栄光に包まれた人気車種、伝説的存在にまで上り詰めた車種は、後世まで長く名車として語り継がれますが、ほぼ同じような車にも関わらず、ちょっとの違いで全く扱いが違うどころか、存在すら忘れ去られている車種もあります。今回はそんな「名車に隠れたあの車」をいくつかピックアップしてご紹介しましょう。

グランドファミリアクーペ(海外仕様マツダ818クーペ) / photo by Rutger van der Maar

1.エボリューションしてばかりいられない!その1「CM5AランサーGSR」

三菱CM5Aランサーターボ / 出典:https://www.favcars.com/mitsubishi-lancer-gsr-jp-spec-1995-97-photos-42058.htm

三菱の小型セダン「ランサー」といえば、4代目に設定されたランサーエボリューションI以降の話題はほぼ「ランエボ」一辺倒となりましたが、その一方でランエボ以外にも魅力的なスポーツセダンが設定されていた事は、ほとんど忘れ去られています。

そもそもランサーといえばサファリラリーで優勝した初代ランサーGSR、FRターボで名を馳せた2代目ランサーEXターボ、ダートトライアルで長らく活躍した1.6リッター4WDターボの3代目ランサーGSRと、一貫してスポーツ畑を歩んできた車です。

当然1991年10月に発売された4代目にも195馬力(後に205馬力)の1.8リッターターボ4G93を積む4WDターボのCD5AランサーGSRや、競技ベースの同ランサーRSが設定されており、1992年10月にランエボIが発売されるまでのホットモデルとして、ダートトライアルなどで活躍していました。

それどころか、ランエボシリーズが中古で安価に手に入るまで、各地区のローカルシリーズでは依然としてランサーGSRや、場合によっては普段使いとの共用で便利なのか、同じエンジンを積む4WDステーションワゴンのリベロGTすらよく使われています。

それゆえCD5AランサーGSRはまだそれなりに知名度もあり、ランエボIに対する「エボゼロ」という通称までありましたが、それでまだ需要があると思ってしまったのか、1995年10月にモデルチェンジした5代目にも同じ4G93ターボを積むCM5AランサーGSRを設定。

さすがに競技ベースのRSは設定されませんでしたが、既にエボI~IIIが古い順から安価な中古車が入手可能になった時期だったので、5代目ランサーGSRは相当に知名度の低い車、「まだ売ってたの?」と言われる類の車になりました。

実際、4代目CD5Aは全日本ダートトライアルにリザルトが残ってはいるものの5代目CM5Aは皆無で、ローカルイベントで使われたという話もあまり聞きません。

CM5AランサーGSRの兄弟車CM5AミラージュセダンVX-Rや、175馬力の1.6リッターDOHC MIVECを積むFFスポーツセダン、CK4AランサーMR/ミラージュセダンVRはさらに地味な存在ですが、「ランエボの影」という意味ではCM5AランサーGSRの地味っぷりが強烈でした。

【中古車相場とタマ数】
CM5AランサーGSR:47万~79.9万円・2台

2.エボリューションしてばっかりいられない!その2「CY4Aギャランフォルティスラリーアート」

三菱CY4A ギャランフォルティスラリーアート / 出典:https://www.favcars.com/images-mitsubishi-galant-fortis-ralliart-2008-9526.htm

「ランエボに隠れたノーマルランサーの実力者」は、CM5AランサーGSR以降も6代目ランサー(前期はランサーセディアを名乗ったが、後期で戻した)へ1.8リッターターボのランサーラリーアートを設定したものの、こちらはFF。

本格的に「ランエボの影」となるのはその次で、ランエボ最終形態であるCZ4AランサーエボリューションXのベースモデル、海外では7代目ランサーとして販売された9代目ギャランの日本仕様「ギャランフォルティス」へ2008年7月に追加された、CY4Aギャランフォルティスラリーアートでした。

5ドアのギャランフォルティススポーツバックにも「ラリーアート」(CX4A)はありましたが、より「ランエボの影」らしいのは4ドアのCY4Aの方で、エボX同様の4ドアノッチバックセダンでデザインテイストも似ていますが、全長はやや長く全幅は狭く、迫力はないものの威圧感のないスマートなスポーツセダンという印象です。

搭載される4B11 DOHC MIVECターボエンジンはエボXと同系統で、6速MTこそないもののセミAT(DCT)の6速SSTを組み合わせられ、280~313馬力のエボXに対し、240馬力と控えめ。

