昔のAT車にはよく搭載されていた「OD(オーバードライブ)スイッチ」を覚えていますか?それもシフトゲートはストレート式で、シフトパターンもL、2、Dという仕様の車だと、ODスイッチの有無で3速ATか4速ATかを見分けたものです。そんな、懐かしの装備であるODスイッチを見かけなくなった理由を、ご紹介します。

車種不明ながら、これぞオーバードライブ!というコラムシフトのODスイッチ / Photo by Alan Levine

ODスイッチ以前に、OD(オーバードライブ)って何?

昔の初代セルシオだって4速ATでしたからODスイッチがありました / 出典:https://www.favcars.com/images-toyota-celsior-ucf11-1989-94-185657.htm

本題に入る前に、OD(オーバードライブ)について簡単に説明すると、自動車のトランスミッション(変速機)で各ギアに設定された変速比(エンジンの回転数に対し、高いか低いかという数字)が1.000未満のギアを指します。

たとえば現行のスイフトスポーツなら、変速比が1速「3.615」、2速「2.047」、3速「1.518」、4速「1.156」と、ここまでは1.000より大きいので、単純に言えば1速ならエンジンが3.615回転してようやくプロペラシャフトを1回転させるわけで、前に進むためには、よりエンジンを回さねばならない反面、低速でいいなら少ない力で前に進めるので、発進や低速からの加速向きです。

それに対し、5速「0.918」や6速「0.794」は1.000未満で、6速ならエンジンが0.794回転でプロペラシャフトは1回転と、1速に比べれば格段に少ない回転数で前に進めるため、同じ回転数ならかなりの速度が出るものの、エンジンの最大トルク発生域よりかなり低い回転数になるので力は弱く、発進や加速にはあまり向かず、高速巡航向きという事になります。

ギアつきの自転車に乗った事がある人なら、「低いギアでは、いくらこいでもスピード出ないものの坂はスイスイ登れ、高いギアだと登り坂はキツイ一方で、平地や下り坂ならいくらでもスピードが乗って楽」というのと同様のイメージを持ってもらえれば分かりやすいと思います。

ちなみに、変速比1.000のギアが「直結ギア」あるいは「トップギア」と呼ばれ、3速がトップギアなら4速は「オーバードライブ」あるいは「オーバートップ」とも呼んでいました(トップギアやオーバートップを実際に日常会話で使った事があるのは、おそらく60代以上の人かもしれません)。

なお、オーバードライブはミッション各ギアで前述のオーバードライブ相当(変速比1.000未満)のギアを指す事もあれば、昔はミッションと別体のオーバードライブギアを組み込んでいたケースもあり、たとえば「オーバードライブ付き3速MT」という言葉が出てきた場合、4速MTという意味ではなく、あくまでオーバードライブを追加した3速MTと考えた方がいいでしょう。

昔はODスイッチでAT車でもMT感覚を楽しんだ

若き筆者とODスイッチが出会った、トヨタGX61コロナマークIIセダン グランデ(写真は憧れのツインカム24) / 出典:https://www.favcars.com/toyota-mark-ii-sedan-x60-1980-84-wallpapers-113898.htm

筆者が運転免許を取った1993年は、さすがに「ODスイッチつきのMT車」など、見かけることは無くなった時代だったため、ODスイッチと言えば普通にAT車についているオーバードライブのON/OFFスイッチの事でした。

ただし、後のAT車が大抵シフトノブにODスイッチを備えていたのに対し、筆者の初マイカー、父のお下がりでもらった1982年式トヨタGX61コロナマークIIセダン グランデのインパネには「OD」と書かれたボタンが、まるで秘密兵器の(あるいは自爆装置の)スイッチがごとく存在感を発揮しており、何か「これを押す時はオマエ、わかってるだろうな?」と言いたげな存在感がありました。

父は当時の日本のサラリーマンらしく、「単に部長だからクラウンじゃなくマークIIに乗っている。それもツインカム24だとエラすぎるから普通の(SOHC12バルブの)グランデ。」という人だったので、子供心にオーバードライブって何?と聞いても「ドライブがオーバーするんだよアッハッハ」的な回答しかもらえなかったため、免許を取り立ての時は、ドキドキしながらODスイッチを押したものです。

