ちょうどいい排気量で、パワーも振動や静粛性も、さほどコストに気を使わずそれなり。サイズも手頃なので、縦に置いても横に置いても、どこに置いても対応可能。エンジンルームに余裕が出るため、補機類のレイアウトも容易などの使い勝手の良さにより、現在の主流となっている直列4気筒エンジン。その中で、モータースポーツで活躍したものを中心に、国産各社から代表的なものをピックアップしてみました。

数あるトヨタ直4の中でも名機の1つに入る3S-GE / Photo by konitomo1027

<1>TSレースでブン回せ!日産A12

1970年代のTSレースで圧倒的な強さを誇ったB110サニークーペのA12エンジンはOHVながらフルチューンで175馬力を超える怪物だった / 出典:https://global.nissannews.com/ja-JP/motorsports-archive-j

それまで大衆車用として主力だったC型やE型に代わるエンジンとして、1966年に発売された初代サニー用に開発された1リッター直列4気筒OHVエンジンA10をベースに、2代目サニーへの搭載にあたり、ライバルのトヨタ カローラへ対抗するために、1.2リッターへ拡大したA12へ発展。

1.5リッター版を含め、全てOHVでDOHCやSOHCヘッドはなし。

日産「A12」を簡単にまとめると、そんな平凡なエンジンで、最高出力もグロス68馬力程度と、スペック上も特筆すべき点はありません。

しかし、古臭いと思う人も多いOHVエンジンにも低重心でコンパクトというバカにできないメリットがあり、さらに保守的構造ながら軽量にして頑丈となれば、市販車用としては高い信頼性を、そしてモータースポーツ用としては格好のチューニングベース、と見ることもできます。

東名パワードがチューンしたTSレース用B110サニーのA12は、実に194馬力を発揮したという / 出典:https://dsportmag.com/the-cars/features/vintage-datsun-sunny-dominates/

A12がその名を轟かせたのは、そのチューニングベースとしての存在で、実のところ、エンジンというのはカタログスペックはどうあれ、その力を発揮するのになかなか吹け上がらなければ意味がなく、吹け上がったら上がったで、低速トルクが細すぎ、そこから下げられなくても困ります。

しかし軽快に吹け上がり低速トルクもあったA12は、チューニングにもよく耐えて、イジればイジるほど極めて行けば底抜けのポテンシャルを発揮するエンジンでした。

2代目サニークーペ(KB110)へ搭載されたA12は、OHV2バルブ直4とは信じがたいほどの実力を発揮。

回せば軽く1万回転オーバー、最高出力は170馬力以上、モノによってはターボなどなくとも200馬力近くを発揮し、TSレースと呼ばれた大レースの前座レースで主力となります。

ライバルは初期のカローラやスターレット、シビックでしたが、後述するワークス放出エンジンを搭載したパブリカスターレット クーペを除けば拮抗できるパワーユニットは存在せず、後継のB310(4代目サニー)を含めて長らくレースで活躍。

その台数の多さとデッドヒートぶりは、メインレースより見どころがあったと言われています。

<2>オイルショック世代と思ってナメるな!隠れた名機、トヨタK型エンジン(3K-R/137E、4K改5K)

K型エンジンにはレース用にDOHC16バルブヘッド化した137E(3K-R)もあり、KP47スターレットへ搭載されてB110サニー最大のライバルとなった / 出典:https://www.rollaclub.com/board/topic/17848-3kr/

トヨタの直4と言えば、4A-Gや3S-Gをはじめ多方面で多数のエンジンが活躍しており、ここでわざわざ紹介するまでもないほど紹介されきっているため、今回はあえての「K型」。

それもレース用の137E(3K-R)や、4K改5Kなどを中心に紹介します。

基本的には日産A型と同期、同じ用な理由で、歴代サニーにとって最大のライバルだったカローラの初代モデル用に、1.1リッター版が1966年に登場した、トヨタ「K」型エンジン。

日産A型とは逆に排気量縮小版(2K)が存在したのを別にすれば、次第に排気量を上げて発展していき、OHV2バルブの直列4気筒エンジンながら軽量で軽快に吹け上がって、カタログスペック以上に楽しいエンジンだったという点でも共通です。

ただ、最終的には1.8リッター版(7K-E)まで発展する余地があったため、商用車など低コストで実用性が求められる車種では、2000年代まで末永く使われたという点は大きな違いです。