低中回転域の実用域で力を発揮する、4WDターボでした。

「遠目にエボXかな?と思ったけど何となくオーラがなく、近づいてみたらギャランフォルティスラリーアートだった。」という経験をした方もいるはずです。

【中古車相場とタマ数】
CY4Aギャランフォルティスラリーアート:105万~229.9万円・16台

3.アコード兄弟車にも設定されたホットモデル、トルネオSiR-T/トルネオユーロR

トルネオSiR-T / 出典:https://www.favcars.com/honda-torneo-sir-t-cf4-1997-2002-images-64061.htm

まだホンダが3チャネル販売体制だった頃、クリオ店で販売していたアコード相当車種を、別系列のプリモ店やベルノ店にもラインナップしており、5代目アコードの時代にはプリモ店で「アスコット」(2代目)、ベルノ店で「ラファーガ」という、直列5気筒エンジン縦置きFFミッドシップセダンを販売していました。

しかし6代目アコードへのモデルチェンジに際し、プリモ店/ベルノ店ではアスコット/ラファーガ後継車を整理。アコードの前後デザインを変えた兄弟車、「トルネオ」を両系列で販売する事となります。

このような場合、シビックの別系列販売用兄弟車などはDOHC VTECエンジンを積まないなど、量販グレードの投入に限られ、明確な差別化や販売店なりのカラーに合わせたラインナップとする事が多いものでした。

しかしトルネオでは、6代目アコード同様に2リッターDOHC VTECで200馬力のF20Bエンジンに5速MTを組み合わせたホットモデル、「トルネオSiR-T」が普通にラインナップされ、後期型では220馬力の2.2リッターH22Aを搭載する「トルネオユーロR」が取って代わります。

つまり、6代目アコードと全く同じラインナップとなっていたのです。

セダン需要の激減により、一代限りでトルネオは消滅したため現在では忘れられがちですが、ボリューム感のあるフロントマスクで威厳を放つアコードに対し、スッキリとしたデザインのトルネオを好んだユーザーも多く、あるいはこちらの方が日本人向きのデザインだったかもしれません。

【中古車相場とタマ数】
トルネオSiR-T:流通皆無
トルネオユーロR:88万~148万円・9台

4.AZ-1と思わせておいてスズキのSマーク!「スズキ キャラ」

スズキ キャラ / 出典:https://www.favcars.com/photos-suzuki-cara-1993-95-368499.htm

スズキのF6A型DOHCターボエンジンをミッドシップに積み、異様に太いサイドシルなどで剛性を確保したボディ下半分のみのスケルトンモノコックに、ガルウイングのスーパーカー風ボディを載せた軽スポーツ「マツダ オートザムAZ-1」といえば有名ですが、知名度も販売台数も少ない兄弟車がスズキの「キャラ」です。

AZ-1ユーザーや、軽スポーツについてちょっとかじるなど、知識がある人なら周知の車であり、かつてマッドハウスが「キャラR」というグループC風マシンを作った事もありましたが、そうでもないと忘れられがちな存在でした。

何しろ今でも「昔の軽スポーツABC」といえばオートザムAZ-1(A)、ホンダのビート(B)、スズキのカプチーノ(C)というくらいで、後に新規格で登場したダイハツのコペン(C)を合わせて「ABC&C」と呼ばれる事はあっても、そこにキャラを含んで連想できる人は、時代とともに少なくなっているかもしれません。

【中古車相場とタマ数】
キャラ:188万~288万円・3台

5.ギャランVX-RやエテルナヴィサージュRも地味だけど…「エメロードスーパーツーリングR」

三菱 エメロードスーパーツーリングR / 出典:https://www.favcars.com/photos-mitsubishi-emeraude-super-touring-r-e54a-e64a-1994-290530.htm

三菱がかつて販売していたミドルクラスセダン「ギャラン」には、1987年に発売された6代目以降、2リッター直4DOHCターボエンジン4G63を搭載したホットモデル「VR-4」が設定され、WRCなどラリーで活躍します。

後にそのパワーユニットは1クラス上の小型セダン「ランサー」へ移植されて、ランサーエボリューションへ発展しますが、その後もギャランVR-4は長距離高速ツアラーセダン的に性格を変えて存続し、最後の8代目ギャランVR-4では2.5リッターV6ツインターボが搭載されます。

一方、三菱がまだ2チャネル販売体制時代だったため、ギャラン店向けのギャランと別にカープラザ店向けで兄弟車「エテルナ」も存在し、5ドアハッチバックセダンの4代目エテルナZR-4、4ドアセダンの5代目エテルナXX-4という、ギャランVR-4相当車も存在しました。

