現在販売されている自動車のほとんどに、当たり前のようについているABS(アンチロック・ブレーキ・システム)。それは、簡単に言えば「自動ブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)」のようなもので、安全性の高い自動車の象徴的な存在だった時期もありました。しかし、具体的には「ただのブレーキ」と、どのような違いがあるのでしょうか?その仕組みは案外単純なものなのです。

 

ABS(警告灯)  / 出典:http://thinkpeople.volkswagen.co.jp/tsc/report/report05.html

 

 

ABSってなんだ

 

トヨタによるABS作動イメージ図 / 出典:http://toyota.jp/spade/safety/active/

 

自動車に限らず、車輪のついた乗り物であれば車輪にブレーキをかけた場合の「止める力」は、そのブレーキの強さ「制動力」と、タイヤと路面の接地面による「摩擦力」の2つで発揮されます。

この2つのどちらが欠けていても乗り物を止めることはできないわけで、仮にブレーキがどれだけ強力だったとしても、タイヤがブレーキロックしてしまうと滑走してしまい、制御不能になることも。

さらに、滑走時にはタイヤの接地面が部分的に激しく摩耗してしまうので、タイヤの寿命にも大きく影響してしまいます。

そうした「滑走」はブレーキを緩めれば解消され、それを利用した「ポンピングブレーキ」(人間ABSとも)という運転術もあるのですが、実際には不慣れなドライバーが確実にブレーキを制御できるとは限りません。

そこで、何らかの制御によって自動的にブレーキロックを回避し、ブレーキ時の安定性や滑走を防ぐことによる制動距離短縮を狙ったのがABS(アンチロック・ブレーキ・システム)なのです。

 

ABSの構造とは

 

ABSシステムのカットモデル / 出典:http://www.tksam.co.jp/C435-820.html

 

ABSの概念自体は1920年代から存在し、最初は航空機用として、そして鉄道用としても実用化され、自動車用でも高級車やトラック、バスなどに1960年代から採用が始まっていました。

ただし初期の採用例を見てもらうとわかる通り、高価でも必要性の高い、あるいは搭載可能なものが限られる大型のシステムがほとんどで、一般的な市販乗用車で普及が始まったのは1980年代から。

日本では、2代目ホンダ プレリュードにオプション設定されたのが初めでした。

そして、最初は各社バラバラだった呼称も「ABS」に統一された1990年代以降は、軽自動車でも4輪ABS搭載車が登場し、今では当たり前の装備になっています。

そんな現在の一般的なABSは、単純に考えれば以下の装置で構成されています。

・タイヤ回転数センサー

・油圧コントロール装置

タイヤ回転数センサーは通常、速度センサーを兼ねていることが多く、かつてのようにトランスミッションなどから機械的に速度を検出することはほぼ無くなりました。

また、油圧コントロール装置はエンジンルームを開けば、複数の配管が集中している装置を見ることができる車種も多いでしょう。

センサーの数や種類、コンピューターでどの程度の制御をしているかは車種によって異なりますが、基本的には単純なものです。

その初期にはとにかくブレーキ時の安定性だけでも確保しようと後輪だけABSを装備した例(ダイハツL200系ミラのASB・アンチスピンブレーキなど)もありますが、現在では4輪ABSが定番となっています。

 

ABSの起承転結(事象発生から作動まで)

 

ABSのしくみ / 出典:http://www.mlit.go.jp/jidosha/anzen/02safetydevice/abs.html

 

ABSの動作も単純で、基本的には以下の通りとなっています。

・ブレーキをかける。

・車速センサーがブレーキをかけた以上のタイヤ回転数低下を検知、システムがタイヤロックと判断。

・システムがブレーキの油圧を弱める。

・ブレーキを弱めたことでタイヤの回転数が上がれば、タイヤロック解消と判断。

・再びブレーキを強める。

いわば、過去にはドライバーが勘や感覚に頼って手動で行っていたポンピングブレーキを、システムが自動で瞬時に行ってくれているのです。

 

類似機能

 

トヨタのVDIM(Vehicle Dynamics Integrated Management) / 出典:http://toyota.jp/estima/performance/performance/

 

ABSは「止める力」をコンピューター制御しているだけなので、構造や動作も基本的には単純です。

ただし、「コンピューターで4輪のブレーキを制御する」ということは、それを4輪別々に制御することで、さまざまな可能性を生み出しました。

その代表的なものが「EBD」「ESC」「横滑り防止装置」などさまざまな呼び方をされる、ブレーキを使った車体の安定性制御です。

そして、これにエンジンやモーターからの力を4輪別々に制御するトルク制御や、ハンドルの切れ角すらも制御する操舵トルク制御も組み合わせ統合制御する「VDIM」(トヨタ)安全運転支援装置が、急速に普及しつつあります。

そうした装置が搭載された自動車では、ドライバーは実質的に「意思を決定する役割だけ」を果たしており、もはや実際の運転そのものは車自身が行っていると言っても過言ではありません。

そこに最低でも人間の目に匹敵する優秀なセンサーと、人間並みの判断力を持つAI(人工知能)さえ組み合わせれば、ドライバーが不要な「完全自動運転車」ができあがり、基本的な構造や原理は単純ながらも、ABSは自動運転の重要な中核を為しているわけです。

 

まとめ

 

かつてABSはエアバッグなどとともに「高級車やデートカー、ハイソカー向けの特別な装備」として、それを装備した車を生産・販売する自動車メーカーにとっては、「安全性を重視するメーカーです」とアピールする格好のアイテムでした。

しかし記事内でご紹介したように、程度の差こそあれ構造や動作は基本的に単純なので小型化と量産化に成功した結果、急速に普及していったのも当然です。

日本車の歴史でその転換点になったのは、1996年に登場し「まず最量販車種だからこそ安全装備の充実を」と、ABSのみならずエアバッグも標準装備、衝突安全ボディGOAの採用で注目された5代目トヨタ スターレット(P90系)あたりからでしょうか。

その後はABSでもスポーツABSや4輪独立制御といった「ひと口にABSと言ってもいろいろある」形になっていきました。

しかし、車に搭載されたコンピューターがブレーキを制御するという意味では、現在の衝突被害軽減ブレーキなど運転支援装置もABSの延長線上というよりABS無しにはありえない技術です。

そんなABSはオートマチックトランスミッションなどとともに、「人間が操作せずとも走る自動車の歴史」を大きく推し進めた、重要な装備のひとつと言えるでしょう。

 

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