初代レガシィから約30年以上の歴史を持ち、最後の搭載車種となったVAB型WRX STIに至るまで、スバルの栄光とともにあった名機、水平対向4気筒エンジン「EJ20」。DOHC16バルブターボ仕様は最終的に308馬力に達し、まさにスバルの象徴と言える存在でした。2019年で生産を終え、「過去の名機」となった今、EJ20搭載車の中から印象的な名車を5車種選んでみました。

最後のEJ20ターボ「EJ20 Final Edition」/ 出典:https://www.subaru.jp/wrx/sti_ej20finaledition/

(1)栄光の始まり、初代レガシィRS

1989年1月、10万km世界速度記録に挑む初代レガシィセダンRS/出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/

名機EJ20が世に出たのは、1989年1月にスバルがその社運をかけて発売した新型車、初代「レガシィ」と同時でした。

それまで長らく使い続け、もはや進化の限界に達していたEA型エンジンでは不可能だったDOHCヘッドを積み、ターボ過給で220馬力と当時の2リッター級エンジン最強を誇りったEJ20はその実力を証明すべく、ターボを搭載したレガシィセダンRSとして海を渡ります。

そしてアメリカ合衆国アリゾナ州のATC(アリゾナテストセンター)に、スバルと設立間もないSTIの社員が100人以上集結。目指すは1989年にサーブ9000ターボが叩き出した平均速度213.299km/hを上回る、10万kmの世界速度記録です。

1989年1月2日、挑戦車3台と予備車1台により始まったこの挑戦は、給油やメンテナンスを除き、昼も夜もなく走り続けること19日間、テストコースの周回数は実に1万890周に及びます。

そして1月21日に10万kmを走りきったレガシィRSの平均速度は、223.345km/hを記録。ユニークなメーカーではあったものの、大記録には無縁だったスバルが、当時の世界速度記録を叩き出した瞬間となりました。

その2日後の1月23日に発表、2月1日に発売された初代レガシィは、大記録を引っさげて胸を張ってのデビューとなります。文字通り、その原動力となったのがEJ20でした。

主要スペックと中古車価格

19日かけ、当時の10万km世界速度記録となる平均時速223.345km/hを達成した /出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/

スバル BC5 レガシィ RS 1989年式
全長×全幅×全高(mm):4,510×1,690×1,395
ホイールベース(mm):2,580
車重(kg):1,290
エンジン:EJ20 水冷水平対向4気筒DOHC16バルブ ICターボ
排気量:1,994cc
最高出力:162kw(220ps)/6,400rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgm)/4,000rpm
10・15モード燃費:9.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:4WD
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ストラット

 

(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
初代レガシィセダンRS:198万~258万円・2台

(2)WRCで3年連続マニュファクチャラーズチャンピオンを獲得!初代インプレッサWRX

WRCフル参戦を始めたスバルに悲願のタイトルをもたらした初代インプレッサWRX STI/ 出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/

1990年に初代レガシィRSで始まったWRC(世界ラリー選手権)への挑戦は、1993年にようやくレガシィで1勝します。

その直後にデビューした、小型軽量の初代インプレッサWRXはさらに戦闘力が高く、1995年に初のマニュファクチャラーズと、ドライバーズ(C・マクレー)のダブルタイトルを獲得。

1996年にも2年連続でマニュファクチャラーズタイトルを、1997年にはそれまでのグループA車両からインプレッサ・リトナをベースとした2ドアクーペ版のWRカーへスイッチし、3年連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲得する快挙を成し遂げます。

翌年以降はライバルが台頭してきたため、活躍はその3年間がピークでしたが、WRCにおけるスバルの黄金時代を支えたのは、もちろんEJ20でした。

なお、初代インプレッサWRXのEJ20ターボは、当初最高出力240馬力でスタートしましたが、ライバルと競うように最高出力を上げていった結果、1996年9月に登場したWRX STiバージョンIIIでは、当時の国内馬力自主規制値である280馬力に到達。

同年6月に達していた2代目レガシィのツインターボ版EJ20に続き、シングルターボでは初の280馬力への到達となりました。

主要スペックと中古車価格

1995年を皮切りに、3年連続でWRCマニュファクチャラーズタイトルを獲得/ 出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/