これらギャラン/エテルナの過激な4WDターボとは別に、2リッター200馬力のV6DOHC MIVECエンジン6A12を搭載した、7代目ギャランVX-R/5代目エテルナヴィサージュRという、非常にマニアックで知名度の低いFF自然吸気スポーツセダンも追加されています。

1クラス下のランサーMR/ミラージュセダンVRと同じで、どうもこの時期の三菱は「とにかくラインナップはするけど、放ったらかしでもったいないスポーツセダン」が多い印象ですが、後のFTO GP系と同じ高性能V6エンジンでありながら、ギャランVR-4/エテルナXX-4に比べ、扱いがどうにも雑すぎて残念です。

しかしそれよりマニアックなのが、7代目ギャラン/5代目エテルナをベースに当時流行の4ドアハードトップボディを与え、ギャラン店/カープラザ店双方での取り扱いで1992年5月に発売された「エメロード」。

車種自体が既にマニアックで、全キャラクター名に車名を流用した某アニメで「エメロード姫」が登場した時ですら「エメロードなんて車あったっけ?」という状態でしたが、さらに1994年に特別仕様車として発売され、翌月にはカタログモデル化されたのが「エメロードスーパーツーリングR」でした。

ギャランVX-R/エテルナヴィサージュと同様に200馬力仕様の6A12を搭載したFFスポーツセダンで、同時期・同クラスのトヨタ カリーナED/コロナExivやホンダ アコード、マツダ ランティスのライバルになりそうな上に、エンジンのカタログスペックでは最強です。

しかしエメロード自体がマイナーな上に、当時既にRVブームで4ドアハードトップの販売は急落しており、JTCC(全日本ツーリングカー選手権)などレースへ出場するでもなかったため、あらゆる意味で全く注目を集めぬまま、1995年10月に販売を終了しています。

【中古車相場とタマ数】
エメロードスーパーツーリングR:流通皆無(スーパーツーリング スポーティIIが89万円・1台)

6.サバンナのレシプロ仕様というだけで哀愁漂う「グランドファミリア」

マツダ グランドファミリアクーペ(写真は海外仕様のマツダ818クーペ) / 出典:https://www.favcars.com/pictures-mazda-818-coupe-1975-77-305444.htm

オイルショックで燃費の悪さが嫌われるまでロータリーエンジン一直線だったように思えるマツダですが、ロータリーはあくまでホットモデル向けで、量販グレードにはレシプロエンジンもちゃんと準備されていました。

しかし1971年に発売された「サバンナ」は、コスモスポーツやルーチェロータリークーペに次ぎ3番目。

量販セダン/クーペとしては初のロータリー専用車で、レシプロエンジン車はサバンナと同ボディを使いつつ、「グランドファミリア」という別車種として同時発売されます。

同ボディとはいえ丸目4灯式ヘッドライトで猛禽類を思わせるスポーティなサバンナに対し、グランドファミリアは前期が角型2灯、後期で丸形2灯。フロントグリルも異なるなど大人しめなデザインで、あくまで保守層向けの1.3~1.5L級大衆車です。

ロータリーがRX-7のようなスポーツカーや高級車向けになったため、サバンナの廃止後もカペラと統合されるまで細々と販売されていましたが、終始「サバンナのようで、ロータリーじゃない別な車」として存在感が薄いままでした。

【中古車相場とタマ数】
グランドファミリア:流通皆無

7.サニークーペでもなし、パルサーでもなし「ルキノクーペ/ルキノハッチ」

日産 ルキノクーペ / 出典:https://www.favcars.com/nissan-lucino-coupe-jb14-1994-99-images-209002.htm

日産 サニーは初代から2ドアクーペをラインナップしており、2代目B110や4代目B310を筆頭にレースでも活躍。5代目B12系ではサニーRZ-1、6代目B13系ではNXクーペと、1990年代に至るまで存続していました。

ただし、サニー最大のライバルであるトヨタ カローラ/スプリンターのクーペ版カローラレビン/スプリンタートレノのように、レースでの活躍や高性能エンジンの搭載など派手な存在ではなく、あくまで当時の北米など海外での小型2ドアクーペが主要用途だった、通勤用のセクレタリークーペというジャンルに属する車です。

それでもRZ-1やNXクーペはサニーと異なる専用ボディでしたが、7代目B14系サニーをベースとして1994年5月に発売された「ルキノ」は、フロントマスクがB14サニーとほぼ同一で、全長がちょっと長い程度。

