イマドキはどうせ売っている車もAT車などクラッチがない車ばかり、AT限定免許の人も多いと思いますが、それでも車好きならMT車くらい運転できるようにはしておきたいと、普通の限定なし免許を取るべく頑張っている人もいるでしょう。しかし勇んで教習所へ通ったものの、面食らう人が多い操作が「半クラッチ」。こんなのあまりうまくできなくても、ハンコくれればいいじゃん!とはなかなかいきません。
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よくぞ集まったわが精鋭たちよ!(MT免許希望者を見渡しつつ)
時は18の誕生日を迎える頃か、高校を卒業する頃など進学や就職が決まった頃か、人によってタイミングは違うと思いますが、車の運転免許を取ろうとする人は、たいてい、近所の教習所(自動車学校)に通うことになると思います。
中には「一人で○○(地元ドライブコース)を一周できるようになったんで、免許取ります!」というケースもあるようですし(※もちろん無免許ですダメ絶対!)、28年前に免許を取った筆者など最初の構内教習で、教員からいきなり「ところで今までどんくらい運転してきたの?」と聞かれたくらいですが。
普通は初めての運転ですし、他の席から見ていたから何となくわかるものの、確かこうだったよね?と思い出しながらおぼつかない操作をしては、教員から「ハイ前方不注意!」「まっすぐ走ってないよ!さあ遠くへ視線向けて!」など、操作に慣れるまでは何かと注意され、そのうち注意されるのが嫌で教習所へ行きたくない・・など試練が待っているものでして。
第2次ベビーブーマーで腐るほど若者がいた世代の筆者など、怒られたり嫌味を言われたりは当たり前でしたし、こちらも頭に気に食わない事があるとホイルスピンで教習を始めたり(0.1秒でハンコもらえないの決定)、生意気すぎて急ブレーキ講習のついで、なぜか派手なスピンまでやらされたのも今は昔、最近の教習所は少子高齢化に車離れで生徒の獲得も大変らしく、厳しい注意というのもなかなかやりにくいようです。
しかし、時代はどうあれ「これはできなきゃダメ!」と高いハードルを誇るのが「半クラッチ」であり、これに悩まされる教習生は昔も今も多数いることでしょう。
発進でカックン、停止線からカックン、坂道でヒュー(下がる音)
最初の教習はとにかく車を「運転」してみることだとAT車で始まったとしても、すぐMT車になりますから、とにかく運転前のアレコレ確認(省略)を済ませれば、スムーズに発進させるところから試練が始まります。
そう、クラッチを「半クラッチ」でつながないとすぐにエンスト(エンジンストップ)し、カックンとその場で止まってはエンジン再始動を繰り返すハメになるからです。
この「半クラッチ」、構造などの説明はこの記事では省きますが、クラッチをつなぐ際に「全部つながずちょっとだけつなぎ、クラッチを滑らせる事でエンストを防ぎつつ、エンジンから出てくる回転とタイヤの回転を少しずつ合わせる」操作です。
これができずに一気にドンとクラッチをつなぐと、エンジンは回っているのにタイヤは回っていませんから、その回転差でエンジンが回転を保てずエンストしてしまいます。
そこでクラッチを「エンストしない程度まで」つなぎ、クラッチが滑りながらも少しずつタイヤを転がしていくと、タイヤの回転が早まるほどエンストにつながる抵抗が少なくなるため、ある程度速度が乗れば、もう半クラせずとも車を走らせ、ギアチェンジもできるようになるのです。
出発点からの発進、交差点、一時停止など、停止状態からの発進にはたいていこの半クラッチが必要ですし(例外は下り坂で停止後の発進くらい)、登り坂で止まった時の坂道発進など、半クラッチに失敗すると、ブレーキを踏まない限り車は重力でヒューっと後ろに下がり、後続車との間隔次第では衝突!してしまいます。
通う教習所によっては、構内教習で設定されている坂道が緩い、路上教習でも平地ばかりで大した坂もないため、半クラであまり苦労しなかったという人もいますが、なかなか卒業させてもらえない人の場合は、たいてい半クラでの苦戦が原因です。
半クラの感覚は車や個人差があり、車のクセを素早くつかむのがポイント
半クラを難しくしている要因のひとつが、「どのくらいつないだら、ちょうどよい半クラになるか」が、車種や個人の感覚によって全く異なる事です。
何しろクラッチの繋がり具合というのはクラッチディスクなど構成部品の減り具合や調整によっても同じ車で全然変わってきますし、同じ車種を使った教習車でも、車ごとに全く異なります。
筆者が通った教習所では、どういうわけか木の板を打ち付けて上げ底にしてあり、同じように踏んでもペダルを深く踏み込んだ事になる教習車もありましたし、同じX80系マークII教習車でも、ガソリン車はアクセルをある程度あおって回転数を上げつつ半クラしないとエンストしやすく、ディーゼルだと低速トルクがあるので、アイドリングからの半クラで発進可能と、見事にバラバラ。