スバル GC8 インプレッサ WRX タイプRA STiバージョンIII 1996年式
全長×全幅×全高(mm):4,340×1,690×1,405
ホイールベース(mm):2,520
車重(kg):1,220
エンジン:EJ20 水冷水平対向4気筒DOHC16バルブ ICターボ
排気量:1,994cc
最高出力:206kw(280ps)/6,500rpm
最大トルク:343N・m(35.0kgm)/4,000rpm
10・15モード燃費:9.9km/L
乗車定員:5人
駆動方式:4WD
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ストラット

 

(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
初代インプレッサWRX 56万~599.9万円・66台(22B、S201は除く)

(3)“世界最速SUV”の称号を引っさげ登場した、初代フォレスター

1996年、インディアナ・モータースピードウェイで24時間世界速度記録(ハーマントロフィー)に挑む初代フォレスター /出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/

名機EJ20ターボの名声は、初代レガシィやインプレッサによって既に十分すぎるほど響き渡っていましたが、スポーツセダンやスポーツワゴンではなく、「EJ20はSUVに積んでも速い!」と証明したのが、初代フォレスターでした。

インプレッサベースとはいえ最低地上高が確保され、全高も高く、重いというハンデを背負ったクロスオーバーSUVのフォレスターでしたが、デビュー前の1996年10月にアメリカのインディアナ・モータースピードウェイへ乗り込み、1周4kmのオーバルコースを24時間走ることで平均速度を競う「ハーマントロフィー」へ挑戦します。

その結果、T-Iクラスで180.082km/hというSUV速度記録を樹立。翌1997年2月には「世界最速SUV」の称号を引っさげ、華々しく発売されました。

フォレスター自体は、シティオフローダー的なSUVというよりは、ステーションワゴンのクロスオーバーモデルといった外観ではありましたが、左右バランスに優れ、低重心のEJ20ターボによる安定した走りは、SUVに対するイメージを一変させる効果があったと言えます。

その後もフォレスターはラリーに出場するなど活躍し、3代目SH系までEJ20搭載車がラインナップされていました。

主要スペックと中古車価格

平均速度180.082km/の新記録を打ち立てた、初代フォレスター/ 出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/

スバル SF5 フォレスター S/tb 1997年式
全長×全幅×全高(mm):4,450×1,735×1,580
ホイールベース(mm):2,525
車重(kg):1,350
エンジン:EJ20 水冷水平対向4気筒DOHC16バルブ ICターボ
排気量:1,994cc
最高出力:184kw(250ps)/6,250rpm
最大トルク:306N・m(31.2kgm)/4,000rpm
10・15モード燃費:11.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:4WD
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F・R)ストラット

(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
初代フォレスター 25万~66万円・13台

(4)EJ20を積んだベスト・レガシィ、4代目レガシィB4

ツインスクロールシングルターボ化で、それまでの印象を変えたEJ20ターボ/ 出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/

4代目レガシィは、EJ20ターボを搭載した最後のレガシィであり、ボディを拡幅して3ナンバー化した事で、水平対向エンジン車で不足しがちなフロントタイヤの舵角を確保。取り回しもよくなった、日本におけるベスト レガシィと言えるモデルです。

しかも一回り大きくなったとはいえ、3代目レガシィB4 RSKに対し、4代目レガシィB4 2.0GTスペックBは、高張力鋼など軽量高剛性素材の使用によって30kgも軽量化されており、パワーウェイトレシオ、トルクウェイトレシオともに勝っています。

さらには、2代目、3代目レガシィに採用されていたシーケンシャル・ツインターボ版EJ20で弱点とされていた、タービン切替時のトルクの山は、4代目レガシィ用のEJ20ではツインスクロール・シングルターボ化されたことで完全に克服されました。

最大トルク発生回転数も5,000回転から2,400回転に落とされ、基本的には高回転高出力型だったEJ20の低回転トルクを向上。軽量化と合わせて、わずかながら燃費の向上(11.4→12.0km/L)も実現し、レガシィ最後のEJ20搭載車にふさわしい進化を遂げています。

主要スペックと中古車価格

5ナンバー縛りからの解放と、その後の大型化以前でもっとも熟成されたレガシィ/ 出典:https://www.subaru.jp/brand/technology/history/