独立トランク式の2ドアクーペでありながら、スポーティさとは無縁のルックスで、コストダウンの印象が強い車でした。

1997年9月には他のサニー/パルサー系各車と同じく1.6リッター直4DOHC NEO VVLで175馬力の高性能エンジンSR16VEを搭載した「ルキノVZ-R」が発売されたものの、当時このマシンをレビューした某レーサーに「エンジンはパワフルだけど足回りはサニーそのまんまで、スポーティさがない」と酷評され、1999年4月にひっそりと販売を終了してからは、ほとんど話題に上がりません。

日産 ルキノハッチ / 出典:https://www.favcars.com/wallpapers-nissan-lucino-3-door-jn15-1995-99-209005.htm

一方、1990年代半ばの日産は「901運動」時代に開発された名車たちが意外と販売台数に貢献せず、拡販を目指したモデルチェンジも、バブルの崩壊でコストをかけられず開発不足のまま登場。

販売不振へ拍車をかけるという負のスパイラルが始まっており、各系列の販売店では「とにかく売るためのラインナップ確保(ただし低コストで)」が急務でした。

さらに、日産店・プリンス店・チェリー店で販売していた小型ハッチバック車、N15パルサーセリエも、同クラスハッチバック車をラインナップしていなかったサニー店で販売する事となり、最小限のお化粧直しで1995年1月にルキノの派生車扱いで、「ルキノハッチ」として登場。

外観も中身もラインナップもほとんどパルサーセリエと同一で、ルキノVZ-R同様にSR16VE搭載の「ルキノハッチVZ-R」、RV風(今で言うクロスオーバー仕様)の「ルキノSR-V」や、その高性能版「ルキノSR-V VZ-R」も発売されました。

しかし、名前はともかく、中身も見かけもほぼパルサーセリエそのものだったため、ルキノハッチを見かけても「パルサーが走っている」としか認識されず、わざわざ車名を分けた兄弟車とする意義は薄かったと言えます。

日産が販売チャネルを整理する中で、国内向けパルサーもサニーも廃止。

後継車へ移行する中でルキノクーペもルキノハッチも忘れ去られていきました。

【中古車相場とタマ数】
ルキノクーペ:49.8万円・1台
ルキノハッチ:流通皆無

8.KP47スターレット…ではない!「コンソルテクーペ」

ダイハツ コンソルテクーペ / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=24331 width=1920

1967年の業務提携で事実上のトヨタ傘下入り、2021年現在はトヨタの連結子会社として完全にトヨタグループへ組み込まれているダイハツ工業ですが、そもそもは当時のトヨタで不足していた生産能力拡充と、ダイハツの工場稼働率増加を目的とした提携で、ダイハツの工場ではパブリカやライトエースなどをはじめ、数々のトヨタ車が生産されました。

自社オリジナル製品は商用車や軽自動車に限られたダイハツですが、オリジナル車のコンパーノ後継として2代目パブリカのダイハツ仕様「コンソルテ」を1969年に発売。

同車は単純なOEMではなく、コンパーノ用の1リッター直4OHVエンジン「FE]を搭載するなど、ダイハツ独自色を打ち出されました。

そして1973年には2代目パブリカの上級車種パブリカ・スターレット(初代スターレット)が登場したのに伴い、同車のコンソルテ版も発売。

2ドアクーペ版「コンソルテクーペ」にはトヨタの1.2リッター3Kエンジンのほか、相変わらずダイハツFEエンジンも搭載されました。

コンソルテクーペはラリーで活躍しましたが、TSラリーでB110サニーと激闘を繰り広げたKP47スターレットのように、レースでの檜舞台には恵まれず、それでもあえてEP51コンソルテクーペをベースにTSレース仕様へ仕立て上げる好事家が存在するなど、かなりマニアックな初代スターレット兄弟車となっています。

【中古車相場とタマ数】
コンソルテクーペ:流通皆無(コンソルテ2ドアセダンがASKで1台)

9.ブーンX4だけにイイ顔させない!けど覚えていますか?「パッソTRDスポーツM」

トヨタ パッソTRDスポーツM / 出典:https://topworldauto.com/cars/toyota/toyota-passo/photos.html

ダイハツ主導で開発し、トヨタへのOEM供給をしていた、かつてのストーリア/デュエットや、現在の3代目ブーン/パッソとは異なり、初代、2代目のブーン/パッソは形の上ではトヨタとダイハツの共同開発。

