台形スタイルに低公害CVCCエンジンを搭載し、大人気となった初代シビックから11年。かつて軽トラ以外の生産ラインを閉じてまでシビックに全てを賭けたホンダは、アコードやプレリュードなどのラインナップを増やし、すっかり四輪車メーカーとして定着しつつありました。シビック自身も2代目スーパーシビックを経て1983年に2度目のモデルチェンジを迎えますが、登場した3代目ワンダーシビックは思い切ったデザイン一新で世間を驚かせ、DOHCエンジンZCの追加で再び本格的なスポーツ路線に帰ってきたのです。
CONTENTS
革新的だったシビックの”さらなる革新”、ワンダーシビック
1972年の発売当時、軽自動車としてはともかく小型車としては画期的だった、FF2BOXスタイルによる可能な限りの小型軽量化と車内スペースの確保の両立、四輪ストラット独立懸架による優れた操縦性、CVCCエンジンでの環境性能という命題に挑戦した初代シビック。
それに成功した結果、ホンダがいよいよ登録車も含む四輪車市場で確固たる足場を築き上げ、2代目スーパーシビックも基本的には初代のキープコンセプト(CVCCエンジン搭載の2BOXおよび派生車の3BOXセダン)として開発・販売されました。
しかし、1980年代に入るとさすがにデザイン上もメカニズム面でも古さが目立ち、3代目へのモデルチェンジに当たっては思い切った変更が求められます。
そのため、異型ヘッドライトとグリルレスのフロントマスクを採用、それにガラスエリアを可能な限り広く取って採光性や開放感をアップし、先代のリアハッチがやや寝ていたのを起こしてルーフを目いっぱい伸ばして、広々としたキャビンを実現しました。
そしてホンダの提唱するMM思想(マン・マキシマム・メカ・ミニマム)を追求したこのスタイルは、細部や全体的な印象を変えながら5代目まで継承されていきます。
ちなみに、通称”ワンダーシビック”と呼ばれるこの3代目は、まだゴツゴツとしていた1970年代スタイルから完全脱却し、ウェッジシェイプ(クサビ型)型のスッキリしていかにも空力の良さそうなボディに包まれてブラックアウトしたようなリアハッチが特徴です。
そのリアハッチを持つ3ドアハッチバックがまず発売されたあと、残りのボディタイプ、5ドアハッチバックのシャトル(乗用) / プロ(商用)、そして4ドアセダンもデビューしました。
あえて後輪の独立懸架を廃したビームアクスル式リアサスペンションと、久々のDOHCエンジン”ZC”
発売されたばかりの3代目”ワンダーシビック”で、注目されたのはデザインだけではありません。
サスペンションは2代目まで採用された4輪ストラット式独立懸架では無く、フロントのみストラット式独立懸架となり、リアは別な方式が採用されました。
ホンダ公式ホームページの資料欄では単に”車軸式”と書かれることが多いため、1990年代末以降のコンパクトカーで多用されるトーションビーム式と似た、”ビームアクスル式”と呼ばれる方式です。
あえて4輪独立懸架を廃してビームアクスル式にしたことで、車内スペースに影響を与えずリアサスペンションの横剛性を確保。
また、これによりタックインなどの突発的なスピンモードに入ることを避けられる効果もありました。
そして結果的には次代の”グランドシビック”以降、しばらく4輪ダブルウィッシュボーン式独立懸架を採用して走行性能の充実化へ、さらに転じていくわけですが、”ワンダーシビック”はその過渡期の試みというわけです。
もうひとつ目新しかったのは、1984年10月に追加された高性能グレード”Si”搭載の”ZC”エンジン。
ホンダとしては1970年に生産終了したS800以来のDOHC直列4気筒エンジンで、そして初のDOHC4バルブエンジンであり、ロングストローク化により低回転から太く、回すにつれ高回転まで勢いよく盛り上がっていくトルクカーブが大きな魅力でした。
そんなスポーツ用DOHCエンジンとしての”ZC”の役割は、このワンダーシビックおよび次代グランドシビックがDOHC VTEC”B16A”を搭載するまでの短い間でしたが、同時期のCR-Xともども、スポーツイメージ向上へ大いに役立っています。
