かつて1970年代のスーパーカーブーム時代、公称最高速度300km/hを誇って世界最速を争ったスーパーカーメーカーもありましたが、実測で大台を超える車はほとんど無いと言われていました。しかし、それから10年ほどして登場したスーパーカーでは、いよいよ本当に300km/hを超える最高速が可能に!!その初期の1台であり、画期的な電子制御トルクスプリット式4WDは第2世代スカイラインGT-Rにも強い影響を与えたと言われているのが、ポルシェ959でした。
グループB最強マシンを開発せよ!
1981年にグループ1~8まで定められていた競技車両のカテゴリーが、新たにアルファベット表記のいくつかのカテゴリーに整理されました。
それまでWRC(世界ラリー選手権)のトップカテゴリーであり、レースの世界でもグループ5に次ぐ存在だった、市販車ベースの競技車両で争われるグループ4はグループBへと改変され、公認を受けるためのホモロゲーションモデル生産台数も緩和されます。
正確には『連続する24ヶ月間に400台を生産』から『同12ヶ月間に200台』へと規定が変わり、短期間とはいえより少ない台数の生産で済む上に改造範囲は広いので、ラリーモデルなど20台のエボリューションモデルさえ認められたのです。
この緩和策は、高価で全て販売しきれるとは限らないホモロゲーションモデルを多数生産する悩みを抱えていた自動車メーカーに広く受け入れられ、数多くのグループBマシンが作られることになりました。
そのうちの1社がポルシェであり、開発されたのがポルシェ959だったのです。
そして1982年の暫定期間(グループ4とグループBの混走期間)を経て、翌1983年から本格施行されたグループBに、ポルシェは930型911ターボ3.3のグループB仕様で参戦していましたが、その後を継ぐ形で930型の後継となる(964型)911のプロトタイプにポルシェ初の4WDを採用し、グループB最強のマシンを目指したパワートレーンや軽量化ボディを持ちつつも4名の乗車スペースを確保しました。
これは、当時のポルシェでは2シータースポーツカーだと200台の生産はともかく、販売が難しいと判断されたこと(ミッドシップ2シーターの914がどのような商業的結末に至ったか、ポルシェは忘れなかった)や、次期ポルシェ911への期待を持たせることが目的となっていて、空力的必然性などからロングテールにするなど若干の違いを持たせるも、ほぼ共通部分をもたなかったとは言え、デザイン的には911風に仕上げられたリアエンジンの4名乗りとなったのは、そのためでもありました。
4WDシステムをはじめ、各部に採用された電子制御と強力なエンジン
ポルシェ 959が自動車史においてエポックメイキング的な存在になったのは、何といっても電子制御可変トルクスプリット4WDでした。
既にセンターデフにビスカスを用いて、オン/オフロードを問わず高い性能を発揮するフルタイム4WDがアウディ クワトロによって高い評価を得ていましたが、ポルシェの場合、PSKと呼ばれた電子制御クラッチの採用で、4WDを新しい次元へと導きます。
このPSKによって走行状況に応じて前後の駆動力配分を自動的に制御するほか、その制御もステアリングコラムに設けられたスイッチで任意にモード選択が可能。
通常は40:60に設定されていますが、加速時は後輪に80%、さらにデフロックすらも可能で、BNR32以降の第2世代スカイラインGT-Rなどに採用された電子制御4WDシステム、アテーサE-TSにも強い影響を与えたと言われます。
この画期的な4WDシステムを活かす動力源も強烈で、グループCレーシングカーの962Cに採用された半空冷(ヘッドのみ水冷)DOHCツインターボの935/82型エンジンをベースに、将来的に参加するレースや競技を見越して、排気量を2,848ccとしたもの。
そして4,500回転以上で2基目のタービンが始動すれば、最高出力450馬力と猛烈な加速を発揮し、公称最高速度317km/hは世界最高速市販車の座を譲ったフェラーリ F40(324km/h)には劣るものの、0-60マイル(約96km/h)加速はF40より速い3.7秒と、加速重視型でした。
加えて電子制御式ハイドロニューマチックサスペンションは減衰力を3段階に設定可能な上に、速度に応じて車高を自動で上下させ、コーナーが迫るやハードモードとなって、ドライバーを不安にさせるロールを抑えます。