それゆえに、スターレットのワンメイクレース用などはともかく、多数の車種が参戦するレースでは、日産A型のサニーやチェリーなどに遅れを取る事が多く、あまり気合の入ったチューンをするより、DOHCの2T-Gなど上位のエンジンへ移行する傾向がありました。

ただし、レーシング サニーとの激突で日産との威信がかかったTSレースでは少々事情が異なったようで、2代目パブリカの上級車種として登場し、当初はクーペからラインナップされたKP47スターレットクーペ用として、トヨタワークスが開発コード「137E」、通称「3K-R」を投入しています。

名前の通り1.2リッターOHV直4の3Kをベースに、ヤマハのDOHC16バルブヘッドを載せて1.3リッター化。

10,000回転以上で最高出力180馬力に達するレーシングエンジンで、規則によりスペシャルエンジンには50基の生産が義務付けられていたため、オイルショックによるトヨタワークス撤退後も、セミワークス的なプライベーターへ供給されました。

各チューナーがその腕を競ったA12に対し、いわばメーカーが金で解決したような137Eにはプライベーターからの反発も多く、一時は137Eを搭載したスターレットが参戦するレースのボイコットまで起きましたが、結局はA12の牙城を崩しきれなかったとも言われています。

ただのE50系カローラと思うなかれ。4K改造5Kを搭載し、足回りもAE86などを流用した本気の走り仕様!/ 撮影:兵藤 忠彦

K型エンジンの系統ではもうひとつ、バリエーションの多さから排気量アップが容易なメリットを活かしたチューニングも流行りました。

そして、KP47スターレットなどに搭載された1.2リッターの3Kをストロークアップする「3K改4K」や、E50系カローラ/E60系スプリンターへ搭載された1.3リッターの4Kをボアアップして1.5リッター化する「4K改5K」などが存在。

特にE50系カローラ/E60系スプリンターは、厳しい排ガス規制の中でパワーダウンやレスポンスダウンの著しい「ドン臭い車の時代」だったため、現在は注目度がかなり低いものの、どっこい気合の入ったオーナーは、自動車税の安い1.5リッターへ収まる4K改5Kへウェーバーなどのスポーツキャブを連装で取り付け、「羊の皮を被った狼」を地で行くのです。

もちろん足回りはAE86流用などで車高も下げてビシッとキメ、太いスポーツタイヤを履いているため、遠目にはともかく近くで見れば、そのオーラはとても隠せません。

ヘタにDOHCエンジンを存続させたため、他のエンジンに注目度の集まりにくいトヨタの直4エンジンではありますが、「4K改5K」などはもっと注目されてよいはずの「隠れた名機」と断言させていただきます。

<3>スマン、あの時の「DOHC16バルブ」はFJ20じゃないんだ…日産LZ20B

S110シルビアのスーパーシルエットへ搭載されていたLZ20B / 出典:https://www.nismo.co.jp/motorsports/entertainment/GT-R_HISTORY2017/vol3.html

日産のL型エンジンといえば直列6気筒のイメージがあるものの、1.3~2リッターの直列4気筒版L型シリーズもあり、レースやラリーで直6のL24を積む初代フェアレディZ 240Zと並んで活躍。

小型軽量なノーズの軽さを生かして、むしろ主力となったのが、L型4気筒のDOHC版「LZ」シリーズです。

DOHC4バルブ仕様のLZ20Bを搭載して1982年のサファリラリーで総合優勝、4連覇を達成したPA10バイオレット / 出典:https://global.nissannews.com/ja-JP/motorsports-archive-j

初代バイオレット(710)へ搭載された1.8リッターDOHCのLZ18を筆頭に、最終的にDOHC16バルブヘッドの2リッター版LZ20Bを搭載した2代目バイオレット(PA10)がWRCで暴れまわり、特にサファリラリーでは1979年から1982年まで4連覇を達成しているものの、日本だとバイオレットの存在自体が地味で知名度が低いのは、非常にもったいないところ。

有名なR30スカイラインのシルエットフォーミュラも、搭載していたのはFJ20ではなくLZ20Bだった / 出典:https://global.nissannews.com/ja-JP/motorsports-archive-j

もっとも、LZ18にせよLZ20Bにせよ、DOHC4気筒L型はあくまでモータースポーツ専用で、市販車には搭載されなかったため、どこで何に搭載されて活躍しようとも、街を走るバイオレットが地味だったのは仕方がありませんが、何か販促手段に使おうと思わなかったのか、あるいは実用大衆車にスポーツイメージは邪魔と思ったのか、定かではありません。