実質的には、トヨタ主導で開発されたコンパクトカーでした。

ホットモデルは一応ブーンカスタム/パッソレーシーでしたが、いずれもただの1.3リッターエンジンへCVTを組み合わせた見た目だけのスポーティグレードで、真のホットモデルとして知られているのは、133馬力の936ccターボエンジンを積む、競技ベース4WDの、ダイハツ ブーンX4です。

しかし、トヨタ側に何の準備もなかったわけではなく、当時各車種に設定していたメーカーコンプリートカー「TRDスポーツM」シリーズの1台として、トヨタパッソTRDスポーツMが発売されました。

エンジンこそ普通の1.3リッター90馬力なK3-VEで芸がありませんでしたが、ミッションは歴代パッソで唯一の5速MT!

おかげで軽自動車以上、ヴィッツやフィットなどコンパクトカー未満の小型軽量ハッチバック車でスポーツ走行を楽しみたいが、ブーンX4は4WDだしターボは好まないというユーザーにコアな人気が出たものの、あくまでカタログモデルではないTRDコンプリートカーというマニアックな存在のため知名度は低く、覚えている人は、あまりいないかもしれません。

【中古車相場とタマ数】
パッソTRDスポーツM:19.9万~48万円・9台

10.アルトワークスの時代は終わったのか…「アルトエポターボ/アルトC」

スズキ アルトエポターボ / 出典:https://www.drom.ru/catalog/suzuki/alto/g_1998_564/

スズキでは2代目アルトに「アルトターボ」と「アルトツインカム」を登場させた後、550cc直3DOHC12バルブターボの「アルトワークス」を発売し、3代目以降のアルトのターボ車をアルトワークスへ移行しました。

しかし1998年10月に行われた軽自動車の新規格移行で登場した4代目(アルトとしては5代目)のアルトワークスは、軽ホットハッチブームの終焉、軽トールワゴンへの売れ筋移行、3ドアハッチバック車の需要激減、さらに大型化と重量増加で、先代モデルからの戦闘力低下と逆風ばかり吹き、すっかり不人気モデルになりました。

スズキワークスのスズキスポーツですら、全日本ダートトライアルや全日本ラリーでのアルトワークス起用を断念。

初代スイフトスポーツなどへ切り替えていく有様で、ハッキリ言えばアルトワークスはすっかり浮いた存在になってしまいます。

そこでスズキも軽ホットハッチについていろいろと模索するようになり、1999年3月には通常のアルト5ドア車へアルトワークスie用のSOHCターボエンジンF6Aを積み、エアインテークつきボンネットとした久々のターボ版「普通のアルト」、アルトエポターボを発売。

スズキ アルトC / 出典:http://www.webcarstory.com/voiture.php?id=11785&width=1920

さらに1999年10月に、アルトワークスieが従来の3ドアから5ドアへ変更されたのと同時に、アルトワークスie用エンジンとアルトワークス用ヘッドライトを流用し、クラシック調大型メッキグリルつきフロントバンパーへ換装した「アルトC」が発売されました。

いずれも2000年12月のマイナーチェンジでF6Aターボが廃止されるのと同時に、アルトワークス、アルトエポターボ、アルトCもことごとく廃止。

アルト系のターボ車は2002年10月に初代アルトラパンターボが発売されるまで、不在となりました。

アルトエポターボにせよ、アルトCにせよ、アルトワークスのターボエンジンやヘッドライト、ボンネットを流用したパーツの在庫処分に近いモデルで、販売不振のアルトワークスが短期間で廃止されるまで、陰でひっそりと支える兄弟車だったと言えます。

【中古車相場とタマ数】
アルトエポターボ:7.8万~40万円・3台
アルトC:16万~31万円・4台

レア車好きなら大好物?!

三菱 5代目エテルナ / 出典:https://www.mitsubishi-motors.com/jp/company/history/car/

現在まで華々しく語られる人気車の陰に、忘れ去られた兄弟車は結構あるもので、それも販売不振で他車種へもパーツを流用しないとコスト高になってしまうとか、メイン車種を扱っていない販売店向け兄弟車にも、メイン同様のグレードを設定しましたなど、場当たり的に登場したものがほとんどです。

しかし世の中にはそういうマニアックな車の方が、複雑な事情を持つ登場背景まで含め、語るのが面白いというレア車好きもいるため、そうした人々(筆者もそうです)にとっては、クルマ談議に加えるちょっとしたスパイスとして、今後も細々と語り継がれていく事でしょう。