2輪メーカーながら、東京モーターショーでは毎回のように4輪車を展示し、クルマへの意気込みを見せるヤマハ発動機。かのトヨタ 2000GT以来、トヨタのスポーツエンジンにも深く関り、バブル時代末期にはフォーミュラマシンのエンジンコンストラクターとして活躍した時期もありました。そんなバブル時代末期に、同社が開発した幻の国産スーパーカー『OX99-11』は、F1用エンジンを搭載したモンスターマシンなのでした!
エンジンサプライヤー、ヤマハ発動機の野望
1955年、日本楽器(現在のヤマハ)からヤマハ発動機を分社化する直前に第1号オートバイYA-1を発売して以来、2輪車を中心にさまざまな製品を開発、販売しているヤマハ発動機ですが、トヨタ 2000GT用エンジン5M-Gを開発するなど、4輪車にも深く関わっています。
主にトヨタエンジンをベースとしつつ、高性能DOHCヘッドを載せたスポーツエンジンの開発で、市販車を販売していないにも関わらず”ヤマハ”の名をユーザーに知らしめてきた同社ですが、市販車のみならず、レースの世界でも活躍していました。
全日本F2選手権(現在のスーパーフォーミュラ)やF1にもエンジンを供給しており、特にF1では1989年にザクスピードへV8エンジンOX88を供給してから、1997年にアロウズへ供給していたOX11Aまでの8年間にわたりエンジンコンストラクターとして活動。
この時期、他の国内自動車メーカーもエンジンサプライヤーとして、開発や参戦していました。
エンジンサプライヤーとして黄金期を迎えていたホンダF1の第2期はもちろん、開発のみで終わったいすゞや、スバルも参戦していました。
スバルは、イタリアのレーシングエンジン専門会社『モトーリ・モデルニ』とタッグを組み、水平対向12気筒エンジンを共同開発。
しかし、信頼性不足から結局1度も予備予選を通過できなかったのに対し、”本戦を戦えるエンジンを供給していた”のがヤマハ発動機でした。
実際のエンジンコンストラクターとしては、ホンダやその後を継いだ無限に次ぐ日本の3番手の立場でしたが、それでも参戦3年目には初入賞、5年目の1994年と最終年の1997年には表彰台も獲得しており、後者はあわや優勝というところまで迫る結果を見せています。
そんな中、2番目のF1用オリジナルエンジンOX99をデチューンして搭載するスーパーカー『OX99-11』をイギリスで生産・販売することを大々的に発表したのです。
『まるでF1』ボディにグループCカーばりのカウルを載せたスーパーカー
発表されたOX99-11は、まさしく”公道を走れるレーシングカー”そのものでした。
その名の通り、1990年からブラバムへ、1992年にはジョーダンに供給していたF1用3.5リッター60バルブV12エンジンの『OX99』をミッドシップに搭載。
F1では600馬力以上を誇ったOX99を、公道向けにデチューンしたとはいえ450馬力を発揮。
CFRPモノコックシャシーの上に乗せられたボディのデザインを担当したのは由良 拓也が率いるムーンクラフト。
グループCカー風のカウルはFRPとアルミ合金を多様することで、頑丈な割に1,000kgと軽量となり、最高速350km/h、0-100km/h加速3.2秒を誇りました。
また、インボード式サスペンションやボルト結合されたトランスアクスルなど中身はF1そのもので、右に開くキャノピー(ドアというよりそう呼んだ方がふさわしい)は1人乗りに見えますが、背後にやや左にオフセットされた後席のあるタンデム2人乗りで、いわばミナルディなどが一般向け体験走行のために作ったようなタンデム複座F1マシンに、公道走行向けの各種装備とカウルを施したマシンでした。
ちなみにヤマハ発動機では、当初はドイツの企業(詳細不明)に設計を依頼したものの、当時の一般的なスポーツカーと変わり映えしなかったことに満足できず、イギリスのIAD(International Automotive Design)との共同開発でムーンクラフトのボディと組みわせたことで完成を果たします。
しかし、販売計画発表後にIADとの関係が悪化した事に加え、日本でのバブル崩壊で当時の価格で1億3千万円にもなる超高額スーパーカーに販売の目途が経たなくなったことから、1994年に販売を延期。
その後、計画がキャンセルされたことで幻のスーパーカーとなってしまいました。
ヤマハの挑戦は続く
しかし、ヤマハは4輪車への参入をあきらめたわけではありません。
F1へのエンジン供給は1997年で終了してしまったものの、同年に社内ベンチャーのYMモービルメイツからチケットピアの通販限定で、amiというダイハツ オプティ改フェラーリF40デフォルメ風カスタムカーを発売します。
一説には3台しか売れなかったとも言われていますが、とにもかくにもヤマハ系の4輪車を発売し、その後雌伏の時を経て東京モーターショー2013で”MOTIV(モティフ)”というパーソナルモビリティを発表。
東京モーターショー2015ではOX99-11より実用性の高そうな4輪スポーツカー、”SPORTS RIDE CONCEPT”を公開し、2017には2輪車や自転車、マリン製品と組み合わせて活用するレジャー向けモビリティ”CROSS HUB CONCEPT”を発表しています。
中でもMOTIVはかなり本気度が高かったようで、単なるコンセプトカーに留まらず実機の実証実験(つまり市販前提車の公道テスト)に移行する予定も公開されるなど、意気込みを見せているところです。
そしてかつて情熱を傾けたスピリットをヤマハ発動機自身もそのファンも忘れないようにするためか、3台製作されたOX99-11は今でも動態保存され、ファン向けのイベントでは3台とも元気に走る姿を見せ続けています。
主要スペックと中古車相場
ヤマハ OX99-11 1992年プロトタイプ
全長×全幅×全高(mm):4,400×2,000×1,220
ホイールベース(mm):2,650
車両重量(kg):1,000
エンジン仕様・型式:OX99 水冷V型12気筒DOHC60バルブ
総排気量(cc):3,498
最高出力:450ps/10,000rpm
最大トルク:40.0kgm/9,000rpm
トランスミッション:6速MT
駆動方式:MR
まとめ
『長年の夢がついに実現して走り出したスーパーカー』あるいは『ようやく新規参入にこぎつけようとしている自動車メーカー』というのは数多くありますが、それらのほとんどが最終的には夢破れ、志半ばで消え去るのを私たちは何度見送ってきたことでしょうか。
ヤマハ OX99-11もそんな1台ですが、幸いにしてヤマハ発動機はすぐに消え去るような中小メーカーでも無く、致命的な事態に陥る前に風呂敷を畳むことに成功し、今また4輪車への参入機会を伺っています。
主要自動車メーカー各社のように、各地に4輪車向けサービス網を持つわけでも無いヤマハが単独で4輪車を販売する方法は非常に限定的かもしれません。
顧客がそもそも少なく高額なアフターサービスを受けることもためらわない富裕層向けスーパーカー(まさにOX99-11がそうだった)か、ヤマハ販売店でも扱えるような小型のコミューター、あるいはレジャー用モビリティが現実的。
内燃機関だけで走る自動車の時代が終わりかけている今、OX99-11のような車をまた開発する可能性はかなり低いもの。
しかし、電動車へと移り変わる時期だからこそ、このようなメーカーにも案外またチャンスが巡ってくるのではないか、そんな勝手な期待に胸を膨らませつつ、ヤマハ発動機の次回作に期待したいと思います。
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