910ブルーバード、DR30スカイラインRS、S110シルビアの「シルエットフォーミュラ軍団」は全てLZ20B搭載 / 出典:https://www.nismo.co.jp/motorsports/entertainment/GT-R_HISTORY2017/vol4.html

後にLZ20BはDR30スカイラインを筆頭とする、交換パイプフレームへ市販車風カウルボディをかぶせた「日産シルエットフォーミュラ軍団」へ多用され、ガワ違いの910ブルーバードやS110/S12シルビア、PA10バイオレットなど、多くのシルエットフォーミュラへはLZ20Bが搭載されました。

特に印象深いのは、マフラーから火を吹く「アフターファイヤー」を盛んに魅せたDR30スカイラインRSのシルエットフォーミュラで、当時の日産で初代/2代目スカイラインGT-R以来のDOHC4バルブエンジンFJ20を搭載したスカイラインRSの宣伝には、大いに役立ちます。

そのフロントスポイラーなどに書かれた「DOHC16バルブ」の意味は、FJ20ではなく実はLZ20Bでした。

<4>エンジンも「エボリューション」しまくった、三菱4G63ターボ

IからIX MRまでランサーエボリューションの頼もしい心臓部だった4G63ターボ / 出典:https://www.favcars.com/wallpapers-mitsubishi-lancer-gsr-evolution-vi-uk-spec-cp9a-1999-2000-292396.htm

三菱の直列4気筒も、ダートトライアルで活躍した3代目ミラージュ/ランサー用のG32B1.6リッターターボや、その後継で1.8リッターの4G93ターボ、1.6リッターMIVECで175馬力を発揮し、ミラージュRSへ搭載されてシビックを脅かした4G92など、名機候補は数多くあります。

しかし、その実績や信頼性、改良されながら長く使われた素性の良さという面で右に出るものがないのは、やはり4G63ターボを置いて他にないでしょう。

ランサーEXターボやスタリオン4WD、ギャランVR-4にも搭載された4G63ターボだが、やはり”ランエボ”で戦う姿がよく似合う / 出典:https://www.wrc.com/en/news/season-2020/wrc/paddon-restores-title-winning—-green-machine-/

1970年代、まだG63Bと呼ばれていた頃に、初代「ランタボ」(A175AランサーEXターボ)の輸出仕様へ搭載されたのを皮切りに、スタリオンなどにも搭載されていた頃は、まだ2バルブSOHC、あるいは3×2の可変3バルブSOHC「シリウスダッシュ」でしたが、DOHC4バルブターボ化されてギャランVR-4へ搭載されたあたりからが、出世の始まりです。

4G63ターボを引っさげWRCで活躍を始めたギャランVR-4は、より小型軽量マシンへそのパワーユニットを押し込めば戦闘力が向上するというわけで、1992年に最初の「ランサーエボリューション」(エボI)が誕生します。

しかし、本領を発揮仕出したのはエボIIIからで、幾度もWRCタイトルを獲得するなど国内外のラリーで活躍したほか、スーパー耐久などのレースでも活躍。

最後はエボIX MR用のMIVECターボにまで発展し、三菱のモータースポーツ史に、大きな足跡を残しました。

また、ランエボ用のデチューン版とはいえ、他車種にも積極的に搭載されたという意味では特別なエンジンではなく、RVRハイパースポーツギアといったRVや、シャリオグランディスに搭載されたものは5速MTを組み合わせた4WDだったため、「シャリオエボ」などと言われています。

<5>国産初のDOHC4バルブ直4エンジン、日産FJ20

国産初の直列4気筒DOHC16バルブエンジンだった日産FJ20E / 出典:https://www.favcars.com/wallpapers-nissan-skyline-2000rs-coupe-kdr30-1981-83-213637.htm

1970年代末に国産初の市販車用ターボエンジンをセドリック/グロリア(430)やスカイライン(C210)へ搭載した日産ですが、1981年には、第1世代スカイラインGT-R用のS20以来となる、市販車用DOHCエンジン「FJ20E」を復活させました。