実際に免許を取ってからも、クラッチペダルを深く踏み込まないとクラッチが切れない車もあれば、逆に思いっきりヒザを上げるくらいペダルをゆるめないと、クラッチがつながらない車もあり、半クラ領域も全然違います。
この「車ごとのクセ」は、タコメーター(回転計)がついている車なら、アイドリングから少し回転が落ちるところ、タコメーターなしなら音で少し回転が落ちたとわかるところが「半クラの始まるポイント」なので、最初にその操作でクラッチ操作のポイントをつかんでしまえば、特に問題ありません。
どうペダルを踏んだらいいのかわからない?!という人に伝えたいコツ
さらに、車ごとではなく個人差の問題として、「クラッチペダルをONかOFFかのスイッチのようにしか踏めず、半クラ領域でペダルを踏む足を保持できない」という壁に突き当たる人もいます。
何らかのケガの後遺症でそういった操作が無理な人を除けば、たいていは足が不器用というより「そういう操作を足でした事がないので、イメージができない」のが原因で、そういう場合は「風船を踏むイメージ」を思い浮かべるといいかもしれません。
風船は思い切り踏みつけたら当然パーン!と割れてしまいますし、どうしても踏むとなればゆっくり踏んで、これ以上踏んだら割れるよな、と思ったポイントで足にかける力を加減し、風船が割れないよう踏み続ける事は、普通にできるはずです。
クラッチ操作もこれと同じ要領で、回転数が下がったり、車が少し前に動き出しそうだというポイントまでクラッチペダルを踏み、それ以上はパーン!…ではなくカックンとエンストする事のないよう、足にかける力を加減する、これが半クラッチの秘訣となります。
半クラに成功して車がスルスルと動き始めたとしても、すぐクラッチペダルを完全にゆるめてクラッチをつなぐと急加速やエンスト(どちらになるかは車種による)の原因になりますから、少しずつクラッチペダルをゆるめてください。
あまりにエンストや急加速の衝撃を怖がりすぎて、半クラをいつまでも続けると、滑り続けるクラッチの消耗が早くなって寿命が縮み、短期間で交換を強いられますから、慣れたら各動作は素早く済ませる事も重要です。
余談として、半クラで重要な「左足の力加減」は左足ブレーキにも応用できますが、AT限定免許の人は左足で細かい操作を行った経験がないため、「左足ブレーキは危険かどうか」の意見は半クラ経験の有無が大きな影響を与えているかもしれません(実際、AT限定免許の人がいきなり左足ブレーキをやるのは、かなり危険だと思います)。
坂道発進では無理せずサイドブレーキも併用で
ここまで半クラの基本操作でしたが、問題は登り坂で止まった後の坂道発進です。
教習所ではあくまで半クラのみで発進するよう指導される場合が多いはずなので、前項で説明した「回転数が下がる、半クラの始まる領域」を確かめ、素早く右足をブレーキからアクセルに踏み換え、アクセルを煽りつつクラッチペダルを緩め、半クラ領域をある程度維持しつつ、エンストもしないよう発進、と、かなり忙しくなります。
教習所でそうしろと言われた場合は素直に従うしかありませんが、実際には今の車だと登り坂で後退しないよう、クラッチをつなぎ発進するまでブレーキを保持する機能が備わっている場合もありますし、その機能がない場合でもサイドブレーキ(ハンドブレーキ)を使えば容易にクリア可能です。
フットブレーキを離しても後退しないようサイドブレーキをキッチリかけておき、サイドブレーキに手をかけたまま半クラ操作でアクセルを煽り、ホンの少し車が前進したなと思った瞬間にサイドブレーキ解除、そのままクラッチを徐々につなぎつつアクセルを踏み込めば、わりと容易に坂道発進ができます。
ただし、容易とはいえそれぞれのタイミングを間違えると発進に失敗する事には変わりませんから、この操作も慣れるまでは慎重に行ってください。
半クラができればMT車を制したも同然…ではありません
慣れれば容易な半クラですが、低速トルクが異常に小さい超高回転型エンジン(昔のスポーツタイプに多い)や、メタルクラッチなど競技用で半クラ領域が非常に少ない特殊なパーツを組み込んだ車では、熟練者でも慣れるまでエンストしやすいほどで、教習車や愛車できたからと言って、どんな車でもできるとは限らない「奥深い技術」です。
だからこそどんな時代でもMT車乗りは、車を乗り換えるたびに「初心者マークがついたような、新鮮な気持ち」を味わえって楽しめますし、スポーツ走行では低い速度域でもエンジン回転数を保つ「半クラッチ走法」などの応用技もありますが、MT初心者の方はまずキッチリと「安全で車にも優しい半クラッチの基本」をマスターしてください!