日本国内の新車の約98%はAT(オートマチックトランスミッション)車であり、その特徴はドライバー自らが変速せずとも、自動で状況にあったギアが選択されるため走ることができます。しかし今はそんなATにMT(マニュアルトランスミッション)の要素を加えた、セミAT機構搭載車も増えています。そこで今回は、ATの歴史とセミAT機構の種類ごとの違いを解説します。
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ATの歴史
AT(オートマチックトランスミッション)は、1904年にアメリカで誕生しました。
考案者はスタートバント兄弟で、最初のATは遠心クラッチに前進2段、後進1段の歯車式変速機を合わせた仕組みとなっており、遠心力によってクラッチが動くことで自動変速が可能なものでした。
この2段変速機は量産化されることはありませんでしたが、その発展型とも言える半自動変速機構は1908年に発売された「T型フォード」に装備されることになります。
T型フォードに搭載された半自動変速機は、遊星歯車と多段クラッチを組み合わせたもので、ハンドブレーキとクラッチが連動しており、チェンジペダルを踏みつつブレーキを緩めることで発進できる仕組みでした。
この半自動変速機はチェンジペダルを緩めることで変速を行っていたので、完全に自動化されていたわけではありませんでしたが、それでもほとんどが手動変速だった1910年代の車の中では、格段に操作しやすいものでした。
しかし、自動化されたとは言え、2速変速しかできない変速機では、技術の発展による車の巡航速度の高速化に対応できなくなっていきます。
そのため、自動変速機の開発技術も時代に応じて発展を続け、1939年にはアメリカのGM(ゼネラルモーターズ)が、4速自動変速機の「ハイドラマチック」を開発。
1940年型「オールズモビル」のオプション装備として設定されました。
ハイドラマチックは、キックダウン性能など、後年のATにも見られる基本機構を採用しており、その宣伝ポスターのイラストではクラッチを完全自動化したことをアピールすべく、クラッチペダルにバツ印を付けたデザインを採用。
やがてアメリカでは1940年代から1950年代にかけ、GM、フォード、クライスラーといった、一大自動車メーカー同士が自動変速機開発を競い合うようになります。
そして、この「自動変速機戦国時代」とも言える状況についていけないメーカーは、GMが販売するハイドラマチックを装備することで、自社製品をAT化することを余儀なくされました。
その後、第二次世界大戦終結後のアメリカでのガソリン価格の低下や大排気量車の登場とそれに伴う乗用車のパワー向上に合わせて、ATは爆発的な勢いで普及し、1965年にはATの装備率が90%を上回るようになります。
1948年にはGMのビュイックに、トルクコンバーター搭載ATの「ダイナフロー」が装備され、続けて登場したターボハイドラマチックでは、トルクコンバーターを発進性能に特化させ、ギアの組み換えだけで変速を行えるようになりました。
さらに、ロックアップ機構の追加やATユニットの量産化、そして小型化がおこなわれます。
そんなAT化の波は日本にも波及し、1958年には岡村製作所が開発した「ミカサ」にATを搭載。
続く1960年には、東洋工業(マツダ)の「R360クーペ」にも装備されます。
そして1959年にはトヨタ自動車が「トヨペット・マスターライン」に、「トヨグライド」という、トルクコンバーター搭載2速ATが装備されました。
各メーカーとも1960年以降にアメリカとライセンス契約を交わし、自社製ATの採用を行い、トヨタもカローラ、コロナ、パブリカなどにトヨグライドを採用していきました。
本田技研工業は海外ライセンスに頼ることなく、平行軸歯車とトルクコンバーターを組み合わせたATを独自開発し、特許の問題を回避。
一方のヨーロッパでもATに目が向けられるようになり、ZFというトランスミッション製造メーカーが、BMWやプジョーと協力してATユニットを開発します。
さらに、GMからライセンスを取得したロールス・ロイスが、4速式ハイドラマチックを自社で製造して搭載し、ダイムラー・ベンツ(ダイムラー)も自社製造の4速ATを開発。
その流れを受け、1967年にフォルクスワーゲンが自社製造ATを搭載して販売しましたが、ヨーロッパでは小型車が多い環境や「自分の手で変速をしたい」という考えの根強さから、ATはなかなか広まりませんでした。
しかし日本では1970年代から1980年代にかけてAT車の数が急速に増えていき、1991年11月に運転免許もAT限定免許が導入されるなど、今や国内で販売される車の大多数がAT車となっています。
そしてロックアップ機構の導入やトルクコンバーターの代わりに湿式多板クラッチを採用するなど、技術の進歩とともにATは発展していき、1980年代には路面状況解析によるロックアップ作動域拡大といった、電子制御化が進んでいきました。
やがて5速、6速ATや10速ATも登場するようになり、今ではATでもスポーティーな走りが可能なマニュアルモード搭載の「セミAT機構」車も数多く登場しています。
セミAT機構の種類ごとの違い
セミATの特徴は、クラッチ操作が自動化されているにもかかわらず、変速が手動になっている点です。
このセミATは2ペダルでクラッチ操作が不要なことから、AT限定免許でも運転することが可能で、その中には2ペダル変速機構でありながら、全自動変速機構を備えたデュアルクラッチトランスミッションや、ATでありながらもパドルシフトやシーケンシャルシフトで手動変速が可能なモデルも存在します。
セミATはドライバー自らがギアを選べるようになっているので、自動的に路面状況に合わせたギアが選択されない場合に、ドライバーが自分の判断で対処できる点が魅力です。
たとえばエンジンブレーキが必要な場面でエンジンブレーキを効かせたり、ギアを固定することでコーナーをスムーズに抜けたりといったことも可能。
そんなセミATの種類ごとの違いを簡単に解説します。
- DCT(デュアルクラッチトランスミッション)
変速が素早く、エンジンの高回転数を維持でき、ターボラグもトランスミッションで緩和できます。MTに近い構造なので動力の伝達効率が良く、その反面、低速域の滑らかさに欠ける上、耐久性が低いものも存在します。
- セレスピード
アルファロメオに搭載されるセミATで、ハンドルのボタンかフロアシフトレバーの「ジョイスティック」で、手動変速が可能です。
変速のタイムラグが少なく、アクセルを踏んだままシフトアップをしても、車側が自動的にアクセルを緩め、シフトダウン時もアクセルを自動的に開けてくれます。初期型が壊れやすいのが難点となっています。
- PDK(ポルシェ・ドッペルクップルング)
ポルシェのデュアルクラッチトランスミッションで、構造はMTと同様ながらクラック操作が自動でおこなわれ、レバーあるいはボタンでシフトチェンジを行います。
フットブレーキの踏み具合でシフトダウンを制御でき、手元のボタンあるいはレバーでシフトを選択することも可能です。
まとめ
かつて変速スピードがMTよりも遅いと言われていたATも、今やその変速スピードはMTを上回り、変速時のラグもほとんどありません。
また、MTと同程度の動力伝導率を備えたATも登場しており、変速時スピードや効率性だけに目を向ければ、ATのほうが合理的だと言えるものも存在します。
しかしMTにはATにはない、“自分の手で車を操る楽しさ”があり、クラッチ操作やシフト操作などを全て自分で制御できるという特徴があります。
また、クラッチ操作やシフト操作を全て自分でこなすことから、運転に集中しやすいという、性能面以外のメリットも。
それらは単なる効率性だけでは測れない、人間らしい非合理的なこだわりかもしれません。
そしてそういった非合理的なこだわりが、ドライバーが任意にギアを選択できるセミATにも、少し反映されているのです。
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