当時の日産は長らく使ってきたL型の直列6気筒版をV型6気筒の「VG」(と、つなぎ役の直6「RB)へ、同4気筒版を新世代の「CA」へと切り替えようとしていましたが、VGはともかくRBやCAの登場までにはまだ間があったため、つなぎ役として古くとも質実剛健な実用エンジン、H20をベースに手を加え、DOHC4バルブ化したものです。

シルエットフォーミュラだけでなく、グループAレースにも参戦したスカイラインRSにはFJ20ターボが搭載されていた / 出典:https://global.nissannews.com/ja-JP/motorsports-archive-j

こうした成り立ちのため、最初から短命が運命づけられたエンジンでしたが、基本設計のふるさから発展性にも乏しかったものの、世がちょうど「高性能エンジンの本命はDOHCかターボか」と議論になっていた事が、FJ20にとっては幸でした。

「DOHCかターボかではなく、DOHCターボを作ればいいじゃないか」というわけで、国産初のDOHCターボこそ、トヨタの3T-GTへ先を越されたものの、国産初のDOHC4バルブターボ(3T-GTは2バルブDOHCだった)として「FJ20ET」を開発し、スカイラインRSターボ(DR30)へ搭載します。

FJ20はS110シルビア/ガゼールへ、FJ20ETはさらにS12シルビア/ガゼールにも搭載されましたが、インタークーラーを追加したバージョンは「スカイライン2000ターボインタークーラーRS/RS-X(RSターボC)」にのみ搭載。

1985年から始まったグループAレース、JTC(全日本ツーリングカー選手権)にも参戦し、スポット参戦するボルボ240ターボなど、外国車勢にはかなわなかったものの、国産スポーツでは最速を誇りました。

<6>気持ちいいエンジンに余計なカタログスペックは無用!日産CG10DE/CG13DE

K11マーチはCG10DEエンジンをブン回す楽しみのある車だった / Photo by Robert Manhire

日産の「カタログスペックに頼らない気持ちのいいエンジン」としてA12を紹介しましたが、2代目K11マーチへ搭載された1リッターDOHC4気筒16バルブのCG10DEおよび、1.3リッター版CG13DEも、まさにそんなエンジンでした。

スペック上はネット58馬力のどうということはない実用エンジンですが、空吹かしすれば意外にもレーシーなエキゾーストノートを奏で、走り出せば豊富な低回転トルクのまま気持ちよく高回転まで吹け上がる、ゴキゲンになるエンジンだったのです。

ターボやスーチャーがなくとも過激な走りが楽しい車の代表、K11マーチはCG10DEかCG13DEを搭載 / 出典:https://mos.dunlop.co.jp/archives/rally/race-data/report_rally_4_20100612.html

先代K10マーチに搭載されたMAエンジンにはターボどころかツインチャージャー(ターボ+スーパーチャージャー)すらありましたが、CG系にはそんな付加物はまるで不要。

車を楽しむのにはパワーではなく、イイ音を立てて軽やかに吹け上がるエンジンがあれば、それでいいじゃない?と思わせるには十分です。

筆者はかつて、知り合いが「中古で安くて適当にイイ車ない?」と聞かれた時に、いつも真っ先に上げたのが、このK11マーチ、それも安い1リッターのCG10DE搭載車でした。

全日本ジムカーナのN1クラスでも、タイヤ性能さえ互角なら、70馬力の1リッター版初代ヴィッツ(SCP10)といい勝負ができ、1990年代の車が旧車扱いされるようになったら真っ先に乗り回して日常のアシにしたいクルマと言えば、CG10DE搭載のK11マーチなのはマチガイありません。

<7>「公道を走れるレーシングエンジン」の説得力。ホンダB1BC spec.R

ノーマルのB18Cに対し高出力化技術の粋が凝らされたspec.R 出典:https://www.honda.co.jp/factbook/auto/INTEGRA/19950824/in95-005.html

ホンダエンジンも新旧大小問わず名機揃いですが、だからこそ「これぞ名機!」と断言できるのは、初代インテグラタイプR(3ドアDC2/4ドアDB8)用のB18C spec.Rです。

初期モノはポート研磨が手作業で、匠の技が凝らされているとか、ZC以来のピストンスピードがF1並とか、そういうウンチクより乗った時の説得力がものすごいエンジンで、高回転までカーンと回るのに何のためらいもありません。

B18Cspec.Rの高いポテンシャルもあり、今もなおジムカーナなどで現役なDC2インテグラタイプR / 出典:https://mos.dunlop.co.jp/archives/gymkhana/race-data/report_gymkhana_8_20080907.html

