ほとんどの車には、金属製サスペンションが採用されています。これはバネの弾力性を利用して衝撃を吸収するためですが、今回ご紹介する「ハイドロ」と「エアサス」は気体をバネとして使ったサスペンションです。
掲載日:2019/08/07
エアサスとは
通常のサスペンションが金属バネの弾力性を利用しているのに対し、圧縮した空気の力を利用したサスペンションのことをエアサスペンションと呼びます。
気体には一定温度下で、気体の圧力と体積が反比例する性質があります。
これは「ボイルの法則」と呼ばれるもので、たとえば気体を2分の1まで圧縮すると、その圧力(反発力)も2倍になるのです。
この法則に基づいて開発されたのがエアサスで、搭乗者や荷物が乗った場合は圧力も増し、どれだけ圧縮しても気体はなくなりません。
そのためどれだけ重い荷物や大勢の人が乗っても車高が変化しないというメリットがあり、この性質を活かしておもにバスやトラックなどに採用されています。
また普通の乗用車では、おもに高級車に採用されており、金属サスペンションでは味わえない、優雅な乗り心地を得ることが可能です。
また金属製サスペンションでは吸収できない小さな振動を減衰できたり、エアサス内の空気量を調整することで車高やバネレートも自由に変えられることも特徴。
ただ後述するハイドロとは違い、空気圧の調整には専用のコントローラーが必要で、装備するには空気源や車高センシングを伴うことから、仕組みは複雑になっています。
ハイドロとは
「ハイドロ」とは、『ハイドロ・ニューマチックサスペンション』の略で、通常のサスペンションのスプリングとショックアブソーバーの機能を単体で併せ持つ機構のサスペンションです。
このサスペンションはフランスの自動車メーカー、シトロエンが開発し、ほかにもロールス・ロイスやメルセデス・ベンツ、プジョーなどが採用しています。
通常のサスペンションがバネの弾力性で機能するのに対し、空気の弾力性を利用している点は「エアサス」と共通。
ただしハイドロの場合は、最初から気体が密封されていて、車高の調整は油圧シリンダー内に掛ける油圧量を増減することで行います。
その最大の特徴は、コーナリング時やブレーキング時にシリンダーが作動して傾いた車体を水平に戻す際に、車体が勝手に上下へ動くこと。
この仕組みによって、雨天時や豪雪時などの路面が滑りやすい状況でも安定した走行が可能なため、ドライバーにとって疲労が溜まりにくいというメリットも!!
こちらも自由に車高を調整することができ、その際の操作は運転席のレバーによって行います。
エアサスとハイドロのメリットとデメリット
ともに空気の弾力性を利用したサスペンションである、エアサスとハイドロ。
この双方にはメリットだけではなく、デメリットも存在します。
エアサスのメリット
エアサスのメリットには、以下のようなものが挙げられます。
- どれだけ重い荷物や大勢の人を乗せても車高が変わらない
- 乗り心地がよく、エアサスコントローラーがあれば車高を調整可能
- 金属バネでは吸収不可能な、微細な振動を減衰可能
エアサスのデメリット
一方、エアサスのデメリットには以下のようなものが。
- 車高を大きく下げて走った場合、空気圧が少なくなるので故障しやすい
- 頻繁に空気圧を変えると、エアサスの寿命が縮まるおそれがある
- エアサスコントローラーがないと、車高の調整が不可能
- 複雑な仕組みなので、壊れた場合は高い修理費が掛かる
- 構造変更を伴うので、公認申請が必要
エアサスは空気圧を使ったサスペンションなので、金属製のものや油圧で車高を変えるものより壊れにくいと思われがちです。
しかし車高を極端に下げたときは、内部の空気圧が低下している状態なので、ユニット自体に負担が掛かって故障するおそれがあります。
また、エアサス自体が気密性の高いパーツであり、経年劣化した場合は空気が漏れてしまう可能性があるので、空気圧を頻繁に変えた場合は、そのリスクが高まることに。
また金属製サスペンションとは違い、スプリングやハイトセンサー、コンプレッサーや制御コンピューターなど、壊れるときは一連のシステムが全て壊れることが多く、その場合はそれら全てを交換する必要があり、その際のコストは高くつきます。
さらに、構造変更を伴うので、公認申請が必要なことも後述のハイドロと同じです。
ハイドロのメリット
続いて、ハイドロのメリットを見ていきましょう。
- 乗り心地が良くなる
- 車高を自由に調整できる
- 路面が滑りやすい状況下でも、安定して走行が可能
ハイドロのデメリット
一方、ハイドロのデメリットには,以下のようなものが挙げられます。
- オイルや気体が漏れやすい
- 車高調整に使用するオイルが、劣化しやすい
- 金属バネとは違い、車高が一定ではないので駐車場の輪止めに当たる
- 取り付けには高いコストが掛かる
- 後付けの場合は車両構造変更を伴うので、公道を走るには公認申請が必要
- 油圧ポンプの動力が失われることがある
このうち、特にオイル漏れの問題とコスト、公認申請が必要な点は大きなデメリットだと言えます。
また公認申請をするには、走行中の車高操作をできなくし、ハイドロ自体の強度確保が必要なので、専門店に相談しましょう。
といっても、そもそも公道での車高操作は危険なので、ご法度です。
まとめ
今回はハイドロとエアサスの違いや、メリット・デメリットについて見ていきました。
エアサスがバスやトラックなどに採用されているのに対し、純正ハイドロは現在、シトロエンだけが装備している状態です。
乗り心地が良くなる反面、整備や手続きなどに手間が掛かり、コーナリング性能も低下するので、エアサスやハイドロを装備することはあくまで、乗り心地重視のものだと言えるでしょう。
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