スバル BL5 レガシィB4 2.0GTスペックB 2003年式
全長×全幅×全高(mm):4,635×1,730×1,435
ホイールベース(mm):2,670
車重(kg):1,430
エンジン:EJ20 水冷水平対向4気筒DOHC16バルブ ICターボ
排気量:1,994cc
最高出力:206kw(280ps)/6,400rpm
最大トルク:343N・m(35.0kgm)/2,400rpm
10・15モード燃費:12.0km/L
乗車定員:5人
駆動方式:4WD
ミッション:5MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)マルチリンク

(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
4代目レガシィB4:5.5万~179万円・225台(S402除く)

(5)これが最後!VAB WRX STI EJ20ファイナルエディション

全日本ラリーなど、国内外のモータースポーツで戦い続けたWRX STI /出典:https://www.jrca.gr.jp/5842

一時は日本国内で販売されるほぼ全てのスバル車(OEM車と軽自動車は除く)に搭載されていたEJ20でしたが、ロングストロークで高効率、(水平対向エンジンにしては)経済性に優れたFB型、FA型といった新世代の水平対向エンジンが登場すると、急速に入れ替えが進められます。

それでもGRB(5ドア)、GVB(4ドア)といった、初代インプレッサWRXから直系のスポーツモデルには、改良を加えつつ搭載されてきましたが、2015年春に3列シートミニバンのエクシーガがクロスオーバーSUVに転換したのを機にEJ20ターボを下ろすと、ついに搭載車はVAB型「WRX STI」のみとなりました。

それでもスポーツGTセダン的なWRX S4(VAG型)が300馬力のFA20DIT(直噴ターボ)を搭載し、リニアトロニックCVTと組み合わされていたのに対し、あくまでEJ20ターボに6速MTを組み合わせていた国内仕様のWRX STI(海外仕様はEJ25)は、ラリーやレースなど、モータースポーツのフィールドで活躍するリアルスポーツセダンである事を貫き通します。

しかし、運転支援システムの核となる「アイサイト」との適合が行われず、リアルスポーツとはいえ年々強化される燃費規制にも適合しきれないEJ20は遂に、かつてのEA型エンジンと同様、「進化の限界に達した」として、2019年度をもっての生産終了が決定となりました。

最後に、タイプSをベースにピストンやコンロッド、クランクシャフトのバランスを取った特別なバランスドエンジンを搭載した特別仕様車、「EJ20 FinalEdition」が555台限定で販売され、30年以上にわたったEJ20ターボの栄光に彩られた歴史は幕を閉じたのです。

主要スペックと中古車価格

最後のEJ20ターボ搭載車、VAB型WRX STI EJ20ファイナルエディション /出典:https://www.subaru.jp/wrx/sti_ej20finaledition/

スバル VAB WRX STI EJ20 ファイナルエディション 2020年式
全長×全幅×全高(mm):4,595×1,795×1,475
ホイールベース(mm):2,650
車重(kg):1,500
エンジン:EJ20 水冷水平対向4気筒DOHC16バルブ ICターボ
排気量:1,994cc
最高出力:227kw(308ps)/6,400rpm
最大トルク:422N・m(43.0kgm)/4,400rpm
JC08モード燃費:9.4km/L
乗車定員:5人
駆動方式:4WD
ミッション:6MT
サスペンション形式:(F)ストラット・(R)ダブルウィッシュボーン

(中古車相場とタマ数)
※2021年1月現在
WRX STI:279.9万~777万円・120台(S207、S208は除く)

チューンドベースとしては、まだまだこれから?

最後のEJ20ターボ「EJ20 Final Edition」 /出典:https://www.subaru.jp/wrx/sti_ej20finaledition/

生産を終えたEJ20ターボですが、日産RB26DETTやトヨタ2JZ-GTEといった「過去の名機」がそうであったように、チューンドベースとしての歴史はまだまだこれからです。

確かに大排気量エンジンと比べて大幅に出力を向上する余地は少ないかもしれませんが、熟成とノウハウの蓄積が進んでおり、実績も多数。さらには低重心・左右対称でバランス良好という素性の良さにより、今後はさまざまなチューンドカーで、これまでのEJ20搭載車に限らず、ある時はフロントに、またある時はミッドシップやリアに積まれる事でしょう。

今後は、「あの名車に積まれていたEJ20が、今度はこんな舞台で活躍している」というニュースを楽しみにするのもいいかもしれません。

 

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