しかも、きちんとパワーはあり、カタログにない気持ちよさというわけではなく、ただ与えられた仕事を淡々とこなす「仕事人」のごとく、寡黙で緊張感のあるエンジンという印象です。

どんなエンジンにも「ここでちょっとトルクの谷間が」や、「ここから一気に盛り上がる一線」という、よくも悪くも個性があるものですが、切れ味の鋭いナイフは切れてこそナンボ。

装飾やプレゼント用のリボンは必要ないとばかりのストイックさを持つエンジンで、だからこそ2020年代の現在に至るまで、四半世紀もの間、現役の戦闘力を保てるのでしょう。

他のホンダエンジンでも、シビックのB16A/Bや2代目シティのD13Cには、もう少しやんちゃというか色気があり、S2000のF20Cには挑戦的な態度すら感じますが、純粋な切れ味という意味では、B18C spec.Rを推したいと思います。

<8>ドカンと景気よくやってみよう!ダイハツJC-DET

デビュー当時はリッターあたり出力が市販レシプロ最強だったダイハツJC-DET / 撮影:兵藤 忠彦

ダイハツの直列4気筒といえば、初代コペンにも使われて拡張性が高く、チューニングベースとしても最適で「軽自動車版RB26DETT」の異名を持つJB-DETが面白いのは間違いありませんが、そのJB-DETの開発ベースという名目で、旧規格軽自動車用の旧型JB-JLをベースに、割と無茶して作られたJC-DETの強引ぶりもたまりません。

JC-DETを搭載したストーリアX4は、打倒スズキを果たすべくラリーやダートトライアルで活躍した / 出典:https://www.jrca.gr.jp/driver/4wd-a1.html

何しろわずか713ccで120馬力を発揮。

デビュー当時はレシプロエンジン最強のリッターあたりの出力を誇ったとはいえ、その出力の内訳はほとんどタービン(IHI RHF4)頼みなんじゃないか?というくらい、ブーストがかからないと全くパワーが出ません。

しかもJB-DETがせいぜいブースト1.1k止まりなところ、強化ガスケットなど各部を強化してブースト1.2kが標準。

吸排気チューンでブーストを上げれば、160馬力程度までは簡単に上がるわりには、駆動系などエンジン以外は「ゴールするまで壊れなければいい」(実際はゴールまでもたない事も多い)という割り切りとしか考えられないくらい、よく壊れます。

それでもモータースポーツ専用車ならそんなもんだとも思いますが、普通に市販していたカタログモデル(よく受注生産と言われますが、年度初めの生産計画数が少なかっただけ)へ、よくこんなエンジンを積んで売ったものだという特異性で、右に出るエンジンはなかなかないでしょう。

<9>ポスト・リッター100馬力時代のテンロクスポーツエンジン、スズキM16A

フィーリングの良さで2代目/3代目スイフトの評価を高めたM16Aエンジン / 出典:https://www.favcars.com/suzuki-swift-sport-2005-11-images-368835.htm

1989年にホンダがDOHC VTECでリッター100馬力の1.6リッターエンジン「B16A」をインテグラへ搭載して以来、1990年代のテンロクスポーツとは「リッター100馬力は当たり前、それ以上でなければスポーツエンジンにあらず」という時代となりました。

ただし、そんな高回転高出力エンジンをいつまでもありがたがるのはナンバーつき競技車でジムカーナやダートトライアル、ラリーに出場するようなモータースポーツドライバーか、すっかり少数派になったストリートチューン派くらいなもので、RVブームと2002年の排ガス規制で、20世紀のスポーツエンジンはほとんど絶版化してしまいます。

しかし、ここまでに紹介した日産のA12やCG10DEのように、「楽しいエンジンって、パワーがあればいいってもんじゃないよね?」というのも事実であり、それを思い出させてくれたのが、2005年に発売された2代目スイフトスポーツ(ZC31S)のM16Aエンジンでした。

軽快なハンドリングと気持ちよく回るエンジンで、M16Aを搭載した2代目/3代目スイフトスポーツはあらゆるステージで活躍した/ 出典:http://jaf-sports.jp/topics/detail_000061.htm