こうした豪華で高性能なスーパーカーぶりを発揮しつつ、車内に4名が乗車してちょっと近所に買い物に行くという用途で使っても全く問題が無いという機械的信頼性を誇るのが、またポルシェらしいところです。
パリダカやル・マンでの活躍
そもそもグループBマシンとして開発されたので、ラリーやレースに959が出場するのは当然の流れです。
1984年からのパリダカ(パリ-ダカールラリー。現在のダカール・ラリー)参戦は、その実力をフルに発揮する最強の機会でした。
まず1983年にプロトタイプの『グルッペB』発表後、翌1984年に930型911カレラ(3.2リッターNA仕様)に4WDシステムを組み込んだ実験車両953で出場。
3台全てが完走した上に総合優勝と、幸先の良いスタートを切りました。
しかし、いよいよ市販型を発売してグループBラリーマシンとして躍り出ようとした1985年、953の改良型を初めて『959』の名でパリ・ダカールラリーに挑みますが、今度は3台全てリタイヤという最悪の結果に終わります。
これで市販型959は一旦発売のチャンスを逃しますが、同年10月のファラオラリーで本来搭載するはずだったDOHCツインターボエンジンを積み、ようやく勝利して翌年につなげました。
そして翌1986年に正真正銘の市販型959ベースのラリーレイド仕様マシンで1-2フィニッシュを決めたことで、同年の発売に花を添えることができたのです。
しかしその1986年、これまでWRCで幾度も繰り返された深刻な事故が問題となっていた事に、第5戦ツール・ド・コルスでの乗員2名が死傷する爆発炎上事故がとどめを刺し、グループBカテゴリーおよび、その発展版として予定されたグループSの廃止が決まってしまいます。
当初から得られる技術情報に対して高すぎる参戦コストからWRCフル参戦は考慮していなかったポルシェですが、これでWRCにスポット参戦することすらできなくなってしまいました。
ちなみに、この年5月のル・マン24時間レースには959をベースにインタークーラーの大型化や換装を施し、ブーストアップしたタービンを装着。
680馬力を発揮する961が出走し、グループCカーに割り込んで総合7位・クラス優勝(といってもGTXクラスは1台だけ)の成績を挙げています。
ただし、市販車ベースの空力はグループCマシンより格段に不利で燃費に悪影響を及ぼし、重い4WDシステムはコーナリングやブレーキングが苦手な上にタイヤへの負担が大きいため、同年10月のデイトナ24時間では総合24位・GTPクラス11位と振るいません。
結局、翌1987年6月のル・マン24時間に出場しましたが、ここで961はクラッチトラブルによるエンジン過回転と高速で駆動力を失ったことが直接の原因でクラッシュし、炎上。
これを最後に961の開発も打ち切られました。
主要スペックと中古車相場
ポルシェ 959 1987年式
全長×全幅×全高(mm):4,260×1,840×1,280
ホイールベース(mm):2,300
車両重量(kg):1,770
エンジン仕様・型式:半水冷水平対向6気筒DOHC16バルブ ICツインターボ
総排気量(cc):2,848cc
最高出力:450ps/6,500rpm
最大トルク:51.0kgm/5,500rpm
トランスミッション:6MT
駆動方式:4WD
中古車相場:ー
まとめ
ポルシェ公式HPによれば、292台が限定生産されたという959。
グループB規定に従えば200台のみ生産のはずなのですが、この高性能高級スーパーカーは投機目的での購入も多かったと言われます。
ポルシェの努力で追加生産された分は、そうした投資家を大いに泣かせることになったとの逸話も。
最高速300km/hオーバーのスーパーカーが当たり前のようになった現在でも、959は電子制御4WDや4チャンネルABS、Cd値0.31とダウンフォースも重視した現代的スーパーカーより低い空気抵抗により、高い走行性能と官能性を維持しています。
その発売が今から30年以上前であることを考えれば、驚異的と言えるのでは無いでしょうか?
なお、959で実装された電子制御可変トルクスプリット4WDですが、その成果として964以降に登場した911の4WD版は長らく固定式あるいはビスカスカップリング式4WDを採用しており、電子制御トルクスプリット化は2000年代の997型を待たねばなりません。
これもまた、959の先進性を現すエピソードのひとつだと思います。
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