すると4速ATのオーバードライブ段、すなわち4速が使われずに3速ATとなるため、スピードを上げても3速からシフトアップせずに高回転までエンジンが回り、グングン加速していきました。

「そうかODスイッチとはパワーアップスイッチの事だな!」と勘違いした筆者は、飛ばしたい時や加速が必要な時はODオフ、ジェントルに流したい時は(そういう時は大抵、シートをギリギリまで下げてリクライニングも寝かし、片手ハンドルでふんぞり返っていましたが)ODオンで使い分けていましたが、パワーアップするわけもありません。

その後ちょっと勉強してオーバートップ(3速がトップで4速はオーバートップ)を使うか使わないかのスイッチがODスイッチだとわかりましたが、その頃にはマークIIを潰して初代ST182コロナExiv2000FEへ乗り換えており、今度はODスイッチがシフトノブについていました。

指先のODスイッチ操作とシフトレバーの前後操作を駆使すれば、発進時の1速を除き2~4速をMT感覚で操れてスポーティ!と有頂天になった筆者は、初参加だったスポーツランドSUGOの走行会でミラターボにアッサリ抜かれるまでは、「我こそはATの若獅子」くらい調子に乗りまくっていた時期もあったなど、ODスイッチといえばそんな妙な思い出しかありません。

いつの間にか消えていたODスイッチ

そもそも最近はダイヤル式シフトセレクターだったりしますし(2014年型ジャガーXJL) / Photo by Michael Sheehan

若かりし頃の筆者が何か勘違いしている間にもATは進化し、1994年に三菱 FTOが日本初のシーケンシャルマニュアルモードつきスポーツAT「INVECS-II」を引っさげて登場。その頃からODスイッチは次第に存在感をなくしつつありました。

それ以前にもホンダはホンダマチックでATのシフトパターンにODを組み込んだり、「☆(スターレンジ)」をOD相当にしたり、しまいにはシフトパターンを「D4」「D3」にしてODスイッチを設けなくなっていきます。

また、スバルが3代目レックスから採用したECVTのような無段変速機には、そもそもオーバードライブギアなどありません(変速比としてのオーバードライブ領域はアリ)でした。

それでも2010年代のはじめ頃までは「ストレート式シフトゲートでP-R-D-2-Lというシフトパターン、そしてシフトノブにODスイッチ」という車が、フロアシフトでもインパネシフトでもコラムシフトでも存在していましたが、気がつけばコンパクトカーや軽自動車はほとんどオーバードライブがないCVT、そうでなくとも6速ATや8速ATになっていてオーバードライブギアが複数あるため、手動で何かする時はODスイッチのON/OFFではなく、パドルシフトやステアリングのスイッチでマニュアルモードを楽しむようになっていったのです。

まだ世のAT車が3速か4速ATばかりだった頃には、ちょっと借りた車のシフトノブにODスイッチがなければ「ああ3速ATか。高速でうるさいんだろうな。」と思ったり、ODスイッチがあれば「オッこいつ軽のクセにやるな!」と感心したものですが、そんな時代は遠い昔の話になってしまいました。

まだある!現行のODスイッチがある4速AT車

シフトノブのロックボタン下にまだODスイッチが!ダイハツ ハイゼットカーゴ / 出典:https://www.daihatsu.co.jp/lineup/cargo/04_interior.htm

もはやODスイッチなど年寄りの戯言かと思っていたら、まだ4速AT車なら最新モデルでもODスイッチが残っていると知り、ちょっと嬉しくなりました。

代表的なのは現行ジムニー/ジムニーシエラで、2018年に発売されたばかりでまだバリバリの現行モデルなのに、ODスイッチつき4速AT!もちろんODスイッチをオフにすると、ODスイッチ警告灯が点灯します。

他にもキャリイ/エブリイ、ダイハツのハイゼット/アトレーおよびそれらのOEM車といった、「エンジンは新型でも駆動系は昔から変わらない車の4AT」ならまだまだODスイッチは現役のため、筆者のように「ODスイッチがなくなって、何か寂しい…」と感じている方は、探してみてはいかがでしょうか。