先代(HT51S)のM15Aは「スイフト”スポーツ”と言いながら、この上まで回らないエンジンはどうしたことか」と酷評に甘んじていたエンジンでしたが、M16Aは心機一転、カタログスペックこそたった125馬力、DOHC16バルブなのに、SOHC16バルブの2代目シャレード デ トマソ(G201S)用HD-EGと変わりません。

しかし、ZC31Sスイフトスポーツに乗ったドライバーは一様に、優れたハンドリングとともに、実用域から高回転まで気持ちよく吹け上がるM16Aを褒め称え、軽自動車メーカーだと思っていたスズキが、こんな気持ちのよいコンパクトスポーツを作れるのかと驚きました(そういう時は大抵、カルタスGT-iが忘れ去られてるのですが)。

3代目ZC32SでもM16Aは若干のパワーアップ(136馬力)とともに6速MTと組み合わせられ、一層スポーツ性を高めましたが、4代目ZC33Sでダウンサイジングターボの1.4リッターターボ化されたのが、少し惜しまれます。

<10>ディーゼルだってスポーツしてもいいじゃない?マツダS5-DPTS

国産ディーゼル車でも現在のモータースポーツで通用する実力を持つ、MAZDA2(旧名デミオ)の「SKYACTIV-D1.5」S5-DPTS / 出典:https://www.mazda.co.jp/cars/mazda2/driving/

ここまでは全てガソリンを燃料とする直列4気筒エンジンの「名機」を紹介してきましたが、最後はあえての「ディーゼルエンジン」、それも現行機を紹介させてください。

国産ディーゼルは過去から現在に至るまで、どちらかといえば経済性、あるいはオフロード走行時や貨物積載、多人数乗車時の大トルクを期待されたもので、ダカールラリーのような長距離ラリーレイドを除けば、あまりモータースポーツに縁がなかったといっても過言ではありません。

しかし、マツダが自信を持って誇るSKYACTIVテクノロジーの申し子、SKYACTIV-Dこそ、あるいはBMWやメルセデス・ベンツ、アウディも過去に作ってきた、モータースポーツに耐えうる初の国産ディーゼルと考えられます。

SKYACTIV-D1.5を搭載したデミオXD(MAZDA2 XD)は全日本ダートトライアルなどモータースポーツにも参戦し、パワフルな直4クリーンディーゼルの可能性に挑む / 出典:https://mzracing.jp/japandomestic/2770

全日本ダートトライアルではSKYACTIV-D1.5「S5-DPTS」を搭載した4代目デミオXD(現在は改名してMAZDA2 XD)が参戦。

派手な活躍とまでいかないまでも、SKYACTIV-Dがモータースポーツの第一線で通用する事を証明してみせました。

また、デミオXDのジムカーナ走行を目前で見たこともありますが、キン!キン!とSKYACTIV-D特有の金属質なエンジン音を立てつつ大トルクを活かして軽快に加速する姿からは、もうキュラキュラいいながらノソノソ加速する昔のディーゼルにあったイメージは皆無です。

2030年代に控えた厳しい燃費規制の中、いかにSKYACTIV-Dとはいえ、ガソリン車のフルハイブリッドでどうにかギリギリとされる燃費要求をクリアできるのかはわかりません。

それでも、電動化時代を前に、純粋な内燃機関を動力とする車に華がある最後の時代を生きる者として、あえてS5-DPTSも「モータースポーツで活躍した直列4気筒エンジンの名機」に推薦させていただきます。

直列4気筒エンジンは「名機」が多すぎて、とてもしぼりきれない!

れも国産直列4気筒の名機には違いない。ホンダ S2000用のF20Cエンジン / Photo by konitomo1027

ここまで古今大小の国産直列4気筒エンジンから「名機」として10のエンジンをチョイスさせていただきましたが、「あのエンジンがない」、それどころか「いすゞのエンジンはどうした」という声など、いろいろあると思います。

初期のP-1(スバル1500)以外に直4エンジンを持たないスバル以外、全メーカーが直列4気筒エンジンを開発、市販車に載せて発売しており、その数たるやV6や直6、直3などより断然多いのですから、全ての「名機」を紹介していたら20でも足りるかどうか…ということで、今回は10種で勘弁してください。

何しろ数が多い直列4気筒エンジンなので、DOHCやSOHC、OHV、ターボやスーパーチャージャーなど、過給器の有無、あるいは排気量の大小などで分けていけば、もっと数多くの「名機」を紹介できるはずなので、機会あらば、ぜひ。

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