アルトとしては3代目)から、一般的によく知られている丸目2灯デザインになり、一層人気に拍車がかかりますが、エアロを除けばノーマル然としており、廉価グレードのRS-Sに至ってはノーマルのアルトそのものの外見で「羊の皮を被った狼」と言っても過言ではありません。
それゆえ現在でも稼動状態にある初代アルトワークスは、コアなファンによって良好な状態に保たれている個体も多く、中古車市場に出てきてもプレミアがついています。
もし乗るチャンスがあれば、燃費優先な現在の軽自動車から失われた「野性味」を味わうことができるかもしれません。
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