2代目に続くワンメイクレース開催とグループAレースでの奮闘
S800の生産終了後、社内有志の”チームヤマト”を除き、表向きはメジャーなレースから遠ざかっていたホンダですが、2代目スーパーシビック時代の1981年からワンメイクレースの”FFスーパーシビックレース”を開始し、1983年以降、順次全国展開していきました。
その後1985年からは”FFシビックレース”へと改称してワンダーシビックも参戦可能となり、引き続き全国で多くのドライバーが参戦しましたが、この年からはさらに後のF1ドライバー、中嶋 悟を講師に迎えたシビックレーシングスクールも始まっています。
加えて、同じ年に始まったのがグループAレースJTC(全日本ツーリングカー選手権)で、ここにホンダはグループA仕様のシビックを投入。
トヨタ AE86カローラレビンが最大のライバルとなり、ここに長く続くカローラvsシビックの戦いが幕を開けました。
まだワンダーシビックが参戦していなかった第1戦で、最も下のクラス(1,600cc以下)にも関わらずAE86が総合優勝するなど波乱含みで始まったJTCですが、第3戦から参戦したワンダーシビックも第4戦鈴鹿で総合優勝!
開幕前は「FFスポーツでFR車に勝てるのか?」という声もありましたが、蓋を開けてみればそれだけの実力がワンダーシビックにはありました。
トヨタもAE86だけでなく同じFFのAE82カローラFXを投入しますが、ワンダーシビックに始まり終始シビックへ集中したホンダの方が開発面で有利だったと言われています。
実際1987年以降、JTC最終年の1993年まで7年連続で1,600cc以下のクラスでメーカータイトルを獲得しており、レースでのホンダ・トヨタテンロクスポーツ対決は、完全にホンダに軍配が上がる結果となりました。
その他、全日本格式の選手権ではジムカーナがナンバーつきのA2クラスで1988年頃、ナンバー無し改造車のC2では1992年頃まで、そしてダートトライアルでは1989年頃にワンダーシビックでの参戦例がありますが、上位入賞など目立った実績は残せていません。
こうした短距離のスプリント競技では台数が多くノウハウの共有できるトヨタ車や日産車、あるいはホンダ車でも旋回能力に優れたCR-Xに分があり、このジャンルでシビックが活躍するのは5代目スポーツシビック(EG6)以降です。
主要スペックと中古車相場
ホンダ AT シビック Si 1984年式
全長×全幅×全高(mm):3,810×1,630×1,340
ホイールベース(mm):2,380
車両重量(kg):890
エンジン仕様・型式:ZC 水冷直列4気筒DOHC16バルブ
総排気量(cc):1,590cc
最高出力:135ps/6,500rpm(グロス値)
最大トルク:15.5kgm/5,000rpm(同上)
トランスミッション:5MT
駆動方式:FF
中古車相場:128万~150万円(各型含む)
まとめ
2代目から一転、1980年代の車らしいデザインとなったワンダーシビックですが、未だに街でたまに見かけることのあるグランドシビック以降とは異なり、さすがになかなかその姿を見ることも無くなりました。
この時代のホンダ車は『とにかくボディが弱い』と言われた時期の真っ只中で寿命の短さや中古車の安さが印象的でしたが、現在でも中古車市場に残る数少ないワンダーシビックを見ると、さすがに相当程度の良さそうなものしか残っていません。
それも、未だに現役でサーキットを走る姿を見かけるグランドシビックとは違い、ノーマル然としたもの、あるいはレストア済と見られる個体がプレミア価格で出回っている状態です。
それでも、現役当時のレース成績とは異なり、ライバルのAE86と比べれば破格と言える安さなので、ノスタルジックな思い出に浸りたい方、維持ができる自信のある方にとっては、案外良い買い物かもしれません。
Motorzではメールマガジンを配信しています。
編集部の裏話が聞けたり、最新の自動車パーツ情報が入手できるかも!?
配信を希望する方は、Motorz記事「メールマガジン「MotorzNews」はじめました。」をお読みください!